Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
美結
2026-05-03 07:13:52
3957文字
Public
ロール
Clear cache
砂に沈まない約束 サンプル
8月発行予定の新刊サンプルです。
🐯👒中心のオールキャラ寄り、全年齢本を予定しています。
このサンプルには敗北確定描写、原作程度の流血表現が含まれますのでご注意ください。
第一章
1
それは虫の知らせというものだったのかもしれない。
皆でいつもの様に賑やかな甲板、その中央に居たルフィが、ふと顔を上げた。そして、厳しい顔つきになると輪を抜け出したのだ。ルフィが突然動くのもいつもの事だが、普段とは雰囲気が違っていた。戸惑い、顔を見合わせるウソップとチョッパーを見たゾロが口を開く。
「どうした、船長」
「
……
なんか、嫌な予感がする。ハッキリとは分からねェけど」
答えながら胸元の傷跡に片手を置くルフィは、サニー号が進む方向とは真逆の場所を見据えていた。この船において、進路の最終的な決定権はルフィにある。ゾロは立ち上がったナミに視線を移すと、自分もルフィの隣へと移動していく。
「敵か」
「追ってきてるとかじゃねェ。ただ、このまま進むと後悔しそうな気がするんだ」
何故かは分からないと言ったように首を傾げるルフィだったが、ゾロにはその理由に見当がついていた。振り返ったルフィは、近づいてきたナミに言う。
「ナミ」
「どうしても気になるのね?ルフィ」
「ああ、サニー号を戻してくれ」
揺るがない瞳と少しだけ硬いルフィの声に納得したのか、ナミは軽く頷くとジンベエの元に駆けて行く。
ルフィの様子がいつもと違うことに、ゾロ以外の仲間たちも気づいたらしい。誰も反対する者は居なかった。それがルフィにとって、どうしても必要な事だと分かったならこの一味に迷いはない。ゾロはルフィが見据えた先に待ち構えているであろうあの男の現状を思い、僅かに眉を顰めた。
(碌でもねェ事になってなきゃいいが
……
)
2
一分でも、一秒でも、限りなく遠くへ。
背中で呻くように戻れと繰り返すローの船長命令を無視したのは、これが初めてだった。
今まで、どんな時も彼の船長命令を聞かなかったことはない。それは、航海士であるベポだけではなく、ハートの海賊団全員がだ。けれど、今回ばかりは聞けなかった。ここで船長を失うわけにはいかない。その気持ちごと背負ったベポは、力の限り泳ぎ続けていた。
(もう少し、あと少しだけ保ってくれ
……
おれの身体!)
万が一の事態に備えて頭に叩き込んだ海図を必死に思い出しながら、ベポはローを背負って泳ぎ続けてきた。しかし、休憩もなく、敗走する前の戦闘で疲弊した身体は次第に言うことを聞かなくなっていく。なんとか視界に入っていた島の浜辺に辿り着きはしたが、立ち上がってローを運ぶ力はもう残っていなかった。
(キャプ、テン
……
おれが、守らないと)
どうにか立ちあがろうと砂浜を掻いているベポの元に、大柄な男の影が近づいてくる。意識が霞む。
「ゼハハハ!どうやらここまでのようだな、トラファルガー!!」
この状況を生み出した大男の勝ち誇った笑い声に、ベポはどうにか身体を起こそうとするが力が入らない。大男の手が、背中に居るローへと伸びてくる。ここまでなのか。悔しげに歯を噛み締めた、その時だった。
「ギア3!」
「あァ!?」
頭上から聞こえた声に大男、ティーチの顔が上がる。その反応を待たずして、それは勢いよくティーチの頭上を狙って振り下ろされた。
「ゴムゴムのォ、巨人の斧ッ!!」
「ぐがァッ!?」
ティーチを叩き潰すように振り下ろされた巨大な足を見て、ベポは目を見開いた。背中に感じていたローの重みが少しだけ軽くなる。身体を起こしたのだろう。直撃は寸前で免れたティーチが後退し、そこに着地した男の両足がベポの目に入る。どうにか視線を上げると、振り返った男と目が合った。
「間に合った!!大丈夫か、白くま!トラ男!!」
「麦、わら屋
……
!?」
「麦
……
わら」
男の名はモンキー・D・ルフィ。麦わらの一味を率いる船長にして、ハートの海賊団の元同盟相手であり、ローが想いを寄せる相手だった。
3
砂浜を砕いた衝撃の余波が、遅れて空気を震わせる。巻き上げられた砂塵の奥に見えたその巨体に、ルフィは改めて身構えた。
「
……
チッ、よく気づいたなァ。麦わらァ!」
舌打ち混じりに吠えた黒ひげ海賊団船長、マーシャル・D・ティーチは、直撃を回避したものの、僅かに膝を折っていた。
その隙を逃さず、ルフィは踏み込む。
「ゴムゴムのォ────!!」
親指の先を噛み、思い切り息を吹き込む。骨内部を勢いよく膨らませたそれは、まさに巨大化した腕。張り巡らされた武装色の覇気によって、黒化した強大なガスタンクのような球体が、躊躇なく繰り出される。
「象銃ッ!!」
「がっ、あァ!?」
体勢を立て直す暇を与えず繰り出された強大な拳が、空気を裂く。ティーチの巨体をその場から吹き飛ばし、追いかけるように地を蹴ったルフィはさらに拳を叩き込む。
「ゴムゴムの象銃連打ッ!!」
高速で連打されるティーチの巨体を見て、さらに踏み込むルフィ。
その姿を見ていたベポの視界が僅かに明るくなる。
(いける
……
!)
だが、その期待を嘲笑うように、殴られ続けていたティーチの口から低い笑い声が出た。
「ゼハハハ!やっぱりテメェは厄介だぜ、麦わらァ!!」
その瞬間、ティーチの足元から黒が溢れ出す。這い上がる闇に気づいたルフィは目を見開いた。
「ッ!?」
「闇水」
地面ごと、引き摺り込まれるような重力にルフィの身体が不自然に引き寄せられる。踏ん張る間もなく、ティーチの手がルフィの首を掴んだ。
「捕まえたぜ」
その手が触れた瞬間、ルフィの身体からゴムの弾力が消える。強制的に能力が解除されたのだ。
「能力者はなァ、こうやってただの人間に戻る」
ニヤリと笑ったティーチの拳が、躊躇なく振り下ろされた。掴まれていたルフィの身体が地面に叩きつけられる。
「がはッ
……
!!」
周囲の砂を跳ね上げる衝撃に、息が止まった。
「麦わら!!」
ベポの掠れた叫び声に応えるように、ルフィは覇気を纏った両手でティーチの腕を掴もうとした。
しかし、それよりも早くルフィの身体を引き寄せたティーチが至近距離で拳を構える。
空気が軋む音と共に、ルフィの腹部へ拳が突き出された。
「震波ッ!!」
正面からの直撃。衝撃波が炸裂し、地面ごと爆ぜる。
「
……
ぁ
……
」
声にならない息が、ルフィの喉から溢れた。視界が白く弾ける。身体が言うことを聞かない。だが、それでも────。
「まだ
……
だ
……
」
歯を食いしばり、腕を動かそうとする。
ルフィの視線の先にいたのは、倒れたままのベポと、そのベポに寄りかかる形で身体を起こしたローだ。意識はあるようだが、その場から動けずにいる。
(守らねェと)
もう、手遅れになんてさせない。間に合わなかったなんて思いはしたくない。
尚も手を伸ばそうと足掻くルフィだったが、その意思を見透かしたようにティーチは笑う。
「いい目だなァ。だが────終わりだ」
首を掴むティーチの手に力が篭り、そのままぐっと締め上げられる。ルフィの手に入りかけた力が抜けていく。
「次で殺す」
淡々と告げられたその言葉に、場の空気が凍りついた。動ける者はいない。
ベポは立てない、ルフィは拘束されている。
そして────
「やめろ」
低い声が、割り込んだ。
4
ベポの元を離れ、どうにか立ち上がったのはトラファルガー・ローだった。咄嗟にローの手を掴もうとしたベポの手が、宙をかく。
一歩前に踏み出したローは、出血の酷い左腕を片手で押さえながらティーチを睨み、見据える。
「
……
麦わら屋を、離せ」
「ほう?」
興味深げに双眸を細め、ティーチが動きを止める。
「まだ動けたのか。流石は30億のクビ、オペオペの実の持ち主だなァ」
ルフィの首は手放さないままだが、呼吸は戻ったのだろう。そのまま咽せる様子を見ながら、ローはさらに一歩踏み出す。足元が揺れる、それでも止まる気はなかった。
「
……
条件がある」
「トラ男、やめろ
……
ッ!!」
咽せて涙目になり、掠れた声で叫ぶルフィとローは目を合わせない。ティーチから目を離さないまま、徐々に距離を詰めていく。
「ふざけんな、そんなの
……
!」
「黙れ」
足をばたつかせて足掻くルフィの声を、ローは一言で遮る。その声の低さと冷たさに、ルフィの言葉が詰まる。ローはティーチを見据えて言った。
「おれは抵抗しない」
「
……
ほう?」
「好きにしろ。だが、その代わりだ」
一瞬だけ、ローの視線がルフィを捉えた。
それはほんの僅かな時間だったが、あまりにも多くのものを孕んだ瞳だった。
「そいつには、手を出すな」
沈黙が辺りを支配する。ルフィの目が静かに見開かれ、何かを叫ぼうとした拍子に再びティーチの手へ力がこもった。
「ゼハハハハ!!」
笑い声が浜辺に響き、ルフィの顔が苦しげに歪む。ローは微動だにしない。
「いいねェ!!同世代の嘉か!?もしくは、それ以上だな?」
「
……
どうでもいい」
「いいだろう」
あっさりとした返答だった。その軽さが、かえって現実味を帯びる。ティーチの手から再び力が抜け、ルフィが呼吸を取り戻した。
「ゲホゲホッ、が
……
ッ」
「約束してやる。こいつは殺さねェ」
「
……
っ、トラ男
……
」
しかし、ティーチはルフィの首から手を離そうとはしなかった。僅かに眉を顰めたローへ、ティーチは見透かしたように笑いかける。
「捕まえねェとは言ってねェがなァ?」
「お前
……
ッ」
「キャプテン
……
麦わら
……
!!」
尚も立ち上がろうとするベポの動きを遮るように、ローは首を横に振る。そして、ティーチの目の前に立った。
その背中は、決して振り返らない。
波の音だけが、やけに大きく響いていた。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内