絢姫(あき)
2026-04-26 16:22:33
13178文字
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わたおし怪文書2026


まず前提として、
わたしは本の虫ですが、理路整然としたわかりやすい読みやすい文章を書くのは得意ではありません
読んでてナニコレになったらすみません、先に謝ります

妄想力全開にして小説に書く以外で自分の言葉をわかりやすく読みやすい文字にするのが苦手なので、
全部映像に叩き込んで、言いたいことは動画にぶっこんで置いてきました

なのでこれは推し語りとヘキつめ妄想、己の情緒を破壊するための動画です
わたしの節穴妄想眼球フィルターを通してみるとこうなってるので、わたしの萌えはこうなので、そこはキニシナイ

【わたおし2026/超M3F2026】ナイトルール【Ib/Ibmmd】


とはいえ、いくら推し語りとはいえもうなにもかも全て全部がわたしの妄想からの派生、
私の中のエンディング後の解釈なので
説明無いと多分何が何だかわからないので
苦手なりにここにまとめます
ドン引きされるくらい書いていいよってことだったので、遠慮会釈なく書きます


  って言ってたんですが、まとめてたら案の定まとまらなくなったのと、
  解説書こうとしてもうこれ小説書いたほうが早いよってなったので小説書きました←
  下にあります

余談ですが、世界観引っ張られる気がしたので、ご本家様のSSは今に至るまで読んでません
人によってそこツッコミどころかもしれないので念のため、似せようとして文字書いてるわけではないことを明記しておきます

違うんだ、マジで動画解説しようとしたらもう物語にしかならなかったんだ
だって、ここはこうでこうで、こういう意図があってこうで、みたいなの書いてたら情緒が苦しくなっちゃって


あとギャリーさんが煙草吸うのも集団幻覚であって、
公式では特にそこ何も言われてないと思います
でもわたしの妄想の中では吸うので、これでいいのです(?)

そして本当にどうでもいいですが、わたしの妄想の中で吸ってるのはキャメルかピアニッシモ(販売終了してる)です
レトロもしくは細いの吸っててほしくてですね(なおわたしは非喫煙者)

とりあえずもうクリア後推奨です、すべてにおいてネタバレしかありません
なにしろエンディング後の妄想から始まっているので、そもそも論としてエンディングを知らないと何もわからないなになにをどうしてどうなってるのこれはいったいになります本当にすみません

でもわたしのこのジャンルにおいての萌えの原点はここなのでもうこれはやるしかなかったんです



さて
この曲が好きです
ずっと昔から
それこそMMDに来る前から

モーション作り始めて最初の歌唱(公開順は別として)これだった気がする
捜しても探しても無くて、そもそも踊ってみたも無くて
もうどうしようもなくてわからなくて自分で作った

もともと痛くて切なくてしんどい曲がすごく好きなので
心抉ってくるようなものが大好きで

今回、わたおし何やろうかなと思った時に
まず頭に浮かんだのがこれでした

それでも、ドリームレス・ドリームスの時みたいに明確な「これをやりたい(この時は全END回収だった)」があったわけではないので
最終的に形が降りてくるまでなんか時間かかりました
正直間に合わないのではとおもいつつちまちま作っていたので、なんとかなってほっとしてます

あとせっかくつくったので何かに使えるかもしれないのでフルリップを配布します
ステージは作ったはいいけどあまりに簡素過ぎて使えなくね?しまして

でもあの、そもそも最初無かったから歌唱作ったわけで、
当たり前なんですがMMDのフルダンスモーション無いんですよ
無いんですよ
まさかに昔つくった歌唱モーションでやるのもなんか違うしたし
そもそも1番までしか作ってなかったし、歌詞考えたときにどうみてもなにしてもラストまで行かないと話がつながらなくて(追憶と決別がテーマなので)

でも展開が降りてきたら頭に色々と映像が出てきちゃってもうやるしか無くて
よしわかったやれるとこまでやろうって思って、やりました



大前提としてわたしの中のIbエンディングの根幹は
『忘れられた肖像』です
フリゲ時代にプレイ動画見て自プレイして、
『ひとりぼっちのイヴ』END周回してから3回目くらいにようやくたどり着いたのがこのENDで
そもそも置いてっちゃう時点でしんどくて
なにもかもつらいままこのENDにたどり着いちゃって、
もうわたしは心鷲掴みにされて
『なんだこのゲームなんだこのゲーム!!!やばい、痛い、苦しい、しんどい!』
ってなったのをよくよく覚えています

そのあと周回して全エンド回収してますが、
やっぱりこれが一番わたしの中で印象強くて、ずっと棘みたいに刺さってますすき



長くなりましたがこの動画は
その後日譚を勝手に妄想したものです

なので、あれからまた美術館に来たらどうなる、を妄想して動画にしてます



さてでは動画で絶対誰も気づかないだろってとこ記載していきます

初っ端なぜこの配置かって、クリア後のエンディングで飾られるのがここだからです
窓から入れ替わるのは肖像の額縁なんですが、これ言われないと多分誰も気が付かないのでは
蛇口のポタリは例の絵の時に作った唾ですサーセン 垂れる絵の具はアニメ(と言っていいのか)描きました
あと今回の動画の背景は全部絵です、スカイドームは回想のところの「メアリーのおもちゃ箱」以外使ってません
お絵描きたくさんしました

今回音ハメ頑張ったので、ライトの光とか、画面切り替わりとか、カメラとか、うまいこと音にはまってるととても嬉しい所存

なお、回想しているのは例の「先に行ってて」シーンです(わかんないよそんなの)
だから一応、背景がおもちゃばこなんですよあの廊下まだ作れてないからこれにしたけど、本当はちゃんと廊下の落書きにすべきだったことは反省しております

ほらわたしの情緒壊すのが第一目的だからさ

右手で煙草にするか左手で煙草にするかすごい悩んだんですが
親が両方で吸ってたわ~と思い出して、「まいっか」したので動画では右で吸ってますがサムネでは右手でライターです

絵画の世界で火はダメだって?
火気厳禁つけたから許して!煙草吸うとこ好きなんでどうしても外せなくてですね

口から吐く煙草の煙と、白い息は自前でアニメ描きました

あの、ギャリーさんそもそも原作では別にそんなニヒリズムなお顔ほぼしないんですが
わたしのなかの妄想では(以下略

薔薇にお水ぱああ、も手描きです
最近クリスタくんにとてもお世話になっている

余談ですがわたしはトレーサーでもモデラーでも絵描きでも文字書きでもないです
推し活をする人です(ほんまに
やりたいことに必要だからやってるので、最終的には推しを己のヘキ塗れで「これが!わたしは!好きなの!」をやりたい人です
推し活はいいぞ



あとあの、ギャリーさんと偽ャリーさんの関係性は今回の動画では全無視ですすみません
基本路線は変わってないので、己の中では同一視してますが(語ると長い、ちょっと違くて細かい自己解釈あり)そこはあまり考えてません
その辺は過去結構語りまくったので割愛します



ここから妄想爆発
なおこの時点では「えいえんにここにいろ」状態なことがご自身でわかってるので、でも笑顔にこたえてあげたくてでも期待もさせたくなくてすごい苦い顔してます
なので手つないでも目は泳ぐんですよ(わかんないよそんなん)

嘘で清算するんでしょ、嘘もつきたくないけど本当のことも(以下略
痛みなんかないんですよ、だっていまはもう(以下略
もうこのへんでシンクロ率やばすぎて情緒崩壊
作りながらボロ泣き
後半に向けて結構怒涛の展開なんですが、自分が思い描く妄想とそりゃあもう歌詞が合うわけです

怖くて悲しくてさみしくても、ひとり残る選択をするんですよ、オネエの矜持でそれをするんですよ、でも本当はしんどいはずなんです(全て妄想です)
押し殺して笑うとことかもう情緒が(なにもかも妄想です)

公園のベンチにひとりぼっちしてるシーンはどうしてもやりたかったのでやりました
茨のアスレチックも自作です茨8本使ってモーフとボーン移動で組んだからもう二度と再現できない(できるけどめんどい)ステージ



一応、サムネは手描きです
雨ん中で煙草吸えねえよとか、ライター火つかねえよとか、その辺はもう私の妄想なので(以下略
絵師ではないのでいろんなものが適当ですがもうそこは見ないふりしてもろて




ほんまに最初から最後まで妄想しかありません
全てがわたしの自己解釈の海ですあしからず

また、この動画のラスト自体はいわゆるバッドエンド寄りです
それも人を選びそうだなと思いつつ、わたしはバドエン大好きメリバ大好き民なのはきっともう皆様TLでお察しでしょうから、全部まるっと許していただいて
なお、わたしの中のハッピーエンド(メリバ)は支部の小説でもうすでに大容量書き上げているので、今回はそっちに行かなかったルートです
ご興味あったらどうぞ、ただあの本当に自己解釈と萌えとヘキしかないですし無茶苦茶重いです

  ・或る幽霊の噂
   https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26043177



とはいえやはり切な苦しい、苦重い、双方向矢印の激重感情の投げ合いすれ違い通信は最高に好きなので、
きっと今後も同じようにおっも!おっもい!くるしいこれ!なにこれ情緒ないなる!って言いながら動画作ったりなんだりかんだりしていると思います
こればっかりはもうヘキだから仕方ないんだ


そして上記書きながらストーリー解説書いてたらあまりに情緒がしんどくて、ちょっともう自家中毒起こしそうで
冒頭で書いた通りそのまま小説書く方が楽だったので下に置いときました、
駄文ですが、最終的に何がどうなってどういう状況でどういうふうになって、最後どうなったのかが、動画見てるだけよりもわかりやすいかもしれないです(文章下手すぎてわからないかもしれないですすみません)

え?文章がウザい?文字がイタい?
いいんですよわたしオタクだし永遠の厨二病なので(開き直り
好きを好きと言い放つためには射出口は多ければ多い方がいいと思ってるので
絵だろうが文字だろうが動画だろうが、世界の中心で萌えを叫びますハイ


歌詞がもう好きすぎて苦しすぎてもう何も言えない
とにかく苦しい
とにかく切ない
心臓の真上から何かを握りつぶされるみたいなこの感情がちょっとでも伝わってたら嬉しいです


いつも情緒不安定で妄想ばっかりですみません
愛と萌えだけでなにもかも作ってるのでどうか生暖かい目で見ていただけるとありがたいです







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訣別

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(開幕)

 ゲルテナ展の白い壁は、以前と変わらず、ひどく静かだった。
 磨き上げられた床に、来館者たちの足音が淡く反響している。低く抑えられた話し声、紙のパンフレットが擦れる音、遠くで誰かが息を呑む気配。そのすべてが、ひとつの大きな硝子の箱の中に閉じ込められているようだった。

 イヴは、母親の少し後ろをちょこちょこと歩いている。
 歩きながら、ふと思う。多分、前にも、ここへ来たことがある。

 そのことだけは、なぜかはっきり覚えていた。
 けれど、そこで何を見たのか。何があったのか。誰と話したのか。そういった細かな記憶は、霧の向こうに沈んでしまっている。
 ただ、時折、胸の奥で小さな空洞が口を開ける。
 何かを忘れている。とても大切な何かを、どこかに置き去りにしてきたような気がする。

 それは、日常の隙間でふいに疼いた。
 朝の光の中、窓ガラスに映る自分の横顔を見たとき。
 知らない街角で、紫がかった花を見つけたとき。
 青い色をした何かが、視界の端にふっとよぎったとき。

 理由はわからない。それでも、その痛みだけは、名前を持たないまま、ずっとイヴの中に残っていた。

 美術館の奥へ進むにつれて、人の気配は少しずつ薄れていく。壁に掛けられた絵画たちは、それぞれ沈黙したまま、こちらを見ているようでもあり、知らぬふりをしているようでもある。
 気づけば、母親の姿は少し先へ行ってしまっていた。白い壁に囲まれた展示室の片隅で、イヴはひとり、足を止める。

 あたりは静まりかえり、遠くからかすかに靴音が響いてくるだけだった。

 そして。

 イヴは、ある一枚の絵の前に立っていた。
 そのタイトルは、忘れられた肖像。

 褪せた色彩。暗がりの奥に佇む、ひとりの青年。
 くすんだ緑のコート。紫がかった髪。どこか疲れたように伏せられた顔。
 絵の中の彼は、眠っているようにも見えた。けれど、その姿にはどこか憂いがあり、イヴはなぜか目を離せなくなる。

 胸の奥が、ひどくざわついた。理由はわからない、けれど、知っているような気がする。

 この絵も。
 この空気も。
 この――描かれている、この人も。

 イヴは、吸い寄せられるように絵へ近づいた。
 指先が冷え、喉の奥が震える。頬に触れる空気が、急に湿り気を帯びたように感じられた。

 どうして。
 どうして、この絵を見るだけで、こんなにも苦しいのだろう。

 額縁に収まったガラス越しの青年は、相変わらず目を閉じている。
 けれどイヴには、彼がただ眠っているのではなく、何かを待ち続けているように思えた。

 長い、長い時間を。誰にも呼ばれないまま。誰にも思い出されないまま。

 そのときだった。
 絵の中の青年が、ゆっくりと目を開く。
 その瞳が、冷たいガラスを通り越してまっすぐにイヴを見て、静かに微笑んだ。
 急速に世界が音を失っていく。
 展示室のざわめきが遠ざかり、白い壁が波打つ。床が柔らかく沈み、空気が古い絵具の匂いを帯びていく。

 イヴは手を伸ばした。

 誰かが呼んだ気がする。母の声だったのかもしれないけれど、もう聞こえない。
 額縁の中から、夜に似た冷たい絵の具があふれてたかのように見え、思わず目を閉じる。次に目を開けたとき、イヴは薄暗い廊下の壁の前に立っていた。
 ひび割れた床。歪んだ額縁。どこからか聞こえる、かすかな擦過音。濁った空気の中には、古い絵具と埃と、花が枯れる直前のような甘い匂いが漂っている。

 その匂いを知っていた。

 そう、知っている。忘れていたはずなのに。
 錆びついていた記憶の蓋が開いていく。

 小さな赤い薔薇。
 青い薔薇、黄色い造花。
 追いかけてくる人形。
 動き出す絵画。
 誰かが差し出してくれた手。
 優しい声。
 臆病なのに、いつも自分を守ろうとしてくれた背中。
 ライター。炎。ひとりぼっち。

 壁にもたれ、動けなくなっても、嘘をつけず、本当のことも言えず、それでも笑おうとしてくれた人。

 記憶が、胸の奥で堰を切るり、押し込められていた色彩が、一斉に戻ってくる。

……イヴ?」

 背後から、響く声。

 振り返るとそこに、ギャリーがいた。
 あの日と同じ姿で。
 くすんだ緑のロングコート。柔らかく乱れた紫の髪。少し困ったように細められた瞳。
 彼の手元には、青い薔薇があった。
 花弁はあまりにも整いすぎていて、瑞々しさも、重みも、香りもない。
 茎は折れず、葉は枯れず、命の痕跡だけがきれいに抜き取られている。

 造花。

 そう思った瞬間、イヴの胸に冷たいものが落ちる。

 彼はここにいる。
 けれど。

 それが告げる事実を、言葉より先に理解してしまう。
 その理解があまりに怖くて、イヴは目を逸らした。

「ギャリー……!」

 泣きそうになって、想いが逸るままに駆け出した。
 足元の床が軋んだ気がする、壁の絵がこちらを振りむいたかもしれない、どこかで何かが笑ったような気配がした。そんな違和感を全てかなぐり捨てて、ぶつかるように、ギャリーの胸へ飛び込んだ。

 彼の腕が戸惑うように宙を迷い、それから、そっとイヴを受け止める。
 触れられる。ここに居る。
 その事実だけで、イヴの胸はいっぱいになった。

「会えた……

 声が震える。

「ギャリーに、また会えた……

 その声を耳にすると、少しだけ目を見開き、それから困ったように笑った。

……もう。アンタって子は、本当に……

 言葉は軽いのに、その奥には、重いものが滲んでいる。
 彼の腕は確かにイヴを抱いている。けれどその抱き方は、壊れものに触れるように慎重で、どこか苦しげだ。
 イヴは顔を上げる。ギャリーも、イヴを見下ろしている。あの日の続きを、もう一度始められるような気がした。
 けれど。
 胸の奥で、記憶がまだ疼いている。どうしても、どうしても指の震えが、しがみつく手が離せない。
 ギャリーは、そんなイヴを見つめて、わずかに目を細めた。

……思い出しちゃったのね」

 その声は優しくて、どこか諦めを含んでいた。イヴは何も言えず、ただ彼の袖を握る。この手を離したら、またすべてが消えてしまいそうで怖かった。

「ねえ、ギャリー」

「なあに?」

「一緒に帰ろう?」

 言えば叶うと思いたかった。言葉にしてしまえば、今度こそ彼の手を離さずにいられるのだと、そう信じたかった。
 ギャリーの表情がほんのわずかに揺れる。すぐにいつもの笑みに隠されるほどの、微かな翳り。

……そうね。出口を、探してみましょうか」

 怖いくらいに落ち着いた瞳で、優しい声で、彼は答えた。まるで、何もかもわかっている、と言うかのように。


 それからしばらく、ふたりはあてもなく絵画の世界を歩いた。不思議と足取りは軽く、歪んだ回廊さえ、どこか懐かしい。ひび割れた床さえ、秘密の通路のように思えて笑いが零れる。

 冷たい壁に鍵のかかった扉。
 額縁の中で蠢く瞳。
 歩き回るマネキンたち。
 遠くで転がる青い人形の頭。

 非現実的なそれらは、かつて確かに怖いと思ったし、実際、恐ろしいはずなのに、それでもイヴの心は弾んでしまう。
 ギャリーが隣にいるのだ。手を伸ばせば届く。手を繋げば、握り返してくれる。ただそれだけで、世界の色が少しだけ明るくなった気さえする。

「ねえ、こっち」

「ちょっと、イヴ。あんまり急がないの。足元、見て」

「大丈夫」

「大丈夫って言う子ほど危ないのよ、まったく」

 ギャリーが呆れたように笑い、イヴも、つられて小さく笑った。


 その笑顔を見て、ギャリーの胸が締めつけられる。
 嬉しい。そう、嬉しいのだ。会いに来てくれたことが、どうしようもなく嬉しい。忘れていたはずなのに、思い出してくれた。もう誰も自分の名を呼ばないと思っていた世界で、イヴだけが、もう一度、彼を見つけてくれた。
 それはずっとひとりでいた彼にとっては、途方もない救いであり、そして同時に、ひどく残酷な現実でもある。


 この子を、あるべき場所へ帰さなければならない。


 幸福のすぐ隣で、その事実が冷たい刃のように光っている。
 
 ギャリーは、自分の薔薇に目を落とした。
 青い造花。命の代わりに飾られた、作り物の証。もう、自分は外へ出られない。出る方法があるとすれば、誰かと入れ替わることだけ。

 そして、その誰かがイヴであるなら。
 そんな選択など、ありえない。

「ギャリー?」

 イヴが振り返る。
 ギャリーは一瞬目をそらし、すぐにごまかすように笑った。

「なんでもないわ。ほら、行きましょ」

 イヴはうなずいて、また彼の手を引く。その指先の温もりが、ギャリーには痛いほど愛しかった。
 けれど、歩いても歩いても、出口は見つからない。
 扉を開ければ、同じ廊下へ戻る。
 階段を下りれば、見覚えのある部屋に辿り着く。
 見知らぬ道を選んだはずなのに、いつの間にか、最初の絵の前へ立っている。

 (わかってる)

 何度も試したのだ。

 (わかってるの)
 
 壁に掛かった絵を動かし、鍵を探し、床の模様を辿り、記憶を頼りに隠し扉を探す。

 (だけど)

 ギャリーの手を引いたまま、何度も、何度も。

「こっちなら」

 違う。

「じゃあ、ここは?」

 違う。

「この絵の奥に、道があるかも」

 そこにも、何もない。

 最初のうちは笑っていたイヴの声が、少しずつ小さくなっていく。それでも、止まれない。
 止まってしまえば、答えが見えてしまう。見たくないものが、形を持ってしまう。

「大丈夫……

 イヴは呟く。

「絶対、一緒に帰れる。いっしょに……

 それはギャリーへ向けた言葉であり、同時に、自分自身へ言い聞かせるための言葉だった。
 ギャリーは何も言わない。
 言えない。
 その小さな背中を見つめながら、胸の奥で何度も言葉を飲み込む。


 もうやめて。
 そんなに自分のために傷つかないで。


 けれど、イヴが自分を諦めようとしないことが、あまりにも嬉しい。嬉しくて、苦しい。

 やがて、幾度目かわからない廊下の果てで、イヴは立ち止まった。
 目の前には、あの大きな絵。いつかも、ここから帰れた気がする。そこから先だけ、空気が違っていた。

 現実の匂いがする。
 美術館の静けさ。
 白い壁。
 人の気配。
 零れ出る光。



 ――出口だ



 そう思った瞬間、イヴの胸は跳ねた。ぱっと顔を上げる。

「ギャリー、ほら……きっと出口だよ。行こう!」

 繋いだ手を強く引いた。今度こそ離さないように、今度こそ、置いていかないように。
 でもギャリーは動かなかった。ほんの少しも。イヴの手の中にある彼の指先は確かに温かいのに、その足だけが、この世界に縫い留められてしまったかのように動かない。彼は白い光を見つめたまま、どこか悲しそうに、けれどひどく穏やかな笑みを浮かべていた。

……ギャリー?」

 声が震える。呼びかければ、いつものように「なあに?」と返してくれるはずなのに、いまは沈黙しか返してくれない。
 その瞳には、諦めと優しさが混ざっていた。イヴを傷つけまいとして、けれど、どうしても隠しきれなかった悲しみが、薄い影のように滲んでいる。

……わかってるんでしょ、イヴ」

 ギャリーは、すまなさそうに笑った。

「アタシは、この先へは行かれないの」

 イヴは首を振る。そんなはずはないと、言いたかった。だって、出口はそこにある。光はこんなにも近い。手だって、まだ繋いでいる。
 なのに、ギャリーの足元には、光が届いていなかった。彼の影は、こちら側の床に縫いつけられたまま、少しも揺れない。まるで油彩で描かれた絵のように、差し込む光に揺らぐことが無いまま。

 知りたくない。でも、理解してしまう。ふたりでは、通れない。
 その事実が、音もなく胸の奥へ沈んでいった。
 どの道も、どの扉も、ずっと同じことを告げていたのだ。ここから出るためには、何かを置いていけ、と。

 そう、とっくに気づいている。もうずっと前から。この世界の仕組みに。
 誰かが残り、誰かが出る。それが、この場所の約束なのだと。

 それなら。

……じゃあ、わたしが)

 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎる。
 自分が残ればいい。だって、そうすれば、ギャリーは出られる。彼は現実へ戻れる。青い薔薇を取り戻せなくても、少なくとも、この世界からは出られるかもしれない。
 その考えがあまりにも自然に浮かんだことに、イヴ自身が震えた。指先が冷える。胸の奥に、ひどく静かな決意の欠片が生まれて、そして。


 強く、腕を引かれた。


「ダメよ」

 低く、鋭く、今まで聞いたことがないほど真剣な声で制止される。
 ギャリーがこちらを見ていた。まっすぐにイヴの奥を見抜いている。

……何、考えたの」

 答えられずに唇を噛んで黙り込んでしまう。その沈黙だけで、ギャリーには十分だった。

「ダメ。絶対にダメ」

 ギャリーはイヴの両肩を掴む。
 けして強くはないけれど、迷わないように、壊さないように。そして、自分自身が揺らがないように。

「そんなこと、アタシが許すわけないでしょう」

「でも……

……アタシと一緒に沈むなんて、絶対に許さないわ」

 声が震えている。その震えを聞いて、気づいてしまった。
 彼は、自分を手放そうとしているのではない。手放したくないのに、手放そうとしている。引き留めたいのに、帰そうとしている。その矛盾の中で、それでも笑おうとしている。

「アンタは帰るの」

 それは優しい、けれどまるで祈るような優しい拒絶だった。

「帰らなきゃいけないの」

「ギャリーは……?」

 声が掠れる。

「ギャリーは、どうするの」

 問いかけられた瞬間、ギャリーの表情がほんのわずかに止まった。
 用意していたはずの言葉が、喉の奥でほどけて消えてしまう。

 本当は、言いたいことがいくつもあった。

 一緒にいたい。
 置いていかないで。
 どうか忘れないで。
 この手を、離さないで。

 けれど、それらはすべて、彼女の未来に絡みつく枷になる。どれもが、彼女をこの場所へ縛りつける言葉だった。自分の寂しさを埋めるための、エゴ。
 だから、ギャリーはそれらすべてを喉の奥へ押し込める。
 そして、彼は笑った。いつものように、少し困ったように、優しく。

「アタシは、ここにいるわ」

 残った言葉は、もうそれだけだった。


 イヴは首を振る。

「いや」

「イヴ」

「いや……!」

 涙がこぼれる。
 今度こそ助けたかった。
 今度こそ置いていきたくなかった。
 あのとき、先に行ってしまったことを、ずっと覚えていなかったくせに。
 思い出した途端、その後悔だけが胸を切り裂く。あのとき離した手を、今度こそ掴みたかった。

 なのに。

 どんなに足掻いても、どれだけ願っても、結末は変わらない。
 ギャリーを救う道はない。
 ふたりで外へ出る道はない。
 その現実が、ようやく逃げ場のない形でイヴの前へ立ちはだかった。絶望に窒息してしまいそうで、息を吸うこともできず立ち尽くす。
 ギャリーはそっと手を伸ばし、彼女の頭を撫でた。指先は温かい。生きている。ここで。だから余計に、残酷だった。

……泣かないで。アタシのために、アンタがここに残るなんて、絶対に嫌よ」

 その手は、いまここに、あるのに。

「でも、ギャリーが……

「アンタは外へ戻って。ちゃんと生きて。綺麗なものを見て、美味しいものを食べて、たくさん笑って……それで、」

 言葉が一瞬途切れる。息を整え、喉の奥に詰まった願いを飲み込んだ。
 忘れないで、とは言えなかった。この世界から出れば、イヴはまた忘れるかもしれない。それでも、その方がいい。覚えて苦しむくらいなら。自分を覚えて、この場所へ戻りたいと願うくらいなら。

 忘れてしまった方が、きっといい。

……それで、幸せになりなさい」

 イヴは何も言えなかった。ただ、 最後の抵抗のように、ギャリーの手を掴む。この手さえ離さなければ、まだ終わらないとでも言うようにしがみつく。
 大きな絵の向こうには、白い光が満ちている。現実へ続くはずの場所、帰らなければならない場所。イヴは、その縁に立ったまま動けなかった。

 帰らなければいけないことは、わかっている。ここに残ってはいけないことも、わかっている。ギャリーが自分を帰そうとしている理由も、痛いほどわかっている。
 それでも、足は動かなかった。
 理性は理解しているのに、心だけが納得しない。
 一緒に帰りたいのだ。今度こそ、手を離したくない、置いていきたくない。

「ギャリー……

 かすれた声で名を呼ぶ。
 その声に、ギャリーの表情が一瞬だけ歪んだ。
 本当は、引き留めたかった。その手を握り返して、ここにいてと願いたかった。
 怖い。悲しい。寂しい。また忘れられるのが、たまらなく怖い。
 けれど、それでも。

 イヴをここに残すことだけは、できなかった。

……ごめんね、イヴ」

 ほとんど息のような声で呟き、そして、イヴの手をそっとほどいていく。拒むように強くつながれたその指を、一本ずつ、ゆっくりと。イヴの瞳が大きく揺れた。

「ギャリー……?」

 その声が、あまりにも幼く、あまりにも悲しそうで、ギャリーは泣きそうになる。
 
 いやだ、アタシったら。泣き顔でお別れなんて、らしくないわ。
 思い出の中に、微笑みを残せるなら、せめてそれだけでもいいじゃない。
 それに、アタシは大人なのよ、しゃんとしなきゃ。仮にもしイヴが忘れてしまうとしても、泣き顔でお別れするよりはよっぽどいいわよ。

 そう思ってふわりと笑う。


「さよなら」


 次の瞬間、ギャリーはイヴの肩をそっと押した。花を風に揺らすように優しく、けれど、確かに向こう側へ届くようにと願いを込めて。
 イヴの体が、白い光の中へ傾く。

「ギャリー……!」

 慌てて伸ばされた手が、届かないまま空を掴む。

 ギャリーは反射的に手を伸ばしかけた。もう一度、その手を取ってしまいそうになる、その手が、空中で止まった。
 握ってしまえば、離せなくなる。離せなくなれば、きっと自分はもう、彼女を帰せない。
 だから、彼はその手を握らない。
 代わりに、小さく手を振った。泣きそうな顔を隠すように、安心させるように、ちいさく笑って。


……忘れていいのよ」


 それは、イヴに届いたのかどうかもわからないほど小さな声だった。

 白い光が満ちていく。絵画の向こうで、イヴの意識がほどけていく。最後に見えたのは、笑顔。手を振りながら、ひとりこちらを見送っている。反対の手には、青い造花が、静かに咲いていた。



 ふと気づけば、イヴは美術館の片隅に立っていた。

 白い壁と磨かれた床、遠くから聞こえる人々のざわめき。すべてが元通りに見える。イヴは瞬きをしてあたりを見回した。

 目の前には、一枚の絵。
 暗い背景の中に、ひとりの青年が描かれている。それは眠っているような、永遠に何かを待っているような姿で、こころなしか、微笑んでいるように、見えた。


 どうして、自分はここに立っているのだろう。
 どうして、この絵をこんなにも長く見つめていたのだろう。
 どうして、胸がこんなにも痛むのだろう。

 理由は、わからない。



 だけど、

「イヴ、そろそろ帰るわよ」

 思考を遮るかのように、母親の声が響いた。
 閉館時間が近いのだろう。人の数は少なくなり、係員が静かに巡回している。
 イヴは、もう一度だけ絵を見た。何かを思い出せそうな気がする。

 それはたとえば名前のようなもの。
 あるいは声のようなもの。
 もしかしたら優しい手の感触かもしれない。

 けれど、すべては指の間をすり抜ける水のように、掴もうとするほど遠ざかっていく。

……うん、おかあさん」

 イヴは小さく返事をし、踵を返して歩いていく。足音が白い床に小さく響く、その背後で、あの絵は静かに佇んでいる。

 誰にも呼ばれず。
 誰にも覚えられず。
 忘れられたまま。

 扉が閉じ、光が途切れ、絵画たちは再び、静寂の中へ沈んでいく。少女の胸の奥に残った小さな痛みだけが、名もない花の棘のように、いつまでも抜けなかった。




(終幕)



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ではまたどこかで。
2026.04.27