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おもち
2026-04-30 11:39:25
2306文字
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子犬みたいな恋人①
別体パラレル/同級生/居候&恋人設定
例の如く王様がかっこよくないです。注意⚠️
玄関で大荷物を抱えながら、「じゃあ
……
行ってくるね」と、目の前に立つもう一人のボクへ微笑んで言う。
直後、突然腕を掴まれた。
そのまま片手をぎゅっと両手で包み込まれる。
ボクの手を離さない、温かな手。
じっと見ていると、ぽつりと頭上から声が降ってきた。
すっごく、すごく悲しそうな声。
思わず顔を上げる。
そこには、今にも泣いてしまいそうなもう一人のボクの顔があった。
ーー気を付けろよ。
うん。
ーー毎日電話するから。
うん。
ーー
……
出来ない時もあるけど、メールはするから。
うん。
ーーお守り、持ったよな?
うん、ちゃんと鞄に付けたよ。
ーー忘れ物ないよな。
うん。
ーーオレの事、忘れないでくれよな。
……
うん。
ーー毎日、相棒のこと想ってるぜ。
うん、ボクもだよ。
ーー
……
相棒、愛して
――
「
……
あのさあ、もう一人のボク。二泊三日の旅行に行くだけでそんな
……
」
何だか、いつまで経っても終わりそうにない
…
。
なんて無限のやり取りに痺れを切らしたボクは、堪らず口を挟んでしまった。
今の会話だけ聞いていると、まるで永遠の別れみたいだ。
片方がどこか遠くへ引っ越して、ボクらは離れ離れになっちゃって
――
みたいな話に発展しそうだけど、実際のところそんな展開にはかすりもしない。
ぶつぶつと何か言っていたもう一人のボクは、ボクの言葉に心外だと言うように目を見開く。
がしっと肩を掴まれ、そのまま喚き散らされた。
「二泊三日だけ!? 何言ってるんだ、相棒とほぼ三日も離れるんだぜ!! その間オレはどうやって過ごせばいいんだっ
……
!」
「いやだから海馬君の所にって
……
」
「生活の事じゃない! 相棒の顔を見れない日があるなんて、オレは、オレは
……
っ!」
……
なんて、もう一人のボクはずっとこんな感じ。
たった二泊三日。
それも日本国内、沖縄へ旅行に行くだけで、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
先日ママが商店街の福引で、なんと一等賞の二泊三日沖縄旅行のチケットを勝ち取ってきたのだ。
ならば家族皆と、居候しているもう一人のボクも含めて行こうか、ということになった。
けれど生憎、もう一人のボクは学生の身分でありながらもKCに契約している、最強の決闘者。
その日にどうしても抜けられない、M&Wの取材が入ってしまった。
海馬君からその事について電話が来た際、もう一人のボクは受話器越しに「ふざけるな、オレは行かないぜ!!」って怒鳴り散らしていた。
それから
――
一時間くらいだったかな。
電話の前で座り込み、先程の威勢はどこへ行ったんだってくらいに、
「頼む
……
その日だけは
……
勘弁してくれ
……
」
と、打って変わった弱々しい声が聞こえてきた。
その様子から察するに、やっぱり予定を外すことはできなかったみたいだ。
ボクからも一応お願いしてみたけど、頑固な海馬君のことだ。無理なのは端から分かっていた。
海馬君だって生半可な気持ちで会社経営してる訳じゃないだろうから、彼を責める訳にもいかなかった。
結局、旅行券の有効期限がその日に行かないと切れてしまうので、予定をずらす訳にもいかず。
せっかくだし、という事でもう一人のボクはお留守番になった。
海馬君も悪いと思ったのか、一応KCの方で寝泊まりくらいは世話してやる、って来たんだけど、もう一人のボクは猛反対。
でも、一人だとご飯も食べなさそうで心配だから、念の為城之内君に生存確認を頼んでおいたんだけど
……
。
「二泊三日だよ? すぐだよ、すぐ。すぐ会えるから大丈夫」
「
……
相棒は平気なのか?」
「平気な訳ないでしょ」
思わず即答すると、もう一人のボクはぴくりと肩を揺らした。
「ボクだって、本音を言えば一緒が良かったし、離れるのも嫌だよ。
……
でも、お仕事なんだから仕方ないでしょ」
「
…………
」
ぶすっと黙り込んだかと思えば、次の瞬間、ぐいっと引き寄せられる。
気付けばそのまま、もう一人のボクの腕の中だった。
肩に顔を埋められ、ぎゅうっと苦しいくらい抱き締められる。
「ちょ、ちょっと
……
苦しいってば」
「無理だ。今のうちに補給してる」
「なあにそれ
……
」
真顔で言うものだから、思わず吹き出してしまった。
宥めるようによしよしと背中を撫でてやると、甘えるみたいにさらに擦り寄ってきた。
普段は君が仕事でいなくなって、ボクがこうして慰められる側なのに。
こうして甘えられるのは、ちょっぴり嬉しい。
……
まぁ、ボクだって本当はもう一人のボクと離れるのは凄く嫌なんだけど。
「お土産買ってくるからね」
「
……
そんなのいらないぜ」
「え?」
「相棒がいれば、それでいい」
「
……
もう」
ずるい。そんなこと言われたら、こっちまで行きたくなくなっちゃうじゃないか。
ぎゅうぎゅう抱き締めてくる我が儘な恋人。
こういう時に限って、本当に甘えん坊なんだから。
「ゆうぎー!」
外でママがボクを呼ぶ声が聞こえる。
あぁ、もう行かなくちゃ。
「じゃあ、ボクもう行ってくるね」
「
…………
」
唇をへの字にしたまま、もう一人のボクは渋々と離れていく。その顔があまりにも寂しそうで、思わず笑ってしまう。
帰ったら、この子犬みたいな恋人に、たくさん甘やかしてあげよう。
そう思って
――
ボクの方から背伸びをする。
拗ねた唇へ、音を立てて口づけた。
「
……
置き土産」
そう言うと、真っ赤になって固まってしまったもう一人のボクを置いて、ボクは玄関の扉を開けた。
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