けろか
2026-05-04 10:28:40
3899文字
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竹くく乳牛パロ 序章

乳牛族のくくちくんと人間のたけやくんの話。

現パロというかゆるファンタジー乳牛パロなので人を選びます!!!🍼🐮乳牛パロなので搾乳とかそういう展開🔞になっていく予定です🐮



こんな感じの話です



「一人、問題児がいてな。竹谷八左ヱ門、担当してくれないか?」
 土井のその言葉から、八左ヱ門と兵助の不思議な関係のはじまりだった。
 
 ここ大川牧場は、人から分岐して進化した〝乳牛族〟と呼ばれる乳牛の飼育場だ。
 乳牛族とは、牛の耳と尻尾を持ち、人間と〝ほぼ〟変わらない形をした生き物だ。人間よりも優れた身体能力を持ち、人語を解する彼らは――人間の食糧たるミルクを生産することができる。人間とは違って、妊娠を介することなく、だ。
 高い身体能力、知能。そしてある意味厄介な性質から二つの種族には長らく断絶が起きていたのだが、近年になってその壁は取り払われた。人間社会が乳牛族を受け入れたのは、ひとえに彼らのミルクが人間の食糧として非常に優秀だったからだ。
 乳牛族が人間の手を取ったのは――種の存命のため、というのが一番大きな理由だと言われている。
「担当……はい、分かりました。問題児って、登校拒否とかですか?」
「うーん、まあ、それに近いな。とりあえず、会ってみてもらえるか?」
 八左ヱ門は上司に当たる土井半助の言葉に軽い気持ちで返事をした。
 双子の友人からアルバイトを持ちかけられる形で、〝乳搾り師〟として乳牛族のお世話をして半年。――この言葉の時までまで、乳搾り師とは名ばかりで、まだ仔牛の子供達の面倒を見たり牧草を育てたり、珍しい虫を捕って観察したりのお気楽なアルバイトだったのだ。
 乳搾り師と言えば知り合いの男達からは大抵羨ましがられる。が、悲しいかな、乳牛族どころか女体のおっぱいも触れたことのない八左ヱ門は、仔牛の問題児といえば登校拒否しか思い浮かばなかった。いつものように寄り添って話を聞いて、周りからも責任感があるとお墨付きの、己のすべき事をすれば解決する。重みなどなく息をするように土井の言葉に頷いていた。土井が妙に硬い表情で自分を見ていたことにも気付かずに。
「えーっと……この部屋、だよな……
 ホテルのような、とまではいかないが、乳牛族のために用意された寮はそれなりに立派な建物だ。その一角、手元の地図と目の前のドアとを見比べる。土井から渡された手書きの地図はひどく簡素で、間違いがないか何度か見直し、軽く戸を叩いた。
…………? あれぇ」
 反応がない。もう一度、先ほどより少し強めに戸を叩いてみるがやはり応えはなかった。間違えたかな、と地図をまた見返してみるがやはりこの部屋で間違いない。――こういう時は入ってみるが吉だ、深く考えずにドアを開けた。
……っ!」
「ごめん、入るぞーっと、――え?」
 目に入ったのは、登校拒否の仔牛、仄暗い感じの子供を想像していたのとは百八十度違う光景だった。
 ――ベッドに腰かけ、驚いたように自分の方を見ているのは仔牛なんかじゃなく、八左ヱ門と同じくらいの年頃の青年だった。
 長い睫毛に縁取られた大きな目。嵌っているのはくせのある巻いた髪と同じ黒い瞳だ。美形と言って差し支えない顔立ち、さぞやモテるだろうなと場違いな感想を抱く。ただ、今はその端整な顔には怯えの色が浮かんでおり、それが彼の美貌をどこか痛ましいものにしていた。
 頭にある二つの耳はびくびく不安げに動いている。
――っ、だ、だれ……?」
「あ、俺土井先生に言われて来たんだけど」
「え、先生……?」
 青年は一瞬顔を輝かせたがすぐに曇らせる。警戒心が強まったのか、今度は八左ヱ門から目をそらさない。怯えつつもどこか探るような目つき。強い視線に内心たじろぎと、言い表せない不思議な感覚がした。――なんだろう、この感じ。
 名乗るのも忘れて一歩近づく。
 青年はびくりと肩を揺らして後ずさった。しかし、すぐに壁に背が当たりそれ以上逃げることは叶わない。己の歩みも止まらない、どんどん距離が近づき――
「あれ? 竹谷、先に来てたのか」
 土井の声で我に返る。――俺、何しようとしてた……
 
 八左ヱ門は弾かれたように青年から身を引いた。心臓が早鐘を打っている。まるで全力疾走をしてきた後のようだ。無意識に自分の胸に手を当てた。どくどく、と常より速く脈打っている。
 土井が不思議そうにこちらを見ているが、そちらに顔を向けられない。そのまま視線だけをベッドへと向ければ、青年は窺うように自分を見ていた。警戒しながらも困惑しているようなその目の中、先ほどと同じ黒い瞳と目が合う。
――おっ、もう気が合ったのか? 助かるなあ」
 呑気に笑う土井に、八左ヱ門はようやく詰めていた息を吐いた。そして、自分の中に湧いたおかしな感覚を振り払うように頭を振る。
「え、いや、俺は何が何だか、登校拒否の仔牛じゃなかったんですか……?」
「はは、私は仔牛だなんて一言も言ってないよ。兵助、説明した通り彼がお前の専属の乳搾り師だ。仲良くしろよ」
 あっけらかんと告げ、土井は兵助に笑いかけた。
――わ、かりました。先生……
 兵助と呼ばれた青年は八左ヱ門から視線をそらし俯くと、小さく頷いた。その耳も尻尾も力なく垂れている。――まるで叱られるのを待っている子供のようだ。
「竹谷も。いいな?」
「っと、え! 待ってください、俺、乳牛族の乳搾りって」
「いいな? 断るならこのアルバイト自体無くなるからな。今までの仕事内容自体が異例だったんだ」
 有無を言わさない土井の口調に八左ヱ門は言葉を詰まらせる。項垂れた乳牛族――兵助の手前なのもあり、とりあえず土井の言に頷くしかなかった。
 土井はほっとしたように息をつくと、教師然として言った。――兵助を頼むぞ。と。
「何もしなくていい。お前に頼らなくても一人でできる」
 二人きりになった瞬間、兵助はぴしゃりと言ってのけた。拒絶を隠そうともしない。かちんときたのが顔に出てしまったのだろう、今度は途端に申し訳なさそうな声色で、でも、と付け足した。
――お、俺のせいでバイト、クビにならないようにはするから、」
 ――問題児の割には生真面目な性格らしい。むかっ腹がたったのも一瞬、毒気を抜かれる。
「お前、真面目なやつなんだな……
「よく言われる」
「なのに問題児なんだ?」
 思ったことをそのまま口にすれば兵助はあからさまに傷ついた顔をした。慌てて手を胸の前で振る。
「ごめんって! えっと、俺のバイトはどうでもよくて……関わったら最後までっていうか、俺で力になれることがあるなら協力する。から、何に困ってるか教えてくれよ、土井先生からはなんも聞いてなくて」
 初対面であんな怯えを見せられて放っておけるわけがない。それに――あの感覚はなんだったのだろう。何かを掴みかけたような、でも掴み損ねたような。
 無意識の何かに突き動かされるように距離を詰める。顔が近付いて、長いまつ毛がぱちぱちとはためくのがよく見えた。白い頬がみるみる色付いていく。
――――お前、乳搾り師なんだよな?」
「へ? まあ、一応」
「なら、分かれよ」
「えぇ? 何を」
「今お前が言ったことだよ! 俺が何に困ってて、何で問題児って呼ばれてるか!」
 真っ赤になりながら兵助は叫ぶように告げた。その剣幕に若干身を引くと、兵助は悔しそうに唇を噛む。潤んだ瞳に、罪悪感が頭をもたげる。が、こちとら他人にニブチンと揶揄される男。ハッキリ言ってもらわなければ分からない。大きく開いた瞳孔をじっと覗き込む。
「ごめん、分かんない。――けど、絶対笑ったりしないから! な、教えて?」
「本当にプロなのか……? 土井先生はその手のプロだって言ってたけど」
「ああ、竹谷は凄腕だなって言われたことならあるな」
…………
「兵助の力になりたいんだ。頼む」
 逡巡するように大きな目を泳がせて、兵助は観念したように口を開いた。八左ヱ門はその口元に耳を寄せた。すう、と息を吸う音の後、ぽそぽそと紡がれる言葉に耳を傾ける。と、――え、と間抜けな声が自分の口から漏れた。
「乳が、出ない」
――……そうだよ、出ないんだ。お前その手のプロなんだろ? なんで分からないんだよ」
 ――土井は八左ヱ門が乳搾り師とは名ばかりで、雑用ばかりの気楽なアルバイトということを彼に話していなかったらしい。何か理由が、と思うも、時すでに遅しだ。乳牛族の乳搾りは乳牛族との信頼関係があって初めて成立するものだ。ここで自分が経験ゼロすなわち童貞であると白状すれば、彼の決死の告白を無下にしてしまう。
 普段から動く方が早い体を抑えて頭をフル回転させ、八左ヱ門は兵助に向き合った。
「ごめん、俺、周りからニブチンってよく言われてて、その――でも! 乳搾りのプロだから! 俺にかかってミルク出なかったやつ、いないから! 安心して任せてくれ」
 口からでまかせすぎる、自分でも何を言っているか分からなくなってきた。が、意外なことに彼の表情筋は怒りや悲しみの方向ではなく、安堵に緩んでいるように八左ヱ門には見えた。怜悧な印象だった瞳が、幼なげに潤んでいる。
……だから、兵助の嫌がることはしたくないから、兵助を知ることから始めたいんだ。な、教えてくれよ」
 ――気の遠くなるような体感時間のち、うん、といくらか柔らかになった兵助の声。彼の髪と同じようにゆるくカーブした尻尾がふるんと揺れた。
 やってしまった、と思ったけれど、不思議と後悔はなかった。代わりに、妙な高揚感と安堵感に包まる。誘うようにふらつく尻尾に手を伸ばしたら、ぺちんと手を叩かれた。