ちよど
2026-05-01 05:59:00
11892文字
Public わし様など
 

練習1P 2026.3月~2026.4月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2026/04/27 No.738
生前アシュヨダ
「あの人はもういない」

 気がつけば森の奥に踏み入っていた。
 ひとり。立派な角の鹿を追って皆からはぐれてしまったらしい。俺は手に持った弓を握り直して辺りを見回した。
 木々の枝が空を覆う深い森だ。太陽の光が枝に遮られて足元に影が斑を描いている。
 いつもならこんなところまで入りこまないが、あの鹿の角を見たら追わずにはいられなかった。旦那が好きそうだったから。
 献上すればきっと宮殿に飾り自慢してくれるだろう。──俺の事も。 
 風が吹きざわざわと葉が揺れる。湿気を帯びた風に俺は風上を目指した。さくさくと下草を踏み、すぐに水場につく。飛び越えられそうな小さな川は澄んだ水を湛えていた。
 喉の渇きを覚えて膝をつく、地面に置いた弓は何故かごろりと転がった。水面にばさっと赤い髪が落ちる。
 呼吸が止まった。
 そこには、水面には、病に侵された醜い男が映っていた。
 かざした手は節くれ立って変形している。こんな手で弓など握れるはずはない。

 ああ、

 傍らに転がっているただの木の枝を視界の端に捉えながら、俺は両手を水に叩きつけた。


■2026/04/21 No.737
現パロ アシュヨダ
「冷めたか?」

「水ではないかぁ!!」
 アシュヴァッターマンが住むボロアパートにドゥリーヨダナの叫びが響いた。
 この街には珍しくしんしんと雪が降る夜の事である。
 叫びを聞いて慌てて駆けつけたアシュヴァッターマンの前で狭い洗面台からドゥリーヨダナが顔を上げた。
 顔が濡れている。
「──湯が冷たい」
「すまん、旦那。しばらく待ってくれ」
 この部屋の古びた給湯器はお湯が出てくるまで時間がかかる。ドゥリーヨダナの顔を拭きながらアシュヴァッターマンがそう説明すると、ブルジョワは首を傾げた。
「この前、おまえと行ったホテルはすぐに湯が出たではないか」
 贅沢な暮らしをしているドゥリーヨダナにとってラブホテルもボロアパートもそう大した違いはないらしい。
 ホテルでの事を思い出したせいで赤くなった頬をかいてアシュヴァッターマンはうろ覚えの知識を引っ張り出した。
「ああいうホテルはボイラーをつけっぱなしにして常にお湯が出るようにしてんだよ。その、冷めちまうから」
 その言葉ににたりと笑ったろくでなしがアシュヴァッターマンの手を取り自身の冷えた頬に当てる。


■2026/04/18 No.736
わし様+マスター
「兄弟愛」

「馬鹿兄貴の名代です。よろしくね」
 コフィンの前に現れた何故か懐かしい女の子はドゥリーヨダナと同じ服と棍棒を身につけていた。

 話は数時間前に遡る。
「女でなければ入れない特異点んん~!?」
 説明を受けた途端、くるりと帰ろうとしたドゥリーヨダナにマスターは追いすがった。戦闘苦手マスターはわし様+Wキャストリア編成がないと生きていけない。
「女装すれば入れるから!実験済みだから!!」
「この最も高貴で誰よりも男らしいわし様に女の格好をしろというのか!」
「女装は最も男らしい服装です!!わし様がいないと無理ぃいい!!」
 しがみついて泣き始めたマスターに顔をしかめてドゥリーヨダナは立ち止まった。絆15になっても編成され続けているので好感度はMAXを超えている。
宝具を打つだけならしてやろう。しばらく待つがいい」
 そうして現れたのがこの少女だ。特異点で彼女は軽やかに棍棒を掲げた。
『同じ肉より分かたれし我が兄達よ、ぶっちゃけ私に全部任せるんじゃないーっ!!』
 宝具が展開される。百の騎馬に乗ったドレスを着た男達が世界を覆い尽くした。地獄絵図である。


■2026/04/12 No.735
生前アシュヨダ+モブ
「お前が望んだことだろう?」

 旦那からの伝達事項を伝え終えた伝令が下がる様子もなく、モジモジしているのに俺は内心首を傾げた。
 壮年の男だ。何度か使っているが過不足なく伝える真面目さを旦那も俺も買っていた。
 その男がモジモジしている。モジモジとしか言いようがない動きで、彼は俺を上目遣いで見上げた。
 何かをしでかす気配に周りの兵士たちが腰の剣に手をかける。俺は片手をあげて、それを制した。
「まだ何かあるのか?」
 伝令は頬を染めておずおずと頷いた。小さく口を開く。
私が何を言っても罰したりなさらないでしょうか?」
場合による」
 俺個人への罵倒でもカウラヴァ全体の、旦那の批判となるならば看過出来ない。そう言うと伝令は首を振った。
「そのドゥリーヨダナ様からの伝言です」
「?言ってみろ」
 促すと伝令は目を閉じ、意を決したように口を開いた。

「愛しているぞ!アシュヴァッターマン!!」

「旦那ぁ!!」
 叫びながら一瞬で思い出す。
 以前、伝言だけでは旦那を感じ取れなくて味気ないとぼやいた事があった事を。


■2026/04/09 No.734
現パロ ビマヨダ+モブ
「愛している。結婚してくれ」

『重大発表!』
 いつも見ている料理配信の告知に俺は慌てて晩飯をかき込んだ。
 豪快なのに美味い男飯を作る配信主にはいつもお世話になっている。レシピを書籍化するなら2,3冊予約していつも世話になっている同僚に布教しよう。
 待機時間が終わり、配信が始まり、俺は悲鳴をあげた。
「ひっ!顔!!かおかおかおっ!!!」
 顔がいい!!!初めて見る配信主の顔は荒削りに見えて整っていて男性的で跳ね気味の髪を後ろに束ねていてなんというかもうかっこよかった!なんで今まで隠していたんだよ!顔出せばもっと稼げただろうに!!
 そんな俺の悲鳴に構わず、配信主はこちら(画面)を覗き込む。まつ毛もながーい。
見てんだろ?」
 なんかいつもの配信と声のトーンが違う。いつもなら快活に響く声がどこか低い。
「なんのかんの言っておまえはいつも俺を見ているからな。この配信だってチェックしているだろ?」
 ん?なんかおかしいな。まるで特定個人に話しかけているような語り口に俺は首を傾げる。
「お前がこちらからの連絡はすべて無視してるからな。ここで言わせてもらう」
 配信主はそう言って手のひらに小さな箱を取り出した。


■2026/04/06 No.733
ビマヨダ+ぬい
「同人誌交換会」

 自称この上なく愛情深いぬい主であるドゥリーヨダナはぬいはぬーと鳴くのだと知っていた。しかし
「ぬ゛ぬーっ!!ぬぬぬぬーっ!!!」「ぬぬーっ!!」
 自身のぬいがこれほど言い争うのは初めて見た。相手はビマぬいである。このぬい交流会であわよくば飼い主同士も少しは会話出来るかと思ったのだが。
「おいおい、ちょっとは落ち着けよ。せっかくこれを作ったんだろ?」
 ビーマがビマぬいに渡したぬいサイズの紙にドゥリーヨダナも同じ物を出す。そこにはぬいによる意味不明な模様が書かれていた。夏頃からぬいの間で流行っているそれはぬいの名刺ではないかと言われていた。
 ぬい達は同じ紙を何枚も作り交流会で交換してはぬーぬーとはしゃいでいる。中には交換を拒否する場合もあり、ぬい研究者達は首を傾げていた。
 今回はその拒否のパターンだ。ヨダぬいが持っている紙をビマぬいが欲しがり言い争いになっているようだ。
「ケチケチせずとも紙1枚くれてやればよかろう」
「そんな紙1枚ぐらい無理にもらわなくてもいいだろう?」
 ビーマの言葉にドゥリーヨダナは持っていたヨダぬいの紙をひらりとビマぬいの上に落とした。
「「ぬーっ!!」」
 喜びと抗議の鳴き声が響く。嬉しそうに跳ねるビマぬいにドゥリーヨダナは勝ち誇った顔をビーマに向けた。 


■2026/04/05 No.732
現パロ アシュヨダ
「うちのが世話になったな!!!」
※はしびろこうさんのこちらのポストが元ネタです
 

 タイヤの悲鳴と共に体がドアに押し付けられる。ゴムの溶ける匂いに顔をしかめ、ドゥリーヨダナは空になった銃を後方に投げつけた。
 それは追っ手のフロントガラスに当たる、はずもなく黒いタイヤ痕がつく道に跳ねる。
 猛スピードで坂道を走り抜けている最中だ。よほどの幸運でも命中させるのは難しい。
 山桜を見に行った帰りに襲撃にあったドゥリーヨダナ達。正確には運転手のカルナと助手席のドゥリーヨダナ(アシュヴァッターマンは所用で別行動をしていた)はつづら折りの坂を車で走り抜けていた。
 一般的に坂道はスピードが出しやすい、が。カーブに次ぐカーブの道ではそれがリスクとなる。ちょっとでも気を抜くとスピンして山肌を転げ落ちる事になるからだ。それが分かっているのか後続の車達は銃で追い立てる事はあっても無理に追いつこうとはしない。
 だからと言ってドゥリーヨダナ達がスピードを緩められるはずがなかった。無言で驚異的なハンドル捌きを続けるカルナの横でハンドガンで応戦していたドゥリーヨダナだったが、先程その弾も尽きた。まだ坂道は続いている。カルナの集中力が尽きるか、追っ手の銃が命中するか。
 その時、けたたましいエンジン音が響いた。上空からバイクが降ってくる。
 山肌を駆け下りてきたアシュヴァッターマンが叫ぶ。


■2026/04/04 No.731
転生?アシュヨダ
「バッドエンド」

「ドゥリーヨダナよ。神々からの使命を果たしたお礼に貴方を転生させてあげましょう」
 白い空間。光り輝くような女神の言葉にドゥリーヨダナはうむうむと頷いた。
「当然だな。わし様はこの生涯を掛けて使命を果たしたのだ。たぁっぷりと報われるべきだ。もちろん、ただ転生させるだけではないだろう?」
 強欲な言葉に女神は微笑んだ。
「ええ、貴方の望む条件を叶えましょう。ひとつだけ」
「えー!ひとつだけぇ?それはちょっとケチではないか?」
 唇を尖らせた中年男性に女神は困ったように両手を組む。
「すみません。それはもう決定されていますので
 私の一存では、と続ける女神にドゥリーヨダナはわざとらしくため息を付く。下っ端に交渉しても意味はない。
「ふぅむ。一定以上の生活水準と家族仲と健康状態は保証されているか?」
「それはもう!では、条件はどうなさいますか?」
 条件を追求されずに済んだ女神が顔を輝かせる。
 ドゥリーヨダナは重々しく告げた。
「わし様が望むのは安心だ。絶対安心な場所に転生させるがいい」
「分かりました!『貴方を一番守る者』の『息子』として転生させますね!!これなら絶対安心です!!」


■2026/04/03 No.730
生前わし様+モブ
「路傍の石は語らない」

「どこにでも転がっている小石のごとき私に褒美など過ぎた物でございます」
 そう額づくとカウラヴァの旗頭は声をあげて笑った。
「そうか。お前の叔父はアルジュナの宮殿に勤めているそうだな。確かにわし様と繋がる物は受け取れないなァ?」
 思わず顔を上げると王子は服の裾の飾りをちぎり取った。握らされる。小さな小さな宝石。
「この程度の物ならそこらに転がっておる。例え売り飛ばしてもわし様に繋がる事はない」
 数年前にそう言われた小さな小さな宝石を私は役人達に捧げ持った。
 カウラヴァは敗れ、パーンダヴァが都に入った。カウラヴァと接触があった者は密告され、取り調べを受けている。
「もし、私がカウラヴァに協力したことがあったとしても派手好きの王子はこの程度の報酬で済ませる方でしょうか?──もし、お疑いならばこの石を差し上げて身の潔白といたしましょう」
 私の前に立つ役人が他の役人から向けられた視線に身動ぎした。わざとらしく咳をする。
「あー。この宝石は助けた男に礼としてもらったもので、その男は戦死しているので確かめようがない、と?」
「その通りでございます」
 偽りは口にしていない。私と王子を繋ぐものは何もない。石は語らない。私の胸の内を。


■2026/04/01 No.729
アシュヨダ
「何故、彼は彼を殺したか?」5/5

「アシュヴァッターマン」
 静かな声に冷たい反省室の床から顔を上げれば、そこに旦那がいた。
「夢か、」
「こらこら、お前がこのゴージャスでプレシャスなわし様のオーラが分からぬはずがないだろう?」
 本人だ。……俺が罪を犯した後に召喚されたのだろう。
 その旦那は俺の側にしゃがみ込んだ。
「人払いはしてある。事情も聞いた」
 俺は目を閉じた。断罪を待つ。
 旦那が息を吸う。
「──大義であった」
 こめかみに涙が流れた。


「カッート!!お疲れ様でした!!」
 カルデアのエイプリルフール企画。その撮影終了の合図に俺達は立ち上がった。旦那が俺を縛っていた紐を解いてくれる。
 自由になった体をなんとなく持て余していると、旦那が俺を抱きしめた。
「よしよし、さすがわし様のアシュヴァッターマン!芝居でもわし様の役に立つとは!」
 その言葉に俺は微笑んだ。嘘でよかった。


■2026/03/31 No.728
 現パロ アシュヨダ
「ひとりだけだ」

 アシュヴァッターマンは献血が好きだ。もはや趣味と言ってもいい。回数を記録するアプリも入れているくらいだ。
 そんなアシュヴァッターマンの何度目かのおねだりに負けてドゥリーヨダナは献血ルームに連れてこられていた。
 優しいお姉さん達にちやほやされながら体重計に乗りバイタルを測る。隣にいるアシュヴァッターマンは常ならばドゥリーヨダナが女性に囲まれていると、よくよく見なければ分からない程度に表情を曇らせるが今は表情を輝かせている。浮かれているのだ。
「お前は本当にこういうのが好きだなぁ」
 個別の問診から帰って来たドゥリーヨダナの言葉にアシュヴァッターマンはほんのりと頬を染める。
「──人助け、だからな」
「わし様が助けているのはお前だが?可愛い奴め」
 言いながら二人は検査を終え並んだベッドに横になる。スタッフに見たい映画を聞かれるが断って、二人は顔を向けあった。
「さて、そろそろいつもの質問だな」
 にやにやと笑うドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンはむにゅむにゅと唇を動かしたが、意を決して口を開いた。
旦那、問診になんて答えたんだ?」
 献血の問診項目は体調、服薬歴、渡航歴、──そしてリスク行動。つまり不特定多数と性的接触があるかどうか。
 ドゥリーヨダナは満腹の猫のように笑った。


■2026/03/31 No.727
アシュヨダ
「何故、彼は彼を殺したか?」4/5

 アシュヴァッターマンが駆けつけた時、一騎打ちの勝負はついていた。
 立ち尽くすビーマと、ドゥリーヨダナの足元に倒れた……アルジュナ。
「は、はははは、カルナの仇を取ってやったぞ!!」
 高らかに笑う旦那と比べ、弓が本領のアルジュナは棍棒の扱いに長けていない。死に物狂いの旦那と勝負して勝てるはずがなかった。
「旦那!」
 絶命したアルジュナを見下ろしていた満身創痍の旦那が俺の声に振り返る。
「アシュヴァッターマンではないかー!」
 無防備に笑う旦那の背後でクリシュナが叫んだ。

「呪われろドゥリーヨダナ!お前は誰とも会えず全ての病に侵され永遠に森に彷徨うがいい!!」

 ──間に、合わなかった。

 呪いは旦那を蝕み、その姿を変えていく。この呪いがどれほど苦しいか、俺は誰よりも知っていた。だから──。
「旦那、旦那、……許してくれ」
 痛みに蹲った旦那を抱きしめて、俺はその胸を、心臓を──!


■2026/03/30 No.726
アシュヨダ
「何故、彼は彼を殺したか?」3/5

「わし様を殺したぁ!?アシュヴァッターマンがか?」
 数時間前に召喚されたばかりのドゥリーヨダナが大げさなリアクションを取るのをマスターはじっと観察する。
 もう彼でないとアシュヴァッターマンの動機は分からないのだ。
 そのドゥリーヨダナは顎に手を当てて考え込んでいる。
確認するが。『その特異点ではわし様はあの戦で死ななかった』『ビーマ以外で一騎打ちには勝った』『パーンダヴァと揉めた』のは間違いないか?」
「うん。その場にはアシュヴァッターマンしかいなかったけど痕跡から間違いないよ」
「痕跡?」
「戦闘と、魔術神の力を使った跡が残っていたって。あの場にいた神様はパーンダヴァの味方だよね?」
 途端、ドゥリーヨダナが盛大に顔をしかめた。
……馬鹿者が」
「えっ!?なんでアシュヴァッターマンがあんな事をしたのか分かったの??」
 マスターが顔を輝かせる。情状酌量の余地があればいくら本人が望もうとも、アシュヴァッターマンを焚べたりしなくて済むのだ。
 そんなマスターをドゥリーヨダナは静かな瞳で見つめた。
「秘密だ。……アシュヴァッターマンに会わせてもらおう」


■2026/03/29 No.725
アシュヨダ
「何故、彼は彼を殺したか?」2/5

……アシュヴァッターマンがドゥリーヨダナを殺すわけがねぇ」
 マスターの少年から相談を受けたビーマの第一声がそれだった。
 マスターはそれに頷く。
「俺もそんなことは無いって思っていたけど、」
 薄い色の瞳で先を促され、マスターは説明を続けた。
「あの特異点は『ドゥリーヨダナがクルクシェートラの戦いで死ななかった』世界だったんだ。聖杯を持っていたのは別の人だったんだけど」
「それは、俺達があいつに負けたってことか?」
 ビーマの確認にマスターは首を振った。
「ううん。パーンダヴァの勝利は史実通りだったよ。ドゥリーヨダナは決闘でビーマ以外の人を指名して勝ったらしいよ」
 顔を歪めたビーマにマスターは目を細めた。
「そこで一悶着があったらしいけど、俺達が駆けつけた時はアシュヴァッターマンが特異点のドゥリーヨダナを殺していたんだ」
「──あいつが生き延びた特異点なのにか。なおのことありえない」
 ビーマは大きな溜息をついて首を振った。
「これはもう当事者じゃえねぇと分からんだろう。あのトンチキに聞くしかねぇな」


■2026/03/28 No.724
アシュヨダ
「何故、彼は彼を殺したか?」1/5

「それは太陽が落ちると同義だマスター。アシュヴァッターマンがドゥリーヨダナを殺したなど」
 特異点から帰ってきたマスターの少年から報告を受けて立ち尽くしたカルナを藤丸立香は気遣わしそうに見上げた。
「正確には特異点のドゥリーヨダナだけど。カルナさんにも理由は分からないの?」
 カルナは首を振る。そうして目を閉じ開いた。
「アシュヴァッターマンは何処にいる?」
「反省室だよ。………自分の霊基を焚べてくれって言ってる」
「──気が狂ったわけではないな。会えるか?」
 そうしてカルナが通された狭い反省室にはひとりアシュヴァッターマンが拘束されていた。
 同行したマスターが口を開く。
「アシュヴァッターマン。特異点で死んだ人物は正史でも死亡すると知っているよね?どうして」
 アシュヴァッターマンは唇を引き結んだ。カルナは嘘を見抜く。下手な言い訳は通用しないと知っているのだ。
 だが、アシュヴァッターマンの顔色は悪く、しなやかな四肢はくたびれ。明らかに焦燥していた。
「お前の望みは何だ?」
 カルナの問いにアシュヴァッターマンは長いまつ毛を震わせた。
「俺の霊基を焚べてくれ。跡形もなく」


■2026/03/27 No.723
ビマヨダ
「食堂のご意見箱」

 ◯
「なんだこれは?」
 食堂のご意見箱に入っていた紙を見てビーマは腰に片手を当てた。
 後片付けの手を止めて古参のエミヤがその手元を覗き込む。
「ああ、これは新人が書いたものだな。線が歪んでいる。──紙に書く習慣が無い時代の人物だろう」
「というと、太歳星君、デメテル、ヴリトラあたりか?」
「ドゥリーヨダナもそうだろう?君たちの時代は文字が無かったと聞くが?」
 エミヤの指摘にビーマは首を振った。何かとビーマをライバル視するあの男が食堂のご意見箱を使うなどありえないし、あったとしても◯はない。
「まあ、誰にしろ。俺達の作る料理を喜んでくれたんだな」
 そう納得してビーマは厨房係達共有のアルバムにその紙を貼り付けた。──そして数日後。
 うまかった
 歪んだ日本語で書かれた文字は多分あの◯と同じ人物だ。
 かれー。ちゃぱてー。たんどり、だぁるまかに。
 何日かおきに投函され、徐々に上達する文字にビーマはため息をついた。ビーマが担当するインド料理ばかり書いておいて何故バレないと思うのか。
 ビーマはまたその紙を部屋に持ち帰った。


■2026/03/22 No.722
現パロ アシュヨダ
「旦那じゃねぇか!」

 幼い頃から悪夢を見る。
 血と闇の中で俺は誰かの名前を祈りながら怒り狂っていた。
 どうして怒っているのか、祈っているのは誰の名前なのか。今の俺には思い出せない。
 ──目覚ましの音と共に意識が覚醒する。
 ワンルームの自室。布団を片付けながら肩を回す。無性に走りたい。窓の外では昇り始めた朝日が隣家の壁を照らしていた。着替えてシューズを履きドアを開ける。新鮮な空気が肺を満たした。走り出す。
 悪夢で目が覚めてランニングするのはいつもの事だ。
 春が芽吹きつつある河川敷を走っていく。まばらに人が行き交う中、遠くから高級車が近づいてくる。
 ここは車両進入禁止だ。
 ──どうして怒らないの?
 何度も言われた事を思い出す。何も思わない。激しい感情は夢の中に置いてきてしまった。他人への関心も。
 その艷やかに磨かれた黒塗りの高級車とすれ違う。迷惑な車が急に止まった。
 中が見えない後部座席の窓が下がる。
 男が、見覚えのないはずの男が顔を出し、俺を見た。
「アシュヴァッターマン!」
 その声!その顔!
 一瞬で蘇った名前。沸き起こった感情のまま俺は叫んだ。


■2026/03/20 No.721
ジュナぐだ
「かわいそう」

 シミュレーターで作られた小さな森。かわいらしいレジャーシートに座ったマスターの少女は隣に座る恋人に話しかけた。
「アルジュナはもっとイベント的なデートをしたがると思ってた」
「意外ですか?私達は幼い頃森で暮らしていたのですよ」
「ビーマさんは森が似合うけど、アルジュナはちょっと想像つかないなー?」
 くすくすと笑うマスターに木漏れ日が流れていく。乱れた明るい色の髪を撫でつけてアルジュナは微笑んだ。
「確かに兄さまはよく獣を捕まえては父に褒められていました」
「お父さん?インドラ神ではなく?」
「私達兄弟全員の父です。陽気な人でよく私達を膝に乗せてくれました。──失礼。こんな風に」
 立香の体がそっと持ち上げられ、アルジュナの左膝の上に座らされる。急に近くなった距離に少女が視線をそらせると柔らかな声が囁やかれた。
「こうやって父はよく自分の幼い頃の話をしてくれました。目の見えない優しい兄、賢い弟と広く豪華な宮殿で暮らした日々の事を。私達はそれを聞いて王宮とは素晴らしいところだと思っていたのですよ」
 ところがいざ行ってみるとそこで待っていたのはあのドゥリーヨダナである。


■2026/03/20 No.720
アシュヨダ
「同じ時を映している」

 俺には違和感を感じなかった旦那は先に召喚されていたカルナを見て目を見開いた。
「かぁるなぁあ!!おまえわし様の事が好きすぎるだろう!知っておったがこれほどとは」
 旦那の大声に食堂にいたサーヴァント達の視線が集まる。が、そういう事を気にしないのが旦那だ。小柄なカルナをぐりぐりと抱きしめて満足そうに笑う。
「これはわし様と出会った頃の姿ではないか」
「全盛期の意味を知らんとは、愚かなことだ」
 カルナが言うようにサーヴァントは全盛期の姿で召喚される。カルナの若々しい容貌は確かにあの競技場に現れたのと同じ姿だった。
 不意に旦那が顔を上げる。ゆっくりと紫の瞳が細められ。顔から表情が抜け落ちた。
 その視線の先を見なくても分かる。ビーマだ。
 クルクシェートラの戦いの頃の壮年の旦那と異なり、青年の姿で召喚された旦那と同い年の宿敵。ふたりの見た目の年齢の違いはそのまま全盛期の違いを示していた。
 つまり、ビーマの全盛期は旦那との戦いより以前。
「旦那」
 呼びかけると旦那が振り返る。その瞳に俺が映る。
 アシュヴァッターマンの全盛期はただひとつ。旦那と同じあの戦い。旦那を取り巻く者の中で年下の俺だけが。


■2026/03/11 No.719
カルヨダ
「半分以上の幸福」

「むふふふ、これは『はんぶんこ』というものだ」
 食堂からドゥリーヨダナの自室に運ばせた熱々のステーキは赤い弓兵のとっておきだ。そのご相伴にと呼ばれたカルナはドゥリーヨダナの向かいの席で目を瞬かせた。
 生前給仕が切り分けていたため最近やっとカトラリーの使い方を覚えたドゥリーヨダナが自慢気にテーブルの中央の一皿だけのステーキを指す。
 それはまっぷたつに切られていた。
『はんぶんこ』
 身分が高かったドゥリーヨダナはカルデアに来て初めてその概念を知ったのだろう。マスターやマシュがおやつを分け合うのを見て。それをカルナとしてみたいと思ってくれたのだろう。
 カルナは薄く微笑んで両手をドゥリーヨダナに差し出した。当然のようにドゥリーヨダナがナイフとフォークをカルナに渡す。小心者で疑り深いくせに、ドゥリーヨダナは生前からずっとカルナが自分を害するなど思わないのだ。
 カルナは切れ味の鋭いナイフを肉に落とした。ドゥリーヨダナの慣れていない切り口とは違い丁寧に切り分ける。
 一口食べる。確かに美味いが、それよりももっと胸に染みる味がある。食べ終わったカルナは一切れをフォークに刺して無作法にもドゥリーヨダナに向けた。
 ためらいなく口が開かれてドゥリーヨダナがカルナと同じカトラリーから同じものを食べる。


■2026/03/07 No.718
現パロ アシュヨダ
「初めからに決まってんだろ」

「チッ、誰だよ。こんな時間に電話して来やがって。俺の恋人?旦那じゃねーか!」
 嬉しそうなアシュヴァッターマンの声が夜中のボロアパートに響く。時計の針が真上を指す時間。明日の講義の予習を終えた彼はそろそろ寝るつもりだったが、ドゥリーヨダナからの電話なら話は別だ。
 いつもと違う電話番号で、声もちょっと掠れているが気まぐれな恋人に電話してもらえるだけでもアシュヴァッターマンは嬉しかった。
「あ?車をぶつけたァ?旦那の運転手がか?そりゃよっぽど相手が悪かったんだな。で?示談?金を寄越せってか。ふざけやがって!場所はどこだ!今から行く!!」
 飛び出したアシュヴァッターマンが愛用のバイクで駆け込んだ先。郊外のちょっと大きいコンビニの駐車場で見つけたドゥリーヨダナの高級車は傷一つなくぴかぴかだった。
 後部座席の窓がゆっくりと降りる。
 見慣れないスマホとボイスチェンジャーを片手ににやにやと笑うドゥリーヨダナが顔を出した。
「おまえ、こんな簡単な詐欺にひっかかってどうする」
 有名な詐欺の手法に飛び出してきたアシュヴァッターマンは大きなため息をついた。
「あんたのことだから俺が何分で来るか賭けてたんだろ?」
「ついでにいつ気づくかもだな」
 アシュヴァッターマンはにやりと笑った。


■2026/03/02 No.717
カルヨダ
「杞憂というものだ」

「私にメイクを頼むということは化粧ではなく変装だね?」
 ホームズの確認にカルナは頷いた。カルデアの経営顧問にして名だたる探偵であるホームズの元へはいろいろな相談が持ち込まれる。メイクをして欲しいという珍しい依頼ですら2件めだ。
 テーブルを挟んで座るカルナをホームズは改めて観察した。戦士とは思われにくい細い四肢、若々しい肉体の全盛期は青年のものだろう。このカルデアで古参の彼は、つい先日待ちわびていた友と再会したのだとマスターが我が事のように喜んでいた。
 ホームズは彼の友であるドゥリーヨダナを思い浮かべる。答えはすぐに明らかになった。
「必要ないだろう」
 先日、同じようにメイクを頼みに来たドゥリーヨダナと同じ結論を返すと、カルナはゆっくりと瞬きをした。すぐ理解したドゥリーヨダナとの違いにホームズはパイプを口元に寄せる。
 ゆっくりと吸い、煙を吐き出す。
 これが胸焼けがするというものか。
「君は年老いた変装を望んでいるのだろうが。ドゥリーヨダナは君の容姿だけに価値を見出しているのかな?」
 カルナの表情に光が差し込む。
 中年の姿で現界したドゥリーヨダナと青年姿のカルナ。お互いにそれを気にしていた彼らにホームズは手を振った。


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