フリンズさんが何故か輝いてた時の話


「今日のフリンズさぁ……なんかキラキラ光ってない?」
…………

 僕は今日、冒険者をしている友人に誘われて秘境探索へと赴いている。その調査依頼書には『二人以上で挑戦すること』と、注意書きがあるそうだ。一人で挑戦した冒険者の報告から「危険は無いがギミックなども無く、逆に不思議な秘境とのことです」と、冒険者協会の受付嬢から説明を受けた。どうしてこの依頼を選んだのかは定かでは無いが、何故かやる気十分の彼女に呆れつつ、放っておいたらまた厄介な事になると思い、僕も参加する事ことにした。なのだが――

「なんかさ、入ってすぐは気にならなかったんだけど……いつのまにかフリンズがね、キラキラしてるの。なんかこう、後光が差してるっていうか、漫画のエフェクトみたいな……?」
……なるほど」
 僕のことを指差しながら笑いを堪えている彼女に、思わずため息が出そうになる。そのような摩訶不思議な現象を体験しているのに、なぜ警戒せず笑って過ごせるのか?常日頃から思っているのだが、彼女の危機察知能力はあまりに低い。
 静止している僕の周りをクルクル回りながら「本当、全体的に光ってるなんで?」と、不思議そうに呟きつつ観察している。……この秘境は思ったより危険度は低そうなので、あれは正直に伝えなくても良いか……と思うことにした。

『[注]この秘境内では、自分に好意がある異性が輝いて見えることがある』

 そんな看板を見つけたのは、秘境に入ってすぐの事だった。さほど警戒もせず、どんどん先に進む彼女は気付いていない様子だったが、僕はしっかり読んだ。――読んでいたけれど、彼女には教えていない。
 何故なら、彼女の視界に映る僕が『輝いている』……ということは、僕が彼女に好意がある事がバレてしまうからだ。折を見て彼女には思いを伝える予定ではあったのだが、こんな秘境がきっかけになるとは……
 このような大切なことは、もっと別の場で想いを告げるべきなのだ。そのため僕が今やるべきことは――

「ふむ……あまり危険は無さそうですね。さっさとこの秘境から出ましょうか」
「さんせーい! フリンズが輝き過ぎて目が痛いし」

 そう言われた僕は、思わず口角が上がりそうになり口元を手で覆い隠した。彼女の視界では僕が輝いて見えていると言うことは、僕の気持ちが彼女の視界に現れているという事だ。ただその事実だけで僕の顔は勝手に、嬉しさのあまり緩んでしまう。……気を引き締めなければ。

「さぁ、僕の手を取ってください」
……どうして?」
「先ほどそこの窪みで転けそうになっていたでしょう。ほら、この先の道もあまり良くなさそうだからです」
…………なぜ。バレてないと思ったのに……

 何故バレたか?――それはとても簡単ですね。
 僕が、貴女から目を離せていないから、ですよ。

 その後は特に苦労もなく道中を進み、謎の秘境をクリアした。秘境外に出た後はキラキラ輝くこともなくなったそうだ。……まぁ、それは僕の方でも分かっていたことだが。
 彼女と共に冒険者協会へ戻り、調査報酬を受け取った。とても嬉しそうな彼女から報酬の半分ほどを受け取り、そのまま解散した。

 ――僕はその後、冒険者協会へもう一度訪れ、受付嬢に追加の事象報告をした。


 ◇ ◇ ◇


「あ! 旅人さんとパイモンちゃん、こっちです!」
「おう、ちょっと待たせたか?」
「こんにちは」

 今日は旅人さんとパイモンちゃんと一緒にお昼の約束をしていたので、『スペランザ』で待ち合わせをしていたのだ。たまに開催するこの女子会、これがとても楽しい。今回は三人だけだが、他の女子も呼んでお茶会や情報交換をしていたりする。

「で、おまえは何の相談だったんだ?」
……あぁ、えーと……えへへ……

 お昼ご飯も食べ終わった後、パイモンちゃんが話題を今日の本題に切り替えてきた。私から相談したいと言った手前、もちろんそのつもりで来ているのだが……なんとなく気恥ずかしくて、うまく言い出せない。
「あのさ、最近さ……フリンズが、なんかおかしく無い?」
……フリンズが?」
「えぇと、別にオイラは気になってないけど、おまえは何が気になったんだ?」
「ん〜、なんか……さ。普段より何となく優しい、とか……ない?」
 そのように問うと二人は顔を見合わせて、うーん……と唸っている。
「元々じゃなくて?」
「オイラも別に、最近様子が変わった……とかは無いと思うぞ?」
「そっかぁ……
 じゃあ、私は何でそう思ったのだろうか。――あっ。

「この前さ、フリンズと秘境探索に行ったんだけどね。秘境内の足場が悪いからって、手を引いてくれたりしたの。他にも――
 あれやこれやと、最近あったフリンズの気になる点を複数上げたのだが、二人はまた顔を見合わせてから不思議な顔――呆れた顔――をした。
「ちなみに、おまえらはどの秘境に行ったんだ?」
「えっと、地図の……この辺に最近発見された所なの」
 手持ちの地図をサッと広げて、該当箇所に指を差す。

「あぁ、自分を好きになってくれてる人が輝いて見えちゃうって話題の」
――は?」

 …………旅人さんは、今なんと?
 えっと、あの時は、たしかにフリンズが輝いて見え――

――ごめん二人とも、ちょっと急用を思い出しちゃった‼︎ ここは奢るねっ、……また今度!」
 それだけ告げて、私は伝票をバッと掴んでレジへ向かう。今すぐフリンズに、私は会わないといけないからだ。今すぐ確かめないと‼︎


「うーん、これは……
「あいつ顔真っ赤だったよな。……キラキラが見えたんだろうなぁ」
 旅人さんとパイモンちゃんの呟きは、もちろん私には届かなかった。


 ***


「フリンズ、どこー?!」
「はい、こちらに。どうしたのですか?」

 駆け込んだ夜明かしの墓の灯台下。彼の居室へ無断で押し入ると、お気に入りの宝石を磨いていたらしいフリンズを見つけた。そのまま歩いて彼の座っていた椅子の真横に立つ。彼が宝石をケースに置いて椅子から立ち上がる間に息を整えて、私が聞きたかったことを彼へと問う。

「この前の、秘境の、さ? フリンズが輝いて見えた……キラキラしてたって話……なんだけど」
「あぁ、その件でしたか」

 その一言だけ告げた彼は、持ち上げた手で私の頬を撫で、そのまま後頭部に手を添えた。少しだけ頭を引き寄せられたと思ったら、額にキスを一つ落とされた。
 
「実は僕にも貴女が、輝いて見えていましたよ」

 途端に顔を真っ赤にした私を見て、彼がクスクスと笑う。
「今は秘境内で無くとも、僕には貴女が輝いて見えますね」
 そんな事を彼が続けて言うので、私は抗議と好意の気持ちを込めて大きな体に勢いよく抱き付いた。



『僕の片想いだと思っていたのですが、』