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あんころ
2026-05-05 19:09:37
2597文字
Public
伊奈スレ
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バスケぱろ伊奈スレ
バスケ選手ぱろの伊奈スレ。なぜ?
伊奈帆(一般人)×スレイン(プロ選手)
実在するリーグやチーム、選手とは関係ありません。
囲まれてる元ネタは某氏から、勝手にお借りしました
――
あのときの感覚を、僕は一生忘れない。
スリーポイントラインに立って、ボールの縫い目を手に合わせて、膝を曲げて弾みをつけてボールを放つ。何年も繰り返し打ち続けて、それでもまだ足りないと感じるシュートフォーム。昔に比べたらマシになっただろうか。
リングを揺らすことなく、ボールが静かにネットをくぐる。
「スレインさん、ちょっと」
「はい?」
フォロースルーで上げていた手をだらりと下ろしたところで、背後から声がかかった。振り返ると、今年から入ってきたルーキーだった。まだ距離感がつかめなくて、どうしてもお互い敬語になりがちだ。
「あの、あれって」
スレインよりもふたまわりほど大きな手が指差す方を見やる。集中力が抜けていって、そういえば今日はやけに人の声がする、と気づいたのはそのタイミングだった。
2メートル超の外国籍選手たちが、誰かを取り囲んで話をしている。日本歴の長い外国籍たちは皆温和なやつだったが、しかしタトゥーが全身バチバチに入っているからかなりの威圧感だ。そいつらが全員下の方を向いていて、その視線の先には覚えのある茶黒の癖っ毛。
「
……
助けてきます」
キュ、とバッシュを鳴らして駆け寄る。ああもう、身内の身内だからって毎回面白がって囲むのはやめろと言っているのに。
「助かったよ」
「別にいいんですけど、なんで毎回ああなるんですか」
「さあ。君が遊ばれてるんじゃない?」
さらっと僕をけなして、伊奈帆は缶コーヒーをすする。なぜか、伊奈帆が練習場に来ると毎回ああなるのだ。はじめは見学に来た高校生が迷い込んだと思ったセンターの大男が道案内をしようとして話しかけて
……
という平穏極まりない出会いだったはずだが、そこから僕のパートナーであることが広まった瞬間これだ。伊奈帆は毎回ちゃんと用事があって来る
――
僕が忘れ物をしたとかだ
――
から、来るなと言うこともできない。
練習場に設置された自販機には伊奈帆がいつも飲む甘ったるいコーヒー飲料は入っていないので、いつもよりちょっと苦いやつ。案の定、泥のような色のそれを飲み込んだ口がモニョっと変に動いた。
伊奈帆の視線の先は、さっきまで僕がシュート練習をしていたコートに注がれていた。つられて目を向ける。さっきまで僕らをからかっていた外国籍選手と若手が、けらけら笑いながら体格差のありすぎるマッチアップをしていた。チーム練習が終わってもまだ居残っているようなやつなんて、バスケ馬鹿ばっかりだ。僕が伊奈帆から奪ってしまったそれを、彼はどんな思いで見ているのだろう。怖くて聞けたことはない。
――
あの日。高校生のあのとき。
僕と伊奈帆はチームメイトだった。試合のときは彼がスタートのポイントガードで、僕のローテーションは三番手。
伊奈帆は身長も体重もなかったけれど、視野とパスセンスはずば抜けていた。個人技ではなくメンバー全体を活かす戦略にマッチしていたし、サイズの不利くらいなら伊奈帆は簡単にひっくり返してみせた。
小さいながらに伊奈帆は注目のガードで、僕は友人である伊奈帆に食らいつくので必死だった。
あの日は他校との練習試合があった。伊奈帆と僕のツーガードの形で起用されて、一緒に試合に出られるのがとても嬉しかったのを覚えている。
――
それで、その試合の最中に僕は伊奈帆の人生を変えてしまった。終わらせてしまった。
不慮の事故だった、と皆に言われた。ボールを持ったときに相手選手の手がかかって、慌てて振りほどこうとした僕は腕を大きく振った。その肘が、こぼれたボールを拾いに来た伊奈帆の左側頭部を強打した。ピ、と鳴るファウルの笛がやけにうるさくて、肘が硬いものをぐわんと揺らした感触は今も生々しく残っている。
あの日のことを、僕は忘れることができない。
「スレイン、聞いてた?」
「
……
え、ああ、すみません」
伊奈帆はむっとした顔を作る。ため息を一つ落として、それから。
「君のとこのエージェントに声をかけられた」
「
……
へ、」
「アナリストとして来ないかって」
アナリスト。確かに来季のスタッフの枠は空いている。伊奈帆が。僕のチームに?
「コレがあるから、検討させてほしいって相談してきたんだ」
コレ、と言いながら、伊奈帆の爪の先が彼の顔を覆う装具をコツンと叩く。僕との接触の衝撃は打ちどころが悪く、伊奈帆の脳にはダメージが残った。左目の視力が著しく低下してしまったので、伊奈帆は事故以来そちらの目を覆い隠して生活している。
けれど。伊奈帆がアナリスト。向いている、とスレインは知っている。事故のあと伊奈帆はマネージャーとして似たようなことをやっていたし、今も家で試合の話になったとき、伊奈帆が垣間見せる分析力や戦術はあの頃と変わらない。
ぐらりと足元が揺れる。伊奈帆が、また同じチームに?
彼が再び競技に関わる可能性にただ衝撃を感じたのか、それとも僕は、妬んでいるのだろうか。思い出したくもないあの頃のように。
でも。それでも、どうしようもなくうれしい。
試合中は視界が狭いことがネックになるかもしれないが、今はビデオで瞬時にリプレイができるし。彼のスカウティングは大きな武器になる。また二人で戦える。
「伊奈帆、僕と
――
」
プロポーズしたときよりも緊張したせいで、何を言ったかなんて分からなかった。けれど伊奈帆がとても嬉しそうな顔をしたから。だからきっと、今シーズンはとても楽しい日々になる。
以下設定とか
・学生時代のスレインはSGのほうが向いてるのに伊奈帆への執着で意地でPGをやっていた。今はの登録はPG/SG。
・ファウルドローンがうまい。しょっちゅう4点プレーをしている。あと腕が長いのでスティールが怖い。
・スレインは大学に入ってから身長が伸びて178くらいある。体重は相変わらず軽くて、日々ふっ飛ばされている。
・たぶん27〜28歳くらい。バスケ選手的には中堅の年齢。
・スレインの背番号は17。もとは伊奈帆が付けていた。
・一緒に暮らしているのは伊奈帆から誘ったから。告白したのとプロポーズはスレインから。
・いつか足が動かなくなってシュートが打てなくなる日が怖い。僕を許してくれた伊奈帆に、ずっとバスケをしてね、と言われたから。
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