mochimochizucchini
2026-04-26 18:47:20
7298文字
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Reversible

現在執筆中の灰レムレム本のノベライズ版のサンプルです。

※漫画版とだいたい同じ箇所までの掲載となります
※出血描写、捏造モブ・魔物、魔導の解釈妄想などやりたい放題ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです
※こちらは執筆中の作品のため、完成時には構成や表現等が変わっている可能性があります。あらかじめご了承ください







「ファリネ!!」


キン、という音と共にまたも攻撃魔導が弾かれる。


「くっ……
予測はしていたが、全く望ましくない結果に思わず声を漏らす。



予想通り、いや、それ以上にダンジョンの主たるドラゴンは強かった。元々彼らには魔法が効きにくい特性があるのだけれども、今回の相手は『並の攻撃魔法程度ではほとんどダメージが通らない』という、非常に強力な防御性を備えていた。


大量の光弾、炎の矢、氷の刃、雷撃……
ある一つを除き、考え付く限りの属性をあらかた試してみたが、ドラゴンがほとんどダメージを受けている様子はなく、こちらに猛攻の限りを仕掛けてくる。


……これは、短期決戦覚悟で高威力の魔法をぶつけないと勝ち目はないだろう。


光の魔力を杖の先に思いきり集中させる。


「グラッサージュ!!」


今までドラゴンに与えた傷の中でも最も深いものにぶつけようと、光の弾丸を放つ。


すると———


それを待ち構えていたかのように、竜はガバッと口を開くと、僕が放った光魔導を『喰らった』。

そして、スゥ………と光が竜の身体に吸い込まれていくと、今まで与えた傷がみるみるうちに癒えていった。


……そん………………


よりによって、光魔法を吸収する能力があるだなんて。


こいつは———僕にとって、最悪の相手だ。
『すぐに逃げろ』『今の僕では敵わない』
頭の片隅で警鐘が鳴り響く。


———しかし。
脳裏にボロボロになった街の様子がよぎる。


(……このまま逃げ帰れば、あの街の人たちはずっと恐怖に怯えたままだ)


わが身可愛さで撤退し、困っている人々を見捨てるなど、「光の魔導師」を目指す者としての矜持が許さなかった。


僕は、頭を振って自分の心を支配しそうになっていた絶望感を振り払い、もう一度強く杖を握り直した。






——いくら時間が経っただろう。

硬い鱗に覆われた巨体にはちまちまとしかダメージを与えられず、僕は長期戦を強いられていた。魔力補充のためのお菓子はとっくに尽き、精神力にも限界が見えはじめ、いよいよ打つ手が限られてきた時。


——ふと、自分の中の禁じ手である「ソレ」に意識がいった。


僕の、生まれ持った本来のチカラ。
この体に色濃く渦巻く、闇色の魔力。


……ギリギリではあるが、まだ魔力に余裕は残っている。極限まで圧縮した強力な闇の魔導を竜の弱点である逆鱗に当てられさえすれば、形勢逆転できるかもしれない。

もはや後がない僕は、一か八か、賭けに出ることにした。


しかし―――


(……本当に、これでいいのかな)


ふと、そんな思いが頭をよぎった。


———まだ魔導師として未熟だった頃、強力な魔物の討伐の際に限界まで追い詰められた、あの時。

———ダンジョンの攻略中に命の危険に晒された、あの時も。



『世界中の皆を笑顔にできるような光の魔導師を目指す』


声高にそうのたまいながら


真の窮地に陥った時、最後に道を切り拓いてきたのはいつだってこの闇の力だった。


———そして、今回もまた同じ道を辿ろうとしている。




……時間にしてみれば、ほんの一瞬だっただろう。しかし、竜は僕が躊躇して動きを止めた隙を見逃さず―――




次の瞬間、その鋭い爪で僕の腹を切り裂いた。




「がはっ!!!!!」


ドサッ!!という音と共に勢いよく岩の壁に叩きつけられる。
一瞬意識が飛びそうになったが、ここで意識を失おうものなら全てが終わる。
僕は、消えそうな精神の糸をなんとか気合いで繋ぎ止めた。


腹部に焼けるような熱さが走り、大量の血液と一緒に自分の命が流れ出ていくのを感じる。
朦朧としてくる意識のなかで、
恐怖心か、生への執着か、はたまた死の淵に立っているがゆえの気の昂りからか―――



ただ一つ、強い感情が湧いてきた。



『死にたくない』と。



己の中の闇が叫ぶ。


『目の前の敵を蹂躙しろ』


『自分の命を脅かす、この憎き相手を排除しろ』



そして、気がつけば僕は、ただがむしゃらに、杖の先にあらん限りの闇の魔力を込めて叫んでいた―――



「フォレ・ノワール!!!!!!!!!」



弾丸のような勢いで、黒い魔力が竜の喉元を突き破る。


耳をつんざくような断末魔が洞窟中に響き渡り、竜は地響きを立てて倒れると———やがて動かなくなった。



……………した………?」



暫く警戒していたが、ドラゴンが起き上がる気配は全くない。
どうやら僕は、賭けに勝ったらしい。



…………った…………



戦いが終わり緊張の糸が切れたからか、切り裂かれた腹部に凄まじい痛みが襲ってきた。
そして、


「ゴホッ!!ゲホッ!!!」


喉元から液体がせり上がってくるのを感じ、思わず咳き込む。ビシャッ……と不快な音を立てて口元から血が滴り落ち、鉄臭い味が口の中いっぱいに広がった。

もはや立っていることすら叶わず、僕はそのまま崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。

治癒魔法を使う余力もない。
全て、あの一撃を放つために使ってしまった。


……またしても、最後にこの身を助けたのは、他でもない闇のチカラだった、というわけだ。


 (やはり、『己の力からは逃れられない』……ということなのかな……………)


とんだ皮肉だ、と心の中で苦笑する。
ただ、今回ばかりは判断が遅すぎた。
腹からの出血は止まる気配が全くなく、体温の低下と共に生命力が弱まっていく。 


……僕もとうとうここまでか……………


だが、少なくとも、討伐の依頼は達成した。
これで、街の人たちがドラゴンの脅威に脅かされることは無くなるだろう。
ダンジョンの主が倒されたことで、他の魔物たちも暫くは大人しくなるはずだ。
「相打ち」という形にはなってしまったが、この竜による犠牲者は僕で最後となるだろう。そのことだけは、心の救いだった。


いよいよ死期が近づいてきたのか、走馬灯のように様々な記憶が流れては、消えていく。


ぼんやりとした意識の中———ふと、『彼』の姿が思い浮かんだ。


僕と瓜二つの容姿をもった、はいいろの『彼』。




ビターなお菓子と静かな場所が大好きで、プライドが高くて、皮肉屋で。
何を考えているのか読めなかったり、自分にとって「不愉快だ」と感じた人をお菓子にしてしまったりと、ちょっぴり困った人。


だけど本当は、不器用ながらも優しさを持った人。


かつて彼の身に何があったのか、まだ尋ねたことはない。だけれど、彼は「僕自身」であるからか、なんとなく分かってしまう。


『あまり人のいる場所を好まず、普段も静かな場所で過ごしている』

『人を助けるために積極的に動こうとしない』


……かつては真っ白だったであろう、光の象徴たるその魔道服が、灰色にくすんでしまった理由が。


きっと、人を信じられなくなってしまうくらい、心に深い深い傷を負うような辛いことがあったのだろう。他人ひと を助けるために光の魔導師になったのに、その他人ひと から裏切られるというのは、一体どんな気持ちだろうか。


それでも、僕と出会い交流を重ねるようになってからは、僕自身や、僕の周りの人たちを、彼なりに受け入れようとしてくれている。



僕を知る者は、みんな「レムレスと『彼』は真逆だ」と言うけれど。僕は、どうしようもなく彼が自分そっくりだと感じてしまう。


僕とは違う道を歩み、そして、少しボタンをかけ違えてしまっただけの。

もしかしたら「あったかもしれない」———別の僕の姿なのかもしれない、と。


「彗星の魔導師」として、幼いころから周囲の期待を背負ってきた僕は、苦しい事や悩み事があっても誰にも相談できず、長い間孤独だった。


僕にとって、彼は本当の意味で「心から」お互いに分かり合える存在だった。




『彼』のいつも余裕に満ちていた微笑と、僕が目指していた色に限りなく近い、淡い灰色の魔導服を思い出す。


……『いつか必ず、皆を笑顔にする光の魔導師になってみせる』って、彼に誓ったのにな。


………約束………守れなくて……ごめんね…………


もはや殆ど何も映していない目の端から、冷たいモノが流れ落ちる。


……ああ。せめて死ぬ時は、こんな寂しい終わり方じゃなくて。


『彼』と一緒に、とびっきりあまーい幸せに包まれていたかったなぁ。


……そんな、叶わぬ願いを抱きながら。




―――僕の意識は、そこで途絶えた。