奇跡の起こしかた

神界を抜け出したお兄様と普賢さんの共同作業(?)

「ノープロブレムだよ、普賢真人くん!」

目に映るのはうす灰色の空、雲ひとつない晴天だ。遠くまで山々の連なりが見渡せる。
「絶好の奇跡日和だねえ」
隣に立つ人はとても機嫌がよさそうだった。いつも派手な人だけれど、今日は特別飾りが多い。今日のために誂えた一張羅さ、と優雅に袖を持ち上げると、刺繍をほどこした袖口に重そうな宝石がいくつも垂れさがっている。こんな装束が似合う人はそうそういない。
神界きってのプリンスを自称する趙公明が普賢のもとを訪ねてきたのはすこし前のことだった。仕事を手伝ってほしいという。なんの仕事かと問うと、趙公明は声をひそめ
「奇跡を起こすのさ」
……奇跡?」
そうして神界から抜け出して、向かったのは小さな村だった。上空から見るかぎり、いるのは数十人の村民のみ。どの家も粗末で、畑には麦がわずかに実っているだけだ。
普賢の役目はその村の位置を正しくナビゲートすることだった。手元の宝貝の位置情報に示された小さな三角印に「ほんとうにここでいいの?」と訊くと、彼はうんうんとうれしそうに頷いた。
「さすがだね。まったく狂いがないよ」
「ここでなにを?」
訝る普賢にウインクをひとつ寄越して、彼はぱっと両手を広げた。

きっとそのとき、地上にいた人たちにはなにが起こったのか、わからなかったにちがいない。晴れた空から、いきなりキラキラ光る「金銀財宝」が降り注いだのだから。最初に気づいたのは子供で、指さす空を見て大人たちもあんぐりを口をあけた。、いつもは静かな村に、歓声とも感嘆ともつかない声が響く。
「こんなことをして大丈夫?」
彼らにこちらの姿は見えていないとはいえ、ここまで派手なことをすれば、噂はすぐに広まってしまう。そう、きっと教主の耳にも。
「ノープロブレムだよ、普賢真人くん!」
趙公明はキラキラを振りまきながら胸を張る。
「ノブレス・オブリージュ!持てるものが持たざるものに施しを与えるのは当然の責務だし、だとしたら率先してそれを行うのは、貴公子たる僕の役目だろう。ほら、ごらん!」
見れば、村人たちがそれぞれ手にした金銀財宝は、長老であろう老人のもとに自然と集められ、より貧しいものから順に等しく分配されようとしていた。手のひらの最後のキラキラをパラパラと振り落としてから、趙公明はうっとりと下界を見下ろした。
「奇跡というのは、ああやって心清らかな貧しい民にこそ与えられるものなのさ」
一時しのぎの金銀で、彼らの生活がたちどころによくなることはないだろうけれど、こうして互いに心を寄せ合う関係を築くのに一役買っているなら、それはそれで「奇跡」の意味があるのかもしれない。

「さて、次に行こうか!」
「え、まだ行くの?」
「もちろん!僕たちを待っている民は大勢いるからね!」
そろそろ教主が腹に据えかねて探しに来るころだろうが、なんとなくこの奇跡の続きを見たいと普賢は思う。
そうして、手の中の球体でなるべく見つからないルートを検索しはじめた。