Kamade808
2026-04-29 10:56:22
1647文字
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脳内は正直

だいぶ前に呟いていた寒の戻りネタです。めちゃくちゃ要素薄いですが、社会人忌×大学生漂♂です
追記:ちょっと一文だけ引っかかる所があったので変えました。

 穏やかな春の気候に慣れた時分に、突如やってくるひんやりとした空気――寒の戻りが到来した。そんな底冷えする朝、これまた突如忌炎の寝室に突撃する黒い影が一人。正確には忌炎のクローゼットに用があるらしく……
「忌炎、服貸して」
金色の目をじとりと細める彼は、忌炎の恋人だった。
いつも先に起きるのは忌炎の方だが、どうやら今日は先を越された様だ。珍しいと思う気持ち半分と、そろそろそんな時期かと思う気持ち半分。黒い寝癖をあちこち跳ねさせたままの彼に話を聞くと、この寒の戻りで目が冴えてしまったのだという。もう一度寝ようにも、既に薄手の毛布へ衣替えした彼の部屋は寒く、こうして忌炎の部屋に突撃したのだと語った。
大体予想出来ていたので今更驚く事では無い。……なんせ毎年似たような事例で突撃してくるのだから。
「だからまだ早いと言っただろう……
「今年はもう大丈夫だと思ったんだ」
呆れと諦観が混じる忌炎の声に、不貞腐れながらも苦しい言い訳を零す青年。口答えにも似た返答をしながらも、クローゼットを物色する青年の手は止まらない。その身が震えている事に気付いた忌炎は一つ苦笑を浮かべた。苦言は呈しているものの、愛する人が凍えている姿なんて見たくないもので。忌炎は服選びに熱中している青年の肩に、肌触りの良いブランケットを掛けた。




***

 結局青年が「これにする」と決めたのは、忌炎が冬の間によく着ていたハイネックだった。翠色をしたリブニット生地のそれは、他に柄の無いシンプルな物。それ故大体の服に合わせられる為、忌炎も毎年使う程に重宝している。勿論保温性も申し分無く、着替えた青年は大層お気に召したご様子だ。だが青年が選んだ理由は上記のどれでも無く、ただ『忌炎がよく使っていたから』だそうで……。忌炎が頭を抱えたのは言うまでも無い。
(朝から煽るのが上手い……
この青年は一般的に見れば高身長の部類に入るが、やはり忌炎と比べると一回り小さくなってしまう。比べる相手が悪いと言えばそれまでだが、体の厚みも自分と比べたら幾分薄い。そんな恋人が忌炎の服を着ると、どうしても布が余るのは致し方ないだろう。袖は二回程折らないと手が出てこない上に、だぼっとしたフォルムが庇護欲を掻き立てる。そして、襟元からチラリと見える鎖骨が何とも……これ以上は自制した。今の青年は俗に言う萌え袖やら彼シャツとやらのシチュエーションなのだが、そんな言葉を忌炎が知る由もなく。
これを自覚せずにやっているのだから始末に置けない。当の本人は鼻歌でも歌いそうな程上機嫌で、先程荒らした忌炎の衣服を仕舞っている。当たり前の様に背中を見せているが、忌炎が背後から襲うと思わないのだろうか。
据え膳とも言える、この状況で。
(朝から何を考えているんだ……
爽やかな朝日が差し込む今考えるには、あまりにも不健全過ぎる。忌炎は淫らな思考を雲散させる為に、首をゆるゆると振った。隙を見せる程信頼されているのだと、前向きに考える事にしよう。……これを他者にしていなければ良いのだが。忌炎がピンク色の妄想を消し去っている中、唐突に青年がくるりと振り返る。どうやらクローゼットの片付けが終わった様だ。
「お腹がすいたし、朝ごはんにしよう」
そう発した彼は頬を赤々と染め上げている訳でも、目元を潤ませている訳でもない。ただただいつもと何ら変わらない溌剌とした様子で忌炎を誘った。先程まで男子高校生の如く、あらぬ妄想を繰り広げた己が酷く恥ずかしい。忌炎がそんな事を考えているなんて露とも思っていないのだろう。青年は立たせて欲しいと言わんばかりに腕を上げて待機する。彼を待たせるのは本意では無い。忌炎は「そうだな」と答えて、座っている青年の体を起こした。


翌日。洗って返却された服を見て、彼が着ていた情景がフラッシュバックした事も。その情景のせいで、忌炎が再び頭を悩ませる羽目になった事も。呑気に大学へ向かった青年の知る由もなかった。