ろころころ
2026-05-05 21:04:15
2146文字
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"使徒殺し"






──────使徒。
それは、全能神グラウディが生み出した人ならざるもの。神に与えられた使命をその白き翼に背負い、人々の文明が築き上げられたこの地へと降り立つ。

そうして彼らはエデンの赤い果実を口にしたことのない、無知な子らに「神」という知識を与える。

ああ全く、知識の果実を食ったから追放だって?
なんとも馬鹿げた話だ。知識を身につけた人間は神のいうことなんざ聞かなくなる。ああだこうだ正当性もないクソみたいな理由をつけて、結局は人間共を思い通りにしたいだけだ。

神も人も、そして使徒も──────


「ハッ!殺せば死ぬから変わりねぇよな!」

ただし、彼の場合は違った。
使徒でも無ければ人でも無く、もちろん神でもない。
ギルバートだったかギルベルトだったか、そんな名前は確かにあった。が、そんなことはどうでも良い。別に自分が"何者か"何ぞどうだって良い。

『─────ならば、何故だ?何故人間の肩を持つ?』
「あ?肩なんて持ってねーよ。俺が持つのは武器だけだ」

純白の翼を靡かせた"それ"は、ここ最近、レグルス大陸を騒がせている使徒である。
遡ること少し前、全能神グラウディがレグルス大陸への侵攻の火蓋を再び切ったのだ。今のレグルス大陸にかつての神々との争いを知るものは極めて少ない。民の危機感は薄く、その現状に焦りを隠せない何処ぞの隊長様のために、こうして彼が先回りをしているのだ。
もちろん、独断で。

「人間ってのは脆いんだよ、一発殴っただけでぎゃあぎゃあ泣き喚きやがって。その点、お前らは数発ぐれぇは持つだろ?殴り甲斐があるんだよ」
『我々使徒は、布教に武力行使を取り入れるつもりは無いと伝えたはずだが?貴様のような輩がその様に我々に力を振るうのが─────』

ぐしゃり。
白い羽が散り散りに舞い上がり、その白さを強調するように赤が飛び散った。

「そのよく回る口は、御託より遺言に費やすべきだったな」
『ぐ…………この、無礼者………誰にも望まれぬ不良品め!』

床に落ちていた手が、指先に血を辿らせながらピクピクと動いた。何かを掴もうとしたその手は空気を掴み、力無く硬い地面へと崩れ落ちた。

「ふぁ」

欠伸をしながら、"モノ"と化したそれに視線を送る。どうやら壊れてしまったらしい。

「ん?一発かぁ……今のは不良品だったかもしれん。前のはもうちょい持った。それか、あのクソッタレな神もガラクタしか作れねえくらいに死にかけてるか。ま、どっちかだな」

地面に落ちている障害物を蹴り飛ばす。それは綺麗に並んだアルミ製のゴミ箱の間に落下し、ガシャリと音を立てた。
彼はそんな様子を特に気にすることは無かった。

──────何故なら、あまり聞きたくなかった足音が聞こえてきたので。

…………ギルベルト・スカーレット」
「げ、たいちょ

瞬発的に地面を蹴るギルの首に光る鎖を、エレミアは透かさず手網にした。

「ぐえっ………おい離せって」
「逃げられると思いましたか?愚かな」

エレミアがぐわんと手網を引く。首が引かれ頭ごと後ろへと重心が持っていかれれば、流石の彼でも足を動かさざるを得なかった。

「っけほ、首絞まるって!」
「貴方が本部を後にしてから既に3日が経過しています。その間に貴方が単独で倒した使徒は21体」
「たかが3日だぜ?1日に7体、実に健全だろ」
「そうですね。何事もなければ、の話ですが」
「い゙っ……!?」

短い悲鳴が上がる。エレミアはギルの腹部に拳をグリグリと押し込んだ。

「折れてます。内臓まで行ってるかもしれませんね。はぁ全く………
「ちょっ、ばっ痛い痛いギブギブギブ!わかった!帰るって!」
………言質は取りましたよ」

涙目で叫ぶ部下の腹から手を離すと、エレミアはポーチから取り出した注射器を彼の首元に刺した。

「動いて帰るのはしんどいでしょう?どうせこんなことだと思って馬車を出したんですから来なさい」
「あーくそ、余計なことを」
「先程まで難なく動けていたのはアドレナリンが出ていただけです。今のが正常な状態なので。自覚してください」
「ま、痛いのは生きてる感じがして嫌いじゃねーけど」
…………貴方のその価値観はどうにかならないものですか」

部下を馬車の後部座席へと押し込んだエレミアは、再びため息をついた。

「いーじゃん。お前もベルゼビュートも、嫌なんだろ?あいつら。消そうぜ?」
…………だからといって」
「殺す必要がないって?ハッ、そんな生半可なやり方で奴らに抵抗出来るとでも─────」
「いいえ?」

エレミアは青年の首に繋がれた鎖を軽く引くと、顎の下を撫でながら視線を合わせた。

「ちょ、なに」
「私が戦うのは、決してこの大陸の人々のためではありません。私が戦うのは私の居場所を作り、正しい世界を保つためです。貴方もベルゼも─────騎士団の全ては私の所有物であり、貴方達は私に許可無く傷つけられてはならない」

──────わかりましたか?
低く囁かれた彼女の声に、ギルはうなずく他無かった。