みぎあね
2026-05-04 20:55:12
4261文字
Public うちよそ
 

金の秋陽、若葉は青く

その背は思うよりもずっと遠い。
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うちよそ、秋の出会い編。
中の人同士の初交流時の雰囲気を、ふわっと物語に落とし込んでみました。
うちの子がまだ冒険者になって間もない頃の話。

追伸・黒魔道士のAF6いいよね。

〇登場人物
・ク・クィ……うちの子、オスッテ。グリダニアに来て数週間くらいの駆け出し冒険者。依頼をこなしてその日暮らし。槍術士。
・ヴィオラ族の青年……よその子さん、正しくはヴィエラ族。黒魔道士AF6が似合う褐色うさお。豪快な黒魔法が得意。

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柔らかな風が吹き抜ける森の都。宿屋から出てきたク・クィの耳を、穏やかな賑わいが出迎えた。
昼も回った午後のカーラインカフェは、今日も冒険者達の憩いの場となっている。
宿屋内で既に朝食という名の昼食を済ませていたク・クィは、いつものように受付カウンターに立っているミューヌの元へ向かった。

……こんにちは」
「やあ、こんにちは。今日は遅かったじゃないか。依頼を受けに来たのかい?」

ク・クィが頷くと、ミューヌはううんと眉を落とした。

「あいにく目ぼしい依頼はもうほとんど他の冒険者達が引き受けていてね。多少残ってはいるが、駆け出しの君にはまだ少し早そうなものばかりだ」

依頼をこなして賃金を稼ぐのが冒険者の主な仕事だ。そして依頼は早い者勝ち。
午後にもなってまだ残っている依頼となると、何かしらの理由があるものばかりなのだ。
完全に寝坊した自分が悪いのだが、冒険者の世界というのもなかなかに厳しい。
ク・クィは肩を落とした。

「分かった。また明日出直す……
「やあミューヌ嬢。なんか依頼はある?」
「おや……ちょうどいいところに来たね」

踵を返そうとしたク・クィと入れ替わりでカウンターにやって来たのは、黒い衣に身を包んだ一人の青年だった。
背の高い青年が身を揺らすと、衣類や背負った杖についた細かな装飾がしゃらしゃらと音を鳴らす。
小麦色の健康的な褐色肌に、クリーム色のふわふわな前髪の下から覗く金の瞳が眩しい。兎の耳が特徴的な……なんだったか。ええと、確か、そう、ヴィオラ族?

「君になら任せられる依頼があるよ。ただ、もしよければこの駆け出し冒険者くんを連れていかないか?」
「んー?」

訝しげにこちらを見た金の双眸に、ク・クィは少し首を竦めた。身に纏う雰囲気からして自分よりも遥かに強い人だ。
完全に萎縮しているク・クィを見て、安心させるようにミューヌは軽く笑う。

「大丈夫、彼はいい黒魔道士だ。僕が保証する。君は槍術士だから戦い方は異なるけれど、冒険者の先輩として色々学ぶといい」

里の人達以外と交流したことはほとんどない。話すのも得意ではない。
だが、踏み出さなければきっと何も始まらない。
信頼しているミューヌの言葉に背を押され、ク・クィは意を決して口を開いた。

「あの……

ぐっと拳を握りしめ、青年の目を見返す。

「足手まといにならないよう頑張るので、できれば、よろしくお願いします……!」

ク・クィを興味深そうに見ていたヴィオラ族の青年は目を瞬かせる。そして何やら満足気に頷くと、にこりと笑って手を差し出してきた。

「かわいい若葉ちゃん、よろしくね!」

どうやらお眼鏡にかなったらしい。
ク・クィはほっと胸を撫で下ろしてその手を握り返した。

「よろしく、お願いします」


簡単な自己紹介を終え、依頼を引き受けて出立する前に、ミューヌがク・クィを呼び止めた。

「色んな冒険者を見てきた僕からのアドバイスだ。先人を見て学び、時には上手に甘えることが長生きする秘訣さ」

そう簡単に言うが、人付き合いが苦手な自分にはなんだか難しそうな話である。
ク・クィは頬をかいた後、とりあえず小さく一つ頷いておいた。



✧・✧・✧
現在、グリダニアに来る行商人の間で頻発している事件がある。曰く、出発地で積んだはずの荷物が、グリダニアに到着すると無くなっているのだという。
道中に襲撃はなし。積荷を見張っているにも関わらず、下ろす時に数えると一つ二つ足りない。
積荷が忽然と姿を消すその事件の謎を解明し、積荷を取り返してほしい。……と、いうのが依頼内容である。

「さて、こういうのはまず依頼主や被害に遭った行商人に話を聞くのがセオリーだけど……

青狢門を出て道なりに少し歩いたところで、ぴたりと足を止めた青年が腕を組んで空を見上げる。
次いでク・クィが見上げると、木々の間を小さな影がふよふよと横切っていくのが見えた。
――何故か木箱がひとりでに宙に浮いている。
否、よく目をこらすと透明な何かがそれを運搬しているようだった。
まさか、事件の真相がこんな簡単に目の前に現れることがあっていいのか……
呆気に取られているク・クィの横で、うんうん、と嬉しそうに青年は頷く。

「今日も運がいいね。最高。じゃあ、あれの後を追ってみようか」


そうして辿り着いたのは、グリダニアより東にある茨の森だった。
鬱蒼としげる茨の間を潜り抜けた先、人目のつかないような小さな広場には大小様々な物品が積まれている。間違いない。行商人の元から消えた積荷達だ。
そしてそれらを囲んで宙を飛び回っているのは、羽の生えた紫キャベツ――悪い子シルフ達だった。宴でもしているのか、くるくると楽しそうに踊っている。

「原因は、シルフ達の悪戯?」
「そうだね。魔法で姿を隠して積荷を盗み、こっそり根城に持ち帰っていたみたい」

木々の裏に身を潜めながら、シルフ達の様子を伺う。二人の尾行には一切気づいていない様子で、シルフ達は悪戯の成功を喜んでいるようだ。
ヒトはおバカでふっち!などという嘲笑じみた声が断片的に風に乗って聞こえてくる。
シルフ達の数は六匹。シルフ領からは少し離れているため、増援の心配はないだろうが……、二人で相手をするには少し数が多いかもしれない。
――と、考えてるク・クィの横で、すくりと青年が立ち上がる。

「蛮族が原因なら話が早いね。全部燃やせばいい」
「えっ」

それはあっという間の出来事だった。
青年が背負っていた杖を構えると、黒魔法の詠唱を始める。

「地に閉ざされし、内臓にたぎる火よ」

ぞわりと鳥肌が立つほどの魔力が一瞬にして練り上げられ、大きく振り上げた杖先から赤き炎が解き放たれる。

「ファイジャ!」

シルフ達を巻き込むか否かの至近距離で、大きな火球がボンッと爆ぜた。直撃していたら小さなシルフでは炭も残らないであろうその威力たるや。余波の熱風は少し離れた先のこちらにまで届いた程で。

「ふえええ!?!?」
「なななな、なんでふっち!?!?」
「あ、大丈夫!燃え移らないように調整してるから!」

ギョッとして立ち上がった自分の心を読んでいたのか、すかさず青年の手がク・クィを制止した。
落ち着いて確認してみれば、確かにぱちぱちと弾けた火種が他の植物や荷物を燃やしている様子は見られない。
着弾点はしっかり焦げているが……。しかし、対象以外を燃やさない炎など、使い手の技量があってこそなせる技なはず。
この威力でここまで被害を抑えられるとは、この人はやはり凄い人だ。
ク・クィは青年に尊敬の目を向けた。

「驚かせるだけだったんだけど、ちょっとやり過ぎたかなぁ。まぁいっか!大は小を兼ねるっていうし」

ふふんっと青年が胸を張る。
……凄い人でも手加減は苦手なんだな。

突如現れ爆発した火球に驚いたシルフ達は、ぴゃああ!っと悲鳴をあげて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「あ」

そんなどさくさに紛れて、袋を持って逃げようとしている強欲なシルフが一匹。
あわや灰にされかけたというのに、この期に及んで何かしらの戦果は得たいらしい。
――往生際が悪い。
ク・クィは即座に槍を構える。ぐっと肩を引いて投擲した槍は、狙い通りにシルフの羽一枚を掠めて近くの木に突き刺さった。

「びょえええ!!あぶないでふっち!!」

悲鳴をあげた強欲なシルフは、取り落とした袋を諦めてバタバタと森の奥へと逃げていったのだった。



✧・✧・✧
「二人共、お疲れ様。回収してきた荷物はこっちで元の持ち主へ渡しておくよ」

依頼の完了報告が終わり成果を確認したミューヌは、報酬金が入った小袋を二つカウンターに置いた。

「荷物が無事に返ってきて依頼主が喜んでいてね。心付け分、上乗せされているよ」
「おー、やった!ククちゃんのナイスフォローのおかげだね。おかげで荷物を全部回収できた」

青年は眩しい笑顔をク・クィに向けると、グッとサムズアップする。

「ナイスファイト!」
「あ、ありがとうございます……

頬が熱を帯びる。こうして真正面から褒められるのは嬉しいが、とても照れくさい。


そうこうしているうちに気づけば日も暮れ、ぽつぽつと星が見える空には月が昇り始めていた。静かに騒めく森の都に淡い光が灯る。
カーラインカフェを出て、んーっと大きく伸びをする青年にク・クィは深く頭を下げた。

「今日はありがとうございました。とても、勉強になりました」
「いいよ全然!こっちも稼げたし、ククちゃんのためになったなら良かった」
……で、そのククちゃん?っていうのは?」

青年はにぱっと笑う。よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの満面の笑みだ。

「ク・クィだからククちゃん。いいでしょ!」
「え、うん……はい……?」
「そうだ、ククちゃん連絡先交換しよ!これ俺のリンクパールね。代わりにそっちのもちょうだい」

交換?リンクパール?言われたことの半分も理解していないうちに、あれよあれよとリンクパールの受け渡しが完了する。
青年はありがとう〜とお礼を述べつつ、ぽんぽんとク・クィの頭を軽く撫でた。

「ミューヌ嬢が目をかけるのも分かるなぁ。ククちゃん、ほっといたら死んでそうだもん。何かあったら気軽に連絡していいからね!」

じゃ、またね!という軽い挨拶と共に颯爽と風のように去っていく後ろ姿を、ぽかーんと口を開けたままク・クィは見送った。


……なんだかよく分からないが良い人だったな。ああいう背中、なんだかいいな。
リンクパールを握りしめたまま立ち尽くしていたク・クィは、やがてゆっくりと空を見上げた。何処までも広がる夜闇の中で、小さな星達が一生懸命瞬いている。
こんな自分があの背に追いつくには、一体どれ程の時間がかかるのだろうか。
その時のク・クィには想像もつかなかった。


ちなみにヴィオラ族ではなくヴィエラ族であると知るのはもう少し先の話である。