森林モトキ
2026-05-03 22:59:15
1761文字
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和ホラーパロ⛈️🌇の導入的なアレ

リハビリついでに書きたいところだけ書いた和ホラーパロ。
だいぶ尻切れトンボな感じ。

「到着した。」

 排気音が止まったのは、枝葉の間を縫う橙の光もすっかりなくなった頃だった。

「ヒースクリフ」

 窓に寄りかかった体を思い切り揺すられる。ただでさえ口数の少ない友人が『運転に支障を来す』とかなんとか言って話しかけることも止めてきたので、オレは車内で持て余しきった暇を日頃の貧乏大学生活の疲れを癒やすことに費やしていたところだった。

「あ゛ぁ……クッソ、今何時だ?」
「午前1時48分14秒。当初の予定では午前0時到着予定だったが、想定外の通行規制や渋滞が重なった。」
「ド深夜じゃねぇか。まさか今日野宿とか言わねぇよな?」
「その必要はない。宿泊先の鍵はすでに預かっている。」

 大あくびとともに伸ばした背骨がバキバキと悲鳴を上げる。眠気に霞む目を擦り、話しかけるなと言ってきた男の理不尽な力加減に苛立ちを含んだ目線を向けるが、ルームランプに照らされた鉄面皮は出発前とほとんど変わっていない。

 ぱちくりと瞬きを繰り返すうちにはっきりとしてきた視界に笹やら小さい枝やらが引っかかっているのが映る。周囲の窓の至る所にかかった枝葉を見るに、今いる場所はとんでもない獣道であるらしい。開けたドアの下にもほんのり土埃がついている。

「おい、ホントにここで合ってんのか?」

 虫も寝静まる夜の静けさが手入れを放棄されて久しいだろう山道に反響するのをごまかすように、ムルソーへ話しかける。ボンネットの向こう側のムルソーはこちらの不安を他所に後部座席から出した懐中電灯のスイッチを触っている。

「元々人の往来がほとんどない土地柄だ。この道も、私以外で使う者はいない故に。」
「飯とか、石けんとか、必要なモンは……
「全て村の中でまかなっている」
「ウソだろ……

 ネット通販が普及しきって久しい現代で、そんなことがあるのだろうか。嘘のうの字も知らないだろうクソ真面目野郎のコイツが言うからには間違いないのだろうが……

「荷物は全て持つように。村に到着後、しばらくはこちらへ取りに戻れなくなる。」

 フロントライトと入れ替わるようにしてムルソーの手の懐中電灯が、眼前を照らす。
 茶錆を纏い倒れかけた黄色と黒の金網。『車両進入禁止』の看板の向こうで、苔に覆われた岩壁を纏う暗闇がぽっかりと口を開けている。夏の暑さにそぐわぬ湿気った冷気が、暗闇の奥から静かな呻りとともにこちらへ流れ、背中をゆっくり撫でて背後の森へ消えていく気がする。

「まもなく2時を回る。早急に出発する必要が」
「わーった、ちょっと待てって」

 言い知れない悪寒に気を取られているうちにすっかり準備を整えていたムルソーに急かされ、慌てて後部座席のリュックとボストンバッグを抱える。
 勢いよく閉めたドアの音と深夜の静けさからは浮いたピッというリモコンの音が鳴ったのはほぼ同時だった。


***


 踏みしめる土の感触が気持ち悪い。腕と首に水が張り付いてる気がする。リュックサックが来たときより重い。何入れてたっけ。着替え、軍手、サービスエリアで買った天然水、あと……

「待て」
「ブッ!?」

 車に乗ってからじわじわと積み上がった後悔を噛み締めている顔面が、急停止した肉厚の背中に埋まる。そのまま軽くはじかれて後ずさり、数瞬遅れて鼻柱の痛みが怒りを伴ってやってくる。

「急に止まってんじゃねぇこのデカブツ!」
「静かにしろ」
「テメ───」
「ヒースクリフ」

 ライトの光を反射する緑眼ににらまれ、感情にまかせた怒号が引っ込む。ゆっくりと昇っていく丸い光を、持ち主に示されるまま目線で追うと、水滴でチラチラ瞬く岩肌に似合わない、場違いなくらい鮮やかな朱色の鳥居がそこにあった。
………鳥居?こんな狭いトンネルに?

「この鳥居から出口を超えるまでの間、後ろを振り返るな」
「あ?」
「理由の説明はできない。しかし。」

 鳥居に向き直ったムルソーが、静かに言う。

「何があっても、何が聞こえても、何を見ても。決して、振り返るな。」

 平坦でいつも通りの声と裏腹に、握り直した懐中電灯の光がかすかに揺れている。影を落とす背中を見つめながら、ひとまず噛みきれない怒りや不安感を胃の中へ落とすことにした。