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やまだ
2026-04-26 20:39:55
1872文字
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アークナイツ
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ロゴ博 未来の話
直前までどんな話をしていたのかよく覚えていない。ということは大した中身のない雑談だったのだろう。
ロゴスが強烈なばかりに記憶したのは、それが途切れた合間にドクターが放った一言のほうだった。
「君もいずれ妻を迎えて子をなすんだろう。せめてその頃にはカズデルが落ちついているといいんだが
……
」
ジャケットを脱いだ気楽な格好のドクターはデスクでタブレットを眺めているから、ロゴスがふと顔を上げても気づかない。読みさしの本を閉じてテーブルに乗せる。
「ドクター」
そっと呼びかけることでようやく目が合った。どうした、と視線で訊ねてくる男にロゴスはちょっと首を傾げて返す。それはロゴスの台詞ではないだろうか。
「ドクター。うぬが我へ何を口走ったか、理解しているか?」
「未来についての話を。カズデルや君に関する」
「我は
……
」
ロゴスは少し俯き、閉じた本の表紙を指先で撫でた。
「別れ話をされたと思った」
ふはっ、と掠れた笑い声はデスクから聞こえた。
「それは
……
すまなかった。ご期待に添えず恐縮だが、まだまだ私は君から離れるつもりはないよ。
……
ロゴス。そう拗ねないでくれ」
「拗ねてはおらぬ。だが、いささか傷つきはした」
ドクターは笑いながら席を立ち、ロゴスの隣に収まった。繰り返し本を撫でるロゴスの手を薄い手のひらでぽんぽん叩き、次にロゴスの膝をぽんとやる。バンシーの王、ロドスのエリートオペレーターに対して、まったく幼児をあやす触れかただった。
ロゴスは目を伏せたまま、傍らに近寄ってきた人間の薄く骨張った肩に頬を寄せる。こんなまねをするのはドクターに対してだけで、あと数十年は新たな対象を増やすつもりもないことを、はたして彼は理解してくれているのだろうか。
「うぬはどうせ百年どころか五十年も生きてはおらぬのだろう」
「否定できる材料がひとつもなくて耳が痛いな」
「その僅かな時のうち程度は、我に憂苦を抱かせぬよう努めるべきではないのか、ドクター?」
なぜドクターからまだ迎えてすらいない、当分その予定もない妻子の話を聞かされなければならないのか。ロゴスはロゴスが示しうる最大の誠意をもってドクターへ向きあっている。それをもちろん理解してくれていると思っていた。それをもちろん受けとってくれていると思っていた。
直接氷の刃を刺し入れられたように胸の内がうそ寒い。信頼が同量でなくともロゴスは構わないが、非相互だと思い知らされるのはさすがにこたえた。
「
……
未来について考えるとき、私がそこに私を置くことはない」
すまなかった、と改めてドクターは謝罪を口にした。わざわざロゴスの目を覗きこみすらする。
「百年後の君の隣に、誰かがいてくれたらいいと空想したんだ。その人数が多ければなお良いと。君が心穏やかに暮らしていたらいいと」
「ドクター」
ロゴスはほんの少し瞼を上げた。ドクターの瞳を見返す。この数字と合理が大好きな男がロゴスなどという個人の未来に祈りを向けてくれることがどれほどありうべかざる事態であるとしても、いくらそれを理解していたとしても、譲れないものはロゴスにもあるのだ。
「うぬは未来の我などを案じてやる必要はない。それよりも今今の我をこそねぎらうべきだ。ドクター、うぬと同じ時を過ごすアエファニルは我ただひとりだというのに、なぜ今後目にすることもない者のために我を軽んじるのだ」
「
……
自分自身に対してひどい言い草だ」
「言わせてもらうが、我に対する先ほどのうぬの言のほうがよほどひどい」
「私は謝ったぞ、ロゴス?」
「我がいつそれを受け入れたのだ、ドクター?」
真顔のロゴスと目を合わせたまま、ドクターはそっと口を噤んだ。
見つめあうことしばし、沈黙が凝縮して質量を伴いかねない頃になって、探り探りで再びロゴスを呼ぶ。うん、と呟くだけの返事をした。
「百年後君の隣にいない私の隣にいてくれてありがとう、ロゴス」
うん、とロゴスはまた呟いた。微笑むドクターから視線を切り、細い肩に寄りかかる。瞼を閉じる。
いつか必ず置いていかれることを、悲しい、とは現在のロゴスは考えない。そんなものはとっくに過去のロゴスが飲み干してしまっているからだ。
ロゴスはこういった時間をただ楽しんでいる。
「初めからそう口にしていればよかったのだ」
これからドクターと共有できる数十年足らず、そのすべてを余さず抱えて生きる未来を決めているから、それ以外の仮定に気を割くつもりなどロゴスにはまったくないのだ。
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