ぬす
2026-04-30 01:21:34
8863文字
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スタートライン

逆トリしたンポとファン○゛レに行くだけの夢です。名前1にはあなたのお名前を、名前2にはゲーム内のお名前を入れてください。

ユメユメユメユメユメ 毎日同じことの繰り返し、しかしそれに飽きる暇は無い。
忙しいのに空虚なこの日々を塗り替える、そんな何かを求めて人は休日を迎える。
貴重な二日間をどう使うか?
家族と仲良く?恋人や友人とお出かけ?どれも素敵な提案だ。
しかし、残念ながら私の現実は画面の中にある。
今日もゲームのストーリーを進めよう!
少し前にはじめたそのゲーム。まだ序盤の雪の星に入ったばかりだが、魅力的なキャラクターが多く平日もずっと続きが気になっていた。
ティーパックをそのままコップに入れて紅茶を出し、コンビニで買った新作のスイーツにプラスチックスプーンを突っ込んで土曜日の朝が始まった。
 自室で一番楽に過ごせるよれたTシャツとショートパンツのスタイルにコンタクトも入れずメガネをかけて、最もだらしない姿でモニターの電源を入れる。
こんな姿を人にみられたら死んでしまうな、なんてことを考えてコントローラーを握ったその時。
……なにこれ、バグった?」
 タイトル画面でボタンを押して、しかしゲーム画面が暗転したまま進まない。
ロードが長引いているのかと思いきやその様子もなく、時折ノイズを走らせて暗闇が広がっている。
明らかにおかしい、とゲーミングチェアから立ち上がってそこを覗き込む。
液晶自体に問題はない。しかしゲームの起動時にこんな長い演出もなかったはずだ。コントローラーのボタンをカチャカチャと押してみても反応しない。
再起動が必要か、と溜息をついて座り込んだ時、画面の中からずるりと何かが飛び出してきた。
……え?」
 何か、どころではない。まさにホラー映画の怨霊のように画面の中から飛び出してきたのは人の形をしたもので。
それも大きさはかなりある。成人男性一人分、いやその体格からして本当に成人男性ではないだろうか。
恐ろしい状況にあるが故に混乱して悲鳴すらあげられない私の前でそれはゆらりと立ち上がって、青い髪をかき上げた。
「おはようございます!随分と気を抜いた格好ですねぇ」
「は……は!?……はぁ!?」
 情熱的な赤いジャケットに季節外れの雪を乗せて、その男は――ゲームの中の存在のはずのそのキャラクターはにっこりと挨拶した。
ゲームを始めたばかりの私でも知っている。ヤリーロⅥの雪の中に隠れていたサンポだ!
ゲームのキャラクターが現実世界に出てくるなんて夢でも見ているのだろうか?
頬を抓っても痛みはあるし、頭を冷やしても目の前の男の姿は消えない。
「はじめまして!ご存知の通り商人、ガイド、そして話し相手の三点お買い得セット!それが僕、サンポ・コースキです」
「こ、こっちの世界に来たことへの混乱とかないわけ?」
「え?ああ、ふふ。初々しい反応ですね!ネタバレになってしまったかもしれません」
「なに、なんなの?私はあんたが来て本当にびっくりしてるんだけど……
 ゲーム内で会っているとはいえサンポについてはあまり詳しくないし特別良い印象があるわけでもない。今のところはよくいる小悪党のようなキャラで少し面白い男だと認識している。
そんな彼が何故、どうやって現実世界に?
「細かいことは良いではありませんか!
 せっかくあなたの現実世界にゲームのキャラクターが現れたんですよ?
 この状況を楽しみませんか?」
「良くないし、なんでサンポなの?」
「おや?サンポでは不満ですか?どなたか推しキャラ、というものが?」
「い、いやまだそういうキャラは見つけてないけど」
 推しとかそういう概念知ってるんだ、なんて彼に流されて呑気なことを考え始める頭。
言われてみれば確かに、夢のようなシチュエーションだ。サンポがよく知らないキャラクターなことだけが残念だが、さすがにいろいろと気になることはある。
「サンポはちゃんと元の世界に帰れるの?」
「この状況でサンポの心配なんて!あなたは優しい人ですね」
「えぇと……
 正直に言えばそうではない。
私の見た限りではあるがサンポは信用できないタイプのキャラクターだ。
このまま家に住みつかれたり、私が面倒を見ることになんてことにはなってほしくないのだ。
それを伝えるには随分と機嫌が良さそうで、そんな顔をした相手に現実を突きつけるわけにもいかず黙り込む。
「ご心配なく、少し楽しんだらすぐ帰る予定ですので!
 ですから、そう重く考えないでください。遊びに来ただけ、と思っていただいて結構ですよ」
「遊びに来ただけ……
 ゲームの世界のキャラクターがこちらの世界に現れる、というだけで大混乱が起きてもおかしくない。
しかし彼はサンポだ。出会ってすぐさま見事な逃げっぷりを見せてくれた男。
そんなことが起きる前にきっとまた元の世界に帰ってしまうだろう。
「そういうことなら、まあいっか」
「お姉さん、順応性が高いですねぇ!」
「それで、サンポは何して遊びたいの?」
「実はこちらの世界で行ってみたいところがありまして」
 どこに行きたいの、と問えば返ってきたのは聞き慣れない場所の名前。
どんなものかとスマートフォンで検索をかければそこは海外ゲームのグッズを取り扱う店が表示される。今しているゲームのグッズも置いてあるらしく、私としても興味深いところだった。
「私も行きたい。コンタクト入れて着替えるね」
「それはいいですね!では僕は部屋の外で待っています」
「あ、だめ!サンポ、そのままの姿で出たら街中でコスプレしてる人だと思われちゃう」
「おや、それはいけませんね。そういった趣味の方々に迷惑をかけてしまいます」
 先程から随分とオタク文化に詳しいなこの男は。
サンポをトイレに閉じ込めて着替え、メイクを終わらせて近所の古着屋に出て適当に彼に似合いそうな服と帽子を選び雑貨屋でサングラスも買って彼に手渡す。
まるで変装の手伝いをしている気分だ。
「サンポの服パーツ多くない?帰る時忘れ物しないでね」
「ああ、そうですね。気をつけましょう。それより、服の代金をお支払いしないといけませんね」
「お金持ってるの?」
「ご心配なく、おいくらでした?」
 帽子から靴までの金額を提示すれば彼はゴソゴソとポケットを漁り、そこから青い札を何枚か取り出して私の手にぽんと乗せた。
少なくとも日本の紙幣ではないし海外のものでもない。
いや、これはまさか。
「ゲーム内のやつじゃん!」
「ああ、こちらでは使えないお金でしたね。それでは別の……
「え、全然これでいいよ!こういうグッズ欲しかった!大事にするね。あとで消えたりしないよね?」
「ふふ、サンポはたぬきか何かですか?」
 ゲームの世界の中で使われているものを現実で見るのは何より心が躍る。
好きなキャラクターがプリントされたグッズも勿論悪くはないが、やはり夢のあるアイテムが欲しい。
そんなオタク心にゲーム内紙幣というのは金銭以上の価値がある!
あとでクリアケースを買って机の上に飾っておこう。
「それでは、向かいましょうか」
「うん!サンポって意外と良いやつだね」
「あはは、お姉さんの中の僕ってどうなってたんです?」
 お出かけ用のパンプスの隣に買ったばかりの大きな靴を並べて、玄関の姿見を確認する。
少し気合を入れすぎた気もしなくはないが、イケメンが隣を歩くのだからやりすぎぐらいでないと見劣りしてしまうかもしれない。
一方でサンポは私のコーデした服をそのスタイルの良さで見事に着こなしている。赤いジャケットが印象的なサンポの雰囲気が出ないようにとあえてきれいめのカジュアルな服を選んできたが、まるでモデルのようで、しかしどこか胡散臭い。
「なんか怪しいセミナーとかやってそうな人になっちゃったね」
「酷い!僕はちゃんと稼げるようにお教えできますよ」
「みんなそう言うんだって」
 玄関を出て駅へと向かい、電車に乗って例の店へ。
車内の人々がチラチラとサンポを見ている気がして落ち着かない私をよそに、彼は楽しそうに窓の外を眺めている。
やはりこちらの世界の風景が珍しいのだろうか、それとも別のことを考えているのだろうか。
サンポというキャラクターをよく知らない。彼がこんな時何を思うのだろう、なんて彼のファンの人ならば少しは予想がつくのだろうか。
「そういえば、お姉さん」
「うん?なに?」
「僕はあなたを何とお呼びすれば良いのでしょうか」
 そういえば、彼の前で私は名乗っていない。
こちらの世界のことをよく知っているような口振りに流されて、いつの間にか私のことまでよく知られている気がしていたがそんなことがあるわけがない。
「あなたはではありません。そうでしょう?」
「うん、それはゲームでの名前だから。私はユメ。好きに呼んでくれていいよ」
「では、ユメさん」
 ゲームの中で主人公に見せたものとは違う彼の呼び声が新鮮で、思わずふふ、と笑みが溢れる。
当たり前の話だが、本来は私達プレイヤーはゲーム内で映される姿しか知ることができない。
そんな彼らキャラクターとこうして直接話せばやはり違う姿が見えてくる。
「あ、もうすぐ降りる駅だよ、サン……
ユメさん」
「なに?」
「僕の正体がバレてしまいます」
 しぃー、と指を立ててサングラス越しにウインクをするサンポに慌てて口を閉じる。
休日で人の多い都心へ向かう電車の中だ、私と同じプレイヤーが乗っていてサンポを知っていてもおかしくない。
「サン……サン、くん。サンくん!」
「あはは!サンくん。ワンちゃんみたいですね!」
 有名声優と同じ声帯で笑う彼にまたチラチラと視線が突き刺さって、二人揃って口を塞ぐ。
人々がまたスマホや本に目を向け始めた頃に彼に目配せをして、小さな声で笑った。
 電車を降りてしばらく歩き、そしてサンポが行きたがっていた店の前に到着する。
キャラクターのパネルが並んだ入り口はまさにオタクの天国。これは等身大サイズということでいいのだろうか?二次元キャラクター特有の現象だろうが、顔が小さすぎてとても等身大とは思えない。
スマホを構えて写真を撮っていると、サンポがパネルの横に並んで自分も撮れとばかりにポーズを決めた。
腹立たしいイケメン仕草から親しみやすいピースまで、シャッターを押すたびに彼のポーズが変わる。
「あはは!このキャラと関わりあるの?」
「さぁ、どうでしょう?ネタバレになってしまうかもしれませんので、僕の口からは言えません」
「ちゃんとしてるの面白いんだけど」
 ヤリーロⅥについてまだ途中で止まっている私のストーリー進行度ではパネルのキャラクター達が誰なのかすらわからないが、後々撮っておいて良かったと思える写真になるだろう。
ひとしきり笑ったあとようやく店内に入り、好きなゲームのコーナーへ向かって商品を見ていく。
ここが彼の本来の目的地なのだから好きなところを見ていても良いよ、と伝えたものの彼のお目当ても私と同じコーナーにあるらしい。
私は私でどんなグッズが置いてあるのか気になってとついてきたのだが、どうしても彼の行動に目が向いてしまう。
「うーん、この店舗にもやっぱりありませんか」
「欲しいものなかったの?人気で売り切れちゃったのかな」
「それはそうかもしれませんねぇ」
 はぁ、と大袈裟に肩を落とすわりにその顔は嬉しそうだ。
彼が見ていたのはどうやらアクリルスタンドのコーナー。その中でも光円錐をグッズ化したものをチェックしていたようだ。
覗き見るとそこには知っているキャラクターや興味を引くキャラクターの美麗なイラストが並んでおり、ところどころにラスト一点と書かれている。
「獲物の視線、という光円錐をご存知ですか?」
「え、わかんない。どんなやつ?」
「うーん、見ればすぐにわかると思います。便利なのでオススメですよ」
「へぇ」
 それが彼の求めていたものなのだろうか。現実世界で彼が入手してその効果があるのかは知らないが、少なくとも私がガチャを引く際には覚えておいて損はないだろう。
ユメさんはどうですか?欲しいもの、ありました?」
「え?うーん……正直まだ推しがいないから誰のグッズ買ったらいいかわかんないって感じかな。
 推しができたらもう一度来るかも」
「それではいけません!次来た時には売り切れているかもしれませんよ!?」
「ええ?そんなこと言ったって……
 もう一度グッズコーナーを見てみるが、やはり推しと呼べるキャラクターがいない、その上世界観もまだあまり掴めていないような状態ではグッズに手を出す気にはなれない。
サンポの言うことも尤もだが、買うにはまだ興味も知識も足りないのだ。
そう思って再び彼に向き直れば、子供がおもちゃをねだるような顔でグッズを手にした成人男性がそこにいた。
キャラクターの立ち絵がプリントされた大きなサイズのアクリルスタンド。
そして彼の推すキャラクターはなんと――サンポ・コースキ!
「買わないよ」
「今がチャンスですよ!?ストーリーでサンポを好きになるかもしれません!ガチャから出てきたサンポが強くてハマってしまうかもしれませんよ!?」
「ええ〜?でも詐欺師なんでしょ?」
「僕は詐欺師ではありません!」
 彼から渡されたアクリルスタンドを手に取って見てみるが、まずかなり大きなサイズだ。部屋に置くにしても場所を考えないといけない。
値段はそこまで高いわけではないが、先程サンポの服にそこそこのお金を使ったばかりだ。
そして再三言うがサンポのことをよく知らない……と考えて、しかし現段階で一番関わりを持ったキャラクターは彼だと気付く。
なにしろ現実世界まで遊びにきて話したのは彼だけだ。
この先もきっとゲームのキャラクターとこうして出かけるなんて経験をすることはないだろう。
……仕方ないな。今日の記念ってことで買ってあげる」
「なんと!お買い上げありがとうございまぁす!」
「あはは、店員さんじゃないんだから」
 レジでお金を払い袋に入れてもらって、ついでに近くの店でサンポにもらったお金を入れるクリアケースを買い、再び電車に乗って帰路に着く。
せっかく来たのだからと他の寄り道も提案したが彼はあまり時間があるわけではないらしい。ゲーム内で忙しい合間を縫ってオタクショップに向かうイケメンキャラクターと考えるとなかなかにシュールだ。
ゲーム内の彼がこれからどんな活躍を見せてくれるのかはわからない。しかし、今日この数時間の中でサンポというキャラクターそのものに興味を持ってしまった気がする。
「帰ったら、サンポはまた画面の中に入っちゃうの?」
「そうですね。もしかして寂しいですか?」
「そうかも。サンポとお出掛けするの、思った以上に楽しかったから」
「それは何よりです!ふふ、素直なお得意様は好きですよ」
 いつもの帰り道では恋しく思うはずの玄関が憎らしく感じられて、ゆっくりと扉を開ける。
手洗いうがいもせずに部屋に入ろうとしたサンポを呼び止めて紙コップを差し出せば「まるでナターシャさんのようですね」なんて笑われてしまって、やはり彼の居場所はゲームの中なのだと思うと少しだけ胸が痛んだ。
まるで友達が遠いところに行ってしまうような感覚。
出会ったばかり、よく知らないはずの彼にそんなことを思う。
「うーん、そうですねぇ。ここにしましょう!」
 感傷的な気分に浸る私をよそに、彼はモニターの前でごそごそと袋を漁り始める。
無視してもう少し浸っていようかと思ったが、やはり何をしているのか気になってしまって後ろから彼の手元を覗き見れば、そこでは先程買ったサンポのアクリルスタンドが組み立てられているではないか。
それをモニターの横に大胆に設置、さらにクリアケースを前に配置して美しい角度で並べられた紙幣を飾る。
「勝手なことしてさぁ」
「気に入りませんか?それでは、玄関にサンポを飾りましょう!毎日あなたをお出迎え、それもいいかもしれませんね!」
「ううん、机の上でいい。そこにしようと思ってた」
 推しでもないキャラクターのグッズをデカデカと飾るなんて考えもしなかったが、彼ならばそれも悪くはない。
寂しいはずなのに、自然と笑いが込み上げてくる。
「それでは僕は着替えますので、その間少しだけ他の部屋にお願いします」
「わかった。部屋のもの漁らないでね」
「そんなことしませんよ!あなたが服を買いに行った時も良い子で待っていたでしょう」
 小悪党なキャラクターであることは間違いないだろうが意外にも被害がなかったな、なんてことを思いながら別室に移り、ついでに何か飲もうかと冷蔵庫の扉を開ける。
丁寧にラップのかけられた食べかけのコンビニスイーツがそこに残されていて、そういえば彼が来てから放りっぱなしだと自分を恥じた。
ならばこれは私が出かけている隙に直しておいてくれたのだろう。意外と面倒見が良かったりするのだろうか?
……サンポって、なんなんだろ」
 やはり、お別れにはまだ早い気がした。
とっておきのオレンジジュースを二つのグラスに注いで、モニターのある部屋の扉の前で声をかける。
もう少しでいい。彼と話したい。
サンポ・コースキのことが知りたい!
しかしいつまで待っても返事はなく、扉を開けたそこにサンポの姿はなかった。
「あー……
 意外にもきっちりと畳まれた服が床に置かれていて、いつのまにかつけられたモニターの中には進行中だったヤリーロⅥの景色が広がっている。
その横に並んだアクリルスタンドが私を嘲笑うような顔をして、空っぽのクリアケースの隣に立っていて。
何も言わずに姿を消すなんて随分と冷たいのではないだろうか。
拾い上げた服にはまだぬくもりが残っていて、彼が確かに存在したのだと教えてくれる。
そのあたたかさが少しだけ恋しくて、しかしそれを抱きしめるほどの関係でもなくて。
ただ彼がまた来てくれたらいいと願いながら、その服を洗濯機の中にそっと放り込んだ。



……か、カカリア戦のBGMかっこよすぎ……!これでベロブルグの話はクリアかな?」
 あれから数日経って、今日もまたゲームを進める。
ヤリーロⅥ、いやベロブルグのキャラクター達にも随分と愛着が湧いて、ゲームシステムも大体理解できてきた。
世界観はわからないことも多いが、まだ羅浮にピノコニーにオンパロスに二相楽園と数々の冒険が私を待っているらしい。
 しかし、ベロブルグの話が終わりということはサンポが出てくるのもこれで最後になってしまうのだろうか。
あれからサンポが出てくるたびになんだか微笑ましいような憎らしいような気分にさせられて、空っぽのクリアケースを片付けられないでいた。
一方的な感情かもしれないが、友人が遠いところで活躍しているのが喜ばしく、しかし私などいないかのように振る舞うのが寂しかった。
ああダメだ、彼のことを思うとブローニャ達の話が頭に入ってこなくなる。
愛しいベロブルグの最後を、そしてこれからを見届けようではないか。
 上層部と下層部は再び繋がり、ブローニャは大守護者に就任。喜ぶ子供達の姿が眩しくて、ああ彼らの未来が楽しみだなんてまるでずっと彼らを見守ってきたかのように微笑んでしまう。
記念写真を撮って、列車組がベロブルグの人々に別れを告げる。
 この旅もついに終わりか。
お別れにサンポはいないんだな、まあそんな感じのキャラクターだったしな、なんてことを思いながらほっと一息ついたその時。
画面が暗転し、赤いジャケットを着た後ろ姿が映し出される。
……あれ?サンポ?なにこれ」
 それは、サンポがスクリーンに向かって話しかける姿。
場所は下層部だろうか?上層部で皆がお祝いムードになっている中、この男は何をしているんだろう。
そう思いつつ彼の台詞を追う。それはなんとも意味深で、彼の今までの軽薄な行動からは考えられない言葉ばかりだ。
「な、なに……?イプシロン……?パブ……?」
わけのわからない、しかしプレイヤーの興味を引くそんな情報の雨のようなイベント。
まさか、彼がそんな立ち位置のキャラクターだったなんて。
今までのイメージを壊されるようなショック、しかしそれに打ちのめされまいと前のめりになって画面の中の情報に食らいつく。
『この物語を「あなた」に捧げます。親愛なる読者様――少しでも愉しんでいただけたでしょうか?』
――もしそうでないのなら、ああ、サンポはとても悲しいです』
……え」
 暗転した画面に自分の顔が映って、彼の姿が消える。
それは明らかにこちらの、現実世界のプレイヤーに宛てられた言葉。
少し前の私ならこのイベントを見ても「ああ、ゲームのメタ演出だろう」と納得して済ませていたはずだ。
しかし彼は一度こちらの現実世界に来て、私という人間を知っている存在。
つまり、彼の言う「あなた」がプレイヤーのことなのか、それともユメという私のことなのか――私にだけは、その判別ができない。
「な、なんなのこいつ……!」
 もしかして私はとんでもない男に出会ってしまったのではないだろうかと頭を抱える。
モニターの隣のアクリルスタンドは相も変わらず私を嘲笑ったような表情で、まるで遅効性の毒だ。
まずい。サンポが気になって仕方ない。この先彼は一体どんな活躍を見せてくれるのだろう!?
 ふぅ、と息をついてコントローラーを持ち直す。
サンポ・コースキに会いたい。彼に会いたい!
そうしてここに生まれてしまったのは最も哀れなサンポのオタク。
毎日彼が画面から出てくることを夢見て、ゲームの際は必ずメイクとファッションに気を配る――人には言えないそんな奇行に走って、ピックアップを待つのだった。