ゴワ吉
2026-04-26 10:10:22
2842文字
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犬も食わない

喧嘩っプル竹勘。いろんな生き物使って勘右衛門を探す竹谷はいるってしんじてます。


「ん?この鳴き声は
 裏山での鍛錬の最中、一匹の鷹が鳴き声を上げながら旋回している。
 その声には覚えがあり、確か学園の生物委員で飼われている一羽のはずだ。
(また八左ヱ門が逃したのか?仕方ないな)
 訓練されている鷹が自ら逃げるとは考え難いが生物委員絡みならあり得る話だ。
 勘右衛門は万力鎖を懐へ仕舞うと以前習った指笛を吹いた。手袋が無いため傍に落ちていた枝に鷹を乗せる。
「よしよしいい子だ。一緒に帰ろうな」
 喉元を撫でてやると気に入ったのか返事を返すように頬へ擦り寄ってくる。
 一体どうやったらこんないい子を逃がすのか。呆れるように嘆息して、ふと勘右衛門は思った。
(そういえばおれ、八左ヱ門といつから会ってないかな)
 い組と入れ替わるようにろ組も長期実習へ出て、帰ってきているのにまだ顔を合わせていない。
 いいや、合わせられないのだ。彼が出立する前に投げてしまった数々の言葉を思い出し、勘右衛門は幾度目のため息を漏らした。
 きっかけなんて覚えていない。しかし素直に謝る機会を伺えど、相手が一人にならないのだからこうも長引いているわけで。
っとに、あいつって後輩にも先輩にもやったら好かれてて歩くたび声掛けられてて!矢羽根とばしたって届きやしねーんだくそっ!」
 手紙で呼び出そうとも考えたが形が残るし誰かに言伝も頼もうとしたが、断られてしまった。
 だから逃げるように今日も鍛錬と称して裏山へ向かったが、まさか脱走した鷹に出会うとはまるで運命のようだ。
(捕まえたぞと報告ついでに生物委員の所へ向かい、そこでキチンと八左ヱ門に謝る。よし、完璧だ!)
 ごめんなさいと悪気はないと伝えなければいけない。
緊張で早鐘を打つ心臓を抑えながら学園への帰路を振り返ったーー直後、背後の茂みから件の八左ヱ門が顔を出した。
「ーーッ!はち
 名前を告げようとした瞬間、勘右衛門は懐かしい体温に包まれた。動揺を隠す暇もなく抱擁され、安堵する声が耳朶に囁かれる。
「やっと見つけた……勘右衛門」
「は、み、見つけたって……おれ探されてた?」
 乱れた呼吸に汗ばんだ相手の肌がどれだけ疲弊しているのか物語る。そこまで必死になって自分を探していたのか。
 ひとまず事情を知りたいと八左ヱ門の腕をはがそうとも離れようと藻掻くがビクともしない。
「あの、ちょっとはち?暑いんだけど
「忍たまだろ。ちょっとの間、辛抱してくれ」
「いやでもおれ、お前に言いたいことがあって」
 もう何を言ったか覚えてないけれどたくさん酷いことを言ってごめんなさい。
 久方ぶりの抱擁は嬉しいが、これでは互いに顔が見えないままだ。謝るならキチンと八左ヱ門の顔を見て言いたい。
「言いたいこと?それって、まさか」
 まだ少し素直になりきれず、まごつく勘右衛門の様子に八左ヱ門が顔を上げる。
 ようやく目があったのを確認して、勘右衛門はスゥッと息を吸い込んだ。
っ、八左ヱ門ごめん!おれお前にめちゃくちゃ、そりゃもうめちゃくちゃ酷いことをぶつけて!」
「えっ……あ」
「本当にごめんなさい!」
 そう叫んで頭を下げるのと同時に傍の鷹も真似して八左ヱ門に頭を下げた。
 この珍妙かつ驚愕する光景に八左ヱ門は言葉を詰まらせたが、理解してふきだした。
「ははっ、まさか勘右衛門ずっと気にしてたのか?」
「おおれらしくないって言いたいんだろ。そんなの一番分かってんだよ」
 幾度と八左ヱ門と喧嘩をしたが仲直りをせず、こんなに顔を合わせない日々はなかった。
 そして思い出せば謝るのもいつも八左ヱ門からでそれにいつも甘えていた。情けないと思っていた。
「だから、そのおれまだ、はちと別れたく
「そんなの俺だってそうだよ」
「え、はっ……ッ、ん」
 突然、顎を持ち上げられ唇が触れる。すぐに離れていった感触を目で追えば、欲を孕んだ視線とぶつかった。
「俺だって勘右衛門とこんなに会えないと思わなかったよ。学園に帰ったら真っ先に会おうと探してたのに
「えっ。い、いやおれだってお前に声掛けようとしたけど周りに人が」
「怖気づいて裏山に逃げたんだろ?そんなの俺はお見通しだし、だからそいつに協力してもらったんだよ」
 まさか旋回する鷹を見つけたのは偶然ではなかったのか。そもそも脱走すらしていなかった。
 その事実を突き付けられた勘右衛門は嬉しいやら悔しいやらと感情が定まらない。ただ言えるのはお互い同じ気持ちだった事だ。
「ただでさえ勘右衛門は一人になりたがるとこがあるだろ?」
「人聞きの悪いことを。ちょっと頭冷やせばすぐ戻るつもりで」
「素直に俺の部屋へ来るとは思えないけどな。それなら俺が迎えに行くほうが早い」
 再び八左ヱ門の腕の中に囚われたままぬるい体温が首筋に触れる。
 勘右衛門の上気した頬を撫で、存在を確かめるように背中から腰へと八左ヱ門の手がおりていく。
「ちょ、待って待って!お前ここ外っ、た、鷹もいるけど!?」
「外が嫌なら俺の部屋行くか?翌朝まで出られねぇけど」
 その宣言は暗に明日までお前を抱くと言っているようだ。意味を理解し、益々頬が紅潮していく。
 しかし否定すればこのまま押し倒されてしまう。今は人気が無いとはいえ、学園から近い裏山なんて誰が通ってもおかしくない。
確認のために聞くけど、お前仕置きの名目で交ぐわう訳じゃねえよな?」
「安心しろ。勘右衛門に久しぶりに会えて欲求発散イチャコラのアレだから」
……やっぱ無理!」
「はあ!?」
 ぐるっと顔を背け、唇をぎゅっと引き結ぶ。口を吸われても抵抗出来るようにしたがそれを八左ヱ門も追いかけてくる。
「待て待て、意味わかんねえ!俺たち恋仲だろ!?久々の逢瀬じゃねえのか!」
「むぎぎわ、分かってる、けど……今更恥ずかしいっつーか見せる顔も体も無いっつーか」
 顎を掴まれ、強制的に顔を合わせられたものの尚体は抵抗を続けて八左ヱ門の胸を押し続ける。
 しかし八左ヱ門も負けじと勘右衛門の腰を懐き、押される力を跳ね返すように締め続ける。鷹は飽きて眠ってしまっていた。
「いいから帰るぞ!兵助は心配しながら飯作ってたし雷蔵や三郎もお前のこと気に掛けてんだぞ!」
「やだぁああ!絶対豆腐地獄じゃん、なんで止めなかったんだよ!!」
「兵助に構ってる暇なんて無かったんだよ!一刻も早くお前のこと見つけたかったし!」
「大体お前が探しに来る必要無かったんだよ!おれもう五年生だぞ、一人で帰れるわ!」
「分かってるわそんな事!お前こそ五年生の癖に素直に謝罪出来ずに何日無駄にしてんだ!」
 繰り返す口論は冷めるどころか火を上げて、益々燃え盛りはじめる。そしてそれを止める者はいなかった。
 しかし以前と違うのは二人の口論に悪意が無いことだ。さながら犬も食わない痴話喧嘩がしばらく裏山に響き続けた。