moto
2026-05-07 19:59:00
834文字
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またひとつ

さまささワンドロワンライお題「柏餅」


ペンを置き、詰めていた息を吐く。手元のノートには文字がびっしりと埋まっている。頭の中にあったネタは全て書き出した。集中していたため、凝り固まっていた首と肩を回しながら仕事部屋を出る。よたよたとリビングにやって来た簓に、よお、と左馬刻が声をかけた。
「ひと段落したか」
「なんとか」
「よし、茶でも飲もうぜ」
 そう言って、左馬刻はさっさとお茶の準備をし始める。二人の時間が合う時、一日のどこかでお茶をする時間を作るようになった。飲み物とお菓子、アルコールにつまみの時もある。他愛もない話をするだけだが、この短い時間をお互い大事にしている。今日は温かいほうじ茶と、茶菓子は柏餅だった。
 ほうじ茶の香りが心を緩ませる。小皿に乗せられた柏餅に笑顔になっていると、はっと気づいた。
「柏餅……もしかして左馬刻の手作り!?」
「ちげーよ。駅前の和菓子屋のヤツ」
「ああ、あのみたらし団子が美味いとこか」
 そうならば、柏餅も美味いことは間違いない。簓はうきうきと柏餅を手に取った。
 そういえば、今日はこどもの日である。思い返してみると、三月のひな祭りにはちらし寿司が食卓に出てきた。そこには桜餅もあった。東西の桜餅の違いで盛り上がったことを思い出す。意外と左馬刻は季節ごとを大事にする男であった。
 柏の葉をめくり、柔らかい餅にかぶりつく。餡子はこし餡だった。甘さは控えめ。ほうじ茶にとても合う。
 こうやってずっと、左馬刻と季節を感じることができたらええな、と簓はふくふくと笑う。
 温まった心持ちで、ふと顔を上げると、柏餅を手に持ったまま左馬刻が何事かを考え込んでいる。
「作れるか……
「おお?」
「餡子か……
「餡子から!?これは、また……左馬刻の腕が上がってまうな」
「フン」
 満更でもなさそうな顔で、左馬刻は柏餅にかぶりつく。
「次の楽しみがまたひとつ増えたなぁ」
 簓に向ける左馬刻の自信に満ちた顔を見て、きっとそれは美味いに違いないと確信する。