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Mary37memo
2026-05-04 20:39:29
3566文字
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【ムトイフ】君は宝物
原神BL/二次創作/ムトイフ
なんでかパッと浮かんだネタ。雑に書き殴ったし、捏造満載なので信じないでください。
「イファの目元は親父さん似だね。でも口元はおばさんの面影があるよ、笑った時なんかは特に」
ささくれだった硬い指先が、その印象とは裏腹に、丁寧に優しく顔に触れてくる。目元だって唇だって、他人に易々と触らせるには抵抗がある。この人だからだ、と思いながらイファはムトタの触れるがままにさせていた。
柔らかく視界に映る指先は、まるで子供たちの頬の汚れを拭ってやるときのような他意のない動きで輪郭をなぞっていく。くすぐったいし、不本意だ。こんな時に両親の話を出されるのは些か気まずい。
なぜならば、これから約一か月ぶりに恋人と二人きりの夜を迎えようというタイミングで、ここはムトタの寝室のベッドの上だからだ。萎えるまではいかなくても、後ろめたさはある。まあ、俺が小さいころからムトタにベッタリだったのは両親も知っていたし、こうなったのは半分は彼らのせいでもある。忙しい二人に代わって、手が空いている時は可能な限り側にいてくれたムトタが大好きだった。よく「帰らない、ムトタ兄ちゃんといる」と泣いて双方を困らせていたと生前は死ぬほど揶揄われた。生きていたら今頃何と言われただろう。
十七の時に戦争で両親を亡くした。花翼の集の竜医になった。アビスとの大きな戦いがあった。希望の名のもとに勝ち取った平和を、今は皆が一緒に喜び、そして未来へとつないでいこうとしている。両親に話したいことはいっぱいあるのだが、ムトタとのことは
……
墓参りでも伝えたことはない。「やっぱりね」と言われそうで、こっぱずかしい。
「そうやって何か考え込んでる顔してると、ますます親父さんに似てきたね、イファ。随分大人になってしまったな」
懐かしむように目を細めてしみじみと呟くムトタ。そっちこそ、随分とイケおじになっちまったな。そう言うとおじさん扱いだと本人は拗ねる。俺は誉め言葉のつもりでそう思っているんだがな。複雑に練られた思考、体の傷跡が物語る経験値に基づく判断力、調和と団結を生むリーダーシップ、かと思えば恥ずかしいくらい素直に愛を囁いてくる。ギャップと隙はその整った顔立ちと相まって色気へと昇華され、無自覚に纏わせたそれに、俺はいつもヤキモキしているのだ。自分以外の前ではなるべくしまっておいてほしいのに、ムトタに自覚がない以上コントロールに期待はできない。
その色気を存分に独り占めできる貴重な機会。忙しい二人が仕事のスケジュールをやりくりして確保した、待ちに待った泊りでの逢瀬。複雑な思考と忍耐の奥深くに隠した欲望を俺だけの前に晒して、二人で熱い夜に沈むはずだったのに、イファの顔に触れたムトタが徐に両親の話なんか出すから、十分その気になってしまっていたやり場のない熱が、居心地悪そうに腹の奥で焦れていた。
「今更どうしたんだよ、もう顔なんて見慣れてるだろ?」
ささやかな不機嫌が声に滲んでしまい、恥ずかしくなる。期待してましたと言っているようなものだ。
「おや、すまない。焦らしているつもりは無いんだ」
「べっ、つに、そういうことを言いたいわけじゃ
……
」
ムトタを前にして隠し事はできない。俯いた頬にまた硬い指先が添えられるけれど、今度はさっきより熱く、少しだけ湿度を孕んだような動きで顎へと滑っていった。
「見慣れることなんてないよ、いつもドキドキする」
顎を掴んだ手に上を向かされて、髪で隠していた赤らんだ頬が露わになる。嬉しそうに鉛色を溶かして見つめてくるから、イファはますます顔を真っ赤にした。嬉しくて恥ずかしくて、胸の中がむず痒い。
「君の顔が好きなんだ。君の生き様と、君を愛する人の面影が詰まった顔だ」
優しく降ってくる声に、イファは目を瞬かせた。
ムトタに愛されている時、ムトタがイファの容姿を褒めることはこれまでだってあった。オロルンみたいに整ってはいない、平々凡々、至って平均的な面白みのない顔だなと自分では思っていたのに、やれ瞳の色が美しいとか、シャープな輪郭が色っぽいだとか、あとは
……
、最中に困ったように眉を下げた顔がたまらなく可愛いとか。
惜しみなく与えられる称賛はいつも少し恥ずかしく、けれど少し自分を大胆にさせてくれた。けれど、今自分に向けられた言葉は、それらとは違う。優しい傷だらけの腕がイファを抱きしめて、胸の奥からじんわりと温まっていくような、全身に誇りが漲っていくような、そんな、自分の存在が力強く肯定されるような思いがした。
「君の生真面目なところや妥協のない努力に触れると、昔大怪我して君の親父さんにこっぴどく怒られたときのことを思い出すんだ。流石に反省してうなだれてたら、おばさんがそっと焼きたてのビスケットを渡してくれて
……
。当時身寄りのいなかった私にも愛情を持って接してくれた、あの人たちの宝物が今、私の腕の中にあるんだ」
ムトタが大怪我した時のことをイファも覚えている。飛行隊に入ってまだ日が浅かったその日、アビスの魔物と戦闘になったムトタは仲間を庇って瀕死の大怪我をした。集落に担ぎ込まれて、人間を診る医者も竜医も関係なく皆が必死に治療にあたった。あの時、両親とムトタとの間でそんなやりとりがあったなんて知らなかった。
「私も若かったし、守ることの意味をはき違えていたと思う。愛することも、愛されることも下手だったから。イファのご両親には永遠に頭が上がらない。その上こんな
……
」
「ひあっ」
不埒な手が急にイファの腰を撫でて、油断していた体があっけなく声をあげる。
「君に手を出したって知られたら、ただでは済まされないだろうな」
いつの間にか、その鉛色の目に灯る情欲の火が燃え上がり、触れる手のひらが汗ばんでいる。幼い子供にするような慈しみの抱擁ではなく、密着した体は余裕なくその先を急かしていた。
普段はあまり見たことのない、悪い遊びに興じるようなやんちゃな顔でムトタが笑う。親父と母さんの前ではこんな顔で笑っていたのだろうか。
「
……
ちゃんと、報告しようぜ、明日
……
」
自分の恋愛事情を両親に報告するなど恥ずかしいと思っていたけれど、きっと二人が気にかけていたのは俺だけじゃない。ムトタのことを、親父も母さんも大事に思っていた。俺たちは大丈夫だって、そう伝えたい。親父と母さんの分まで、俺がムトタを大事にするから、と。
「ありがとう、イファ。
……
そうだね、一緒に挨拶しに行こう」
少し照れたような顔で笑うムトタの頬を両手で挟んで、イファはそのカサついた唇にキスを贈った。愛しい感触に胸がいっぱいになって、啄むように小さなキスを繰り返す。たくさん感じてほしい、愛されていることを。俺も、両親も、ムトタのことを心から愛しているのだと。大事なのだと。
しばらくの間ムトタはおとなしくイファが降らせるキスを受け止めていた。
……
が、その腕が突然膝裏に差し込まれたかと思ったら、急に世界が反転して、イファは一瞬のうちにベッドに転がされていた。
目が回り、ピントを合わせるように何度か瞬きを繰り返す。ようやく定まった視線の先で、先程まで可愛くはにかんでいた男は、忍耐の枷が外れたオオカミのような眼差しで自分の唇を舐めた。
「二人には、私がイファを満足に愛せていると報告したいんだ。だから、上手に愛せているかどうか、都度ちゃんと教えておくれ、イファ」
「──へ?」
ムトタの言葉の意味を理解する間もなく、溶けてしまいそうなほど執拗な口づけから始まった夜。自分のイイところを洗いざらい言わされたイファは、気絶するように意識を手放した。
***
……
夢を見た気がする。知らない世界の夢だった。
応接室の、革張りのソファーに腰かけた両親の向かい側に座った俺とムトタは、戦争でもこんなに緊張したことがないというくらいに緊張していた。口の中はカラカラで、でも出されたお茶に口をつけることもできずに体を強張らせていると、立ち上がったムトタが勢いよくお辞儀をして何かを叫ぶ。
「──、──!」
何と言っているのか、上手く聞こえない。だけど俺は、なんだか泣きそうな気持でその姿から目が離せなかった。
長い沈黙を破って、最初に声を発したのは母さんだった。口元を手で押さえて、肩を揺らして笑っている。それにつられるように親父の顔が緩んで、二人はしばし、顔を合わせて笑っていた。
ぽかんとするイファに向き直り、両親は優しい顔で微笑んだ。初めて見る顔だ。いつも厳しかった親父の笑った顔に驚いていると、母さんは俺たち二人を見てこう言った。
「やっぱりね」
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