lilie_y0527
2026-04-26 21:54:19
1958文字
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果たされた約束


ネヴァロでの静かな夜、ディンはベッドで小さな身体をぎゅっと抱きしめていた。
腕の中のグローグーが、苦しそうに短く喘ぎ、身を震わせる。
不意に、ディンの身体がふわりと宙に浮いた。グローグーが無意識に放ったフォースが、ベッドごと彼らを浮かび上がらせたのだ。
「大丈夫だ。ここにいるぞ、グローグー」
ディンは慣れた手つきで、浮かんだまま息子をさらに強く抱きしめる。ヘルメット越しにも伝わるその震えは、ただの悪夢にしてはあまりに深く、重い。
やがてフォースが静まり、二人の身体がゆっくりとベッドに戻った。
……何を見ているんだ、お前は」
ディンは不安に胸を締め付けられた。
最近、ルークとは会えていない。新共和国の任務に追われ、ルークもまたジェダイとしての使命に忙殺されている。
だが、ディンには分かっていた。この小さな子がうなされる時、そのフォースの揺らぎの先には、いつもあの男の気配があることを。

数日後、偶然にも中継基地で再会したルークは、少し疲れたような、けれど穏やかな笑みを湛えていた。
ディンが用事で席を外した隙に、ルークは椅子に座ってじっと自分を見つめるグローグーの頭をなでる。
「また、怖い夢を見たのか?」
ルークが静かに問いかけると、グローグーはビクッと身体を震わせ、大きな瞳を伏せた。
彼はルークにも、決して夢の内容を語ろうとしない。自分の視た夢をルークが知れば、彼をさらに苦しめることになると分かっているからだ。
ルークは、グローグーがフォースの奥底に隠している「悲鳴」を、なんとなく感じ取っていた。
そこに映っているのが、自分自身のあまり芳しくない未来であることも。
「いいんだよ、言わなくて。君が僕のために、その秘密を守ってくれていることは分かっているから」
ルークはグローグーの小さな手を包み込み、優しく微笑んだ。
「将来、僕に何が起こるかは分からない。ジェダイの運命は、いつだって不透明なものだからね。でもね、グローグー」
ルークは視線を上げ、こちらへ戻ってくるディンの銀色のアーマーを見つめた。
「君たちと過ごしている今の時間は、僕にとっても、きっと君にとっても……かけがえのない宝物になる。……だから、たとえ何が起きても、僕は、この世界を呪うようなことはしない。君たちが教えてくれたこの温かさがあれば、きっとね」
その言葉に、グローグーは大きな目を潤ませ、ルークの指をぎゅっと握り返した。
戻ってきたディンは、二人の間に流れる妙に静かな空気を感じ取り、足を止める。
「ルーク。何かあったのか?」
「いいえ、なんでもないよ」
ルークは立ち上がり、いつも通りの、ディンを安心させるための爽やかな笑みを浮かべた。
「グローグーは、本当に君に似て、誇り高い戦士だね」
ディンは不思議そうに息子を見やったが、グローグーは晴れやかな顔をして、ルークの手を離してディンの足元へトコトコと駆け寄り、彼の脚に抱きついた。
その背中を見守るルークの瞳には、覚悟を決めた者だけが持つ、深く澄んだ「光」が宿っていた。


***


燃え盛るジェダイ・テンプルの炎の中で、ルークは独り、かつての誓いを反芻していた。
すべてが崩れ去り、教え子たちを失った絶望の淵で、彼の脳裏をよぎったのは、あの銀色のマンダロリアンの姿だった。
(あの子を帰しておいて、本当によかった)
あの日、ディンは確かに静かに泣いていた。
掟を捨ててまで、我が子の行く末を自分に託した。
「必ず守る」と、言葉には出さずとも、ルークはフォースを通じてその重責を引き受けたはずだった。
もし、グローグーがまだここにいたなら。
もし、自分の未熟さのせいで、あのディンが命よりも大切にしていた小さな命まで、この炎に巻かれていたとしたら。
「私は、あの瞳を裏切るところだった」
ディンの、愛に溢れた、けれど孤独な瞳。
グローグーを自分に差し出した時の、引き裂かれるような想い。
それを裏切ることは、ルークにとって死よりも辛い堕落になっていただろう。
(君だけは、あのマンダロリアンの温もりの中にいる。それだけで、私はまだ……
ルークは、煤のついた手を見つめ、静かに息を吐く。
自分の未来は、あの時グローグーが予見した通り、険しく孤独なものになったかもしれない。
けれど、かつてディンと過ごした時間、そして彼に「息子」を無事に返せたという事実だけが、今のルークを辛うじて「光」に繋ぎ止めていた。
……元気でいてくれ、二人とも」
炎を背に、ルークは歩き出す。
いつかまた、あの不器用なマンダロリアンが、自分に笑いかけてくれるかもしれない、あの小さな子どもが、自分を待ってくれているかもしれないという、微かな、けれど消えない希望を抱いて。