ささみ
2026-04-27 01:18:24
6105文字
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イマゴ・ハート

さnaぎのshin臓の設定が好きすぎてそのまま使っています。
(気になる人はぜひ!読んでください。)

悪魔勝己×人間出久(not おさなな、年の差)

*注意
・設定拝借(今後はオリジナルの展開だが、1話目はほぼ同じ)
・受け優位
・♡使ってます
・勢いで書いたので誤字脱字多いです

「だぁれ……?」

羽虫の羽ばたきよりも頼りない、微かな掠れ声。森の湿った土の上、這い蹲るようにして木の根に縋っているのは、魔力の一欠片も持たない人間の幼子だった。



俺は悪魔界でも指折りの天才だ。掌から放たれる爆破の魔法、空間を捻じ曲げる機動力、そして他を圧倒する膨大な魔力量。
「時期魔王候補」――そんな仰々しい肩書きも、俺にとっては当然の帰結に過ぎない。魔王の座に座るのは、俺の人生における確定事項、予定調和。誰にも邪魔はさせないし、誰に劣るつもりもない。これ以上ないほどの逸材。

なのに。
 
「なんで、人間に召喚されないんですかねェ。エリートなのに」
「うっせ、丸焼きにすっぞ」

使い魔のコウモリが、小馬鹿にしたように頭上を舞う。
そう、悪魔は人間の魂を喰って生きていく。
魂は俺たちの糧であり、力だ。人間が絶望の淵で、あるいは狂おしいほどの欲望の果てに、何かを強く、強く願う。その熱量が境界線を突き破り、悪魔を引き寄せる。それが召喚だ。
俺たち悪魔は、その願いを叶える代償に魂をいただく。それが唯一食欲を満たせる手段。

それなのに。

それなのに、俺にはその声が一度も届かない。悪魔は召喚され、魂を喰って初めて一人前と見なされる。どれだけ魔法を極めようが、これじゃあいつまで経ってもヒヨっ子扱いだ。

その日も、いつもと同じだ。魔法の研究をし、散歩がてら魔法の練習をする。
木の影に小さな影を見つけたのは、夕暮れがあたりを侵食し、夜と昼の境界線が曖昧になる逢魔ヶ刻だった。それは小さな小さなヒトだった。薄汚れた服はぼろぼろに裂け、伸び放題のぼさぼさの髪の毛に隠れて表情すら見えない。かろうじてそれがヒトだというのは、手を伸ばせば届く距離まで近づいてからだった。

「あ?なんでこんなとこにヒトなんか」
「時々いるんですよねぇ……ふらりと紛れちゃうヒトが」

使い魔がやれやれと首を振る。人間の世界と悪魔の世界は薄皮一枚隔てて隣り合わせだ。その境界線は人間には見えない。だから、気づかぬうちにそれを踏み越えてしまう。
本来なら、こんな端肉、そのまま放置して朽ちるのを待つか、群れてる低級悪魔の餌食になるのを眺めていればいい。
どうしますか、と。使い魔が目線で問いかけてくる
……知るかよ」と吐き捨てようとした、その時だった。

――ぐぅ〜。
静まり返った森に、情けないほど間抜けな音が響いた。
 
……っ」
 
一丁前に腹は減るらしい。
泥にまみれた細い指が、震えながら俺の裾を掴もうとして、そのまま力なく落ちる。その、今にも消え入りそうな命の輝きを見た瞬間、胃の奥が焼けるような奇妙な不快感に襲われた。
このまま死なすのは、なんだか俺の予定調和に反する気がした。
俺は自分でも説明がつかない気まぐれに突き動かされ、その泥だらけのそれを自宅に持ち帰った。


「ほら、食え」

テーブルに置いたのは、魔法で急造した、何の情緒もない肉料理だ。
腹を空かせた子供は、それが毒かどうかも疑う余裕がなかったらしい。皿が出されるなり、小さな口でかぶりついた。熱い塊を飲み込むたび、細い首筋の喉仏が必死に上下し、ごくり、と重い音が鳴る。あっという間にぺろりと平らげた。よほど腹が減っていたらしい。

……ありがとう、ございます」
「うし、ちゃんと礼は言えるな」

息を吐いた子供の頬には、ほんのりと赤みが差していた。ようやく一息ついたのか、伏せられていた顔がゆっくりと上がる。
前髪の隙間から、初めてエメラルドの瞳が見えた。髪と同じ、深い森のような色は、手入れさえすれば輝く原石だ。
先ほど魔法で料理を作ったところを見ていたせいか、その瞳は期待と興奮で煌々としている。 

「あの、お名前は?」

上目遣いに見上げられ、心臓が一度、ドクンと嫌な跳ね方をした。自覚のない殺気でも当てられたような、居心地の悪い熱が胸に広がる。
 
「爆豪勝己」
「ばくかつ、き?」
「そーだよ。おまえは?」
「みどりや、いずく」

その瞳が、真っ直ぐに俺を射抜く。
潤んだ瞳の奥で、俺の姿がはっきりと反射しているのが見えた。
悪魔を見ているとは思えないほど純粋で、熱を持った視線。射抜かれた俺の指先が、無意識のうちに微かにピクリと動いた。捕食者である側の俺が、獲物の視線に気圧されている。そんな馬鹿げた事実を誤魔化すように、俺はわざとらしく鼻を鳴らした。
 
……で、どうすんですか」
「育てる」
「はあ!?正気ですか……魔王様に知られたら、それこそマズイですよ」

使い魔が羽ばたくのをやめ、俺の肩にとまった。
おいやめろ、耳元で囁くな。羽の擦れるカサカサした音が耳障りだ。
 
「ちょうどいい。アイツを近くにおいて、頃合を見て願いを叶えて魂をいただく。そうすりゃ、召喚されなくても手っ取り早く一人前になれるだろうか」
「やり方がみみっちい……
「うっせ。効率の問題だ」

肩のコウモリを振り払い、奥の部屋で丸まっている小さな背中を睨む。
 
魔王も、俺が魂を喰らって一人前になれば、今度こそ王の座を譲る気になるだろう。
そう自分に言い聞かせても、さっき射抜かれた視線の熱がまだ肌にべったりとこびりついているような気がして、俺は不快そうに首筋を掻きむしった。

 
俺といずくの生活は何事もなく流れていく。居場所を与え、食べるものを与え、そして温もりを与えた。人間は“絆“というのだろう。これは親と子の絆だ。信頼関係を築けば、コイツの魂は熟し、強欲な願いも自然と湧いてくるだろうと踏んでいた。

なのに、出てくる願いはどれも拍子抜けするほど単純で、代償を求める願いとは程遠いものばかりだ。

「かっちゃんと一緒に寝たい」
「かっちゃんに抱っこしてほしい」
「かっちゃんの魔法が見たい」

いずくが俺の服の裾を小さな手で握りしめるたび、その場所からじんわりと熱が伝わってくる。その熱に触れた俺の肌が、粟立つように微かに震えるのを自覚して舌打ちした。これではただの“俺とやりたいこと“の羅列だ。

「おまえ、もう少し何かあるだろ。金がほしいとか、誰かを呪いたいとか……叶えてほしいことねぇのかよ」
……?」

不満とともに肺の空気を吐き出せば、いずくは不思議そうに首を傾げるだけだ。その拍子に、奴の首筋から立ち上る、生きた人間特有の甘く青い匂いが鼻腔をくすぐる。喉の奥がキュッと締まり、唾液が溜まる。食欲なのか、それとも別の、もっと正体の知れない飢えなのか。
 

そうして気がつけば一年の時が過ぎた。
人間の子供の成長スピードは、残酷なまでに早い。覚えた言葉は増え、たどたどしかった舌足らずな喋り方は、いつの間にかはっきりとした輪郭を持つようになっていく。対する俺たち悪魔は、時が止まったように歳をとらない。
いずくだけが刻一刻と形を変え、老いへと向かっていく。その不可逆な変化を目の当たりにするたび、俺の胸の奥は、鉛を詰め込まれたようにずっしりと重く沈んだ。

「そろそろ食べ頃じゃないですか?」

傍らの使い魔が表情が分からぬくても笑うのがわかった。そうだ。元々、最高の状態で魂を喰らうために育てたのだ。願いを待たずとも、その華奢な首を折って、肉体ごと魂を貪り尽くすこともできる。
その想像をした瞬間――なぜか、自分の指先が氷のように冷たくなるのを感じた。

……いや、……帰す」
「は?帰す?なんですって?」
「みみっちいやり方、俺の性に合わねェ。自力でどうにかする」
「で、今更帰すんですか。情でも湧いたと?」
「記憶はなくす。問題ねェ」
「あなた様は、またそう自分勝手に
「自分勝手が悪魔の専売特許だ」

いずくの記憶はすべて消す。俺と過ごしたこの一年、この部屋の匂い、交わした言葉。そのすべてを無に帰す。俺は優秀な悪魔だ。いずくの周辺も、最初からいなくなっていなかったように細工してやる。記憶操作など、俺にとっては造作もないことだ。

……かちゃ、ん」

ベッドで眠る幼子が、無意識に俺の名を呼んだ。
その穏やかな寝顔を見るだけで、強張っていた頬の筋肉が緩み、勝手に口角が上がるのがわかる。
触れたい。
その衝動に突き動かされ、手を伸ばしかけて、止めた。
指先が奴の柔らかな髪を掠める直前、心臓が痛いほど強く跳ねた。
これ以上、この温もりに触れてはいけない。これ以上深入りしてはいけない。本能がそう警告していた。
俺は最後に一度だけ、震える手で幼子の頭を優しく撫で、その温もりを掌に焼き付けた。
そうして、一年前と同じ、静かな人間界へといずくを戻した。
さようなら、幼き子。
消えかかった指先の余熱だけが、暗い部屋の中でいつまでも消えずに残っていた。




「で、何の用っスか魔王様。ついに俺様に魔王の座譲る気になったか?」

目の前の玉座に座る魔王、オールマイト。悪魔界きってのスピードで魔王にまで登りつめた、まさに王の中の王。俺が唯一その実力を認め、背中を追い続けた尊敬すべき悪魔だ。

「ちょっと君、人間界で修行しておいで」
「は?」
「だから、人間界で修行してきなさい。君は、ヒトが何たるかをまだ理解できていないみたいだからね。僕らはヒトの魂がなければ生きていけない。なのに君はまだその魂、特に愛とは何なのか知らないようだ。愛は、ヒトの感情の中で最も重く、そして最も罪深く、僕達への最高の対価となりうる。その愛がなんなのか、彼に教えてもらうといい」
「は?待て、彼ってだ「じゃあ、行ってらっしゃい」」

反論する間もなかった。空間がぐにゃりと歪み、目の前に暗がりがぽっかりと口を開ける。俺がオールマイトに文句をぶつける隙もなく、その暗がりに吸い込まれた。



……っテ。ったく乱暴だな、あの人」

固い床に叩きつけられ、悪態をつきながら身を起こす。
つーかなんだよ修行って。愛なんて知らんし、知る必要もない。そんなもの、悪魔から一番遠いもんだ。

周囲を見渡せば、そこはどうやら人間の部屋だった。窓から差し込む陽光が、悪魔の肌には妙に生暖かく感じる。

……かっ、ちゃん?」

不意に背後から声をかけられた。その瞬間、心臓が音を立てて跳ねた。

「は?」

本日何度目かの素っ頓狂な声が出る。振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。いや、見知らぬはずなのに、その瞳の色、髪のうねり、鼻の横にある小さな雀斑。俺の記憶の底にある幼子の面影が、あまりに鮮明に重なる。

「おい!離れろ!」
「かっちゃんだ!本当にかっちゃん!」

男は躊躇いもなく俺に詰め寄り、その細い体で力任せに抱きついてきた。
鼻腔を突いたのは、かつての甘い匂いじゃない。もっともっと、濃厚で、脳を痺れさせるような匂いだ。

「つーか誰だテメェ!」
「出久だよ!」
「はぁ!?いずく……?って、あいつはもっとこう、チビで
「何年前の話してるの?もうっ。僕はもう二十歳だよ」

出久という名の男は、可笑しそうに目を細めて俺の頬に手を伸ばした。触れた指先は、記憶の中にある子供の体温とは似ても似つかない。焼けるように熱く、触れられた肌の奥まで浸食してくるような、そんな熱。

……ッ」

逃げようとした俺の顎が、強引に上に向かされる。柔らかな感触が、唇に重なった。他人の粘膜が、直接自分の唇を食む。人生で初めて経験するその異質な感覚に、喉の奥が痙攣するように鳴った。

「お、まえ……っ!」

俺は熱を持った手を無理やり引き剥がし、咄嗟に唇を手の甲で覆った。
心臓の鼓動が耳の奥でうるさいほど鳴り響く。なんだこいつ。なんだ、この熱は。

「魔王さまから聞いてなかった?僕とかっちゃんは今日からここで一緒に住むんだよ」
「はぁ!?」
「“愛“、知らないといけないんでしょ?」

出久は、かつての無垢な笑顔のまま、その瞳の奥にどろりとした"何か"を滲ませて微笑んだ。
頬を撫でる指先が、追い詰めるように耳たぶを這う。その動き一つ一つに、俺の意思とは無関係に体が強張る。

「だから、僕がぜーんぶ、教えてあげる♡」

愛を知れ。人間界で修行しろ。そして、この男と暮らせ。
俺の、悪魔としての理性が、ガタガタと音を立てて崩れていくのが分かった。

「なんなんだ一体クソがぁァァっっ!!!!!」

俺の絶叫は、出久の甘い溜息に呑み込まれ、部屋の四隅に空虚に響き渡った。

――――――

勝己が人間界へと放り出されたその瞬間、悪魔界の玉座の間では、ゆらりと二つの影が揺れていた。

……で、一体どういうおつもりですか、魔王様」

傍らに控える使い魔のコウモリが、呆れたように、しかしどこか恐れを孕んだ声で問いかける。玉座に深く腰掛けた魔王、オールマイトは、手元の水晶に映る人間界の光景を眺めながら、満足そうに喉を鳴らした。

「いやぁ、……美味しそうな魂だったもので、つい、ね」
「貴方様ともあろう御方が、そんな簡単に召喚されるとは……魔王を引きずりだすほどの願いを捧げたあの男、一体何者なのですか?」

使い魔の問いに、オールマイトは愉快そうに目を細める。
魔王を召喚するには、並大抵の熱量では足りない。国を滅ぼすほどの絶望か、神を殺すほどの憎悪が必要だ。だが、あの少年——緑谷出久が捧げたものは、そのどちらでもなかった。

「想いが強すぎる人間というのは、いつの時代にも一定数いるものだよ。でも、あれは別格だ」

オールマイトは、水晶の中で勝己に縋り付く出久の瞳を指でなぞる。そのエメラルドの輝きは、眩しいほどに鈍く輝く。

「一度は手に入れた温もりを奪われ、15年もの空白をすべて爆豪少年のために費やしてきた。彼にとって爆豪少年は、もはや己の命と同義、唯一無二の存在なんだろう。彼は私を召喚し、自らのすべてを代償に差し出した。死後の安寧も、未来の希望も、すべてをあの子に捧げるとね」
……悪魔にすらそこまでの執念はありませんよ」

オールマイトは水晶に触れ、勝己の困惑した顔を愛おしげになぞる。

「私たちがヒトを喰らうのは、生きていくためだけじゃない。彼らの愛を知ることで、私たちは完成する。……あの子がその重すぎる愛に溺れ、もがき、本当の意味で愛を知るというのなら。それは悪魔として、何より幸福な修行だと思わないかい?」

魔王は少し優しそうに、けれどその瞳の奥には悪魔特有の底知れぬ愉悦を宿して微笑んだ。

「さあ、見物だね。真っ直ぐな悪魔と、歪みきった人間。はてさて、どこに帰結するのか……。爆豪少年、君ならきっと、彼の中に答えを見つけるはずだよ」

使い魔もまた、魔王の深い意図を悟ったように、暗闇の中で静かに翼を畳んだ。
人間界の小さな部屋で、二つの魂が再び混ざり合っていく。その歪で美しい光景を、魔王はどこまでも温かな眼差しで、愉しげに見つめ続けていた。