Meguri_sumi
2026-05-05 00:41:47
5032文字
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カメラマン×モデルパロ(おみたす)

2024年5月に配信された謎ガチャから生まれたパロ。
臣がカメラマン、丞がモデルやってる世界線で、あのSSR撮影の裏側を妄想した産物。

「っ、おい! 伏見、ちょっと待てって……!!」

 撮影終わりのスタジオ、他のスタッフが全員撤収したのを見計らったかのようなタイミングで、丞は臣に突然その腕を引かれた。「どうした」と事情を尋ねるよりも早く、丞の腕を強く掴んだ臣が歩き出し、丞は半ば引きずられるようにその場から連れ出された。
 丞の腕を引いたまま前を歩く臣の背中に慌てて声を掛けるが、返事はない。いきなり何なんだ、と心の中で文句を言いながらも何も言わない臣に仕方なくついて行くと、辿り着いたのはスタジオの片隅にある控室だった。
 誰もいないその場所の扉を臣がやけに急いた手つきで開く。今までよりも一層強く、ぐいっと腕を引かれて丞はそのまま部屋の中に引きずり込まれた。体を押されて、部屋に置かれていた大きなソファの上に倒れ込む。古びたソファは、丞の体重を受けてぎしりと小さな悲鳴を上げた。

「なにする──っ、ん! んんぅ!」

 ここまでは黙って臣に着いてきたが、乱暴とも言える今の行為にはさすがに丞も腹が立った。しかし、文句を言うために開いた口はすぐに、臣の唇によって塞がれてしまう。
 丞の体を押さえつけながら自身もソファに乗り上げた臣は、丞が紡ごうとした言葉ごと飲み込むように口づけを深くしてきた。

「んっ!! ふ、っんん~~ッ!!」

 丞が抵抗しようとすると、ぎしぎしとさっきよりも大きな音を立ててソファが軋む。あまり暴れると、ソファが壊れてしまいそうだった。スタジオの備品を壊してしまうのはさすがにまずい。そんな些細な心配が頭の片隅を過って、丞の抵抗は自然と弱まった。
 それを好機とでも捉えたのか、丞が着ているTシャツの裾に臣の手がすっと入り込む。直に触れられる感触に、ぞくっと肌が粟立った。丞は服の下に侵入してきた手を慌てて掴んだが、臣は気にする様子もなくその指先でするりと丞の臍部を撫でた。

「ん? あれ……
「っ、はぁ……はぁ……

 ふと何かに気づいたように、臣の手が動きを止める。深い口づけからいきなり解放されて、丞は肩で大きく息をした。

「もう取っちゃったんですね」
……は?」

 深呼吸を繰り返して息を整えていると、少し残念そうに臣が言った。何のことを言われているのかわからず、丞は首を傾げる。

「ピアス、着けてたじゃないですか。ここに」

 そう言いながら臣は、丞の臍をとんとんと指先で優しく叩いた。丞の中に、ついさっき終えたばかりの撮影の光景が蘇る。
 今日はとある男性向け雑誌に組まれる特集のための撮影だった。テーマは「肉体美」。普段からストイックに体を鍛えていることもあって、特集を担当するスタッフから丞が直々にモデルとして指名された仕事だった。そして、その撮影でカメラマンを務めていたのが他でもない臣だ。
 撮影のために、丞はたった今臣が触れているその場所にピアスを着けていた。ピアスといっても本当にホールを開けているわけではなく、シールのようなものだったが。

「さっき着替えた時に取った」

 元々撮影のために着けたものだったのだから当然だが、撮影が終わるとそのピアス風のシールも着替えたタイミングで外してしまった。丞が答えると、臣はひどく残念そうな表情を浮かべた。

「そうですか……
「なんだ? 取ったらまずかったのか?」
「まずいってことのほどじゃないですけど……エロくて良いなって思ってたので」

 臣が軽く相好を崩しながら言う。その言葉を聞いた丞は、聞かなければ良かったとほんの少しだけ後悔した。

「くだらない」
「くだらなくはないでしょう。今日の撮影、本当に色っぽくて良かったですよ」

 呆れてため息をつく丞とは対照的に、臣はやけに嬉しそうに笑みを溢した。
 テーマがテーマだったため、それなりに色気を出せるように意識して臨んだ撮影ではあった。自分の体を上手く魅せられていたのならそれに越したことはないが、臣の言うそれは雑誌の読者に感じてもらいたいものとは少し違う気がする。恋人という二人の関係性を考えたら多少は仕方のないことなのかもしれないが。

「表紙に決まったショットあるじゃないですか。あの時なんかドキッとして一瞬シャッターを切るのが遅れちまいました」
「そうだったのか? 気づかなかった」

 雑誌の表紙を飾ることになった一枚のことは丞の印象にも強く残っていた。丞が自らポージングを提案した一枚だ。鍛えた腹筋を見せるようにTシャツの裾を胸の辺りまで捲り上げて、下着も際どいところまで下ろしたショット。今回のテーマに合わせて綺麗な筋肉がつくように、意識的に体作りをしてきたから、あの一枚が表紙に選ばれたのは丞としても嬉しかった。
 ただ、臣もそこまであのポージングにそこまで感銘を受けていたというのは少し意外だった。あの時シャッターを切っていた臣はそれまでと変わらず真剣な表情を浮かべてファインダーを覗き込んでいるように見えたのだ。

「結構必死でしたよ、口元が緩みそうで」

 今はもう我慢する必要がないからか、その瞳の奥には隠しきれない欲情が浮かんでいた。仕事の時とは違う熱量を持った視線が丞を射抜く。

「お前、ああいうのが好きだったのか」
「別にそれが特別好きってわけじゃないですよ。丞さんがしてるから良いんです」

 丞を見つめたまま、臣の瞳が妖しく細められた。
 仕事絡みのことでこういった賞賛を受けるのは慣れているが、そこに個人的な思慕が混ざっているのがはっきりわかると急に照れ臭くなる。丞はいたたまれなくなって、臣の視線から逃れるようにそっと目を逸らした。

「あれって自分で着けたんですか?」
「いや、スタイリストの佐藤さんが──」
「ああ、あの人か……

 ふいに投げ掛けられた質問に丞が答えると、その一瞬で臣が纏う雰囲気が変わった。丞の口から出たスタッフの名前に、臣の眉間にはわかりやすく皺が寄る。

「俺、あの人のことあんまり好きじゃないんですよね……センスが良いのは認めますけど」
「そうなのか? 珍しいな」

 臣が苦々しい顔をして放った言葉に、丞は目を丸くした。臣のことは仕事でもプライベートでもよく知っている方だと思っている。臣は基本的に人当たりが良く、年齢も性別も関係なく色んな人に好かれるタイプだ。それに何より、臣自身が誰にでも優しい。特定の誰かを嫌うようなことは滅多にないと思っていたのだが、そのスタイリストとは何か相当な因縁でもあるのだろうか。

「あの人……絶対、丞さんに気がありますよ」

 丞があれこれ考えていると、臣の口からあっさりとその答えがもたらされた。しかし、思ってもみなかったその理由に、丞はぽかんと口を開けた。

「はあ? 考えすぎだろ」
「いや、絶対そうです。ずっと見てる俺が言うんだから間違いないですって……丞さんは鈍いからわからないのかもしれませんけど」

 そのスタイリストとは何度か一緒に仕事をしたことがあるが、もちろんそんな下心なんて感じたことはない。むしろどの現場で会っても感じが良く、口下手な丞でもいつも話がしやすい印象だった。それに臣が言うようにセンスも確かで、仕事の上でも信頼できる。
 臣の考えすぎだろうとは思うが、丞がそう言ったところで臣の主張は一貫して変わりそうになかった。それどころか、丞のことを鈍いとまで言い出す始末だ。自分がそういったことに聡いなどと思ったことはないが、さすがに嫌味ったらしく言い放たれたその一言には丞も少しイラっとして顔を顰めた。

「別にいいだろ。何かされてるわけでもないんだし」
「何かされてからじゃ遅いから言ってるんですけど」

 丞がつっけんどんに言い返すと、臣はじとりと丞を睨んだ。
 何かあってからでは遅いから常に気をつけるべきだという理屈はわからなくもないが、そもそもその“何か”が起こるような心配が丞の中にはなかった。こういう時の臣はやたらと心配性というか気にしすぎなところがある。

「ひょっとして、ここに入れてた刺青も佐藤さんですか?」

 すっかり忘れていたがいまだに丞のTシャツの中に突っ込まれたままだった臣の手のひらが、肌をなぞって脇腹に触れた。

……

 尋ねられた丞はそのまま押し黙った。言われた通り、脇腹や胸の少し下辺りに貼っていた刺青風のシールも件のスタイリストに付けてもらったものだったが、これ以上は余計なことを言わない方が良いような気がした。しかし、丞が貫いた沈黙を臣は肯定と捉えたようで、その顔がますます面白くなさそうに歪む。

「はあ……こんなところにも触らせたんですね」

 臣が聞えよがしにため息をつく。しかし、こればかりは仕事なのだから仕方がない。臣が言うような下心云々とかではなく、撮影に必要なことだったから触られただけだ。丞はただそう思っていたが、どうにも臣は納得いかないらしい。
 Tシャツの下に差し込まれていたその手が、いやらしく丞の脇腹を撫で上げた。

「ま、待てっ! ここでするつもりか!?」

 今までは優しく肌に触れていただけだった臣の手が明らかにそういう意図を持ち始めたのを察して、丞は慌ててその手首を掴んだ。

「誰か来たらどうするんだ!」

 スタジオの隅にある控室とはいえ、ついさっきまで撮影で使用していたスタジオだ。いつ誰が来るともわからない。丞がそんな懸念を口にすると、臣はしれっとした顔で答えた。

「誰も来ませんよ。スタジオの施錠はやっておくって伝えておいたんで」

 何気なく告げられた臣の言葉に、そういえばいつもは最後まで残っているスタッフたちも今日は早めにスタジオを後にしていったことを思い出す。どうやらあれは臣の口利きによるものだったらしい。なんとも用意周到なことだ。
 丞が唖然としているうちに、臣は何食わぬ顔をして再び丞のTシャツを捲り上げた。

「おいっ……! するならせめてホテルに──!!」

 丞がそれに抵抗すると、二人分の体重が掛かったソファが思い出したかのようにまたぎしぎしと大きな音を立てた。こんなところで体を重ねでもしたら、本当に壊れてしまうのではないだろうか。それに、いくら人が来る心配はないと言われても、仕事場でもあるこの場所で行為に及ぶのはさすがに気が引ける。せめて場所は変えてもらいたい。そんな一心で発した丞の一言に臣の手がぴたりと動きを止めた。

……いいんですか?」

 まっすぐに丞を見つめる臣の目が、何かを言いたげに細められた。しかし、丞には臣の真意がわからず、その目を見つめ返したまま臣と同じようにぴたりと動きを止める。

「なに……
「俺、ホテルなんて行ったら、丞さんのこと朝まで帰してあげられないですけど」

 じっと見つめられたまま告げられた言葉を理解するまでに、たっぷり十秒ほどの時間を要した。それからようやく、丞は自分がいらないことを言ってしまったことに気がついた。ただこの場所での行為をやめてもらいたかっただけなのに、余計な提案をしてしまった。
 自分の失言に気づいた丞が顔色を変えるのと同時に、臣はどこか楽しそうにその顔に笑みを浮かべた。

「丞さんがそうしたいって言うなら、もちろん俺は反対しませんけどね」

 臣はそう言うと、嬉々としながら捲り上げていた丞のTシャツを元に戻した。それからすぐに丞の上から退くと「戸締り確認してくるんで帰る準備しといてくださいね」とあっさり控室から出て行ってしまう。
 こうなることを元から期待していたのではないかと思ってしまうほどの行動の速さに、丞はただ呆然と、部屋を後にする臣を見送ることしかできなかった。
 実は撮影の時から丞の体を見て興奮を覚えていたと言ったり、そんな丞の体に触れたスタッフに妙な対抗心を燃やしていたり。ついさっきまでの臣の言動を思い返して、丞は深くため息をついた。本当に、今夜は朝まで帰してもらえないかもしれない。どうしたものかと思案してみるが、臣がその気で出て行ってしまった以上、既に交渉の余地がないこともわかりきっている。丞は諦めて、臣に言われた通り帰り支度をするためにゆっくりとソファから立ち上がった。
 年季の入ったソファは、まるで丞のことを送り出すように静かに軋んだ音を立てた。