koto
4053文字
Public れめしし😈🦁
 

不摂生トレードの条件

れめししお題企画への参加作
「筋トレ」「チートデイ」「不摂生」
2026.05.02発表分のお題より

起き抜けの😈目線。付き合ってる二人
様子のおかしい🦁と恋人にはチョロい😈の駆け引き攻防戦
※軽めの話です




 朝、目を開けたら敬一君が馬乗りでオレの身体をまさぐっていた。

 状況としてはまさしく言葉どおりなんだけど、敬一君の手つきにいやらしさは微塵もなく、どうやら艶めかしい展開ではないらしい。
……なにしてんの?」
「あ、起きたか」
 そりゃそんだけ遠慮無しに触っていれば起きるでしょ。いくら寝起きが悪くても、そこまで鈍感じゃない。
「どうせ触るなら、もっとエッチな感じで触ってよ」
 上半身裸なオレの腕やら腹を這っていた手が、今は胸の上で動きを止めている。
「朝っぱらから何言ってやがんだ。バッカじゃねぇの?」
 寝ている恋人の身体を好き勝手してたのはそっちなのに、随分なご挨拶じゃない?
 ぞんざいな物言いとは対照的に、胸元に置かれた敬一君の掌はじんわり温かくて、気を抜くとまた瞼が下がりそうになる。
 触れている掌だけじゃ物足りなくなってきて、敬一君を丸ごと二度寝のお供にしちゃおうかなと思いつくままに腕を引っぱってみる。が、体勢の悪さもあってか敬一君はびくともしなかった。「なにがしてぇんだ?」みたいな顔でこっちを見下ろしてるのがちょっと癪に障る。
 掴んでいた手を離し、改めて敬一君をじっくりと眺める。見上げた先には服越しでもよく分かる立派な体躯が存在してる。ちょっとやそっとじゃ揺るがない体幹も、太い腕や脚も、張りのある胸筋も、全ては敬一君が日々励んでいる筋トレの賜物なんだろう。トレーニングと食事制限が趣味と言うだけあって、敬一君が己のボディメイクを楽しんでやっているのが見ててよく分かる。ちょっとくらい苦しくても、楽しんでやれることって大事だよね。オレに筋トレの楽しさは理解できないけど。


「やらしいイタズラじゃないなら、なにしてたの?」
 寝そべっているオレの尻の辺りを挟み込むように敬一君は膝をついている。こんな風なのがよかったのになーという意味を込めて膝上から太腿にかけてを撫で回すと、胸元にあった手がパシッと叩いて諌めた。
「いや、オメーってあんな不摂生な生活してて、割と良い身体してんのなんでかなって思ってよ」
 数秒前の戯れを黙殺すると敬一君は腕を組みながらオレを見下ろし、不思議そうにしみじみと言う。どうやらさっきのお触りは筋肉の付き具合を確認していたらしい。
 普段から衣食住に気を配り、食事バランスやトレーニング方法を独学で学び実践してきた敬一君にとって、オレの身体付きは不可解なようだ。
「んー、昔から太りにくいのはあるけど」
「にしたって、アラサーなんだから若い頃みたいにはいかねぇだろ?」
 ストレートな物言いは単に事実を言ってるだけだと分かっている。分かっているけど、本当のことだったら何を言ってもいいわけじゃないんだよ敬一君。
「悪気や悪意がなくても言い方ー」
「あぁ? 事実だろうが。つーか、物の言い方とかどの口が言ってんだ」
 そんじょそこらの奴に対するオレの言葉選びと恋人のオレに対する言葉選びを同列で語るのは違うだろ。
「敬一君も早くアラサーになればいいのに」
「そうなったらオメーは正真正銘三十路だけどな」
 年齢如きでなにをとやかく言ってんだって顔をしてる。裏を返せば敬一君の中でのオレの魅力は年齢なんかで損なわれるものじゃないってことだから、まあ、そういう意味で悪い気はしない。相変わらず天然の人タラシなのか、オレがチョロいだけなのか。


「で、なんの話だっけ?」
「筋肉。太らないにしても、それなら村雨や真経津みたいになんだろ?」
 いつだかの温泉を思い起こせば、言わんとしてることは分かる。
「あーね。てか、そこまできたら分かるだろ? 何もしないで身体作れるような魔法やお薬なんて、この世にないのは敬一君がよく知ってるんだし」
 そう促せば敬一君は少し考えを巡らせた後で愕然とした表情を浮かべた。
……え、オマエ、もしかしてトレーニングとかしてんの?」
「そりゃ、最低限は」
 絶句してる。マジで敬一君の中のオレってどうなってるわけ? まあ、汗水垂らして努力してそうなイメージが無いってのは望むとこだからいいけど。敬一君の場合、不摂生が服着て歩いてる奴が自分で身体動かすとかありえんのか? くらい思ってるんだろう。
「筋肉は嘘つかない信仰じゃないの? マッチョは」
 よいしょっと起き上がる。急に縮まった距離に面食らったようで、仰け反ってからじりじりと後退していく。
「ほら」
 敬一君の手を取って肩を包み込むように触らせる。ちょっと力を込めれば掴んだ感じで筋肉の具合が分かるだろう。流石にボディービルダーみたいに大きく盛り上がっているわけじゃないけど、すぐに骨に当たるような華奢さじゃないのは伝わるはずだ。
 敬一君は少しずつ手の位置を変えながら、飽きもせずぐにぐにと揉んでいる。なんだか目をキラキラさせてる気がするんだけど、それはなんの感情由来なの? 憧憬とはちょっと違う。敬一君のほうがよっぽど立派なんだからそれはそうだ。品定めするような目付き。これはあれだ。活きの良い食材を手に入れたときの料理人みたいなやつだ。
 そう気付いたのと敬一君がオレの顔を真っ直ぐに見据えて口を開いたのはほぼ同時だった。
「なあ、どうせならオレにオマエのトレーニングメニュー組ませろよ」
 少し興奮気味でワクワクが隠しきれていない。
「え? なんで? 今より効率的にトレーニング時間短くできるとか?」
「ちげぇよ。もっと筋肉つけられるやり方考えんだよ」
「えー、ムキムキになっちゃうじゃん」
「はぁ? 筋トレして筋肉つけたくないって意味わかんねぇだろ」
「だってオレ別にバルクアップしたいわけじゃないし。身だしなみの一環みたいなもんなんだって、筋トレなんて」
 やらなくてもこの状態を保てるなら敢えてやりたいわけではないし。それに考えてもみろよ。オレの身長で敬一君やユミピコばりの筋肉ついたら、なんかもうデカさにばっかり目がいくじゃん。山みたいになっちゃうじゃん。それはちょっと受け入れ難い。
 敬一君、筋肉なんてつけばつくだけ良いって思ってる節ない? みんながみんな筋肉を欲してると思ったら大間違いなんだよ。敬一君自身が好きな姿を目指すのにケチつけるつもりはないし、それでより自分のこと好きになるならいいと思うけど、オレにまでその熱を向けるのはちょっとご遠慮願いたい。


 人の話を聞いてないのか、そもそも耳に入っていないのか。敬一君はオレの筋肉を摘みながらブツブツと、あっちのマシーンのほうが……とか、いっそ食事を……とか不穏な言葉を並べてる。
……敬一君、やんないよ? オレ」
「いや、ちょっとだけ。試しに」
「敬一君も知ってのとおりオレは不摂生な生活が好きなの。菓子食ってエナドリ飲んでゲームして、それを維持するために必要だからやってんの。毎日ブロッコリーとゆで卵とささみとか食ってらんないっつーの」
「飽きないようオマエ用にちゃんと考えてメニュー作るし、チートデイになんでも好きなもの好きなだけ用意してやるし! トレーニングもオマエが今やってる時間そのままで内容だけ変えるとかで⸺」
「いやだから、やらないって! なんでそんな必死なの?」
 ある種の身の危険を感じたオレは敬一君の下から抜け出ると、距離を置きベッドの隅に丸めていたカーディガンを羽織る。その積極性は別のシーンで発揮してほしい。
……敬一君の好みってマッチョなの?」
「ちげーよっ!」
「じゃあ、なんでそんな食い下がるわけ?」
 自分好みにオレを仕立て上げたいってんじゃないのは分かる。だけど目的がいまいち見えてこないんだよなー。
 敬一君は言葉に詰まって、あー、とか、うー、とか小さく唸ったあと、観念した様子で口を割った。
「いや、その……トレーニングとか食事とか、なんつーか、オレの手でオマエに変化が出てくるって考えたら、なんか嬉しくなっちまって」
 ねえ。反則でしょ、それ。ほかでもない敬一君にそんな欲望向けられたらさー!
「駄目か?」
 オレが敬一君のおねがいに弱いの最近分かってきてるよね? いいように扱われる気はないけど、理由が理由だしなぁ。もー、ほんと敬一君相手だと己のチョロさが身に染みる。
「一ヶ月だけ」
「え?」
「条件は一ヶ月経ったらチートデイ代わりに食事以外のリクエスト応えること。どんなにエグい内容でも文句言わずに嫌々じゃなくやる。もちろん敬一君がさっき言ったとおり食事内容はオレ用にカスタマイズして、運動時間は今より増やさない。どう?」
 言っとくけど、オレにとってみたらそんだけの覚悟でようやくトントンだからね?
「エグいっつーのは命に関わるか? 社会的に死ぬとか」
「いや、さすがにそこまでは……。敬一君の尊厳を踏みにじるレベルでは考えてないし。ってかさ、本当オレのことなんだと思ってんの?」
 恋人へのおねだりレベルの話だよ。
 さて、果たして敬一君はどう出るか。普通に考えたら敬一君の割に合わないだろう、こんな条件。一応最大限の譲歩をしてみせたものの、オレが不摂生を犠牲に今以上に負荷が大きい筋トレに励むことはめちゃくちゃハードルが高いと理解してくれたはず──
「分かった」
 嘘だろ? いや、ちょっと、待って。本気で言ってる? そこまでの覚悟でオレの肉体改造したいの? 敬一君のその欲求を叶えるのは他にも方法あると思うよ?

 戸惑うオレを他所に目の前の敬一君は覚悟を決めた顔をしている。どんだけだよ。ここまできたら、やっぱ無しってわけにもいかないだろう。仕方ない。こうなったら、その先に待つご褒美をなににしてやろうかと考えながら、一ヶ月の不自由を受け入れることにする。
 一か月後、ご褒美に味をしめたオレが延長をリクエストするのか。それとも敬一君が先に音を上げるのか。これはこれで見物かもしれないなんて言い聞かせながら。


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マシュマロ
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