それは、穏やかな休日の昼下がりだった。
――だった。つまり、そうではなくなった、という意味だ。
場所はモザイクコーヒー。今日はアルカディアの女闘士らの女子会だ。ハニー・B・ラブリーを筆頭に、ヤーナ、シュガーライオット、珍しくヴァンプ・ファタールまでがいる。
今日の話題の中心は名誉統一王者だ。ふらりと通りすがった彼女は、あっという間に捕まって、女子たちから質問責めにされていた。主に、恋人についてだ。
果物を好む彼女のために特別に注文された、トラル産の南国フルーツの盛り合わせをつまみながら、ヤーナが尋ねる。
「で? 最近はどうなんだよ?」
「うん。仲良くしているよ」
「そうみたいね。それにしたって目撃情報が多すぎるから、少しは気になさいな」
「アイツことだからわざとでしょ。嫉妬と独占欲、コッワ〜」
「仲が良いのは良いことでちゅよ」
わいわいと賑やかな席に、突如、ぬっと黒い影が落ちた。
「
……あ? なんだよ、レッドホットじゃねぇか」
ヤーナが顔を上げると、そこに立っていたのは巨躯の男だ。アルカディアの闘士で、タッグマッチを専門とするエクストリームズのひとり、通称レッドホット。
ヴァンプ・ファタールがついと首を巡らせてから、軽く傾げた。
「ディープブルーの姿が見えないわね。珍しいこと」
「なにかご用でちゅか?」
彼がひとりでいるのは、本当に珍しい。しかも、顔見知りとはいえ、女性の集団に話しかけるタイプではない。
レッドホットは、どこか思い詰めた顔で口を開いた。
「
……兄者のことで、相談がある」
「私達に?」
「いや、
……名誉統一王者に、だ」
顔を見合わせる女子たちの真ん中で、彼女が大きな瞳をゆっくりとまばたきする。
「なぁに?」
「あれから、兄者が、よそよそしい」
むっつりと言葉を切ったレッドホットが、次に放った言葉があまりにも衝撃的だった。
「男同士のやり方を、教えてくれ」
ぶはッとヤーナが口に含んでいた果物を吹き出した。
「
……なんでちゅって?」
「話が飛躍したわね」
「ちょ、あたしが配信回してなかったこと、心から感謝しなさいよ⁉︎」
「お、男同士の話なら、男に相談しろよな!」
ヤーナが至極もっともなことを叫ぶ。
だが、レッドホットはわずかに首を傾げただけだった。
「? お前なら、知っているはずだ」
まるで、幼子が親を万能だと思い込むような、まっすぐで揺るぎない信頼。
インプリンティング。刷り込み。生まれたばかりの雁が、初めて見た生き物を親だと思い込んでしまう学習現象。そんな言葉がメンバーの脳裏を駆け巡る。
面々の動揺をよそに、当の本人はのんびりと口を開いた。
「それは、依頼?」
「ファイトマネーの、貯金がある」
ぱちりとまばたきした彼女が、ふわりと微笑む。
「いいよ」
「いいのかよ⁉︎」
反射でツッコミ入れたヤーナですら、冷静だったわけではない。その人はあっさり立ち上がり、身を寄せ合って恐れ慄く(中には好奇心に輝く瞳も含まれたが)女子らを置いて、レッドホットと共に去っていく。
そうして、決して穏やかならぬ午後が、はじまってしまったのだ。
――主に、当事者たる彼らにとって。
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