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mokkomoko2525
2026-04-28 17:57:07
8957文字
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ポヶットモンスター 膝の上/腕の中
ざっくりとしたあらすじ(これ読めば前回までは読まなくて平気です)
大学の休憩室で時折繰り広げられるポケ大会、それはゲーム機の中での話!!(架空のソフト、全世代のポケモン出現)椅子に座ってだべりながらバトルしています。
ちなみにキョウヤの戦績は1勝38敗。カラスバは10勝した辺りから持ち物禁止だったり選出2匹までだったり(←この辺は書いてないけど設定)進化前のポケのみだったりついには1匹縛りだったりと多大なハンデを負っています。この間1匹縛りで初めてキョウヤが読み勝ちました。(その後凄まじい実力差で叩きのめされてる)
人物紹介
キョウヤ:大学2年。人生をポケと共に歩んできた
冒険とレベルあげを楽しむタイプ
授業はよくサボる
モテたくて某コーヒーチェーン店でバイトしている
バイト先にカラスバがやってきて「大学でたまに見る綺麗な人だ」と気づく。休憩スペースでゲームしてたカラスバに話しかけて、そこから仲良くなった。
カラスバに片思いしている
カラスバ:大学4年。いわゆる対戦厨。マイナーポケをよく使う
授業はキッチリ真面目に出ていて成績はそこそこ優秀
居酒屋と総合カー用品店(オート○ックス)でバイトしていて学費を自分で工面している
欲しい車があるので貯金もしている(免許持ち)
季節限定フラぺとか目もくれずオーソドックスなコーヒーをブラックで嗜む
人と積極的につるむタイプじゃなかったので、態度には出さないが非常にキョウヤを気に入っている。自分の感情が片思いとはまだ気づいていない。
ちなみに照れくさくて未だに「キョウヤ」と呼べていない。
つん、とバイト仲間に肘で小突かれたキョウヤは顔をあげ、ぱっと表情を明るくした。にやにやした先輩がレジから半歩身を引く。そこに滑り込めば、目の前には小さく肩を竦める男の姿があった。
「
……
わざわざ毎回変わらんでもええんやで」
「いいの、俺がやりたいんです!いつものでいい?」
「おん」
キョウヤは手馴れた様子でレジを操作する。目の前の男
……
カラスバの定番、アイスのブリュードコーヒー。手早くレジを打ち、電子マネーで支払いを済ませたカラスバにレシートを半ば押し付けるようにして手渡したキョウヤは、カウンターの中を小走りで移動する。今日のブリュードコーヒーを自ら注ぐためだ。人がいない時間帯だから、できること。グラスに氷を少なめに入れて、コーヒーをゆっくり注ぐ。ちらりと視線をあげれば、その様子を柔らかく見つめる金色が見えた。
「
……
この時間珍しくない?今日バイトは?」
「あー、車屋今日人足りててん。早引け」
「
……
そうなんですね、この後予定は?」
「何もない。帰って勉強して寝るだけや」
ああ、そうなんだあ
……
と注ぎ終わったコーヒーを手で弄びながら、キョウヤはどこか気まずそうに視線を彷徨わせる。
「
……
?どしたん?」
「
……
俺、もうすぐ上がりなんです」
「お、そうなん。
……
お疲れさん?」
カウンターからコーヒーをカラスバに手渡すキョウヤの顔が、わずかに赤い。
「
……
俺ん家、近くなんだけど。
……
それ飲み終わったらちょっとだけ、遊びませんか」
***
「
……
こら圧巻やな」
部屋に入るなり、カラスバは小さく口を開けて固まった。何の変哲もない一人暮らしの狭めのアパート、それを圧迫するたくさんのポケモングッズ。
ベッドを取り囲む大量のぬいぐるみたち。ポケモンセンターもびっくりの数と種類。
部屋の真ん中に鎮座するローテーブルは当然のようにピカチュウ。どこを見てもポケモンたちと目が合う気がして、カラスバはわずかに落ち着かなくなった。
「あ、適当にベッドとか座っていいですよ」
「オレ車屋のバイト帰りやで」
「あんま気にしません俺!くつろいでて〜!」
キョウヤは部屋にカラスバを押し込むと、先程通り過ぎてきたキッチンに戻って行った。
「
……
くつろぐ、なあ」
カラスバは足元のスリッパに視線を落とす。満足そうに笑うカビゴンと目が合って、ふっと笑みがこぼれた。
「
……
彼女とか呼べへんやろこの部屋」
楽しそうに笑うカラスバに、一瞬声を詰まらせたキョウヤはキッチンから不貞腐れたような声を上げた。
「
……
別に、ポケモン好きな相手見つければいいだけだし」
「まあそらそうやな、すまん」
「それに、
……
とりあえずカラスバさんにウケたんだったら、それでいいよ」
「
……
ああ、まあ、オレは嫌いやないで。
……
住みたいか言われたら微妙やけど」
「
……
そっか」
キョウヤのどことなく寂しそうな声を背にカラスバは床とベッドを見比べて、逡巡ののち床にゆっくりと腰を下ろした。マスターボールのラグがふわりと柔らかい。
きょろりと部屋中を見渡す。溢れんばかりのぬいぐるみ。くたびれたものもあるから、きっと実家から連れてきたのだろう。
グリーンのカーテンもよく見ればイーブイの進化系が潜んでいた。小さなテレビ周りを取り囲むように、食玩やら小さなフィギュアが所狭しと並んでいる。非常に、目にうるさい。
振り返ると、ベッドの上、目の前でブラッキーがすやすやと眠っていた。くったりとしていて、口がわずかに開いている可愛らしいぬいぐるみ。何となくそっと抱き上げて、膝の上に乗せる。大きなぬいぐるみなど、長らく撫でていない。先日もらった掌にのるサイズのペンドラーは、ベッドのサイドテーブルでじっとりとこちらを見つめているけれど。
……
たまに、埃を払うついでにお腹をつついてみたりは、しているけれど。
そっと、頭を撫でてみる。肌触りのいい布地が手を優しくくすぐって、カラスバの頬がゆるむ。───ポケモンがもし存在したならば、人目を憚らずにこういうコミュニケーションが取れるのだろうか、などとらしくないことを考えながら、毛並みに沿ってそっと撫で続ける。ブラッキーは、相変わらずすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
「
………………
写真撮っていいですか」
ふと見上げると、片手にマグカップ2つともう片手に大きな皿を持ったキョウヤが、愕然とした顔でこちらを見ていた。気恥ずかしくて眉間にしわを寄せながら「ダメに決まっとるやろ」と言いながらブラッキーを元の定位置に戻してやる。
「うう、両手が塞がってさえいなければ」
「危なかったわ」
ローテーブルに置かれたのはコーヒーと、キョウヤがバイト先のパートナー割引で買ってきたらしいたくさんのサンドイッチ。
「
……
夕飯には足りないかもだけど、
……
一緒に食べませんか」
「ええの?」
「ロス直前だったんで、食べてもらえたら嬉しいです」
「ここのサンドイッチ、食うたことないな。
……
美味そう」
「そうでしょ。あなたいつもコレしか飲まないんだから」
カラスバの目の前には当然のようにブラックコーヒー。店で飲むものよりわずかに色づきが淡く、暗めの琥珀色に見える。キョウヤのカップを覗くと、中身はミルクたっぷりのカフェオレのようだった。
「今淹れたん?」
「コールドブリューです。水出し。冷蔵庫に常備してます」
「あの店の?」
「そうです」
「なんや、オマエもブラック飲むんやん」
「まさか。俺はそこに砂糖たっぷりミルクたっぷりですよ」
カラスバはデフォルメされたポケモンとドーナツの描かれた可愛いマグに口をつける。いつも飲んでいるものよりスッキリとした、深みのある味。
「
……
美味い。
……
おおきに」
「ほんと?良かったぁ」
続いてカラスバは皿の上のサンドイッチを物色する。「好きなの取って。俺全部食べたことあるから、食べたいの食べて〜」というキョウヤの言葉に少し悩んで、ハーブソーセージの乗ったパンを手に取る。大きく口を開けてかじりつくと、ぱりっとしたソーセージから香るハーブがコーヒーととてもよく合った。
目を輝かせて無言で食べ進めるカラスバを、そっと微笑んで見ていたキョウヤはクロックムッシュを手に取った。
「
……
俺、あそこでバイトしてて、たまにあなたを見かけてたんですよね」
もぐもぐと咀嚼するカラスバはキョウヤに視線を移す。無言で続きを促せば、キョウヤは小さく頷いた。
「
……
あそこって、季節の限定の飲み物がよく出るんです。SNSでも話題になるし、甘党な人がご褒美に買っていくことが多くて。いっぱい作るし、いっぱい注文受けるんです」
「
…………
まあ、そうやろなぁ。存在は知っとるで」
「そんな中で、毎回。色の白い真面目そうな人がたま〜に現れてね?絶対に同じブラックコーヒーを頼んでいくんですよ。毎回店内で難しそうな本読みながら飲んで、いつの間にかいなくなってるんです」
「
……
出る時挨拶必要やった?もしかして」
カラスバの真顔でのボケに、キョウヤは一瞬目を瞬かせてあはは、と楽しそうに笑った。その眩しさに、カラスバはわずかに目を細める。
「
……
確か同じ大学だったなって思ってて。大学で姿見たらなんか話しかけたくなっちゃって。いつも本読んでるのに休憩室で珍しくゲームしてるなって思って覗き込んだら、ポケモンやってるし」
「あれホンマに驚いたわ。ゲーム中に話しかけてきたヤツはオマエが初めてやった」
「すごい考え込んでて、あれ、なんか俺の遊び方と違うなって思って。なんか、それから仲良くなりたいなって思ったんです」
「
……
ようわからんけどオマエのコミュ力尊敬するわ」
カラスバはコーヒーに口をつけて、少し考え込んでから口を開いた。
「
……
収入安定してきてな。褒美やないけど、たまにはインスタントやないコーヒー飲も思うてあの店入ったんよ。そしたらレジにえらい緊張したはる兄ちゃんがおってな」
「えっ」
「なんたらフラペチーノ〜ばっかり言われとったんやろな。コーヒー頼んだら、あからさまに『えっ?』て顔しよったんよ」
「マジで!?すみません!!」
「なんか『スゲー』みたいな顔されたな思うたらオモロくなってもうてな。店でゆっくり見学しよ思うたんよ」
「え?観察対象だったの!?」
眉間にしわを寄せたキョウヤの表情に口角を上げながら、カラスバは懐かしむように言葉を紡ぐ。
「
……
まだ始めて数日やったんか、だいぶ手間取っとった。それでもよう表情がくるくる変わってな。楽しそうやなって思うたんよ」
「
…………
そう、だったかな」
「そっから定期的に行くようになってな。5回目くらいで『氷少なめもできますよ』言うてきた。おっ成長したやん、思うてそれ頼んだんよ」
「
……
覚えてる。
……
5回目だったのかは、わかんないけど。氷少なめできますよって言ったらすごいびっくりした顔して、ちょっと笑って『ほな頼むわ』
……
って、言われて。
……
そこから、意識して見るようになったかも
……
」
「ふふ、
……
そっからな、行くたびに『今日もブリュードコーヒーですかぁ』とか『氷少なめにします?』とか言われてなぁ。最近はもう『いつもの?』しか聞かれへん。
……
オマエ居ない時でも『いつものですか?』言われるんやぞ。恥ずいわ」
「恥ずかしいのに来てくれるんだ」
「
……
コーヒー美味いしな」
白いマグでやわらいだ琥珀色をひとくち含んだカラスバは、悪戯っぽく笑ってキョウヤを見た。
「
……
だから、オマエのことを認知しとったのは多分、オレのが先や」
「
……
なんか悔しいなあ、絶対ゲームの時が最初だと思ってたのに」
唇を尖らせたキョウヤはちまちまかじっていたクロックムッシュにがつりと噛みつく。カラスバはしたり顔で次のサンドイッチに手を伸ばす。具材のたっぷり詰まったトルティーヤ。持ち上げれば、シンプルな白だと思っていた平皿の底にピカチュウがいて、抜かりないな、と笑った。
***
サンドイッチを食べ終わると、時計は20時半を指している。キョウヤは遠慮がちに自分の鞄からゲーム機を取り出した。
「
……
今日、持ってる?」
「ああ、あるよ」
「一戦だけ、しませんか」
「ええよ。今日はハンデ何がええん」
キョウヤはんー、と少しだけ迷って。ピカチュウのテーブルに頬杖をついて、目を細めて微笑んだ。
「どくタイプジムリーダーのカラスバさんと、バトルがしたいです」
その仕草に一瞬どきりと心臓が跳ねる。意味の分からない動悸に首を傾げながらも、冷静を装ってカラスバはなんでもない声を出す。
「
……
3匹?」
「はい」
「
……
ええん?ボコボコにするで」
各々6匹選んで、対戦のルールを決める。もう何度も繰り返してきた、手馴れた動き。
キョウヤの選出した6匹を見たカラスバは不満そうに声をあげた。
「おいミュウツーて。なりふり構わんやんもう」
「負けたくないし、俺チャレンジャーなんで、なんでもありなんです」
3匹のポケモンの選出。キョウヤはエアームドを、カラスバはキラフロルを繰り出した。
「キラフロル実際に使うの初めて見たかもです」
「あー、オマエ相手だとあんまり選出するタイミングなかってん」
キラフロルが「ステルスロック」を撒く。うげえ、とこぼしたキョウヤのエアームドが「アイアンヘッド」を撃った。キラフロルはちょうど半分HPを残し、とくせい「どくげしょう」でどくびしを撒いた。環境が最悪になっても、キョウヤは真顔を崩さない。
「どくが怖いので、俺ははがねタイプを先頭に置いたんですよ。賢い?」
「
……
ミュウツーは?先発で出さんで良かったん?どくびしは交代で発動するで」
キョウヤが顔をあげる。あからさまにしまった、という顔をして、一瞬で澄ました顔に戻って。なんてことのないような顔で、肩を竦めた。
「
……
何とかしてくれると思う、俺のミュウツーなら」
「適当やん」
キラフロルの「ニードルガード」。エアームドの「アイアンヘッド」から身を守り、接触してきたエアームドのHPを削る。う〜わ、と眉をひそめたキョウヤに、カラスバがぽつりと呟いた。
「
……
オレのバ先にな?ああ、車屋の方な。エアームドめっちゃ好きなオッサンおってん。そういうん好きやなさそうなイカつい顔しといてカバンにエアームドのピンズ刺さってんねん」
「えーわかる、エアームドカッコイイですもんね」
キョウヤは返事をしながらひどく新鮮にカラスバからの雑談を聞いていた。普段バトル中に別の話をすることのないカラスバ。あまりにも余裕なのだろうかとじとりとした目を向ければ、視線に気づいたカラスバが小さく笑みをこぼした。
「
……
別に、周りに気を使わんで話せるやろ。ここなら」
キョウヤはもうにんまりと、それはそれは嬉しそうに笑った。キラフロルが「パワージェム」でエアームドのHPを半分以上削っても、ふたたびの「アイアンヘッド」でキラフロルのHPがほんのわずか残ってしまっても、どくびしがふたたび撒かれても、笑っていた。
「
……
何笑てんの」
「楽しいから」
キラフロルの「パワージェム」でエアームドが倒れ、次にキョウヤが繰り出したのはメタグロス。キラフロルの撒いたステルスロックで、HPがわずかに削れる。
「
……
カラスバさんて、フラペチーノ飲まないの」
「甘い飲み物、途中で飽きてまうんよな」
「気になってはいる?」
「
……
まあ」
「名案があるんだけど、俺と今度半分こしません?」
「
…………
考えとくわ」
カラスバもふふ、と小さく笑った。メタグロスの「バレットパンチ」で、キラフロルが倒れても、笑っていた。
「
……
ふふ、なんで笑ってるの」
「ん?
……
楽しいから、やな」
次にカラスバが繰り出したのはブロロローム。先日、キョウヤの3体のポケモン相手に大健闘したカラスバの『愛車』だ。
「あ!フェアレディさんだ、こないだぶり〜!ぜってえ勝つ」
「いてこましたろうな〜」
ブロロロームの「10まんばりき」がメタグロスのHPを6割ほど奪う。遅れて動き出したメタグロスの「じしん」はブロロロームをひんし直前まで追いやった。
「そういえば俺ね、ホットの持ち帰りのカップに絵描くの好きなんですよ」
「
……
あー、たまに見かけるやつな。それって許されるん?」
「やってくれる人に当たると俺は嬉しいのでやってます!」
「ホットだけなん?」
「アイスのカップ描きにくいんですよね〜」
「へえ〜」
ふたたびブロロロームの「10まんばりき」。メタグロスは戦闘不能になり、キョウヤは満を持してミュウツーを繰り出した。「ステルスロック」と「どくどく」が、飛び出して早々のミュウツーを襲う。
楽しそうに笑っていたキョウヤはゆっくりと声のトーンを下げて、穏やかな声で訊ねた。
「
……
カラスバさん、聞いてなかったんだけど、
……
就職どうするの」
「普通にIT系。もう決まった」
「
……
就職、したら。
……
もう、大学で会えなくなっちゃうね」
「
……
せやなあ」
ミュウツーの「かえんほうしゃ」がブロロロームを直撃し、残りわずかのHPを吹き飛ばした。どくどくのダメージでミュウツーのHPがまた削れていく。
カラスバは労うように少しだけ目を細めて、最後の手持ちを繰り出す。
ペンドラー。それも、色違い。
「
……
この間のと違う子だ」
「相手によって使い分けたりするんよ」
「何が違うの?」
「努力値の微妙な調整とか技構成。想定しとる敵が違う」
「んへえ?」
ペンドラーは早々に「まもる」を繰り出す。ミュウツーの「かえんほうしゃ」をしっかりと躱した。先程より威力の上がったどくどくダメージが、ミュウツーの体力をごっそりと持っていく。一方でペンドラーはとくせい「かそく」で素早さが上昇。キョウヤがああ、と慌てたような声をあげた。カラスバは早々に次の技を選択する。
「
……
カラスバさんと対戦できるのも、今のうちなのかな」
「
……
?」
そう呟かれた小さな声にカラスバはふと顔をあげて───はらはらと涙を流す、キョウヤの顔を見た。
「
……
な、
……
え、
…………
?な
……
ん、泣い、」
「見ないでくだざい」
キョウヤは目元を咄嗟に腕で隠した。カラスバは目を見開いたまま、身動きすら取れずにキョウヤの涙声を聞いていた。
「こうやって、
……
遊べなくなるのかなって、カラスバさんの訳わかんないポケモン育成うんちく聞くのも、全然勝てないのに楽しいポケモンバトルも、出来なくなるのかなって」
「
……
」
ミュウツーの先手を取ったペンドラーが「メガホーン」をぶち当て、キョウヤの主力ミュウツーはあっさりと落ちた。それでも2人はもう、勝敗どころじゃなかった。
「大学の友達はカラスバさん以外、みんな同じ学年だし
……
先輩とこんなに仲良くなったのって俺、初めてだし」
「
……
そう、なんや」
「人をここに呼んだのも、初めて。カラスバさんなら、俺の部屋馬鹿にしないって思ったから。俺の好きな部屋に、
…………
カラスバさんがいるのが、嬉しくて、
……
寂しくなっちゃった」
カラスバは思わず、目の前でべそべそと泣くキョウヤの頭をそっと撫でていた。
「寂しくなるの早すぎやろ」
「
……
うん、おれもそうおもう」
「
……
まだ、オマエのこと助手席に乗せてへんやろ」
「
……
うん」
「まだ、オマエに華々しく負けとらん。まあこないだ一回負けたけども、それでもや」
「う"ん"」
「
……
あと、オレまだ、
……
」
「
……
?」
「なんでもない」
カラスバは小さく咳払いをして、訝しげな涙目で見つめるキョウヤの頭を撫で続ける。
「
……
別に、大学だけの付き合いにするつもりあらへんよ。
……
来年新作も出るやん。やってくれへんの、一緒に」
「でも、社会人と大学生って時間合わないって言うじゃん
……
」
それはカップルのことでは
…………
なんて一瞬過ぎったけれど、何となく言うのが憚られた。そんな自分に首を傾げつつ、カラスバはあやす様に柔らかい声をかける。
「
……
オマエはオレと違って友達多いんやし、大学は真面目に楽しくやりや、
……
そんで、時間が合わへんかったら次は、
……
オレんち、来たらええやん。
……
だから泣かんとって」
「え"え"、遊びに"行ってい"いんでずか」
「つまらん部屋やけどな。
……
オレ、オマエくらいしか一緒に遊んでくれるヤツ居らへんねん。遊ぼうや、時間合わせて。─────なあ、
…………
キョウヤ」
泣き腫らした目を限界まで見開いたキョウヤが勢いよく顔をあげる。呆然としたその顔はみるみる歪んで、涙がぼろっとこぼれ落ちた。
「
……
な、まえ」
「
……
ずっと、呼びたかってんけど。なんや呼ぶタイミング逃し続けてどうしたらええか分からへんし
……
その、
……
恥ずかし
……
くて、うぉっ」
気まずそうに頭を搔くカラスバの胴体にキョウヤが飛びついた。ぐっときつく抱きしめられて、目を白黒させながら両手をあげる。
「
…………
う"れ"じい"、はじめ"てよばれ"た」
「
……
そ、そんなにか
……
なんやすまん
……
」
答えはない。ぎゅううう、と腕に力が込められていく。カラスバは何となく、その背中をそっと撫でる。自分の鼓動がいやにうるさい。対応に困って視線をあげると、テレビ周りのフィギュアたちの視線が一斉に刺さった。
そっと振り返ると、ベッドの上で眠っていたはずのブラッキーですら、薄目を開けてこちらを覗いているようにも見えて。
「
……
ちょ、
……
見んとって」
真っ赤な顔をしたカラスバはそっと、ブラッキーを壁の方に向けた。
***
「いらっしゃいませ」
いつもの時間帯、いつもの店。いつもの店員に、いつもの客。──いつも通りのようで、いつも通りじゃない。キョウヤはいつもよりしおらしく、照れくさそうにカラスバに声をかけた。
「今日もいつもの?」
「
……
いや」
こちらもまた、いつも通りではないカラスバが、頭の後ろを掻きながらボソリと告げた。
「いつものを
……
ホットで、
……
持ち帰りにしてや」
「!」
キョウヤは触角をびん、と立てて背筋を伸ばした。高速でレジを打って、支払いを終えたカラスバにレシートをいつものように押し付けて、カウンターの端まで急ぐ。慌ただしい姿をひっそり笑いながら見ていたら、キョウヤの代わりにレジに入った店員がふふっと声を出して笑った。
「
……
キョウヤくん、あなたが来るといつも楽しそうです」
「
……
さいですか」
カラスバはゆっくり歩いてキョウヤの前に立つ。スラックスのポケットに両手を突っ込んだまま、舌なめずりをしてペンを握るキョウヤの、楽しそうな顔を眺めた。
「
……
できた!お待たせしました!」
「おおきに」
突き出されたコーヒーを受け取る。小さなイラストかと思っていたのだが、もはやコラボではないかと思うほど大きな、むっちりとしたペンドラーのイラストが目に飛び込んできた。ペンドラーの横に吹き出しと、キョウヤの角張った手書き文字。
『カラスバさん♡ 次は絶対に勝つ!!』
「
…………
思ったより上手いやん」
「へへ、でしょ」
「
……
おおきに。
…………
キョウ、ヤ
……
」
にかっと楽しそうな笑顔が目に入って、居た堪れなくなったカラスバはさっと踵を返して店から出た。最後にちらりと振り返ると、少し赤い顔でにやにやと笑いながらこちらに手を振るキョウヤと目が合った。
……
持ち帰りにして正解だった。こんな顔を、きっとあまりにも無様な顔を、店内であいつに見られるわけにはいかなかった。カラスバはずかずかと少し乱暴に歩きながらそっと一口だけ、コーヒーを啜った。
「
…………
あっつ」
───それはコーヒーの温度か、はたまた。
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