ortensia
2026-05-02 17:17:12
2100文字
Public 傭リ
 

現パロ?質屋店主傭×なんらかの事情でやって来たリ


 大通りからは離れた、昼間でも怪しげで薄暗い所に、その店はある。
 商品は雑多で、工具箱や救急箱、懐中電灯に、何処のものだか分からない地図、鮫のぬいぐるみ。チェーンに繋がれた罠、何かの儀式用具のような木枠、成人した人間のものよりも小振りな頭蓋骨、使い込まれたラグビーボール、年代も種類も不明な酒瓶、猫の目の首飾り。なんだか分からないものまで、ごちゃごちゃと並んでいる。
 狭い店内に乱雑に置かれたそんな品々が商品らしいが、特に手入れをしている様子もない。例えば、汚れたものは汚れたまま。燃えて煤けた灰、顔料が跳ねた跡、土が付いた草露の匂い、獣か何かの血。預かったものを、預かったままにしてあるようだ。しかし店自体の掃除が行き届いていないというわけでもない。置いてあるものの歴史が様々だからか、店の年代も分からなかった。
 こじんまりとした店構えは、扉も規格より小さく感じた。それをくぐって入った先では、ごちゃごちゃと物が出迎えるばかりで、店員の姿は見られなかった。扉こそ小さく思えたが、中で所狭しと並んでいる商品は、どのようなバランスでか積み上げられている所もあり、そしてそれは自分の背丈を優に超えていた。それでも天井に付かないように、積み上げる商品は選別されているようだった。
 奇妙な店だ。
 奇妙な場所にあるだけではない。中の方がもっと可笑しいとも言えるかもしれない。
 店の品は雑多に色々あるが、一つ、筒状の物が気になった。いや、揃えであるようだったから、一対と言えるかもしれない。鉄を縫い合わせているようだが、これはなんだろう。傷が至る所にあり、土や何かの液体で汚れ、随分使い込んだようだ。ただこれは、手入れがされていた。最後にそうされたのは、ここに並べられる前のようだが、その時は、この古い持ち主だった自分は、これを良く手入れしていたことが窺える。
「おまえは持って行く方か、それとも持って来た方か。」
 突然声がした。しかも自分に話し掛けているようだ。
 声の方を振り返ると、品と品の間、およそ一見しても分からぬ隙間に、会計場所はあるようだった。小窓のようになったその奥から、小男が声の主として鎮座していた。
「持って行く方か来た方か、と仰るのは、質の商品のことですか?」
「ああ。ここは質屋だからな。」
 そう。ここは、雑貨屋といっても良いが、正確には質屋だ。リサイクルショップではない。金貸しや銀行でもない。持ち込み客にとっては担保でも、店にとっては商品、そう言う場所だ。ある意味賭場の方が近いのかもしれない。
「なら、持ち込みの方です。」
……ほー?おまえは装いこそ上品だが、着の身着のままって感じじゃないか?」
「おや?分かります?」
 一文無しなのである。質屋に駆け込むくらいには。
「質に入れるのは、わたし自身です。」
……は?」
 店の男は、初め呆然として目を丸くしたが、直ぐに飽きたように目を細めた。冷やかしの相手はしないと言外に態度が言っている。
「ねえ。生ものも可なんですよね?扉の張り紙見ましたよ?」
「取引するかは店が決めるとも、書いてあったはずだ。」
「ええ。ですからこうして、口説き落とせないかと必死なのです。」
「何処が必死だ……。」
 相手側からは、完全に冷やかしと見做されているようだった。
「ねえ。買い戻す時、あそこの金属の筒も買います。如何ですか?」
「あ?」
 こちらが指差したものを、仕方なく見遣った男は、そこから暫し黙った。
……なんであれだよ、他にもあんだろ。」
「ええ、ええ。お店にはたくさん品物がありますね。でもあれ、あれです。」
 男はじっとこちらを見上げると、やがて立ち上がった。少し待っていると、小窓から消え、商品に隠れて壁になっていた奥から、扉を開けて店内にやって来た。小柄だ。しかし質屋と言うより、金貸しの用心棒のように剣呑だ。
……本当にこれか。これがなんだか、分からねえんだろ。」
「ええ、それです。このお店にはなんだか分からないものがたくさんありますが、なんだか分かる分からないで、それにしたわけではありません。」
 男はその商品の前に立つと、それを少しの間見詰め、そしてそれを取り上げた。
「これは鉄の肘当てだ。」
 男はそれを自らの腕に取り付け、その品物の正体を明かしてくれた。その商品はぴたりと男の腕に嵌り、違和感なく馴染んでいた。それの元の持ち主が、分かった瞬間だった。
「自らも質に入れているんですか?」
「そうだ。」
 男がまた肘当てを外して、元の商品棚に戻した。その動きは躊躇いなく滑らかな動きだったが、それがなんだか寂しかった。
「だからおまえも質に入れてやる。」
「おやまあ、よろしいのですか。」
「俺が店主だからな。」
 交渉は成立した。
「ところでわたしって幾らの値打ちなんです?」
「さあな?買う奴が幾ら払うかだろ?」
 小さくて狭いが怪しげな店、その中にぎちぎちと並べられた商品と、そこに寄り添うのっぽの男。質屋には今日も、流れて来た品物が辿り着く。また何処かへ流れて行くために。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。