shiroyakei
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お茶会

オロイフ旧ワンドロワンライ
(現ツーウィークドロライ)
第8回『お茶会』より

 がたがたと、野菜たちが入った木箱がみっつ、花翼の集の坂を上がっていく。ごとごとと木箱の中で転がる音は、今朝捕れたばかりの新鮮なジャガイモたちだ。木箱の主は前が見えていないような状態でも、慣れた足取りで坂をずんずんと歩いていく。まるで木箱がひとりで歩いているかのような光景だが、集いの人々も見慣れているのか、気さくに彼に向かって挨拶をした。
「あ! オロルン兄ちゃんだ! こんにちは!」
「やあ、こんにちは。この声はコーティミかな。」
「今日もいっぱい持ってきたんだね、手伝おうか?」
「いや、かなり重いから大丈夫だ。今日のじゃがいもたちは栄養がよく行き渡ったみたいで、ずっしりとしているんだ。君が木箱ひとつ持てるかどうかもわからないぞ」
「僕だって最近力もちになってきたんだよ! イファ兄ちゃんみたいになるためにトレーニングを始めたんだ! そうだ! それ置いたら僕とちから比べしてみようよ!」
 コーティミの声にオロルンはくすりと微笑んだ。
「ならまずは僕の前にイファに勝ってからだな、コーティミ?」
「? イファ兄ちゃんよりオロルン兄ちゃんのほうが力もち?」
「ああ。僕はイファに何百回と勝っているチャンピオンだから」
 診療所の前にごとん、と木箱を下ろすと、聞き慣れた声が待ったをかけた。

「だーれがチャンピオンだって?」
「こんにちは、イファ………
 オロルンが声の主のようすを見て言葉を飲み込んだ。予想をしていなかった光景が、目の前に広がっていたからだ。

 イファの診療所の前は、広く空間が取られている。これは彼の診察において必要なスペースで、体の大きな竜などはここで診療することが多い。オロルンが描いた診療所の看板とともに、このスペースは竜も人も温かく迎え入れている。
その床に敷かれたナタの太陽のようなオレンジの刺繍が入った大きな布製の敷物。花翼の集の道の多くは木製で、イファの家も同様だ。だからこそ、少しでも傷ついた竜が楽に過ごせるようにと、イファが用意したものだった。
そしてその敷物の上に置かれたベンチとランプ。ここにイファはたまに座って、ギターを弾いている。
だが、今敷物とベンチの上で開かれていたのは診療でも演奏会でもなかった。

「ずいぶん楽しそうなお茶会だな、イファ」
「だろ? お嬢さまたちに招待されたんだ」
 太陽のような敷物の上に小さな木製のテーブル。白いハンカチを敷かれたテーブルの上に、小さな木製のティーセットが数セット並んでいる。
 イファはそれに合わせた小さな椅子に、こじんまりと腰掛けていた。いつもの白衣はまとっておらず、彼がストックを持っているほど手放さないテンガロンハットも今はかぶっていない。子供用の小さな椅子に脚を余らせて座っている彼は傍から見れば滑稽だが、彼が子供たちのおままごとに付き合っている、と周囲の人間はきっとすぐに理解するだろう。

「それで、お茶会の主催者は?」
「ヤトランだ今は茶葉が足りないとどこかに行っちまったよ」
「そりゃ大変だな、……カクークはどうした?」
「お茶会の主催と一緒にどこか行っちまったよ」
「それでゲストが留守番かずいぶん面白いお茶会だな?」
「まったくだ、……って、なんでこの椅子に座るんだよ」
 オロルンはイファの隣にあった空席の小さな椅子に腰を下ろした。
 小さな木製の椅子はイファの長い脚を極端に、不格好に余らせていたがオロルンも同様だ。小さな椅子に収まりきらない長い脚を折りたたみ、ぎゅっと体を縮める。
「お茶会の相手がいないと寂しいだろう?」
………そうだなあ、きょうだい、相手してくれよ。お前と一緒に来たコーティミはどこかに行っちまったみたいだしな」
! いつの間に」
 確かに先ほどまでオロルンの隣にいたコーティミが、どこかに駆けていったのか姿がなかった。
ふたりの頭上をクク竜の親子が飛んでいく。大小の影がふたりの顔を数秒覆い、すぐに明るい日差しが戻る。
「いい天気だ。きっと僕の畑の野菜たちも喜んでいるだろう」
「そうだな、きょうだい」

 ふう、とイファが風を受けて微笑んだ。オロルンはその横顔を見てたまらなく思う。
 竜医であるイファがこうやってたわいのない時間を過ごしているのがうれしいのだ。自らの体調不良も押し切って仕事をするような男。戦火が落ち着いた今、たまにはこうやって意味のない、名前のない時間をゆっくりと過ごしてほしい。

「イファ!」
 ひとりの女性がイファを見つけて駆けよってきた。手には大きめのティーポットと、茶菓子が握られている。
「ヤトランの母さんじゃないか」
「イファ、ごめんなさいね、貴方も忙しいのにヤトランのおままごとに付き合ってもらうなんてこれ、ハーブティーよ。今日は日が照って熱いから、冷たいやつ」
「いいのか? 気を使わせてしまって悪いな」
「いいのよ! ほら、オロルンも飲んでね。こんな日が照るところであの子たちに付き合ってもらっていたら、日射病になっちゃうわ。ほどほどにしていいからね」
 僕は今来たばかりだ、大丈夫だから、というオロルンの声はほどほどに、ヤトランの母はティーポットと茶菓子、それと2つのティーカップを置いて自宅へと戻っていった。イファはこういうおせっかいになれてしまったのか、それとも断っても置いて行ってしまうともうくくっているのか、素直に置いていかれた本物のティーカップにハーブティーを入れている。木製のちいさなカップたちと並んで、陶器のしっかりとしたカップからハーブティーが香った。
「ずいぶんと面白いお茶会だ」
「はは、いいじゃないか。たまには」
 伏目がちに微笑むイファを見ながら、オロルンもつられて微笑んだ。喉に流し込んだ冷たいハーブティーが、熱い日照りも緩和してくれる。
 このなんでもない日常が、ずっと続きますように。そう思いながらオロルンは、この名前のないお茶会を楽しむのだった。