ortensia
2026-04-29 15:57:05
1387文字
Public 傭リ
 

傭リが結婚する?話。

(傭の宗派は謎。)

「結婚指輪?って、なんだ?」
 嗚呼そうか、と思った。
「逆になんだと思います?おまえが知っているもので、何が近いと思います?」
 相手は暫し考える素振りを見せた。そしてやがて。
……分かんねえ、悪い。婚儀の儀式道具なのかとも思うが、どうして儀式が終わっても、ずっと身に付け続けるってもんなのか分からねえ。」
……なるほど。」
 こちらも少し考える。
「一度婚姻からは外れますが……例えばおまえのナイフは、肌身離さず身に付けていますよね?それでその意味を知る者は、おまえが何処の出身かだとか、おまえが戦士であることだとか、自分の身の回りのことが自分で出来る男であることが、分かるじゃありませんか?」
「ああ。」
「つまり結婚指輪を身に付けることで、その人が既婚者であることが、はたから見て分かるわけです。」
……なるほど。」
 今度は相手がそう言った。
……しかし、既婚者かどうかは、一目で見て分からないといけないものか?おれのこれは、証明である前に、先ず武器だ。あるのとないのとじゃ、命に関わる。」
「確かに。」
 相手がそこまで理解した所で、話を婚姻に戻す。
「仰る通り、指輪は殺生与奪と直接的な関わりはありません。元々王族の習わし、らしいです。王家の者に害を為すようなことがあれば、首が飛ぶかもしれませんが、そうではなく。王家と婚姻を結ぶ、つまり国の所有になるということ。それ即ち。」
……契約、か?」
 思わず笑みが零れる。
「その通り。」
 幸せな結婚、指輪、という話とは遠去かって仕舞った展開に、相手は顔を顰めていた。
……そういう使われ方なら知っている。」
「何はともあれ、そもそも契約の証に指輪が使われていたのです。主人が奴隷に与えたりね。指輪の印によって、その意味が細かに異なっていたのです。まあ結婚指輪の起源なんて、はっきり分かっている話でもありませんが。」
 なんだか歴史の授業のようになってしまった。しかも正確性に欠ける。でも歴史の浪漫は、その謎にもありますよね。
「それでも今、なんやかんやあってその風習が庶民にも安易に広まっても、そのなんやかんやは結局は宝石店の商業戦略でしかありません。ほら、おまえの好きな日本のバレンタインチョコと一緒です。」
「オイ。」
 だからね。
「結局は、当事者同士の自己満足。ってことじゃありませんか?」
 意図的な笑みを浮かべる。
 こちらだって、そういう慣習があるから。でしかない。そうじゃない男なら、尚更意味不明だろう。
……なるほど。」
 その男の、二度目のなるほどだった。
「ならおれも、おまえが満足するなら結婚指輪を嵌めよう、肌身離さず。」
 そう言って男は、左手をひらりと振った。その動作は本来わたしの動きだ。
 しかしそんな当のこちらの左手をじっと見ると。
「おまえはすんなり嵌まるのか……?」
「あー、まあわたしは、自分自身の芸術と結婚、みたいな所がありますので。」
 男は明らさまに顔を顰めると。
「つまりおれは二番目……重婚?いやおまえの国では違うか……側室……。」
「いやいや違いますから!」
 結婚指輪を嫌がるなら良いが、まさかこんな展開になってしまうとは。
 やれやれ、この男がわたしとの結婚指輪を肌身離さず身に付けて、周囲に晒している人生が見たかっただけのつもりが。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。