深津からのパスを受けた松本の前に、相手ディフェンスが身体を寄せてくる。シュートフェイクを一つ入れると、相手はまんまとつられて両手を上げた。脇ががら空きだ。その隙間から出したパスが、しっかりゴール下へ詰めていた河田に渡る。悠々とレイアップを決めた河田は、こちらへちらりと視線を寄越した。
この程度のプレーでハイタッチをしてはいられない。何しろこれはウインターカップ決勝戦で、まだ相手との点差は十点しか離せていないのだ。
バックコートへ駆け戻る松本の腹のあたりに、どす黒いもやが湧き上がる。それは胸へとせり上がり、さらに喉元までも迫ってきた。息苦しく、呼吸が浅くなる。この程度でへばるような練習はしてきていないはずなのに。
聞こえるはずのない声が、コートの何処かから聞こえる。
『泡食って止めに来やがった』
その瞬間に、背中にバシンと衝撃が走った。つんのめりそうになった身体をなんとか立て直して振り向くと、一之倉がこちらへ鋭い視線を向けている。
「雑念」
松本が返事をする暇もなく、一之倉は本来のマークマンのほうへと戻っていった。すでにボールがスローインされ、ゲームは再開している。
松本は自分の胸に手を当てて、呼吸を整えた。さっきまで胸を圧迫していたもやは消え、深く息が吸える。
一之倉に平手を張られた肩甲骨のあたりから熱が広がって、松本の背筋を伸ばした。
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