8988dpod
2026-04-27 23:06:33
1038文字
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黒縄の夜

ダリウスが見る悪夢

「兄弟」
「喋るんじゃねえっ!!」
幾度殴られても尚呼び掛け続ける声を振り払うように、更に強く痛め付ける。細い身体の足元がふらついた時、ダリウスの手にはもうナイフが握られていた。
「しつっこい、んだよこのっ!!化物がっ!!」
突き飛ばして馬乗りになった相手の胸に何度もナイフを突き立てる。
なんでお前がまだ生きているんだ、なんで俺を呼ぶ、なんで俺を見る!!殺したんだ俺がこの手で!!喋るな動くな息をするな、俺に逆らうんじゃねえ!!
ぎり、と骨に当たる音と共にさらに深く突き刺したそれを勢いよく引き抜くと、ぶしゃりと音を立てて噴き出る血がダリウスの頬を汚した。
「はあっ、はっ、」
眼前の身体はピクリとも動かない。肌身離さず身に付けていた紫の襟巻きも、爺のような白い髪も、辺り一帯ごと血溜まりに変えて、薄く目を開いたまま。
完全に息の根を止めた。大丈夫だ、もうこれで動かない。逆らわない。俺を呼ぶこともない。
絶命を確認した骸に背を向ける。手にも額にも汗をぐっしょりとかいていて、手袋がよれて気持ちが悪い。後で着け直そうと手袋を外すと、剥き出しになった手を小さく暖かい手に握られた。
「きょうだい」
やっと追い付いた、とでも言いたげに手を繋いでくる子供。いつかのように嬉しそうに、親しみに満ちた目でダリウスを見上げてくる。胸元を血に染めたまま。
「うわ、うわあああああ!!」
共に過ごした記憶と最後の記憶が混ざり合って掻き乱される。
「やめろ触るな!!目障りなんだよてめえは!!」
手中のナイフを何度も何度も振り下ろす。胸に、頭に、顔面に。およそ思いつく限りの致命傷を与えても与えても、抵抗ひとつしない相手は——テリオンは、ダリウスに手を差し伸べ続けていた。その声は青年のものであったり、少年の頃のものであったりとダリウスの記憶の引き出しを否応無しに開けてくる。
「きょうだ」
「黙れえっ……!!」
ナイフを投げ捨てて相手の首を締め上げる。手が余るほど細い少年の首は力を込めればすぐに関節が外れ、ごきりと感触が伝わる。締め上げられて尚こちらに伸ばされていた手がだらりと落ちた。

奴はもう死んでいるのだ。深手を負わせた上に、あれは助かるはずのない高さだった。なのに何度繰り返しても、殺しても殺しても俺の中の奴が死なない。
「生意気に歯向かいやがって……何度だって殺してやる!!」
どこまでも思い通りにならない事に苛立ちが止まらず、ダリウスは力無く撓垂れる身体を打ち捨てた。