悠環 彰
2026-05-04 23:20:05
2847文字
Public MCU:バキサム
 

Smoothie

バキサムと朝の一杯。
お題「家電」をお借りしました。

※ミニイベント【#月いち36の日】掲載作



「お、無事届いてるな」
 ある日、バッキーの自宅に足を踏み入れるなりサムはリビングの片隅に置かれている梱包箱を見つけてそう言った。カウチに座って資料を読み込んでいたバッキーが、紙面からサムの方へと視線を移す。
「サム、人の家に勝手に物を送るな」
 そう苦言を呈すがどこ吹く風。箱をダイニングテーブルに移しつつ、満足げにその外装を叩いて笑う。
「この家で使うつもりで買ったんだ。ここに送るしかないだろ」
「先に一言荷物を送るぞぐらい言っとけって話だ」
 以前から薄々そうじゃないかと思っていたが、コイツ、俺への態度が雑すぎないか。サムにはこの家の合鍵も渡していていつ来てくれてもいいとは伝えているので、こうして何かを送ってくること自体は問題ない。問題ないのだが、せめて一言先に伝えておいてくれないだろうか。届いた荷物を前に、こんな物を購入したか、小一時間頭を悩みかけたのだ。
「大体、それは何なんだ?」
 文句はつけながらも伝票でサムが購入したものだというのが判明したので、勝手に開けるのもと思って中身を確認してはいなかった。発送元が家電メーカーだったので、そういう系統のものだというのはわかったのだが。
「ナイショ」
 だが、サムはにやりと意味ありげに笑うばかりで、中身が何かを教える気はないようだった。
「明日の朝のお楽しみってやつだ」
 なんて言いながらキッチンへ入って、ここに来る途中で買ってきたらしき食材を冷蔵庫にしまっている。どうやら夕飯を作ってくれるだけでなく、一晩ここに泊まっていくつもりらしい。その件に関しては嬉しい限りだが、やはり事前連絡はほしいと思う。在宅のスケジュールは毎月共有しているが、急な予定変更で出ている可能性もある。
 一通り片付け終えたらしいサムは、さてとと流しからマグを取り出す。
「コーヒー淹れるけど、バックも飲むか?」
 色々内心で文句はつけたものの、やはりあのサムがこうして人の家でまるで自分の家にいるみたいに振る舞って、馴染んでリラックスしてくれているのは、嬉しいものだ。書類を片付けて、カウチを離れキッチンへと足を向ける。
「俺の分も淹れてくれるのか?」
「ついでだからな」
 こういう口を利くのも、バッキーにだからだろう。そう思うと、結局バッキーはそんなサムのことを、愛おしいと思ってしまうのだった。
 翌朝。ベッドの上で微睡んでいたバッキーは聞き覚えのない騒音に叩き起こされた。一度はシーツを被ってやり過ごそうとしたが、残念ながらそれぐらいでは太刀打ちできない。うう、と唸り声を上げ眉間に盛大に皺を寄せながらもぞりと身を起こす。
 昨夜、このベッドの上で艶かしく身を捩りながらバッキーに愛されてくれた恋人の姿は既にない。まぁ、それはいつものことではある。たまには寝顔を眺め愛でたり、先に起き出して朝食でも用意してやったりしてやりたいものなのだが、すこぶる朝に強いサム相手ではあまり朝に強くないバッキーにはなかなか叶えられない夢であった。
 しかし、この聞き慣れない少し高めの駆動音にはどうにも辟易する。もしかして、例の謎の箱の中身のせいだろうか。こんな音で起こされるのを楽しみにしておけとは、サムはやはりバッキーの扱いが雑なんではないだろうか。
……おい、サム。朝から煩いぞ」
 一体何なんだ。朝の静けさの中で目を覚まし、寝ぼけた頭で幸せな一夜を思い起こしながらゆっくりと覚醒し、キッチンにいた恋人に起こされるという夢みたいな朝の時間をこんな風に破壊するなんて。
「ああ、おはようバック」
 爽やかな朝に相応しいとは言えない低く唸るような声でのそりと顔を出したバッキーに、サムはあっけらかんといつものように朝の挨拶を返した。その手元でギュルギュルと音を立てているのは。
「何作ってるんだ」
「スムージーだよ」
 昨日言っていた朝のお楽しみとは、どうやらこの新品のブレンダーで作っているスムージーとやらの話だったようだ。
「最近ハマっててさ。基地にもフルーツを常備するようになったぐらいで」
 これも基地で使ってるのと同じブレンダーなんだ、とサムは言う。
「だからって何でうちにもわざわざ?」
 いや、だってさ、とブレンダーの中身をグラスに流し込みながらサムは肩を竦める。
「お前、よく朝抜くだろ?」
 ぐっとバッキーが黙り込む。それは、以前から度々指摘されている話だ。バッキーはあまり朝に強くなく、ギリギリまで寝ていたいのと手間をかけたくないのとで朝食を抜きがちだった。移動中に食べたり昼にまとめて食べることもあるので自分としては困ったことはないつもりなのだが、サムとしては朝食を抜くなんて考えられない、と言いたいらしい。
「でもスムージーなら、そこまで手間かからないし。手軽に飲めて、スッキリ目も覚めるかなってさ」
「サム……!」
 そんな、俺のことを考えて。昨日買ってきていた食材の中にスムージー用のフルーツなども入っていたようで、少し多めに買ってきたから後で渡すレシピで明日また作ってみろよ、と勧められた。その心遣いに、じんと感動で胸が熱くなる。
「何より、俺も泊まった日の朝とか飲みたいしな」
「結局お前、自分のためかよ」
 グラスに注いだスムージーを渡すでもなく、自分で飲み始めるサムにがっくりと肩を落としてしまう。やっぱり、俺の扱い、雑じゃないか?
「まぁまぁ。ほら、お前も飲んでみろよ」
 うなだれるバッキーの眼前に、グラスが差し出された。なみなみと注がれたスムージー。胡乱げな視線でサムを見ると、ほらと促すみたいにグラスを押し付けられる。全く、朝はあまり食べたり飲んだりする気がしないんだが。そう思いながら渋々口をつける。
…………うまい」
 すっと喉を冷たく潤していく感触と、爽やかなフルーツの味に自然と頭が冴えるような気分だ。
「だろ?」
 ぽつりと呟いたバッキーに、ぱっとサムが笑顔を輝かせる。最近気に入ってるブレンドなんだ、お前の口にも合って良かったよ。そう言いながらにこにこと笑うサムはとても可愛らしい。
「朝から色々頭を使うことも多いだろ?」
 優しげな瞳がこちらを見て、とんと気遣わしげな手のひらが背を叩く。
「毎朝これでしゃっきり目覚めて、仕事頑張れよ」
 前言撤回。やはり、サムはこんなにもバッキーのことを気遣って、こうして労ってくれる。扱いが雑とかなんだとか、文句を言ってしまって悪かったなぁ。感動に胸を震わせながら、サムが手ずから作ってくれたスムージーを飲む。ほんのりと甘い、優しい味だ。
「サム」
「んー?」
「ありがとう、愛してるよ」
 きょとん、と目を丸めて見せてから、ふっと笑み崩れる。唇から覗いた白い歯がキュートだ。
「知ってる。俺も、愛してるよ」
 当たり前のように返ってくる言葉が嬉しくて、腰を抱き寄せてキスをする。なんて幸せな朝だろう。そう思いながらバッキーは目を伏せた。