正午過ぎに晨君から遊びと食事の誘いを兼ねた連絡が来た。五人とも賭場でのゲームが組まれていないので集まる場所は敬一君の家。当然のように食べたいものを彼に作ってもらう気でいる、形だけの異論を唱えるのは家主の獅子神敬一のみ。何度繰り返したか分からない天邪鬼な言葉から始まる遣り取りを想定していたら、少し間を置いて全体にメッセージが届いた。
『悪い、今夜予定があるからパス。オレ抜きで楽しんでくれ』
字面は砕けているのに、顔を合わせて話す時と異なり硬い印象を受ける。ビジネスメールを書き慣れているからなのか、末尾に絵文字を添えることもなければスタンプを押すこともない。当てが外れた晨君が、第二候補となる自身のマンションに場所の変更を告げるのに、すぐさまスタンプを押して了承の意志を伝えた。
恒例の食事会は各人が選んだ手土産をテーブルに広げ、本日のメインディッシュに選ばれたピザが届くまでつまみながら話に興じる。端的で省略した言葉でも意図を正しく把握できる四人での会話はスムーズで、小気味いいテンポでラリーが続く。自分たちの間でしか成立しないジョークが行き交い、集まったメンバー内で対戦カードが組まれる仮定の話で互いの実力を誇示し挑発し合い盛り上がる。無駄が省かれた円滑なコミュニケーションはストレスがなく、間も合いの手も全てが完璧だというのに物足りない。
この場に居ない真っ当な感性の持ち主は不穏な空気を察知すると窘めて、倫理や道徳に反した発言に空気が悪くならない温度感で怒る。理解できないことがあれば素直に聞いてくる。分かるように噛み砕いて説明しても時に察しの悪さに呆れ、天然な発言に笑い、拗ねるとご機嫌を取ってあげて。会話の終着点がどこに向かうか分からない玉虫色の感情がコミュニケーションの難しさを教える反面で予定調和を破る面白さを教える。
毎度、全員が揃ってるわけじゃない。以前は感じなかったが、こうも違うものなのかと脳内で観測の修正をしつつ新しい話題を振ったところで、タイミングよくデリバリーのピザが届いた。
無難なチョイスだったはずだ。三枚ともそれぞれ違うトッピングで生地はクラフトとパンの両方、ベースも定番と新作メニュー、時間通りに届けられ温かい状態。数ある専門店の中でも評判が高い店舗に注文したというのにデリバリーのピザは実に味気なかった。そう感じているのはオレだけかと三人を見れば、既にこうなると分かっていたかの顔をしていた。諦め、落胆、虚無。三者三様の表情に、今後あの世話焼きの友人が不在の時は飯に期待できないのを察し、ただ胃袋に詰めるだけに顎に力を入れた。
ワインやジュースを片手にピザボックスを何とか二つ空にしたところで手は止まり、時計の針が午後十時を回ると礼二君が明日も早いと帰宅した。ユミピコも飲んでいた赤ワインのグラスが空になると席を立つ。お前はどうすると聞かれて、特に予定はなかったが泊まる気分でもなかったし帰ることにした。晨君も引き留めることはせず、またねと玄関先でオレ達を見送った。
「なんかさ、ピザいまいちだったな」
「仕方あるまい。あの愚か者が居なかったんだから」
教会に帰るタクシーに相乗りさせてもらい、目的地に着くまでの車中で思ったことを口にした。共犯関係にある神父の男は深い溜息を零してから静かに声を返す。
「これってさ、何を食べるかじゃなくて誰と食べるかって話なのかな」
「どちらかと言うと我々の舌が馴染み過ぎたんだ」
「味付けに? その理屈だと普段のメシにも不満が出るはずだろ。別にそんなことはないじゃん」
「厳密に言えば、皆で集まる時の食事だ。全てを獅子神が作るわけではないが、必ず手料理が三品は並ぶ」
「あ~箸休めに食べるから気にならないのか」
祝いを兼ねた食事会はクリスマスなんかと一緒で、普段と違い特別なものを食べるという意識が働くから期待する。期待を上回らないと料理が味気なく感じられるわけだ。敬一君の料理が主菜でそれ以外が副菜の位置付けになることで、既製品だしこんなものかと納得する、知らず知らずに味覚が調教されているのに苦笑が漏れた。
「黎明。次に出かける時は予め供物を用意するよう伝えてくれ」
「なんでオレ? 直接、神の御立腹メッセージ送れば」
「配信する気もないんだ。神の使徒として務めを果たせ」
たったひとつのメッセージを打つ手間なんて、たかが知れている。傍若無人な自称神の宣託は、彼の家を訪ねる体のいい口実でしかない。素直に飛びつくのは癪だが、無性に友人の顔が見たい気持ちに後押しされて神父が降車した後に行き先を変更した。
♉♍
使い慣れた合鍵で第二の家に戻ると、明かりの落ちた廊下からリビングまでの道を足は迷わず進む。壁際にある照明のスイッチを入れて眠っていた部屋を起こすと、廊下に続く扉を薄く開いておく。隙間から漏れる人工光は、玄関で靴を脱ぎ終えた男が私室に真っ直ぐ向かわないための印だ。
冷蔵庫に常駐しているエナジードリンクを一本取り出してプルトップを引く。カシュッと空気の抜ける音を聞き缶を傾ける傍らで、コンロの上にあるスープパンが目に入った。手を伸ばし蓋を外すと中は味噌汁、熱で口が開いた小さな黒い貝はしじみだ。明朝に飲む味噌汁の具で獅子神敬一の今夜の予定が財界の関連人物が集まるパーティーの出席であり、個人投資家の彼に酒の強要を出来る身分にある錚々たる顔ぶれなのが読み解ける。どういう扱いを受けるか十二分に理解できて、眉が神経質に持ち上がるのに舌打ちを漏らした。
ダイニングチェアに腰を落ち着けスマホを眺めて三十分経つか経たないかの頃に玄関扉の開閉音が響き、そこから数分して薄暗い廊下に作られた光の道しるべを辿った家主がリビングに姿を現した。
「来てたのか? 今日は予定有るって言ったろ」
「ま、そうなんだけど。お疲れの敬一君を出迎えたくなってな」
オレの存在を視界に収めた瞬間、酒の余韻で赤みを帯びた目元が微かに下がる。アルコールで自制心が緩んだのか、取り繕うことなく素直な反応を示すことに労いの言葉と共に笑いかければ、年下の男は慌てて唇を引き結ぶ。無理に不機嫌を装わなくても良いのに、敬一君は疲弊しているところを人に見られるのを嫌う。ある種の完璧主義みたいな部分がそうさせているのだろうというのは、思いやりに目覚めたお医者様の談だ。
「いい加減、合鍵返せよ」
「オレの部屋の鍵とトレードしようか」
ぶっきらぼうに言い放つも本心じゃない。家主の了承を得ずに作られた合鍵を使用する度、プライベートの侵害を訴え返却を求めるのは飽くまで敬一君にとって必要な建前だ。本当に迷惑なら、速攻で業者を呼んで鍵を交換する行動力はある。
「ハウスキーパー探してんならウチのヤツ紹介するぞ」
「意地悪だなぁ、遊びに来てってお誘いなんだけど」
彼は肩を竦めることで明確な返事を避けてキッチンに足を向けた。
冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをグラスに移さず、直接口をつけて飲む姿に相当キているのが分かった。そもそも基本的にボディメイクに熱心な男はグラス二杯程度に留める。自身が定めるチートデイでも酩酊状態になるペースで呑まないし、折を見てチェイサーの水を摂取することで翌日に響かないよう注意を払ってる。
後ろに撫でつけてオールバックにしていたであろう髪が緩やかに崩れ始めているのを見ていると、傍に来るのが待ちきれなくなってスマホをテーブルに伏せて立ち上がる。距離を縮めるためにキッチンに足を踏み入れた瞬間、村雨礼二ほど嗅覚が鋭くなくても不愉快な臭いを嗅ぎ取った。
獅子神敬一の世界には国境がない。その言葉を体現するように種類の異なる煙草と香水の臭いにアルコールの香りが混ざり合って、彼本来の匂いを埋もれさせていた。無遠慮に踏み荒らされた友人をへらへら笑ってやれるほどオレは寛容じゃない。
「どうやったら、そんな臭いになるわけ」
「勧められるまま呑んで喫煙所にお供すれば完成する」
友人は煙草を吸わない。食事制限とトレーニングで作られた肉体に悪影響のあるものは避けるのに副流煙に塗れた喫煙所に足を運ばざるを得なかった。じゃあ、女物の香水の匂いが移っているのはなんでだ。説明を省くのは口にするのが憚られる事情でもあるのか。どんな時も清潔感のある男が自ら進んで汚れる選択をしたことに、最悪な気分を更新していく。
「風呂行くぞ」
「おい、急に引っ張るなって」
手首を掴まれることに難色を示したが、何も言わずにバスルームに向かって歩き始めると肩から力を抜いて大人しくついてきた。
♉♍
サニタリールームに入って手を離すと、解放された手首を擦りながら男は溜息混じりに声を発した。
「ハンガー取りに行かせてくれ、型崩れする」
「そのスーツ捨てて」
クリーニングに出して臭いが綺麗に消えても、スーツを見る度に不愉快な記憶を思い出す。横暴と言われようが知ったことか、捨てる理由なんてオレが嫌ってだけで充分なんだから。
「はぁ? まだ二回しか着てねぇんだぞ」
有無を言わさない強さで吐き捨てた言葉に眉を寄せて不満を露にする友人に、自身の余裕のなさを知る。疲れているのはオレじゃなくて敬一君だ。他人の苦痛を優先するなんて馬鹿馬鹿しいけど、喧嘩したいわけじゃない。無理矢理、要求を通すんじゃなくて我儘を許容するよう仕向けなくては。
「新しいの買ってやるから、黎明兄ちゃんが」
「ふはっ……ダハハッ! オメーに年上の自覚とかあったんだ」
「で、どうするんだ?」
「お兄ちゃんに頼まれたんじゃ仕方ねぇなぁ」
いざ買う段階になれば、物を贈られることに抵抗がある敬一君は自分で買うと言い出す。一悶着起きるのは分かりきっているから今の内に言質を取っておく。交わした約束を持ち出せば、真面目な彼は困惑しながらも頷くしかない。
「お金の心配はいらないよ、貰った五億はまだまだ残ってる」
「ウルセーな、使い切るまで言う気かよ」
捨てることを決めたジャケットを無造作に脱ぎ落すと、酔いで緩慢になった手つきで、ベスト、ネクタイ、シャツの順に床に脱け殻を散乱させる。その姿を横目で確認しながらパーカーのジッパーを下ろす。
「なに、お前も入んの」
「足でも滑らせたら洒落にならないだろ」
「お優しいことで」
むずがゆそうに口を動かすと、青年は漏れ出る感情を振り払うようベルトを引き抜いた。温泉に行ったときに裸の付き合いはした、そもそも男同士だから見られることに抵抗はない上に、精巧な彫刻と比べても遜色ない肉体美を持つ男が羞恥を覚えるわけもない。鍛えた裸身を惜しみなく晒す友人が先に浴室に消え、外したカラーコンタクトを保存液の入ったケースに寝かせると自分も後を追った。
体格の良い男が二人居てもスペースに余裕がある広々とした洗い場とバスタブ。彼は半身浴を日課としているが今日は摂取したアルコールの量を考えてシャワーだけ。いくらぬるま湯でも血行が良くなれば気絶する可能性がある。
シャワーヘッドから降る温かい霧雨を頭から浴びて重くなった金髪を後ろから掻き混ぜてやれば、人の頭を洗った経験があっても自分がされた記憶は遠い彼方なのか、照れ臭そうにくすぐってぇよと喉を笑いで転がす。
「晩飯、なに食った?」
「ピザ。三枚頼んだけど敬一君が来ないから余ったよ」
「珍しいな、村雨と天堂が居たら足りないくらいだろ」
「冷めたのを食べてるようなもんだったからな」
「温めれば問題ねぇのに贅沢な奴らだ」
酔いで鈍くなった頭は比喩をそのまま受け取って呆れた声を紡ぐ。違うよ、お前が居なかったからだ。口にはしないけど。
「ユミピコが次は供物を用意してから出かけろって」
「メシの作り置きを催促って、神じゃなくて邪神だろアイツ」
ディスペンサーからシャンプーを掌に適量落として、髪に馴染ませてから手際よく泡を立てる。サイドの髪を抓んで角を作れば、イタズラするなとシャワーの水圧をあげて窘められた。ざっと洗い流した髪に手櫛で丁寧にコンディショナーを塗ると、浸透させる間、バスタブの縁に腰かける彼に危ないぞと言えば空の浴槽に体を収めた。オレもまた同じ手順で濡らした髪を洗う、泡が入らないよう目を閉じて指を動かす。
「オレ達を振ってまで行ったパーティーはどうだったんだ」
「まぁ楽しくはなかったな」
「ほらな、最初からこっちに来れば良かったんだよ」
「何かを得るのに対価が必要なのは仕事もギャンブルも一緒」
脳がアルコールに浸かっても正論を叩きつけてくるんだから、全く難儀な性格をしてる。シャワーコックを捻って頭の天辺から湯を被る、汚れを含んだぬるついた液体が体を伝って排水溝に吞まれていく音を耳に、仕上げのコンディショナーを塗ってバスタブの縁に腰かければ、入れ替わりで友人が腰を落ち着けていた浴槽から出てくる。
「オッサンの機嫌取りって考えただけでもゾッとする」
「学も無ければ育ちも悪いヤツが稼いでるんだ、鼻持ちならないだろうよ」
「縦社会の悪習が煮詰まってるな。正に老害極めりって感じだ」
「若手投資家がハラスメントを受けるのは通過儀礼だし、最早様式美みたいになってる。アルコールにモラルと」
指を折って数える姿に、続く言葉を先取りして喉から吐き出す。
「セクシャルなのも?」
微かな沈黙が落ちるのに、やっぱりなという感想が浮かぶ。まずは目につく右手の傷に触られた。握手を交わす手は一番触りやすい部分だ。若干の苛立ちから傷に指を這わせれば、塞がって結構経つのに他より皮膚が薄いそこは敏感な反応を返す。些細な刺激も拾う肌が波打ち、首筋に浮かんだ汗が垂れ落ちて鎖骨の窪みに溜まるさまは官能を揺さぶる。口中に湧く唾液をひっそりと飲み込み腰を上げると、背後から厚みのある胸を両手で覆う。
「叶、おふざけが過ぎんぞ」
「学生時代、スポーツしてたか聞かれたでしょ」
「酒の席じゃ定番の話題、だ」
強張る肉体から緊張を抜くようマッサージの要領で下からゆっくり持ち上げるのを繰り返せば、徐々に弛緩していき指が柔らかく沈む。有り触れた話題を盾に男女問わず伸ばされる手を、この年下の男は愛想笑いを浮かべ受け入れたのか。魅力のない人間の群れが我が物顔で世界を踏み荒らすのを許すことへの純粋な不快感が、嗜虐めいた感情に火を点ける。浅く吐き出す呼吸で上下する胸の動きに合わせ掌で包み圧迫すれば、弾む息に悩ましい色が混じる。執拗に揉み解す手から逃れようと身を捩るのを無視して綺麗に割れた腹へ指を滑らせると、艶めかしい空気に吞まれそうになっていた友人が手の甲を叩いて不埒な動きを非難した。
「領土を勝手に踏み荒らされたことへの正当な抗議なんだけど」
「いつからテメーの領土になったんだ」
「オレの国に滞在してるんだ。当然の権利」
「先日、観光ビザの期限切れて帰国しちまったよ」
「出国許可してないからな」
バスルームに声を響かせ軽口の応酬をしながら、コーティングごと滞留する空気を洗い流すよう再び湯を降らせた。金色の髪が照明で煌めくと敬一君は少し体をずらして場所を譲った。引き締まった肢体への未練を視線で一舐めすることで抑え、保湿された髪を洗い整える。
「クソ野郎の自慢話に付き合うのも、度数が高い酒を呑まされるのも、体をべたべた触られるのもストレス溜まるけどさ、悪くなかったって思える」
「我慢して何になんだよ。不要なストレス溜めてまで行くメリットないだろ」
「帰ってきた時にリビングの明かりが点いてて、今はこうして叶に甘やかされてる。な? 悪くねぇだろ」
どんな顔で話しているのか。きっと、見たことのない表情を浮かべている。鼓膜を撫でる声のトーンは静かで、どこか寂しげな甘い音が憂鬱な色気を醸し出していて、本能に突き動かされるまま彼の体を引き寄せ腕の中に囲う。
「敬一君、キスしよ」
「ひでぇ味するからやめとけ」
もし、脳が疲労に喘いでいなかったら一緒にシャワーを浴びることも裸身に触れることも敬一君は許さなかったろう。理性の鎧が脱げかけた友人の髪を後ろに引くと、柔軟性に富んだ体は抵抗なく背を撓らせる。
敬一君とする初めてのキスは甘くて優しいものじゃなく最低なのが良い。記憶に染みついて生涯忘れられない、そんな最悪なキスがしたい。アルコールが抜けて激しい後悔と羞恥に襲われるお前が、一人になると感触を思い出して無意識に指で唇をなぞってしまうくらい、心と体に刻んでやりたい。
視線から劣情を注がれどろりと蕩ける青い瞳が閉じられるのに、顔を傾けて潤う唇を食んだ。少し仰け反った状態で受け入れる唇を角度を変えて何度も啄む。隙間なく密着した身体が震えるのに、ふっくらとした下唇を舌先でなぞってから離した。
「控えめに言っても最低な味だ」
「だから……言ったろ」
「初めてはムードのあるのが良かった?」
「恋だの愛だの、ご大層な理由を並べ立てても結局は衝動でするもんだ」
何故、この男にだけ胸を騒つかせる欲求が働くのかを唐突に理解した。殺し合った友人は獅子神敬一が初めてだ。真経津晨は殺し合いのあと友人になったから前提が違う。殺意と愛は似通った激情を孕んでいて、オレ達は既に生者と死者の境目で激しく胸を焦がす衝動を分かち合った。何歳になっても初体験は鮮烈な感動を与えてくれる。
「ね、舌出して」
顎の下を撫でて強請れば、薄っすらと唇を開き控えめに差し出された舌に自分のものを絡める。平たい粘膜で愛撫し溢れる唾液を啜ると、鼻から甘えた音を鳴らすのに頭が高揚ではち切れそうになる。もっと、もっと二人だけで悦びを喰らいたい。歯の隙間から口内に潜り込ませた舌で上顎のざらつきを楽しむと綺麗なエナメルの一本一本を確かめるように舐る。念入りに口腔を犯されて瞳に劣情を溶かす男の手が首裏に回り引き寄せられると、繋がりがより深まる。ぐちゅぐちゅと二つの舌を縺れさせる卑猥な音が聴覚を刺激し、腰が重たくなる感覚に名残惜しい気持ちを抱きながら、舌を甘噛みして淫らに染まる口を解放した。
「あーヤバッ……敬一君が情熱的で勃ちそう」
「アホ、やらねぇからな」
「今更じゃない? もうヤッたようなもんだろ」
「まさか、コレがそうだって言うつもりか」
「オレ達だけのゲーム。あんな濃厚なの」
「セックスと変わらないって?」
咽かえるほどの愛で満たされた空間で、打つ手で相手の気を引いて挑発して自分の存在で頭を一杯にさせる。思わせぶりな台詞で心を翻弄し、休む間もなく殺す手段を考え楽しみ、命の際が近づいて狂い鳴く心臓と終止符を打つ喜びに絶頂する。
「誰かさんは最初マグロだったけど」
「ワルモノの前戯が下手だったからじゃねぇの」
「強がるなよ、初手でイきかけてたくせに」
「でも、最後はおねだりが上手に出来たろ?」
「チョロいって思われるかもしれないけどさ、最高だったよ」
ただ一緒に逝くのも悪くなさそうだった、声を潜め形の良い耳に吹き込めば婀娜っぽい仕草で腰に添えた手の甲をくるりと撫でた敬一君は、生きてりゃ何度だって機会があるだろと声を淫靡に彩った。
お前が理性を手放すための言い訳ならいくらでも用意してやるから、溺れるほど叶黎明に夢中になってくれ。
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