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1420文字
Public まほやく
 

《ワンライ》オカオンリーお題「花」(オーカイ)

2026/4/26 オーカイWebオンリーのワンドロワンライ企画に提出した作品です。

 机上の一輪挿しを前に、なにやら唸っている。そこに活けられているのは、この国のどこの路傍にも咲いていそうな野花だ。小さな黄色い花が、可憐というほどの風情もなく、咲き誇るというほどの華もなく、ただそこにある。

「めずらしく悩みごと?」

 背後から声を掛けると、カインはわずかに眉根を寄せて振り向いた――それだけで、「ここは俺の部屋だぞ」も「いつ入ってきた」も、何べんも口にしてさすがに飽きたのか言わなかった。

「花に添える恋文でも考えているの? 任務もそっちのけで色恋に頭を悩まさなくちゃいけないなんて、『中央の色男』はお忙しいね」
「今日、任務がないのはおまえも知ってるだろ」

 そう言うと、カインは花に向き直ってしまう。挑発に乗らないのも、当然のように「おまえも知ってるだろ」と言われるのも、つまらない。
 なにか反論をしようとしたところに、「おまえだったら、どうする?」と尋ねられた。

「南の国の魔法使いたちと課外授業に出かけたときに、ミチルとリケが花摘みをしたんだ。ふたりは楽しそうに花冠なんかを作って遊んでいたんだが、帰るときになって『摘みすぎてしまった』って急に落ち込みだしてさ。せめて余った花の命を無駄にしないように、魔法をかけて綺麗に飾ろうって話になって……

 そこから、フィガロが思いつきで「じゃあこれを宿題にしない?」と言い出し、オズとの「どういうことだ」「花にかける魔法といえば祝福か守護に決まっているように思われてるけど、ほかのやりようもあるんじゃないかと思って。自由な発想を鍛える訓練、みたいな?」「おまえが今日の宿題を考えるのが面倒なだけだろう」「うるさいよ。フィガロ先生は自由な発想を歓迎します!」という会話を経て、そのように決まったということだった。
 ……ばかばかしくて後半はあまりよく聞いていなかった。聞いていなかったけれど、どうすればいいかはわかりきっていると思った。

「《クアーレ・モリト》」

 呪文とともに、瑞々しかった葉が萎れていく。花びらが縮んで丸まり、茎は皺が寄って細くなり、やがて野花はすっかり生気の抜けた茶色い抜け殻になってしまった。

「雑草には、これがお似合いでしょう」
……

 魔法で時間を戻すことはできない。カインの「宿題」は、後戻りができない大失敗となってしまった――痛快だ。
 カインはどんな表情をしているだろうか。ふわりと身体を浮かせて、上から顔を覗き込む。
 ……特に動じた様子はなかった。
 カインは「へえ」と呟くと、丁寧な手つきで一輪挿しから乾ききった茎を抜いた。

「ドライフラワーだな」
「は?」
「冬の長い北の国では、ちょっとした野花も珍しく貴重なものだ。乾燥させて、厳しい寒さを乗り切る心の支えとして、傍に飾ったりする?」
「ちょっと。気持ち悪い話をするなよな。僕がそんなつもりで……

 魔法をかけたわけがないだろ。言葉が途中で途切れたのは、カインがニッといたずらっぽく笑ったからだ。

「ありがとな、オーエン! この発想は斬新だって、フィガロやオズにも褒めてもらえそうだ」
「おいやめろ」
「とある北の魔法使いからのアドバイスを参考にしたって伝えておくな!」
「ふざけるな殺す」

 してやられた。苛立ちながらも、乱暴に触れたら今にも塵になって崩れてしまいそうな惨めな花を、やさしく支え持つ、その手つきをじっと眺めている。