こあらん
2026-05-02 00:05:45
6664文字
Public ロベシエ
 

疲れる一日/ロベシエ

シエテがロベリアと喧嘩して、「実家に帰らせていただきます!」のノリで涯てに引き篭もった話。ロベリアとシエテの直接的な絡みはなく、アナシエからの矢印はありません。
アナシエ視点。かなり捏造しています。頭空っぽにしないと読めないコメディ寄りの話
一人称の文体が苦手過ぎて読みにくいと思います。没にしようか迷ったけど、ここまで書いたので供養

………
 急に意識が引きずられるような感覚がして、視界が一瞬、真っ暗になった。次に目を開けると、そこはいつもの見慣れた涯ての情景とは全く違う場所だった。
 木造の壁に囲まれた部屋に、朝の柔らかな日差しが丸窓から差し込んでいる。久しぶりの太陽が眩しくて、俺は思わず目を細める。風を切るカタカタとした音がこの部屋からも聞こえて、ここは艇の中なのだと理解した。
 俺は今、ベッドの上で横になっている。指先でシーツに触れると、柔らかく、さらりとした布の感触が伝わっていく。着慣れた装備とはまるで違う、薄い寝間着のふわふわした生地が肌に触れる。なんだか妙に落ち着かない。
………はぁ、またか……
 思わずため息が漏れた。髪をかきあげると、はねっ毛なのにふわりと柔らかい髪が指をすり抜ける。俺と同じような髪だ。
 もう、これで何度目だろう。試しに涯てに意識を繋げようとしても、今は何故か拒絶される。どうやら、この器の主は、一時的に主導権を俺に渡したらしい。今は戻る気はないようだ。
 まったく、面倒なことになった。
 なんで俺が今ここにいるのか原因は明白だ。だから、この状況を作った張本人に早く会いに行って、なんとかしなければ。正直、会いたくないけど。
 だからといって、これを機にこの体を使って空の世界の再創世のために動くという気は全く起きない。むしろ、今はさっさと涯てに帰りたい。とりあえず、やることはひとつしかない。

「はぁまったく。本当に、何をやっているんだろうねあの二人は」
 ぽそりと零した独り言は、朝の冷たい空気と共に消えていく。気が乗らないけど、主犯格のところに行くしかない。
 俺はベッドの脇に置かれていた服を適当に身につけ、重い足取りで部屋を出た。



 ドアをノックすると、すぐに中から足音がドタドタと響き、部屋の主がドアを開けてきた。
「シエテっ!?……あぁ、キミか……
 嬉しそうな表情は、俺の顔を見るや一瞬で曇ったものになった。毎度のことながら、反応が早い。
「一瞬で気付くとは流石だね。愛の力ってやつかな?」

 目の前にいるこの男アーカルムの塔の星晶獣と契約している魔術師──ロベリア。驚異的な魔術と才能を持っている。自称天才魔術師とのことだが、その言葉の通り、実力は伊達ではない。
 しかし、逸脱した倫理観と嗜好。どうみても世界の脅威となり得る可能性があるというのに、どういうわけかこの器の主──シエテは彼と恋人同士として付き合っている。この事実を目の当たりにすると、毎回、理解不能が限界値を超えてしまい、目眩がしてくる。

「ノン!キミとシエテは、音が全然違うんだ。気付くのは当然だろう?それにしても、シエテは
 低い声で、まるで牽制でもするかのように目を細めながら、目の前の男は俺を睨みつけた。緑色の瞳がギラリと光り、苛立った視線が突き刺さってくる。威圧感は凄いが。俺は肩をすくめながら軽いため息をついて、淡々と答えた。
気付いたらこの有様でね。シエテとも繋がらないんだ。でも、一時的だと思うよ?でも、どうしてこうなったのか、君が一番良く知っているんじゃない?」
「オーララ、モナムール……
…………
 目の前の男は、まるでこの世の終わりかのように目を伏せ、額に手を当てて嘆いている。いちいち動作が大げさで、なかなか会話が進まない。
 俺は無言で彼を見つめていた。 

 ──まったく本当に、なぜシエテはこんな男と……
 そこまで考えて、俺は小さく息を吐いた。
 どうせ理解出来ないことだ。考えても仕方がない。
 そもそものきっかけは、二人の関係に一言苦言を呈したことだった。どうやらこの魔術師は、魔術のかかった奇妙な巻き貝をシエテに持たせていたらしい。シエテとの会話を通じて俺の存在が彼にバレてしまい、今に至る。
 それがきっかけになったのか、シエテはこの男と大喧嘩をすると涯てへ逃げ込むようになってしまった。そして気がつけば、なぜか俺が二人を仲裁する役割をする羽目になっている。

………正直、面倒で仕方がない。

 シエテは、今俺がこの身体を乗っ取っても何もしないと踏んでいるのだろう。確かに、こんな状況でもこの器の主導権はシエテにある。シエテが本気で戻りたければ、俺はすぐに涯てに戻されるはずだ。
 俺も正直、この体を得ても、今はやる気がどうしても起きない。
 再創世のきっかけが、別の時間軸の俺が起こした恋人同士のもつれなんて……考えるだけで虚しい。目的のためなら手段は選ばないとは思っていてもこれは流石に嫌過ぎる
 後ろで花を抱えているような、恋に浮かれているこの男をずっと眺めているだけで、何もしていないのに疲れてくる。俺は無意識に大きなため息をついた。朝なのにぐったりしながら、部屋に入ろうと足を一歩踏み出す。
「俺もこのような形で、この器を好きに使いたくないからね。中に入ってもいいかな?どうしてこうなったか、事情を知りたい」
「の、ノンノン!それはダメだ!場所を変えよう。オレの部屋でキミと二人っきりになったら、シエテに怒られてしまう!あぁ嫉妬したシエテも可愛らしいが、でも、それは今じゃない。分かってくれ!」
 部屋に入ろうとした俺を、ロベリアは焦って遮った。
 怒る?嫉妬?今の状況を解決するために話し合うだけなのに、彼は何を言っているんだ。早く問題解決に取り掛かったほうがシエテもすぐに戻ってくるし、彼にとっても都合がいいだろうに
……?別にこんな事、気にしないと思うけどね
「へぇ、キミはそう思うのかい?くははっ!」
 思ったことをそのまま吐き出すと、彼は呆れたような笑みを浮かべた。目を細め、少し勝ち誇ったような瞳が俺に向けられる。

「まぁ、キミがどう思おうが構わないさ。早く行こう」
 俺が眉をしかめても気にした様子もなく、彼はスタスタと歩き出した。


 彼の後をそのままついて行くと、物置部屋に辿り着いた。ここ暫く全く使用されていないらしく、武器や素材があちこちに散らばっている。床や木箱の上には長年積もった埃が覆い、白くて古びたテーブルクロスのように見えた。
……へぇ、こんな場所を見つけるなんて。凄いね、人の気配すら感じないよ」
「くはっ、誰にも見つからない場所を見つけるのは得意なんだ。ここなら、キミも周りを気にせず話せるぜ?」
 にやりと口端を上げ、得意そうにこちらを見る。
 俺は、腕を組みながらゆっくりと部屋を見回した。確かに、人の気配を全く感じられない。どこにいても人の喧騒が聞こえる、騒々しい艇だというのに。まるで、この空間だけ別の場所に閉じ込められてしまったかのようだ。埃が多くて、少し鼻がむず痒いのが煩わしいが。元大量殺人犯なだけはある。人気の少ない場所を見つけるのはお手のものらしい。
 ……やはり、この男を放っておくのは危険なんじゃないかな?もう一人の俺に語りかけてみても返事はない。まぁ、本人に直接話しても『誰と付き合おうが、俺の勝手でしょ!』と怒られるだけだと思うけど。
 それも今はどうでもいい。早くこの状況をなんとかしたい。さっさと本題に入るため視線を目の前の男に向ける。
……じゃあ、聞かせてもらえるかな。君たち、一体何をしたんだい?」
「それは……」  


 ………この男は相変わらず説明が下手で、理解するのにかなりの時間がかかった。最初は、なかなか概要が掴めなかったが要するに、こういう事らしい。

 二人は今まで関係を公にしていなかった。ところが、この魔術師が「もうそろそろいいだろう」と判断し、特異点にシエテとの関係を打ち明けたらしい。しかも、狙ったかのように大勢がいる食堂で。
 そして、タイミング悪くいや、恐らく意図的にシエテが食堂に来たその瞬間に、大勢の前で抱きつき、キスまでしたという。当然、シエテは動揺したようだ。いきなりの展開に、顔を真っ赤にしながら大激怒したらしい。
 それ以来、顔を合わせてくれなくなったまま、今に至るようだ

 ………くだらない。くだらなさ過ぎて、涙がでてきそうだ。心無しか、頭も痛くなってきた気がする。眉をしかめながら、額に手を当てる。
 そういえば、前もシエテが俺にこの身体を明け渡した時もどうしょうもない理由だった。確か、あの時は真っ昼間なのに散々……いや、思い出すのはやめよう。
 俺をこんな馬鹿げた痴話喧嘩に巻き込まないで欲しい。

「はぁ……。前から思っていたけど、君たち、相性が悪いんじゃない?別れたほうが君のためにもなるんじゃないかな
 冷ややかな視線を送りながら、正直に伝えた。
 やっぱり、俺達には恋愛なんてふざけたものは向いていない。頭がとち狂ってしまったのか、シエテはこの男にかなり入れ込んでいるが。それでも、どのような関係も必ずいつか終焉を迎える。いずれ別れるのなら、とっとと別れてしまった方が、二人にとってもいいんじゃないだろうか。
 悪くない提案のはずなのに、この男は棘のある声で即座に言い換えしてきた。
「ノンノン!それはあり得ない!絶対にっ!シエテと同じ顔でそんな事を言わないでくれないか?ムッシュ」
………
「こう見えて、オレらはラブラブなんだぜ?くははっ。キミは知らないのかい?この前なんか、可愛らしくデートに行きたい、とオレを誘ってくれて。あぁっ!あの、恥ずかしそうにオレを見つめるあの可憐な瞳っ!トレッビアーン!!」
…………
 俺が白けた目で見つめているというのに、この男は恍惚とした表情でシエテの魅力について延々と語り始めた。聞きたくない。俺は、無心で彼の言葉を耳から耳へと流した。決して、頭の隅に留めさせない。絶対に。
 シエテがこの男に会っている時は干渉する気はない。別の時間軸の自分とはいえ、自分の恋に溺れている姿なんて、見たくも聞きたくもない。
 それなのにこの男はペラペラと喋り続ける。終わりが見えない。なんだか、涯てに繋がらなくても自力で戻れるような気がするほど疲れてきた。

「はぁ。そんなに“ラブラブ”だったらシエテはこんな事しないはずだと思うけどね……
俺が呆れながら言うと、彼は笑い飛ばした。
「くっはっ!!手厳しいな!まぁ、シエテは照れ屋さんなだけさ。でもそうだな、確かにシエテがいない時に団長に話したのはエレガンスではなかったな。オレとした事が、団長にシエテの事を聞かれてつい浮かれてしまったオレもまだまだだな」
 口端を上げて悪戯っぽく笑ったかと思えば、急に声色が優しくなった。今この場にいないシエテの事を考えているのだろう。
「シエテが戻った時にキチンと謝るさ。シエテの好きな花を添えて、ね
……そうだね。素直に謝ったほうがいいと思うよ。花は必要かどうかは知らないけど
 俺は小さく息を吐いた。
 何だかんだ言いながら、自分で解決策を見出している。それに、シエテがどう喜ぶのかもきちんと把握しているらしい。無理に俺が事情を聞きに行かなくても良かったのかもしれない。
 この調子なら、拗ねて引き篭もっているシエテが戻って来ても何とかなりそうだ。少しホッとした。また同じような痴話喧嘩が再発して……というパターンは俺としても避けて欲しい。

「それと、アーモンドとナッツがたっぷり入ったキャラメルクランチを。シエテはこの島の甘いものが好きみたいだからね
「ああ、あそこか。それもいいけど、ベリーとクリームのミルフィーユのほうがいいんじゃないかな。シエテはそれがかなりお気に入りのようだからね。そっちのほうが喜ぶと思うよ」
……へぇ、詳しいね……
………
 ピシリと空気が一瞬で凍りつき、鋭い殺気が飛んでくる
 俺は瞳を閉じ、それを無視をした。どうやら、余計な事を言ってしまったみたいだ。 
 いや、ここで嫉妬される意味がわからない。何だかんだ言って、シエテは俺でもあるのだから、この程度は理解して当然だろう。食の好みなんて、多少の変化があっても根本的には変わらないはずなのだから。

………
 刃のような殺気で何か感じ取ったのか、一瞬、涯てと繋がった感覚があった。こちらの事が気になってきたようだ。俺は、深くため息をつき、目の前の男を見た。
……俺に嫉妬するのも、時間の無駄だと思うよ?それにしても、いいのかな。今、一瞬、シエテの気配がしたんだ。そろそろ戻ってくる頃だと思うよ」
「おっと、それならそれなら早く町にいかないとな。メルシー、ムッシュ!話を聞いてくれたお陰で、オレも整理ができたからね」
……あんまり調子に乗って、怒らせないでね。俺ももう、君達に無駄に関わらない事を願うよ」
「くはっ!もう怒らせることはしないさ!だから、早くキミもシエテに身体を返してくれよ?」
 いや、今回の件はシエテが勝手にやったことから俺は何もと思いながら、慌てて部屋を出ていく姿を見送った。開いたドアの隙間から外の光が差し込み、埃がチラチラと舞っている。  

 静かになった物置部屋に、一人残された。 やっと一人になれた
 無駄にお喋りな男を相手にした疲労感で、ぐったりする。俺は大きくため息をついて、ぽそりと呟いた。

……まぁ、限りある時間を楽しめばいいんじゃないかな。君も、シエテもね……
 
 さっき、シエテの気配も感じたし、俺が涯てに戻されるのも時間の問題だろう。
 ……本当に疲れた。早く一人になりたい……。そう思いながら俺もこの埃っぽい部屋を後にした。





「ねぇ、……最近、ロベリアとよく一緒にいるような気がすんだけど……
…………
 やっと涯てに戻されたと思ったら、不貞腐れた様子のシエテが目の前にいた。じっと、もの言いたげな瞳でずっと俺を睨むように見つめている。

……勘弁してくれ、本当に……

 俺は眉間に皺を寄せ、深くため息をついた。もう、これで何度目だろうか。数えていないけど、一年分くらいのため息を今日だけでついた気がする。
……好きで会っているわけじゃないよ。そもそも、君が原因だというのは……自覚して欲しいんだけど?」
「い、いや。そ、そうだけど。お前もロベリアの事が気になったりとかしてるのかなって。今日もすぐにロベリアの部屋に行っていたし
 シエテの声が段々小さくなり、オロオロしながら俺の顔を伺ってくる。シエテの瞳が不安そうに揺れている。
………はぁ」
 何を変な方向に嫉妬しているんだ
 頭上に落石が落ちてきてしまったような衝撃で、目眩がしてきた。恋に浮かれると、こうも判断力が失ってしまうのかと見ていて恐ろしくなってしまう。
 俺は呆れた目をして、シエテを睨み返した。
「変な事考えないでくれる?俺はそういうのには興味がないし。少なくとも君ほど趣味は悪くないと思うよ」
「う……
 シエテが言葉に詰まり、顔を真っ赤にしながら視線を泳がせる。言い返す言葉が思い浮かばないようだ。身長も、体格も全て同じなはずなのに、心無しか情けなく、小さく見える。
「ほら、さっさと行ってくれない?あと、これ以上変な事に巻き込まないでくれるかな。じゃないと、そのまま身体を奪っちゃうかもしれないよ?」
 俺はしっしと片手で手を振って、とっとと帰るように促す。今日は本当に疲れたから早く一人になって休みたい。
 世界の歪みは多く、限界は近い。こんなことで時間を食ってはいられないというのに。
……それは、ダメ。そうはさせないよ!あぁもう、わかった。わかったからまぁその、今回はありがとう
 そう言い残して、シエテの姿は静かに消えていった。

……やっと一人になった。

 どっと疲れが出てきて、肩がやたら重い。この二人のくだらない恋愛ごとに、毎回巻き込まれるのは本当に疲れる。変に嫉妬までされるし、ろくなことが起きない

 ああ、もう、わかった、わかったから。君達の時間は邪魔をしないから
 
 君たちは君たちの好きなように生きればいいよ

 もう、金輪際、痴話喧嘩に巻き込まないで欲しい。そう思いながら、俺は瞳を閉じた。