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kochizu04
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壮環
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Between Us
壮環 真ん中バースデーおめでとう。ジャズの話をしていますが書き手は全く詳しくないので広い心で見てください。
「そーちゃん、今日なんの日か知ってる?」
壮五のベッドでごろごろしていた環が、いきなりそんなことを言った。あまりにも真剣な声に、思わず手を止める。
「え、なに
……
?」
モニターに向けていた視線をずらし、画面の右下に目をやる。表示されている日付は4月30日。心当たりは特になかった。
「ヒントほしい?」
にやっと笑う環に、少しだけ考え込む。
「
……
ヴァルプルギスの夜?」
「ブッブー」
「うーん
……
国際ジャズ・デー?」
「なにそれ? そうなのかもだけど、違いまーす」
全く見当がつかない。壮五は困り果てて視線をさまよわせた。
「ごめん、さっぱりだ
……
」
いつものように「もっと考えて!」と粘られるかと思いきや、環は「しゃーねえな」とあっさり引き下がった。
「真ん中バースデーなんだって。俺らの」
「真ん中バースデー?」
「ほら。俺の誕生日が4月1日で、そーちゃん5月28日じゃん?」
ごろりと寝返って、手にしていたスマホの画面をこちらに向けてくる。
「その真ん中だから、ファンのみんなが『おめでとう』って言ってくれてんの」
並んだ投稿を目で追って、ようやく理解した。自分たちの誕生日の中間日にあたる4月30日を、ファンが『真ん中バースデー』と呼んでいるのだ。ふたりを祝うやわらかな言葉が、まっすぐに入ってくる。
「僕らの誕生日の、ちょうど真ん中の日なんだね」
「そういうこと」環は満足そうにうなずいた。「てか国際ジャズ・デーってなに?」
「ジャズを通じて、文化を理解し合う日だよ。世界中でジャズのイベントがひらかれるんだ」
「へー、楽しそう」
無邪気に笑う環を見ながら、説明のための言葉を探す。
「音楽に触れる機会がない子どもたちに、ジャズを知ってもらう取り組みなんかもあるみたいだね」
それを聞いた環が、いいアイデアを思いついたかのようにぱっと目を見開いた。しばらく頬杖をついて考え込んだあと、スマホのカメラを起動させる。
「じゃあそーちゃん、なんかジャズ弾いてよ」
「えっ、もしかして撮るの?」
「おー。そーちゃんがピアノ弾いて、俺が踊って、SNSにアップする」
無邪気な提案に、壮五はしばし考え込んだ。
ジャズは自己表現を試される部分が大きい。コード進行の上で自由に崩し、遊び、思い思いの演奏で個性を表現する。その他の音楽ジャンルと同様に、壮五が憧れ、尊敬し、しかし同時に
――
苦手とする分野でもある。そんなものを、気軽に発信していいものか
――
。
「ほらあれ、このあいだ弾いてくれたやつは? あれもっかい聴きたい」
迷いを蹴散らすかのように弾む声。それに背中を押されて、壮五はキーボードの前に座った。
最初の音を弾くと、環はすぐさま体を揺らし始めた。ベースラインに乗って手足が跳ね、膝が弾む。壮五が紡ぐ旋律に彼の体が答えている。
その楽しさに、迷っていたことなどすぐに忘れて笑い出したくなる。素直な心を持つ彼は、理屈より先に感じたものを、いつもまっすぐに返してくれる。
つい悪戯心が芽生え、テンポを速める。環は目を輝かせ、素早いターンで返してくる。低音を響かせれば力強く踏み込み、軽やかな装飾音を散らせば、無邪気な子どものように跳躍する。言葉よりもまっすぐで、気まぐれなじゃれ合い。
胸の奥に熱が生まれる。壮五は思いつくままに、その熱を鍵盤にぶつけていく。その熱に、音に溺れていいのだと、誰かに許されたように。逢坂家の一員として、個を殺していた頃とは違う。今は、壮五が奏でる音に笑って飛び込んでくれる相方がいる。
指先から生まれた旋律が環に受け止められる。それは彼の体をめぐって、ダンスというかたちで返ってくる。ふたりのあいだを音が循環している。その大きな流れの中に揺蕩って、永遠にひとつの音楽になっていたかった。
「
……
はー、楽しかった。今の曲って、こないだ弾いてくれたのと同じやつ?」
鍵盤から指を離すと、息を弾ませた環が言った。
「うん。
……
前とは、だいぶ違ったかもしれないけど」
「めっちゃよかった。前んときより、なんかそーちゃんっぽかった」
環が目を細める。単純なその言葉が、胸の奥にまっすぐ落ちてくる。
「もう一回やろうぜ、そーちゃん」
手が差し出される。
「いいよ、何回でも撮ろう。
……
届けたい子たちに、届くといいね」
その手をきゅっと握って微笑むと、環が「ん」と照れたように笑った。
もう一度鍵盤へと向き直る。
同じ曲でも、同じにはならない。この日、この部屋で、このふたりでしか生まれない音がある。変わり続けていくその真ん中には、きっと変わらないものがある。
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