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Koishirotae
2026-05-06 21:27:12
6465文字
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スパーク無配のヒス晶♀
2025年11月のスパークにて無配したヒス晶ちゃん。本当は本にしようと思ったけどやめたので公開します。
本当はここからハッピーエンドになるんですけど続きを書いてないので実質バッドエンド‼️
ヒースクリフは失恋した。一人の女性に恋をして、思いを告げて、あっさりと振られた。
別に勝算がなかったわけではない。その女性
――
真木晶もまた、ヒースクリフのことを悪くは思っていないと思ったのだ。彼に向けるその瞳にほのかな熱が込められていると、信じていた。
もし少しでもこの距離を縮められたなら。お互いの特別になれたなら。そう希望を持って彼は彼女に自分の気持ちを伝えた。
『
――
ごめんなさい』
ヒースクリフの想いを聞いた晶は一瞬その顔に興奮と喜色を浮かべた。けれどもそれはすぐに曇ってしまう。え、とヒースクリフが驚いたように目を見開いた瞬間、彼女から聞かされた答えは優しい拒絶だった。
『あなたの気持ちは嬉しいです。でも、私は賢者で、特定の人だけを特別扱いするようなことはしたくないんです』
賢者として、賢者の魔法使いに平等な友達でありたい。そう告げる彼女は真剣だった。誠実で真っ直ぐに魔法使いたちのことを考えてくれている。そんなところが彼女らしくて、そしてヒースクリフは好きだった。
『そう、ですか。
……
俺のほうこそ突然すみませんでした」
どうして。そう言って縋りたい気持ちもある。けれど、平等でありたいと願う彼女も気持ちも尊重したい。ヒースクリフはグッと堪えて無理矢理笑顔を作った。
『友達として、これからもよろしくお願いします』
――
聞き分けのいい、良い子だった。
晶が望むのならこれでいい。彼女の特別にはなれなかったけれど、ヒースクリフはどこかすっきりしていた。
告白する前と同じように、友達として接する。はじめはどこか緊張した面持ちだった晶だったが、変わらないヒースクリフにその表情を和らげていった。これでいい。そう、これでいいはずだった。
◇
よく晴れた日のことだった。
こんな日に座学だなんてもったいない。文句を言い続けたシノにファウストが折れて今日は急遽実技へと変更になった。
魔法舎の裏にある森へ移動する。ある程度建物から離れたところで、彼らは魔道具を取り出す。
「こないだ座学でやったことを再現する。守護魔法の範囲を拡大する時の原則は覚えているな?」
「原則?」
不思議そうに首を傾げたネロにファウストは黙り込む。無言で不満を告げてからヒースクリフに視線を向ける。そんな彼と目が合って、彼は背筋を伸ばした。
「確か、内側からガラス細工を膨らませるように少しずつ魔力を注ぐんですよね。そうしないと元からある守護魔法に綻びがでてしまうから」
「そう。外から無理に力を加えるんじゃなくて内から支えるイメージでやるんだ」
ファウストは魔道具の鏡を浮かび上がらせる。すぐそこに咲いていた一輪の花に簡易的な守護魔法をかけてから三人の顔を見比べた。
「一旦僕が試しにやってみる。その後、順番にやってみて」
サティルクナート・ムルクリード。そんな彼の優しい声と同時に守護魔法に魔力が注がれる。小さな守護魔法は次第に範囲を広げていき、周辺の花も全てを飲み込んでいった。
「こんな感じだ。やってみて」
ファウストが守護魔法を元に戻す。そのまま生徒たちに視線をやれば、シノが真っ先に名乗り出た。
自信満々に笑う彼は見事に成功させる。その次にネロ。彼もやる気のなさそうな顔をしていたが容易に成功させる。
最後にヒースクリフ。きっと成功させるだろう、と誰もが思った。
「《レプセヴァイヴルプ・スノス》」
繊細な魔法は届かない。全くといっていいほど守護魔法に影響は出ておらず、ヒースクリフは戸惑った。
「れ、《レプセヴァイヴルプ・スノス》!」
再度呪文を唱える。けれど何も起きない。まるで言葉だけをなぞっているかのような冷ややかさを感じて、ファウストは咄嗟にヒースクリフを止めた。
「ヒース、シュガーを作って」
ヒースクリフは頷く。戸惑う心を必死に押えながら両手に力を入れた。
レプセヴァイヴルプ・スノス。三度目の呪文も精霊には届かなかった。彼の両手は空で、シュガーの気配は一切ない。まるで、魔法使いに憧れる人間の子供が見様見真似でやった時のような空虚さに、誰もが黙りこんだ。
ヒースクリフが魔法を使えない。
その事実に動揺した東の魔法使いたちは一旦場所を談話室へと変えた。バチバチと暖炉の薪が音を立てるのをヒースクリフはただ黙って聞くことしかできなかった。
どういうことだ。ヒースクリフ以上に動揺していたシノがそうファウストの襟元をつかんで食ってかかる。そんな幼い少年の余裕のなさを宥めながらファウストは冷静に答えた。
「完全に魔力がなくなったわけじゃなくて、心に余裕がないだけだよ。心が落ち着いたら使えるようになる」
彼から完全に魔力がなくなったわけではない。ただ彼の心を動かす何かがあって、それが原因で魔力を使えなくなっているだけだ。そうファウストが告げるとシノはホッとしたようにゆるゆると彼の襟を離す。
「
……
なら、ヒースはまだ魔法使いなんだな?」
寂しさと安堵。含まれたその問にファウストは頷いた。それと同時にヒースクリフへ視線をやる。
「ヒース、これを解決できるのは恐らくきみだけだ。
……
とりあえず一旦休みなさい」
そんな言葉に、ヒースクリフは何も答えられなかった。
――
心当たりがないと言ったら嘘になる。
シノもファウストもネロも出ていった談話室で、ヒースクリフは一人俯いた。広い談話室はどこか冷えきっていて、彼はぎゅっと唇を噛み締めた。
「
……
これでいいはずなのに」
特定の人を特別扱いはしたくないという晶の気持ちだって尊重したい。だから、ヒースクリフは納得して自分の恋心に終止符を打ったはずだった。
心の奥底で納得できないと叫ぶ自分をぐっと押し殺して、何もなかったかのように振る舞って。それで納得したはずだった。
けれど、実際は違う。心の奥底に隠した本音は魔法が使えないという形で出てきてしまった。すり減っていく心に気がつかないふりをしていた代償は、大きすぎた。
「言えない」
晶は心で魔法を使うことを知っている。なら、急にヒースクリフが魔法を使えなくなったと聞いてどう思うだろうか。賢明な彼女のことだ、原因に気がつくだろう。
――
自分のせいだと思わせてしまうかもしれない。
それだけは嫌だ。けれどこうして一緒の空間で暮らしていたらヒースクリフの不調はすぐバレてしまうかもしれない。どうにかして、このことは晶に隠し通さないといけない。ヒースクリフは焦りを覚えた。
ドアが開いた。ファウストが戻ってきたのかと彼は振り返って、その姿に絶望した。
「こんにちは、ヒース」
「こ、こんにちは賢者様」
そこにいたのは晶だった。よりにもよって、一番会いたくない人物。彼は咄嗟に動揺を隠して笑顔を貼り付けた。
「何かありました?」
だが、その一瞬の動揺に気がついていた晶はどこか心配そうに眉を寄せた。
そんな小さな優しさですらヒースクリフの心を戸惑わせる。期待してはいけないとわかっているのに、どうしても心の奥底に眠る感情が騒ぎ立てるのだ。
「
……
あの、賢者様。突然で申し訳ないんですが、ブランシェットにしばらく帰ってもいいですか?」
「え?」
「少し、家の用事があって」
嘘だった。咄嗟にヒースクリフが思いついた嘘。そんな彼をまじまじと見つめながら、晶は頷く。
「
……
わかりました。そういう時もありますよね」
調整はこちらでしておきます。そう告げる彼女は何かに勘付いているようだった。けれども追及はしない。そんな彼女にヒースクリフはほっと胸を撫で下ろす。
「
……
ありがとうございます、賢者様」
◇
彼のついた嘘は、容易にバレるものだった。
魔法を使わず数日間かけてブランシェットに帰って数日。魔法舎にいるカインから一通の頼りが届いた。
あのあと、ヒースクリフが旅立ってから晶はファウストに話を聞いたらしい。
魔法が一時的に使えなくなっていること。それは恐らく彼の心に何かがあったこと。恐らく心をすり減らすようなことがあって、それが影響しているのだろう。そんな彼の言葉を聞いて、晶は青ざめたらしい。
何も気がつかずにヒースクリフを送り出してしまった。そう言っていたと手紙に書かれている。その一文にヒースクリフは傷ついて
――
同時に、笑いが溢れた。
彼女を苦しめたいわけじゃない。晶には笑っていてもらいたいし、傷つけたくない。
けれど同時に嬉しくもあった。
(賢者様が、俺のことを考えて胸を痛めている)
きっと、その一瞬だけはヒースクリフのことだけを考えている。その事実に、ヒースクリフは言いようの知れない高揚感を覚えて
――
瞬間その感情に気がついて俯いた。
「
……
賢者様」
カインの手紙によると、晶はブランシェットに来るらしい。どうしても彼と話したいことがあるんです。まっすぐに彼に向き合おうとする晶の姿勢に、ヒースクリフは大きなため息をついた。
逃げてしまいたい。けれども、彼女からこれ以上逃げ続けるわけにもいかない。向き合わなければいけないのに、逃げたくて仕方がない。それは、恐怖だった。
ぎゅっと手紙を握りしめて、ヒースクリフはそっと瞼を閉じた。
客間に案内された晶はどことなく暗い顔をしていた。
そんな彼女にヒースクリフは紅茶を差し出した。コーヒーを淹れる気にはならなかった。
「砂糖も自由に使ってくださいね」
シュガーポットを示せば、晶は頷く。一切魔法を使う気配のない彼を見て、ファウストの言っていたことが事実なのだと嫌でも理解させられる。
「ファウストから、ヒースが魔法を使えなくなったと聞きました」
彼女は本題に入った。ティーカップには手をつけず、晶はじっとヒースクリフを見つめる。そのまっすぐで誠実な眼差しにヒースクリフはなんとも言えない罪悪感を覚えて、そっと顔を逸らした。
「
……
心が疲れてしまっているだけで、一時的なものだろうとも。それって、私が関係していますよね?」
確信を持った質問だった。ヒースクリフが危惧した通り、晶は答えに辿り着いてしまった。ヒースクリフは震える手でティーカップに触れる。温かなその茶器は、彼には熱すぎた。
「あの日からも、ヒースは私にとっていい友達でした。でもそれは、私が強要した関係でしたね」
強要なんてしていない。ヒースクリフはそう否定したかった。けれど、言葉が喉に詰まって出てこない。否定も肯定もできない彼に、晶は自嘲する。
「すみませんでした。でも、私はあなたの特別にはなれないし、特別にしたくない」
「
……
わかっています」
ヒースクリフは嫌でもわかっていた。彼女の言わんとしていることも、彼女の信念もわかっている。ただ、心だけが置いてけぼりになっていた。
「でもヒースを苦しめたいわけでもないんです。だから
――
……
」
「賢者様、言わないで!」
ヒースクリフは焦ったように彼女の言葉を遮った。彼女の言葉の続きを理解してしまい、ぎゅっと頭と心が乖離していく。
「あなたが俺を苦しめたくないように、俺もあなたを苦しめたくないんです。あなたが今から言うことを俺がのめば、今度はあなたが心をすり減らすことになる」
「なら、どうすればいいんですか?」
ヒースクリフは息を飲んだ。あれだけまっすぐに、迷いのないような表情をしていた彼女の瞳が揺れる。まるで、答えのない迷宮に入り込んでしまったかのようなそんな不安を携えていた。
「このままだとヒースが苦しむだけ。わざとらしい笑顔を作るあなたをただ黙って見ていろって言うんですか?」
晶の言葉にヒースクリフは黙り込む。このまま自分だけが我慢すればいいのだと思っていた。けれどその状況が彼女を苦しめているのだと再認識して、彼は深く呼吸をした。
この状況を、変えないといけない。彼はまっすぐ顔を上げた。
「
――
なら、今ここでもう一度あなたに告白をします。なので、あなたは俺をはっきりと『好きじゃない』と振ってください」
そうすればきっと、諦めがつくから。そう告げた彼の提案に、今度は晶が言葉を失った。
「でも、そんな
……
」
「希望を抱いてしまうんです。『好きじゃない』なら諦めることだってできるけど、『特別を作りたくない』だと
……
いつか、あなたの特別になれるんじゃないかって、思ってしまうんです」
ヒースクリフは笑った。それこそ貼り付けたような笑顔ではなくて、心の底からの笑顔。苦痛からようやく逃れられるのだと、そう安堵したような笑みに晶は呼吸が乱れていく。
「でも、好きじゃないって」
「言ってください。好きじゃない、そう言って」
彼は穏やかだった。晶とは正反対の様子の彼に、晶は思わず俯いた。
「
……
賢者様、好きです。友達としてではなく、一人の女性として。あなたのからの特別が欲しいし、俺だけの特別になってほしい」
不思議と緊張はしなかった。前回があんなに緊張したのに、これから振られるのだとわかっていて告げる愛の言葉は驚くほど軽かった。
晶は何も言えなかった。ぎゅっと膝の上で硬く握り締められた手が震える。何か答えなきゃいけないのに、あの時のように彼を拒絶しなきゃいけないのに。言葉が出てこない。
「賢者様、答えて。好きじゃないって、早く」
「
……
言えません」
ヒースクリフが息を飲んだ。恐る恐る顔を上げた晶と視線があって、なぜかヒースクリフは顔を逸らした。
「好きじゃないなんて、嘘は言えません」
部屋に沈黙が広がった。彼女の言葉を受けてヒースクリフは一度だけ深呼吸をする。
「
……
なら、別の言葉にしましょう。例えば、恋愛感情を抱いたことはないしこれからも抱くことはない、だとか。はっきり俺が諦められるような言葉なら、なんだっていいんです。早く、俺を拒絶して」
「無理です、無理なんです」
晶が叫んだ。苦しそうに胸元を掴んで、彼女は本音をこぼしていく。
「だって、私はヒースのことが好きだから
……
!」
「
……
何を言っているのか、わかってるんですか?」
そうやって期待させるようなことを言う。ヒースクリフは一周回って晶に対して怒りすら覚えた。
はっきりと嫌だと拒絶してほしいのに。彼女は拒絶しない。なのに、彼を受け入れることもしない。
――
なんて、酷い女性なんだ。
ヒースクリフはため息をついた。行き場のない怒りを噛み殺すと同時に、晶は目を見開いて必死にヒースクリフに訴えかけた。
「好きですよ、私だってあなたとそういう関係になれたらなと思うことだってあります! でも、ダメなんです。賢者として、特別な存在を作りたくないって思う私の感情も、確かに私の心なんです」
彼女もまた、自分の曖昧な心に翻弄されている哀れな被害者だった。
ヒースクリフからの好意を素直に受け入れたい。けれど、賢者として一人の魔法使いを特別にしたくはない。そんな矛盾した感情が確かに彼女の中に存在する。
「お願いします、どうか私にあなたを突き放すような言葉を言わせないでください」
そんな彼女の懇願に、ヒースクリフはハッとした。視線を彷徨わせてから、小さく謝罪の言葉をかける。
彼女を苦しませたくないのに、散々苦しめるようなことを強要してしまった。今までかけてきた言葉の数々を思い出してヒースクリフはぎゅっと唇を噛み締めた。
「私は、ヒースのことが好きです。あなたからの言葉に舞い上がってしまうほどには好きなんです。
……
でも、少しだけ時間をくれませんか。自分の中の感情の折り合いがついてから、改めて返事をさせてください」
「
……
わかりました」
ヒースクリフはスッと立ち上がった。ティーカップはそのままに、晶に一礼してから部屋を出ていく。
静まり返ったその部屋で、晶は一人嗚咽をこらえた。
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