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asahito
2026-04-26 11:01:43
4839文字
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Old Fashioned⑦
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/14625442
一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
例大祭の新刊は予約通販開始してます。
「
……
というわけで、絶滅したと言われている生物たちの化石はこの博物館に展示されているのです。是非見て行ってね」
人前で話すのは苦手であっても、研究の発表などで説明をする機会は多いため嫌でも慣れて来る。醜い私が誰かと顔を向き合わせる仕事なんて絶対にできないと思っていたけれど。
好きな分野を皆に説明できると考えを変えれば、少しは教える楽しさというものも感じてはいる。
頭を下げると拍手が起き。プロジェクターのために暗くしていた部屋も同僚が灯をつけて出口を案内している。
集中して私の話を聞いてくれたのか、背筋を伸ばす少年を見て口元が緩み。父親と母親にミュージアムショップに行きたいとせがむ少女を見てあんな頃もあったと懐かしむ。
土日の来場者が多い博物館では定期的に子供向けのワークショップや、研究発表を子供向けに嚙み砕いた講義を行うこともある。
週によって植物や天体、菌類などの分野別発表になっているのだが鉱石や化石の時は私が発表することも多い。
こういった講義に参加する子供は基本的にその分野に興味のある子供が多いため、話す方も楽しい。化石や骨の写真は受けがよく、ワークショップでも化石発掘の練習のようなものは申し込みが多い。
この中で将来の学者や学芸員が生まれるのであれば、やる意味もあるだろう。
「お疲れ様。この発表終わったら休憩だっけ」
「うん。後片付けお願いしていい」
見送りを終えた同僚が労いでやって来たので私は休憩の意志を示す。丁度お昼の時間になる時にこの発表が終わるとなると、この博物館に併設されているレストランに行きたいと言い出す子供も多いだろう。
物凄い列ができて本当に並ぶ親たちは大変だと思うが。この利益もないと色々な設備も運営できないし、博物館でしか食べられないメニューもあるのでそこも含めて博物館を好きになって貰いたい。
同僚は少し時間をずらして休憩を取る、と言って片付けを承諾してくれた。私は礼を言い職員だけが入れる部屋に昼食を取りに行く。
今日は天気がいいので外で食べようか。この職場は、外に出ても車が走る道にはすぐには出ず座るところも沢山あるので気持ち良く自然を眺めながら食事ができる。
物価も上がり手作りのお弁当、というのが理想だが。朝は時間がないのでコンビニで買ったものがメインである。ユイマンが望むのなら作ってもいいけど、ユイマンの会社は社食があるというのでそちらの日替わりの方が栄養も考えられているだろう。
昼食を入れた袋を回収し、博物館の外に出て空いているベンチに座る。土日は観光客も子連れも多くいつも賑やかで、何かしらの物産展のようなイベントもやっている。
季節によっては大道芸人があちこちでパフォーマンスもしているし。併設の動物園は長蛇の列。何をしても良く何をするにしても大変な、場所。
職場の同僚にばれないように警戒しつつ、前ユイマンと一緒に来た時。ユイマンはこの場所が気に入ったと笑ってくれた。
今度、お弁当でも作って一緒に歩こうかな。ボートに乗ってもいいし、動物園なら彼女の好きな鹿だっているし。彼女が喜ぶならどこにでも連れて行きたい。
だって、彼女は私の家族なのだから。
「
……
」
何も嵌めていない左手の薬指。学芸員の仕事上展示物を傷つけるアクセサリーは禁止のため、業務中結婚していても指輪を外している人は多い。ベルトのバックルや腕時計もダメだ。だからこそカムフラージュに役立ってはいるが。そのカムフラージュという表現も本当は良くないだろう。
ユイマンは毎日指輪を嵌めているというのに。家族の証をつけていたいと思っても、それを阻む自分の心がある。
―
妹は、どんな指輪を嵌めているのだろうか。
空を仰ぎ妹の事を考える。家族の情報を避け続けたせいで親戚の豊姫に教えてもらう始末なのは、悔しいやら情けないやらだが。
あの夜の邂逅以来豊姫は全く私の前に姿を現さない。私の行動など一族の力を使えばすぐに分かると脅した割に、全く音沙汰がないのは反って不気味である。
家の維持で忙しい連中だ。仕事も忙しいのだろう。こんな学芸員ひとりに時間を割く必要はなく、時間を割くなら妹の方に時間を割いてくれた方が有意義だ。
最初は警戒心と猜疑心で帰り道にも気を遣い。
あまりに気が張り過ぎて管理人のチミさんと孫の馴子に『変な奴がうろついてないか』と聞いたり、ごみ収集で来てくれる山姥回収の塵塚さんにも『ごみを漁る変な奴がいたら教えて欲しい』と管理人経由で頼んだが。
馴子に『あんたが一番このマンションの不審者だよ』と直球で言われ。楽器は少しは上達したのかとも聞かれたのでそれ以来黙ることにした。
音楽教室って、ピアノは子供の頃習わされたけど他の楽器とかも習えるそうだが何がいいのだ。
疑いの気持ちにリソースを割いていると仕事にも影響が出る為、研究の発表の準備や例の石の事の調査を進めることにしたが。
あの人から貰った石のヒントは未だ見つけられておらず。悩んでいるうちに向こう側から何かいい鉱石の研究書や論文はないかと連絡が入る始末だった。
どうやら、まとまった休暇を取るらしく私が最近発表した論文などが読みたいらしい。
私よりも素晴らしい研究者は多くいると思うのだけど、それでも私がちゃんと頑張っているかを見に来たと言われれば。見せるしかないだろう。
論文のデータは格納先を教えれば見られるのでメッセージでのやり取りだが。その際、我慢ができずあの謎の石はどこで手に入れたのかと聞いた。
研究者が謎を突き止められず答えを求めるなど情けないが。もうどうしようもないなら聞くしかないのである。
そうして返って来たメッセージは論文提出への感謝と。
『貴方の視ている世界が全ての世界ではありませんよ、磐永阿梨夜くん』
というよくわからない回答だけであった。正直、私を馬鹿にしているのかと思い全ての情報を探ってこの結果なのよと憤慨しかけたが。
あの人は。訳の分からないことは言うが嘘や欺きは決してしない人だから。
きっと別の世界というのは世界中、という意味ではない。未開の地のことかもしれないが、極論を言ってしまえばファンタジーの世界やRPGのような
―
幻想、誰かの造り物の世界が並行して存在することの示唆なのかもしれない。
そんな妄想は子供の頃にとうに卒業したとは思うが。昨今の陰謀論などの動画が溢れてるのを見ると卒業ができない存在も一定にはいるのだろう。
だがその陰謀論と存在する石に何の関りがあると言うのだ。ゾウの骨を見て一つ目の巨人だと恐れた古の人間だっている。この推論も、きっと馬鹿げた妄想にしかならない。
買っておいたおにぎりのパッケージを開き齧る。口の中に広がる味、というのも事実の一つ。経験してみたことは嘘はつかない。
行き来する人間を眺める。これも事実。この中に虚構があるとでもいうのか。AIで作った動画が悪意を以てでっち上げに使われることだってあっても、今私が見ているものは人工知能の記憶ではない。
虚構と、事実の境界はこの先もっと薄くなっていき。虚構に殺されていくかもしれない。それに対抗するのも、虚構の知識なのか。
「
……
ユイマンに、AIの資格ってあるか聞いてみようかな」
今夜はユイマンと一緒に外食をする約束をしているから、その時にでも。
知識をつけたところでAIに敵うわけではなくても。それを知っておくことで、何かから守ることはできるのか。
その日の仕事は問題なく終わり。私はいくつかの電車を乗り継いでユイマンとの待ち合わせの店に着いた。
彼女の行ってみたい店というのは猪肉で有名な店で、かなりの老舗らしい。店の前では猪の毛皮や熊の毛皮が生々しくぶら下がっており、道行く人が物珍しく見ている姿もあった。
今回はちゃんと予約したから時間通りに来てね、というユイマンの主張の通り。時間通りに来られたから胸を撫で下ろす。
鹿肉のお店はいくつか食べ歩いたから他のジビエも食べたいと思っているのだろう。猪もユイマンのお父さんにご馳走して貰ったことはあるが、引き締まった豚肉という印象が強かった。
店に入り予約の名前を告げると。お待ちしてましたと年配の女性に案内される。老舗だけあって店のつくりは古く。通された店は畳の座敷であった。
ユイマンは既に案内されていたらしく、携帯を眺めつつ私を見るとぱあっと顔を明るくし手を振ってくれた。
「では、もうコースを始めてよろしいでしょうか」
「はい!お願いします」
人数が揃ったので案内してくれた年配の女性が料理を持ってきてよいか尋ねる。ユイマンは元気よく返事をした。
最初に飲み物を注文するか聞かれたので、お茶を注文する。あの店主のバーに時間があれば行こう、とは話していたのでお酒は飲まない。
でも少し、距離があるからこのまま食べるだけで家に帰ってもいいな。
年配の女性は調理場へ戻っていった。私は靴を脱ぎ畳の上に敷かれた座布団の上に座る。黒い鍋とガスバーナーに繋がったコンロがすでにセットしてあり、なんだかすき焼きの鍋に似ているなと感じる。
鞄を置いて正座して落ち着いたところで、ユイマンはお仕事お疲れ様と労ってくれた。
「今日の発表はどうだったの」
「うん、子供が結構来ててね。割と評判もよかったし色々熱心に質問もされた」
今は何度もアップデートされたから子供向けの図鑑の質も良いし、何でも情報がすぐ手に入る分難しい質問も増えた。勿論偏った情報を純粋にぶつけてくるため、それを矯正するための回答もかなりしているが。
子供たちがこれだけの疑問を抱きそれに答えられるだけの力量を、自分が持っているのが嬉しいのだ。
「いいなあ。私も阿梨夜の論文の発表とか聞きたい」
「
……
恥ずかしいからダメ」
一番前にユイマンが座って私をじっと見ていたら、落ち着いて発表なんてできない。他の研究者の発表を見に行くのは構わないけど、こっそり私の発表を聴講するなんて作戦を取らない子だから絶対一番前に座るでしょ。
話しているうちにお茶と、先出のモツ煮のような料理が運ばれてきた。猪の肉で統一されたメニューは、お酒に合うようなものも多く隣の座敷で盛大に酒盛りしている方の気持ちも分からなくはない。
「猪スネの煮込みです」
「美味しそう」
ユイマンは目を輝かせてそれを見ているが、私から見ても美味しそうだとは思うし、器も洒落ている。
この店はやはり老舗たる質を持っているのね。次の料理は鹿肉も入っているというから、ユイマンの気持ちも満足するだろう。
今日なコース料理だから料金は決まっているけど。前回行こうとしたときに私の我儘でダメにしてしまった分、追加でユイマンが何か食べたければなんだって注文してあげたくなる。
ユイマンは猪の煮込みを一口食べて満足そうな声を上げている。それを見るだけで、お腹いっぱいなんだけれど私も食べないと。
箸で摘んだ肉を口に入れると、濃く甘い味付けと獣の脂が、葱の味と一緒に染みわたる。これはお酒が欲しくなる。
「先出しでこれだけ美味しいならお鍋も期待できそうね。昔ユイマンのお父さんが捕って来てくれた猪も美味しかったけど
……
」
ユイマンとのお気に入りの店がまた増えた。嬉しくなり、ユイマンに話しかけると急にユイマンは器を置き、顔を伏せた。
「あのね、阿梨夜
……
こんな時に言うのはあまり良くないと思うんだけど」
「
……
え?」
ユイマンは声のトーンを落とし、襖が閉まっているのを確認した。言いにくい事なのはすぐに分かった。内臓が逆流するような感覚が走る。
「うちの会社、間接的には阿梨夜のお父さんの会社の傘下になるみたいなの」
続く
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