碧月
2026-05-06 20:43:33
3870文字
Public
 

spot light

レオジャミアイドルパロの続編(お試し読みver)です。続きは、ウェブオンリーの際に投稿します。

「ジャミルさん、カリムくん!聞いてください!そういえば、セカンドシングルが決まったんですよ」
打ち合わせ中に嬉しそうに報告するマネージャーに、ジャミルはふと顔を上げた。カリムは、ジャミルの隣でニコニコとしている。
「へえ!早速セカンドシングル?よかったじゃないか」
嬉しそうなカリムの隣で、ジャミルは難しそうな顔をしていた。
「待ってください、マネージャー。もう、セカンドシングルですか?俺たち先日デビューしたばかりですよ?少し早すぎるのでは?」
ジャミルの言う通りだ。デビューして数日でセカンドシングルが決まるアーティストは、あまり聞いたことがなかった。少なくとも、二人が所属するアジーム・プロダクションには今までそのような逸材はいなかったはずだ。それをジャミルが指摘すると、マネージャーは少し困ったような顔を向けた。

「うん、そうなんだけどね。先方のオファーで、君たちのデビューソングを聞いて、ぜひうちの番組の主題歌に、って」
……番組?主題歌?」
ジャミルは、頭を巡らせる。せいぜいがニュースやバラエティーのエンディングにかかる楽曲だと思っていたのだ。
「うん、次期のドラマの主題歌だよ!」
……?!」
マネージャーの予想外の言葉に驚いて、ジャミルは飲もうとした水を吹き出してしまった。カリムとマネージャーが慌ててテーブルにあるティッシュボックスを渡してくる。
「うん。『トキメキ☆オーバーラップ』ってドラマ聞いたことある?」
「知ってるぜ!あそこのオーディションは厳しいって噂だよな」
カリムが即答する。
……まあ、名前程度なら」
ジャミルも答えた。詳しくは知らないが、若手俳優が、生徒会のメンバーとして多数出演し、ヒロインの女性と結ばれる、よくある王道ラブストーリーの話だ。以前、1期が高視聴率で終わり、年内に2期が制作されるという噂があった。確か、同じクラスのアズールも2期のオーディションを受けたが、失敗した、などとぼやいていた気がする。
「うちの事務所からも数人採用されたんだよね。主演はサバナクローのレオナくんだし」
……レオナさん?」
ジャミルは驚いたような声を上げた。

「どうかした?」
マネージャーが尋ねてくる。
「いいや、Dorm Headのイメージが強いので、演技もできるのか、と」
そう言うと、マネージャーは、小さく笑った。
「あはは、レオナくんは、最初から俳優志望だよ。歌はついでみたいなものさ。Dorm Headの活動も、姉妹事務所の誰かの代役だって噂だよ。詳しくは知らないけれど」
「なるほど」
ここに来て、ジャミルの知らないレオナの一面を知り、ジャミルは納得したように頷いた。
「コレ、一曲目の楽曲のデモ。あと、今回は、ドラマ主題歌というアジームプロダクションたっての快挙ということで、ボイストレーナーがつくことになったから」
……ボイストレーナー?」
歌手にボイストレーナーがつくことは珍しくないが、アジーム・プロダクションはその人数の多さから、専属のボイストレーナーがつくことは少ない。少なくとも、ジャミルの記憶の中では、初めてのことだと思う。それだけ、この案件が、事務所内で異例中の異例なのだろう。
「界隈では名高い先生を呼んだんだ。マキシマム先生、よろしくお願いします」
マネージャーが声をかけると、扉があき、中背の人物が入ってきた。二人はその姿に釘付けになる。白いシャツにピンクのカーディガンを肩からかけ、落ちないように首元で袖を結んでいる。細身だが、そのインパクトは、なんともいえなかった。
「ロゼ・マキシマムだ。Scarabiaの二人かな。よろしく頼むよ」
桃色のショートカットを振りながら、握手をするロゼ。
「ロゼー!よろしくなー!!」
……よろしくお願いします」
屈託ない笑みを浮かべるカリムとは反対に、ジャミルは、本当にこいつは大丈夫なのか、と引き攣った笑みを返していた。

――――――

そんな顔合わせから、一週間。とうとう、ロゼの指導が始まった。デモ音源をもらって一週間。だが、流石、元歌い手Sisだったジャミル、とでもいうべきだろうか。音程の正確さは人並み外れている。まるでコピーだとでもいうように、デモ音源と全く同じ音程を奏で、カリムのパワフルな歌声と上手く重なったハーモニーを重ねている。その歌声は、かつて歌えることを隠していた頃の面影は感じられない。正直他の上手いと呼ばれる歌手でも、音源をもらってたった一週間でこのレベルの完成度の者はほとんどいないだろう。

だが、ロゼは、二人の歌声を聞いて、渋い顔をしている。最初から最後まで、楽曲が終わったあと、二人を椅子に座らせた。
……君たち、これの原作と一期は見たかい?」
二人は、顔を見合わせて首を横に振る。確かに、このドラマの一期は、高視聴率を得ていたドラマだ。二期に当たるドラマは、漫画の原作を元に、原作者自らが脚本を書き下ろしたオリジナルストーリー。元の原作を知っていれば、二倍楽しめるストーリーなのだ、と聞いたことがある。
「ふうん。じゃあ、次までに最低限、原作は読んで来てね。ドラマも忙しいと思うから強制はしないが、見られるだけ見てくること。……それからドラマ制作陣にも声をかけておくから一度見学に行くといい」
……見学、ですか」
ジャミルは、ロゼに尋ねる。通常、主題歌を歌うアーティストが、ドラマの現場を訪れるケースは、かなり稀だ。ドラマ出演者が主題歌を歌うケースでなければ。
「見学かあ」
カリムの口が緩む。あの顔は、きっと楽しそうだ、と考えているのだろう。ロゼは二人の対照的な様子を見て、クスッと笑った。
「君たちはデビューしたばかりだから、何事も勉強だよ。言っておくが、今の歌の仕上がりではドラマの主題歌なんて程遠い」
「それってどういう……
ジャミルが尋ねると、ロゼは席を立ち上がった。
「その先は、君たちが見つけるものだ」
そのまま出口へと向かっていく。扉がパタン、と閉じる。部屋に残ったのは、カリムとジャミルの二人。

「ああ、今日は終わりか〜」
椅子に座ったまま、カリムが大きく伸びをした。
「何言っているんだ、時間いっぱいまで自主練に決まっているだろう?その前にお手洗いに行って来るよ」
ジャミルもまた、席を立ち上がった。
「え〜!」
カリムの声が響く中、ジャミルは、廊下を歩いていく。本当にトイレに行こうと思っていたのではない。あのマネージャーの真意を探りたかったのだ。彼はすぐに見つかった。控室だ。そこで、ジャミルたちのマネージャーと話をしていた。ジャミルは中に入らず、扉越しにその話を聞く。

「いかがですか?Scarabiaの二人は」
「確かに、技術はピカイチだ。僕も驚いた。……だが、技術が高いだけでステージに立てるほど、この世界は甘くない。そういった観点で言えば、あの子たちはまだまだだよ。主題歌は荷が重い」
「やはり……
マネージャーも心配だったようなのだ。こんなに大きな仕事を拾ってくるのは初めてだったからだ。
「ああ。……特に、ジャミルくんだね。彼は、ステージに立つ以前の問題かもしれないな」
……そう、ですか」
マネージャーの声が陰る。ジャミルは、そのまま音を立てずに部屋へと戻った。道中に、小さく呟く。
……この俺が主題歌以前の問題?」

部屋に戻ると、カリムがまだ待っていた。ジャミルに向かって、大きく手を振っている。
「ジャミルーおかえり。練習しようぜ〜〜!!」
「いや、今日はやっぱりいい。俺は休憩するから、カリムは好きに過ごしてくれ。マネージャーは時間になったら来るだろう」
側の椅子に座って、飲み物を口にした。視界の端では、カリムが練習曲をかけて、楽しそうに踊っている。カリムは、曲を聴くと、勝手に体が動くのだそうだ。その様子をジャミルはぼんやりと眺めた。

歌だって、ダンスだって、ジャミルの方が上手いはずなのに。時間が来ても、ジャミルの心は、落ちつかないままだった。

いつもより、少し早めの学園への帰宅。ジャミルは、急いで購買へと向かった。閉店前の購買は、人が少なかった。漫画のコーナーを急いで探す。あった。「トキメキ⭐︎オーバーラップ」の原作だ。ちょうど全巻揃っていた。不思議なことにこの購買には、欠品というものは存在しない。全ての巻を確認し、購買へと向かった。
「ああ、ジャミル、おかえり」
帰宅すると、先に帰ったカリムが、寮生と、楽しく談笑していた。こんなやつに、負けてなるものか、と。ジャミルは、その晩、必死に原作を読み込んだ。なんて事のない、普通の王道学園ものだった。どうしてロゼはこれを読めといったのだろうか。確かに、主題歌なのだから、その背景を理解することで楽曲の深みは増すだろうが。前作も。言われた通りに合間を縫って全作品見たが、ヒットはするだろうが、よくあるイケメン俳優の出ているドラマ、という感じでそこに真新しい感情は生まれなかった。

数日後。ジャミルとカリムは、マネージャーを伴って、麓の町某所のスタジオに来ていた。それは、「トキメキ☆オーバーラップ」の撮影場所だ。諸費用の削減のため、学園内のシーンを撮影する時は、このスタジオにセットを組んで、スタジオ内で撮影するらしい。
……?!」
スタジオに着いたジャミルが、扉を開けると、そこには、制服を着崩したレオナ・キングスカラーが立っていた。