雨鶴
2026-05-01 14:07:01
2672文字
Public 小話
 

長次と犬猿と伊作たぴ。

長次と文次郎と留三郎の三人で山菜採りに行った山で、伊作似の毛玉(たぴぬい)を見つける話

長次と文次郎と留三郎の三人は今、とある山の一本杉の下に居る。
ガタイの良い男三人が何故、杉の木の下に居るかと云うと雨宿りであった。
「ったく、留三郎が悪い。そんなモン拾ってきやがって」
「見つけてしまったんだ、仕方ないだろう」
煩い。両隣で騒ぐな」
長次を挟んで文次郎と留三郎がいがみ合いを始めると、長次がいつもの低い声でピシャリと嗜めた。
【そんなモン】とは、今、長次の手の平に居る小さな緑色のほわほわした毛玉の事である。


三人は今日、山菜採りに来ていた。そろそろ筍も出るし、コシアブラも終わりに近い。文次郎も留三郎も山の物が好きなので、長次が話を振ると喧嘩しながら付いてきた(その内容も、筍は若竹煮か土佐煮かなどと、どうでも良い内容だった)
そして、食堂のおばちゃんから聞いた話では。
「今年の裏々山は山菜が少ないのよぉ」
──と、云うことらしく。三人は裏々山では無く少し離れた山に足を運んだ。
その山は山菜も筍も、豊作だった。
「食べきれる量だけ採ろう
「半刻後、此処で落ち合おうぜ」
「ああ」
そうして、三手に別れて山菜採りに山に入ったのだ。

もそ」
長次が山に入って暫くすると、八重桜の木が自生していた。里ではすでに葉桜になってしまっているが、山だと今が見頃といった具合だ。傍目から見れば和菓子のような濃い桃色の花は、花と同時に葉も出るので柔らかな薫りを纏っていた。
良い薫りだ」
梅は花が薫るが、桜は葉っぱが薫りを放つ。
長次は八重桜の柔らかい茶色の葉をプチンと一枚摘み取ると、そのまま口にする。
桜独特の味が長次の口の中に広がる。
何枚か採って、天ぷらにしよう」
桜の葉は天ぷらにすると香りも良い。旬の物や葉物を好む仙蔵や伊作も喜ぶだろう。
長次はもう一枚、葉を口に含むと若葉を摘んで懐紙に包んだ。
すると。
……っ、どわあぁぁ!!」
「!?」
長次が何事かと振り返った途端、留三郎の声と共に本人が頭上から降ってきた。

──ドシン!!

「イテテ
「う
受け身をする間も無く、空から降ってきた留三郎は長次を下敷きにした。長次が下手に振り返ったのが仇となり、留三郎に押し倒される形になってしまった。
「スマン、長次。大丈夫か?」
もそ。取り敢えず退いてくれ」
「ああん?」
「──なっ!?」
体を起こし掛けた留三郎が、急に長次の首筋へ顔を近付けてきた。
「長次、お前なんか良い匂いがするな?」
クンクン、と犬の様に鼻を擦り寄せてくるものだから、擽ったさに長次は身を捩る。
「止めろ、留三郎!」
「分かった。桜だ」
先程食した桜の葉。それの薫りの事を留三郎は指摘する。
「ずいぶんと旨そうな匂いだ」
くつり、と笑みを浮かべた留三郎にゾッとした長次を救ったのは駆け付けてきた文次郎だった。
「何だ、今の声って!バカタレ、留三郎ぉぉ!長次から離れろ!!」
べりっ!と音がしそうな勢いで文次郎は留三郎を長次から引き剥がした。
「ウルサイ奴だな、やましい事なんかしてない。不可抗力だ」
「それならとっとと退いてやれ!バカ留!」
ギャンギャンと騒ぐ二人に呆れた長次が体を起こすと、腹の上に緑色のほわほわした毛玉が居た。
「──な!?」
二度目の驚きが、長次を襲った。


「なんだ、ソイツ」
文次郎が指をさした明るい茶色の髪を持つ毛玉は、しょんぼりとした顔をしている。なんだか
「伊作に似ているだろう、ソイツ」
もそ」
過日、長次も小平太に似た毛玉を見た事があった。
留三郎は毛玉を見つけた経緯を話し始めた。

それは、留三郎が山の中腹でコシアブラを採っていた時だった。山菜の中でも成長すると樹木になるコシアブラ。その若芽を摘んでいると、何やら木の上でカラスが騒いでいる。
うん?」
『ふうん~!』
留三郎が見上げると、毛玉が落ちてきた。毛玉は一度、留三郎の顔でバウンドすると、再び山の急斜面へ放り出される。
「えっ?おっ!伊作!!?」
伊作本人ではないが『不運』の言葉に反応する留三郎。さすが同室。
そして毛玉を追っ掛ける様に留三郎も斜面にダイブした。

「そんで長次を押し倒したのか」
「だから不可抗力って言っただろう!煩い奴だなあ!」
「なにおう!?」
お前達、いい加減に」
『しろ』と、長次が怒り任せに怒鳴ろうとした時、ドカーン!と爆発音が三人の背後に落ちた。その後に続けざま、バリバリッと云う放電からの稲光が天空を駆け抜ける。
は?」
『ふうん~!』
毛玉はびっくりしたのか、ぺしょぺしょと鳴き始め、呆然とする三人の目を覚ますが如く、バケツをひっくり返した様な豪雨が襲い掛かる。慌てて三人は近くに生えていた一本杉の下へと避難した。


──そして話は、戻る。

ザアザアと降りしきる雨に、三人は完全に足止めを食らってしまった。
温かい春の雨は地上の空気を巻き上げると、大地や草木の薫りを濃密に匂わせる。
「んで?その毛玉、どうすんだ」
文次郎は長次の手元を指差し、毛玉の処遇を尋ねた。
「雨が止んだら安全な場所に離してやる」
「そうだな。学園に連れて帰る訳にゃいかねーもんな」

ん?)
そんな中、文次郎は長次が喋る度に微かに花の薫りがする事に気付く。
「長次、なんかお前から甘い匂いがする」
……桜の葉だ」
文次郎から長次は少し体を離すと、片方の手に毛玉を乗せたまま、長次は空いている手で下げ籠の中から懐紙に包んだ桜の葉の見せた。
ふーん」
文次郎が曖昧な返事をすると、長次に体を密着させる。すると同じく留三郎も、長次へ体を寄せてきた。
「何だ。暑苦しいもう少し離れろ
「いや、雨がな」
「そうそう。濡れちまう」
犬猿二人の息がぴったり合ってしまったせいか、雨足は益々強まった。
『ふうん~』
「全く、その通りだ
手元の毛玉に呟き、フウと甘い呼気が放たれる。
長次にとって不運な山菜採りになったかもしれないが、文次郎と留三郎二人の胸中は其処まで不運でも無く──。
……はあ」
長次の吐いた溜め息は甘く、両隣にいる文次郎と留三郎の鼻孔を擽っては消えていった。

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独自設定がある当宅の六年生。犬猿二人は山菜好きだし、長次は薬毒に強いため普通に草花(毒草含む)も食べます。
気になる子が良い匂いして、ドギマギする~って感じな話。毛玉はたぴぬい。伊作たぴ。たぴと六年生の絡み、好きなんですよ。