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ウッウ
2026-05-02 12:13:22
3685文字
Public
例の診断をする廻あざ小話
今流行りの診断をする廻あざです。
あくまで、私の思う二人だったら……という観点で設問に答えたので、皆様のイメージとは違う可能性があります。ご了承ください。
「DSKB診断?」
構内でもひときわ人の少ない、研究棟の裏庭。
ぽつんと置かれたベンチに、あざみは腰掛けていた。
膝の上には、お手製のお弁当。今日のおにぎりの具は、梅干しである。
ほどよい酸味が口の中に広がり、米の甘さがふわりと引き立った。
隣には、友人の美桜が腰掛けている。
彼女の手には、サンドイッチ。もう残り数口といったところか。
ハムとレタスを挟んだそれをひと口齧り、ゆっくりと咀嚼してから飲み込む。
それから、こくん、と頷いた。
「今、流行ってるんだって」
「へぇ
……
?」
曖昧に返したものの、何の診断か見当もつかない。
呆けた反応のあざみに、彼女はくす、と口元を緩めた。
その微笑は、それだけで花が咲いたように華やかだ。
「16タイプの性格診断、みたいな」
「あっ、聞いたことあるかも
……
?」
おにぎりを飲み込みながら、あざみはゆっくり記憶を辿る。
確か、就活の自己分析にもいいと、ゼミの教授が言っていたはずだ。
アルファベット四文字の、有名な診断。
けれど、そんな綴りだっただろうか。
「有名なやつだよね?」
「うん。でも、これはちょっと違くって
……
」
美桜がスマートフォンを開く。
どうやら、何か見せてくれるらしい。
だが、画面に目を落とした瞬間
――
彼女は、はたと表情を変えた。
「いけない!ごめん、あざみ!私、この後予定があるんだった
……
!」
そして、慌ただしく手荷物をまとめ始める。
まだ、サンドイッチも食べきれていない。
その様子に、あざみも慌てて両手を振った。
「いいよ、いいよ!気にしないで!」
申し訳なさそうに手を合わせると、美桜は駆け足で去っていく。
残されたのは、あざみひとり。
手元のおにぎりを、寂しげに齧った。
次の講義までは、まだ時間がある。
手持ち無沙汰にスマートフォンを開き、何気なくSNSを覗いた。
検索欄に〝DSKB診断〟と打ち込む。
「
……
わ。本当に流行ってるんだ
……
」
表示されたのは、ずらりと並ぶ診断結果。
そのひとつを開き、概要欄をざっと目で追う。
「やってみようかな
……
って
……
」
そこで、目にした説明文。
「
……
ど、どすけべ診断!?」
そこに記されていたのは
――
DSKB(ドスケベ)傾向を分析する、という一文だった。
性格診断どころか、まさかの性癖診断である。
「あ
……
あわわ
……
」
周囲に人影はない。それでも、あざみは慌てて辺りを見回した。
「み
……
美桜ってば、なんてものを
……
!」
あの悪戯っぽい笑顔。
きっと、内容を知った上で話題にしたに違いない。
恐る恐る画面を覗くが、いかがわしいサイトというわけでもなさそうだ。
むしろ、真面目に傾向を分析するタイプの診断らしい。
――
好奇心が、むくりと頭をもたげる。
気がつけば、指は〝診断スタート〟という文字に触れていた。
「ええと
……
?うわぁ
……
確かに、きわどい質問
……
」
一問目に現れたのは、『どっちのセリフを言われたい?』という問い。
Aは、「好きにしていいよ♡」
Bは、「気持ちよくしてあげる♡」
こうした二択の問いに、十二問答えていくようだ。
「うーん
……
」
脳裏に、廻屋の姿がふっと浮かぶ。
付き合って間もない彼。
――
まだ、キスすらしていない。
恋愛経験ゼロなあざみは、こういう質問は不慣れであった。
それでも、自然と基準になるのは、やはり彼で。
「
……
センター長さんとなら
……
」
そっと、Bを選ぶ。
頭の中で、廻屋がその言葉を口にする場面を思い描いた瞬間。
かあっ、と頬が熱を帯びた。
「う
……
うう
……
っ」
居た堪れない。
それでも、質問は容赦なく続く。
迷いながらも、次々と答えを選んでいった。
「
……
そ、外で裸になる
……
!?わくわくなんてするわけない!」
「り、理性を
……
失ってる、センター長さん
……
見たい、かも
……
」
「ええ?裸もスマホも、見られたくないよ
……
」
ぶつぶつと独り言を零しながら、画面を眺める。
傍から見れば、なかなか異様な光景だろう。
だが幸い、この裏庭を通る者はいない。
あざみはおにぎりの存在も忘れ、すっかり診断に没頭していった。
やがて、十二問すべてに答え終える。
表示された結果は
――
。
「
……
〝献身の花婿〟
……
?」
画面に現れたのは、修道着のような衣装をまとった羊のイラスト。
目を閉じたその表情は、静謐で、清らかな印象を与えている。
その隣には、説明文が並んでいる。
あざみは食い入るように目を走らせた。
「たったひとりに選ばれ、すべてを捧げたくなるタイプ
……
自分を、差し出す
……
し、静かで重い、どすけべ
……
」
――
なにやら、とんでもないことが書かれている気がする。
正直、読んでもいまいちピンとこない。
当たっているかと言われれば、そんな気もするが
……
。
首をひねりながら、思い出したように、おにぎりをひと口齧った。
ぼんやりと画面を眺めていると、下に小さく、相性のいいタイプの表示がある。
ふと、廻屋のことが気になった。
(センター長さんは、どんなタイプなんだろう
……
?)
――
その時。
「ひゃあっ!?」
スマートフォンが、着信を告げる。
画面に表示された名前を見て、息を呑んだ。
たった今考えていた、まさにその人だった。
「も、もしもし」
『どうも。あざみさん、お疲れ様です』
低く、落ち着いた声。
「センター長さん、どうしたんですか
……
?」
今日は特に、調査案件はなかったはずだ。
なにかトラブルだろうか
――
そう思いながら、怖々と問いかける。
『結果をお伝えしようと思いまして』
「
……
結果?」
きょとん、と目を瞬かせる。
調査結果だろうか。だが、先日の依頼はすでに解体を終えている。
戸惑うあざみを他所に、廻屋は淡々と〝結果〟を告げた。
『ええ。私は〝地下室の司祭〟でした』
――
何の話か、さっぱりだ。
思考が追いつかず、ぽかんと口を開いた。
「
……
はい?」
『今、ちょうどされていたでしょう?DSKB診断』
そこで、ようやく
――
あざみは、彼の言う〝結果〟の意味を理解する。
「
……
みっ、視てたんですかあ!?」
つまり廻屋は、千里眼で一部始終を視ていた、ということだ。
それどころか、先回りして自分の診断結果を伝えるために、わざわざ電話までしてきた。
一気に、顔が熱くなる。
まだ距離のある恋人に、こんなにもパーソナルな部分を知られてしまった。その事実に、羞恥がぶわりと込み上げる。
「ひ、ひどいです!」
『まあ、落ち着いて。我々は相性がいいようですから』
反省の色など微塵もない、平然とした声。
〝相性がいい〟
――
その言葉にはっとして、慌ててスマートフォンを操作する。
結果一覧の中から、相性の良いタイプとされていたキャラクターをタップした。
表示されたのは、司祭服をまとった奇妙な姿。ギザギザとした尻尾のようなものが見える。
――
トカゲ、だろうか。
だが一方で、フルフェイスのペストマスクにも見えた。
表情の読めない、無機質な面。
まるで、あざみの診断結果と対になる存在のようだ。
ずらりと並ぶ説明文に、視線を走らせる。
気がつけば、無意識のうちに読み上げていた。
「
……
閉じた世界で相手を従わせていく、支配者
……
やさしく見えて
……
い、いつの間にか深いところまで支配している
……
静かで執着深い
……
ど、どすけべ
……
」
『良かったですねぇ。相性ばっちりで』
「〜〜〜っ!!」
声にならない悲鳴が、喉で潰れる。
あざみは、真っ赤な顔で項垂れた。
相性がいいこと自体は、喜ばしい。
けれど
――
まだ、キスすらしていないのに。
そんな話をされるのは、どうにも気恥ずかしかった。
身悶えるあざみに対し、スピーカー越しに愉しげな声が続く。
『
……
それで、あざみさんは、裸になるなら周囲に人がいる状況がいい、と?』
「ちっ、違います!」
『焦らされて、理性を失いたい?』
「ちが、違くってぇ
……
!」
『おやおや。直感で選ばれたのでは?診断結果を見て、ご自身でも、そうかもと思われたんじゃないですか?』
立て続けに、揶揄うような声が続く。
診断結果だけでなく、途中の設問までしっかり視られていたらしい。
恥ずかしさとやるせなさに、全身に汗がじわりと滲む。
ひとり、じたばたと身を捩るしかなかった。
『とりあえず
……
講義が終わったら、センターまで来てください』
「
……
へっ?」
動揺しきったあざみに、廻屋は穏やかな声色で告げる。
柔らかな調子のまま、淡々と。
『相性
……
実際に、確かめましょうね』
そして、ぷつり、と。
通話が切れた。
ちょうどそのタイミングで、予鈴が鳴る。
片手には、切れたままのスマートフォン。
もう片方の手には、食べかけのおにぎり。
あざみは茫然としたまま、今しがたの言葉を反芻する。
やがて、ひとつの結論に思い至り
――
自分が今、履いている下着の色が、思い出せないでいた。
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