白殊皎(しらよし こう)
2026-05-01 22:00:00
3777文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

眠りによせて

戦いの中でオベロンの『夢のおわり』を受けて眠りについた土方を案ずる近藤。
その様子は尋常ではなかった。


4月29日からのレイドバトルでは土方さんに頑張ってもらい、常に『夢のおわり』状態で戦闘終了するので、それを近藤さんが目撃していたら……と妄想しました。
黒剣ちゃんなのは白殊の趣味です(きっぱり)。



 それはある特異点の最終局面。
 首魁と対峙し、あと一押し──誰かの宝具で決着がつきそうだった。
──オベロン、皆に強化を! そして土方さん、宝具お願い!
 少女マスターの凜とした声と共に手の甲の令呪が光る。
「くっははははは! いいね、最高だ」
 黒い衣を纏った妖精王が高笑いと共に味方全体に魔術をかける。
「さて?」
 そのあと彼は土方の方を見遣ると、微かに首を動かした。
「よーく見せてやる。……ああ、よく見るがいい……!」
 ぎらり、目を光らせて土方が敵を見据える。
「誰にも、俺の誠は、斃させねえ! 俺が、此処だ! 新選組だ!」

  不滅の誠しんせんぐみ

 炎の如き魔力がほとばしり、敵を打ち据え貫き、その息の根を止めた。
──オベロン! なんで余計なことするの!!
 だが、マスターは喜ぶ様子を見せず、オベロンに詰め寄った。
「あれぇ? 確実に息の根を止めるのには、一番よかったはずだけど?」
 へら、と本心の掴めない顔をしてオベロンはやれやれ、というように両手を挙げた。
「歳!?」
 その間に土方の異常に気付いたのは黒の剣士こと近藤勇だった。
 宝具の使用による一時的な魔力の消耗かと思ったのだが、明らかに様子が違った。
…………
 土方はその場から動くことなく、虚ろな目を地面に投げていたかと思うと、ふらりと後ろに倒れた。
「歳!!」
 咄嗟に駆け寄りその身体を抱き留める。
「歳、どうしたんだ、しっかりしろ!!」
 土方は近藤の呼びかけにも答える様子もなく、まるで死んだように身動き一つしない。
 いくら土方の宝具が己が身を切るものであったとしても、この状態は尋常ではないように近藤には見えた。
「マスター! 歳が、歳が!!」
 近藤はただでさえ蒼白い顔を真っ青にしてマスターを呼んだ。
──近藤さん、大丈夫だから落ち着いて。
 余りのことに土方を抱きしめて、黒の剣士らしくなく今にも泣き出しそうな近藤をマスターは宥める。
──それはオベロンの魔術なの。一時的に身体能力を大幅に高める代わりに、少しの間深い眠りに落ちて誰にも起こせなくなるの。
「そうそう。でもね、しばらくすればケロッと目を覚ますから、なんにも心配ないの」
 オベロンはその近藤にマスターの口真似をしてみせながらにたりと笑った。
「貴様……
 近藤は煽られているのはわかりはしたが、オベロンを睨み付けわなわなと身体を震わせた。
「さぁさぁ、終わりだ終わり。帰ろう~」
 オベロンはひらひらと手を振って近藤に背を向ける。
──ごめんね、近藤さん。霊基の異常とかはないはずだから、帰ってチェックしてもらおう?
……マスターが謝ることではない」
 聖杯が回収されたことで、世界が揺らぎ始める。
 近藤は唇を噛みながらもまだ目覚める気配のない土方を抱え起こし、肩を貸すようにして立ち上がった。
 レイシフトが実行され、一行はカルデアに帰還した。



「霊基に異常はない、眠っているだけだ」
……そうか」
 マスターの言葉通り、帰還したカルデアでのメディカルチェックには何の異常もなかった。
「部屋に連れ帰ってもいいし、心配ならここに置いておけ」
……どれくらいで目覚めるんだ?」
「思い詰めるな。これは病でもないし呪いでもない、土方なら二~三時間で目を覚ます」
「わかった……部屋に連れていく」
 近藤は来た時と同じように土方を抱え起こすと、自分の方がよほど憔悴した顔を見せて医務室を後にした。



 土方の部屋に入り、内側から扉をロックする。
 和風に整えられた部屋の、奥の寝台に土方を寝かせその傍らに膝をつく。
「歳……
 マスターにも医神にも大事はないと言われているのに、それでも近藤は心配だった。
 霊基については人のことは言えた義理ではないと思うが、あの黒い妖精王はその存在も、言葉もどうにも受け入れ難かった。
 そんな相手の魔術だ、いくら異常はないと言われても本当に大丈夫なのか──なによりも、彼は自分がこうなるとわかって土方に魔術をかけたのではないかとそればかりが近藤は気になった。
「歳……俺のせいで……すまない……
 近藤は土方の顔を覗き込み、頬に手を添えるとその唇に自分の口を押し当てたあと、そのまま彼の胸に頭を預けた。
「口吸いで目を覚ますのは外つ国のおひぃさんだと思うんだがなぁ」
「!!」
 少しして聞こえた声に驚いて身体を起こせば、いつ目を開けたのか、土方が口角を上げて近藤を見つめていた。
「──歳!!」
 土方としてはちょっとしたからかいのつもりで、当然近藤は照れ隠しに怒ると思ったのだが、意に反して縋りついて涙を零した。
「よかった……目を覚ましてくれて……よかった……
……近藤さん」
 あの魔術なら何度も受けてるから、なんでもないと言おうと思ったが、言葉を飲み込んだ。
「俺はいやだ、おまえがいなくなるのは……いやだ。……生きていても、言葉も交わせなくなるのはいやだ……
 近藤はその紅の瞳からとめどなく涙を流して土方を見つめた。
「それを言いたいのは、俺の方だ……近藤さん」
 身体を起こしてもなお縋りつく近藤をそっと抱きしめて土方は耳元で囁いた。
 あの特異点で、目的を果たした後には物言わぬ装置カミになってしまおうとしたのは彼の方だ。
……ごめん……ごめん……とし……。わかった……もう、しない……ぜったいに……しない、から……。おまえから……はなれない……はなさない、から……
 いつになく素直というより、なにか精神異常でも起こしているのではないかと思えるくらいの近藤に、土方は怪訝な顔をする。
「俺はともかく、あんたの方が大丈夫か?」
 顔を覗き込んでぺち、と頬を叩いても近藤は泣くのをやめなかった。
「だいじょうぶ、じゃない……。こわい、おまえがいなくなるのが、こわい……
 これは感情のたがが外れてしまっているな、と土方は思い至った。
 信念を持って立てばなにものにも揺らがない近藤だが、そうでない時はゆらゆらと感情も精神も揺れる。
 それを知っているから、あの時は自分が全て引き受けようと決めた。
──結果的にはそれが近藤を追い詰めることになってしまったが……
 だから、この英霊サーヴァントとしての邂逅では、その轍は踏むまいと近藤を見てきたつもりだったが、それはまた道を違えることになったのだろうか。
「おねがいだ、とし……おれの、そばにいると、ちかってくれ……。どこにもいかないと、いってくれ……
 土方が無言でいると、近藤は土方の膝に身を投げるように乗せてきた。
「──近藤さん」
 涙はそのままに自分を見上げる近藤の髪を土方はそっと撫でる。
「俺は、あんたの手を離すつもりはねぇ」
「うん」
「俺はあんたが嫌だと言っても、傍にいる」
「いわない」
「神にも仏にも誓わない、俺はあんたに誓う」
「とし……
 そこまで言って土方は近藤の頬にそっと手を添え、優しい口吸いを落とした。
「ん……んぅ……
 近藤はそれを受けて自分から吸い付くように舌を絡めた。
「こら」
「だって……
 唇が離れても名残惜しそうにする近藤に土方は彼の前髪をさらりとかきあげる。
「俺は、あんたを置いてどこにも行かねぇ」
 そして今度は額に、口吸いをした。
「と、し……
 声を詰まらせて近藤は新たな涙を零す。
「だから、あれしきの魔術の影響くらいでそれが揺らぐことはねぇ」
…………
 近藤の潤みに潤んだ瞳に、そこでやっと少しだけ光が灯った。
「まだ、足りねぇか?」
……もっと、聞かせて」
「強欲だな」
 土方は苦笑したが、それでもそっと近藤の頬を両手で包み込み、その涙を拭った。
「いくらでも、聞かせてやるよ」
「うん……
 囁く土方の声に、近藤は彼の手に自分から頬をすり寄せた。
「ただ……長くなるぜ? なんせ一五〇年分だ」
「ちゃんと聞く。だから、おまえの想いの全てを、俺に……刻んでくれ……
「あぁ……しっかり、刻んでやる」
 ようやく落ち着きを見せてきた近藤に安堵しながら、土方はその鼻先に口吸いをした。
「するなら……こっち……
 それを受けてじれったそうに近藤は唇を尖らせた。
「あとで、だ」
 ニヤリと笑って近藤の身体を寝台の上に引き上げ、縫い付けた。
「──なら、俺からする」
 近藤は土方の後頭部に手を回し、引き寄せると唇を合わせた。
「随分と甘えたがりだな」
「俺だって、甘えたい」
「可愛いぜ、近藤さん」
 うっとりと自分を見上げる近藤と額を合わせて見つめ合う。
「なら、可愛がって」
「ふふ」
 やっと凪いだその瞳を見つめて満足げに土方は微笑んだ。
「存分に可愛がってやる」
「うん」
 一切の邪魔が入らない甘い雰囲気に包まれて、互いに幾度も口吸いを交わしながら、土方は近藤の首筋に顔を埋め、その襟元に手を差し入れた。
「歳……
 万感の想いを込めて近藤は土方の名を呼ぶ。
「近藤さん……
 土方もそれに返してその愛しい身体を抱きしめた。
 そのまま二人はもつれあって寝台に身を沈める。
 夜の帳は静かにそれを覆い隠すのだった──。