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雪華
2026-04-25 21:30:13
8048文字
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オルサイ
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【オルサイ】寝る子は育つ
摩訶不思議の舞で体が幼児になっちゃうサイラスの話です。お題箱にいただいたお題でした!→
https://odaibako.net/odais/027f5505-9778-46b9-b4e4-ea2350ee8bec
何が起きるか分からないという触れ込みの踊りだが、まさかこんなことが起きるとは、一体誰が予想していただろうか。
戦いの最中にプリムロゼが摩訶不思議の舞を踊ると、眩い光が辺りを包み込んだ。思わず瞼を閉じていた時間はほんの僅かなものだったはずだが、気付けば対峙していたはずの魔物の姿は忽然と消えていて、サイラス
――
と思わしき人物がその場に尻餅をついていた。
「これは
……
私の身に、何が起きたんだ?」
「サイラス
……
なのか
……
?」
恐る恐る声をかけると、サイラスと瓜二つの子供がゆっくりと顔を上げた。青空のような澄んだ瞳は丸く輝いていて、自身を取り囲む大人の集団を見ても一切臆していない。袖で覆われた手で軽く自身の頬に触れ、彼は考え込むように首をひねる。その仕草にはオルベリクがよく知る男の面影があった。
「ふむ
……
。世界が丸ごと大きくなってしまったように見えるが
……
きっと、私が縮んでしまっているのだろうね。いやはや、本当に面白い踊りだ! いつか私自身で習得して、心ゆくまで踊って効果を確かめてみたいくらいだよ」
「この子
……
完全にサイラスね
……
」
「
……
俺達のことは分かるか?」
「もちろんだとも、オルベリク。身体的には幼児退行しているようだが、意識はしっかりしているし、記憶も保持できている。私は私、サイラス・オルブライトのままだ」
身長がオルベリクの半分以下にまで縮んだせいで、衣服はぶかぶかで立ち上がることすらできていない。未発達の舌で発する言葉は時折発音が不明瞭になり、本人もすぐにそのことを悟ったからか普段よりは幾分とゆっくり喋っている。
まさか摩訶不思議の舞のせいで肉体が幼児まで若返ってしまうとは
――
前代未聞の事態に驚愕しているのは周囲の者ばかりで、自らをサイラスと名乗った幼児は、オルベリクを見上げて微笑を浮かべた。呆けていたトレサが我に返って叫んだのを皮切りに、仲間達も口々に喋り始める。
「ちょっ、ええ~?! サイラス先生
……
?! 笑ってる場合じゃないでしょ?!」
「相変わらずとんでもねぇ踊りだな
……
!」
「魔物がキャットリンに変化したことはあったが、人間の姿も変わるのか
……
」
「ふふ。小さい子が一生懸命喋っているようで、なんだか微笑ましいですね」
「こんな流暢に喋るガキがいたら気色が悪いだろ
……
」
低くて甘い声は今や鈴のような高音に変調していて、リボンで結ってあったはずの後ろ髪はすっきりと短く切り揃えられている。十二分に面影はあるし、これから美しく育っていくことも納得のいく整った顔立ちだが、子供らしい丸い輪郭はまるで別の生き物のようだ。
サイラスはもみじのような小さな手が動かしづらいらしく、ブラウスの袖を折ることにすら苦心していたので見兼ねて手伝った。
「一応聞くが
……
どうやったら元に戻るんだ?」
「私に聞かないでほしいわね
……
。いつも言っているでしょう、何が起きるのかは分からないのよ」
「摩訶不思議の舞の効果は多岐に渡るが、特徴のひとつとして時間経過で効果が消えるということが挙げられる。実験も兼ねて、このまま暫く様子を見てみよう。ところで、私は何歳くらいに見える?」
「うーん
……
五歳くらいかしら?」
「もう少し下じゃねぇか? 先生は体の使い方が分かってるから喋ったり動いたりできてるけど、身長的にはもうちょい幼く見えるな
……
」
確かに、表情や喋り方が幼児らしくないから錯覚しそうになるが、体つきを見るとまだ幼い印象がある。三歳から四歳程度というアーフェンの見立てに同意見だ。
動きやすくなるように、ブラウスの袖を肘まで折ってリボンで留めてやる。そしてサイラスの体に合わなくなった衣服を回収してやっていると、彼自身からあれもこれもと渡されて、結局ブラウスと下着を身に着けているだけになってしまった。彼は踝より上をすっぽりと覆ったブラウスの裾を、邪魔そうに軽く足でさばいた。
「とりあえず、予定通り町に向かおう。そこで休みながら経過を観察したいのだが、いいだろうか?」
「お前が言うならそれで構わんが
……
」
「ではそうしよう。ふふ
……
元の姿に戻る過程で、徐々に年齢が上がっていったら面白いね。私の成長記録が見られるかもしれない」
本人が一切困りもせず楽しんでいるものだから、反応に困る。ただ、にこにこと笑みを浮かべながら真っ直ぐにこちらを見上げている子供は純粋に可愛らしく、つい流されてしまいそうだ。
「それじゃあ、行こうか。オルベリク」
「ん?」
サイラスがこちらに向けて両手を伸ばしたので、何のことかと短く意図を問う。すると彼は、軽くつま先立ちをしてもう一度名を呼んだ。
「オルベリク、あなたが私を抱き上げて歩いてくれ」
「な
……
なるほど、そうなるか
……
」
「あなたしかいないだろう?」
「そうだな
……
」
衣服だけではなく、当然靴も体の大きさと合わなくなってしまっている。裸足で、それも幼児が大人の歩調に合わせて歩くのは無理な話だ。そして幾ら子供になっているとはいえ、精神は大人のままであるサイラスが、自分を抱き上げるという密な接触を許す相手といえば恋人であるオルベリク以外にはいない。当然の要求であった。
両脇の下に手を入れて持ち上げてみると、思ったより軽くて内心で驚いた。サイラスが自分からオルベリクの肩に手を回してきたので、片腕に乗せるようにして抱いた。
「へぇ、なかなか悪くないね! いつもより視界が高くて新鮮だよ。重たくないかい?」
「いや、全く。軽いものだな」
「それは良かった。では、行こうか」
他ならないサイラスがそう言うので、予定通りに町を目指して進み始めた。自分も含めて、旅の最中に出会った仲間達は、既に成長しきったサイラスの姿しか知らない。そんな彼がすっかり幼児の姿になってしまったのが物珍しいらしく、仲間達は代わる代わるサイラスの顔を覗き込んだ。
「先生って小さい頃はこんな感じだったんだ。可愛い~!」
「髪はいつから伸ばし始めたのですか?」
「特段の理由があって伸ばしているわけではないんだ。ある程度放っておいても邪魔にならないようにと思っている内に、自然と今の髪型に落ち着いたから
……
そう言われてみると、いつからだろうか」
サイラスは意外と大雑把というか、自分のことに頓着しない節がある。マナーとして身嗜みは意識していると言っていたことがあるから、髪型もその延長線なのだろう。短毛の猫のような後ろ髪を見ていると、彼について知らないことはまだたくさんあるのだとしみじみと思った。
「さぞ利口な良い子だったんだろうなぁ
……
俺がガキの頃なんか、しょっちゅうやんちゃしては母ちゃんに怒られてたぜ」
「はは、目に浮かぶようだ
……
。オルベリク、あなたはどんな子供時代だった?」
「どんなと言われてもな
……
普通だと思うが
……
」
「普通の尺度は人によって異なるよ。私は昔から本の虫で、よく父の書斎に入り浸って読書をしていたが
……
あなたは当然、違う経験をしていただろうね」
腕に抱いている幼児が、本に囲まれた書斎にいる姿を想像する。きっと大人しく読んでいたのだろうと思う反面、色々な本に手を出しては散らかす姿も浮かび上がってきた。オルベリクが今のサイラスの年頃に、自ら本を読みたいと言ったことなどあっただろうか。僅かに目を伏せて、故郷のことに思いを馳せた。
「俺は
……
昔から騎士に憧れていて、よく手合わせだと言って近所の子どもと木の枝を持って遊んでいたな。城下町は階段も多かったから、走り回るだけでも随分と鍛えられた
……
」
「なるほど
……
私とあなたが子供の頃に出会っていたとしても、遊び相手にはならなかっただろうね」
「そうかもしれんな」
子供時代の思い出ひとつ取っても重なるものがないのだから、いかに自分とサイラスが違う世界の人間であるかを思い知る。この出会いがもっと早く生じていればと過ぎったこともあったが、今であるからこそ運命的に感じられたのかもしれない。
「トレサさんはどんな幼少期を過ごされていましたか?」
「そうねぇ
……
あたしは店が遊び場みたいなもんだったかな。いつも父さんか母さんのどっちかが傍にいてくれて、あたしが興味を持ったものは何でも教えてくれたなぁ
……
」
「
……
トレサ君は、ご両親にとても大事にされてきたんだね」
「えへへ
……
」
サイラスは他の仲間達にも子供の頃の話をねだり、興味津々で聞いていた。しかし暫くすると欠伸をしたり、ぼんやりとして返答が遅れることが増え始めてくる。
「サイラス
……
眠いのか?」
「ん? んー
……
いや、そんなことはないのだが
……
」
小さな手でぐしぐしと雑に目元を擦る幼児の瞼は、明らかに重たそうである。発熱しているような様子ではないから、単純に喋り疲れたのだろうか。大人並みの精神を働かせることは、幼児の体には負担が大きいのかもしれない。
「眠いなら寝ていていいぞ。何かあったら起こしてやるから」
「しかし
……
わたしだけ楽をするわけにもいかないだろう
……
」
「気にするな。眠くて機嫌が悪くなるよりは、素直に寝てもらったほうが良い」
「不機嫌になどなっていないのだが
……
まぁ、あなたがそう言うのなら
……
失礼するよ」
サイラスがオルベリクの首筋に顔を埋めて力を抜いたので、背中を支えてやりながら軽く叩く。すると数分もしない内に寝息を立て始めたから、かなり限界が近かったようだ。
「眠っていると、本当に子供みたいですね
……
」
「
……
よだれ掛けがいるんじゃないか?」
「まぁ、多少汚されても構わんさ
……
。昼寝が長いのはあまり良くないんだったか?」
「どうだろうな
……
そもそも、いつ体が元に戻るかも分からねぇし
……
」
声をひそめて話をしながら、サイラスの体がずり落ちないように支えてやる。彼の寝顔はあどけなく、恋人として接する際の愛おしさとは別種の慈しみが湧き上がってくる。しかし仲間の手前、あまり気の抜けた顔を見せるわけにはいかないので、頬に力を込めて表情を引き締めた。
***
その後、幸いにも大きなトラブルはなく町に辿り着いた。トレサ達は商店が開いている内に買い物に行くというので後を任せ、オルベリクはサイラスを抱いたまま宿へと向かう。
彼は未だに小さな子供の姿のまま、腕の中で眠りこけている。旅人が珍しいのか、道行く者達がやけにこちらを見ているのが気にかかったが、その違和感はひとまず置いておくことにした。
(宿はどこだろうな
……
とりあえず、歩きながら探すか)
表通りは露店市になっているようで、衣服や布雑貨などの日用品から、魚や果物等の生鮮品まで扱う露店が並んでいる。人通りもそれなりにあるため、ぶつからないように、そして余計な振動でサイラスを起こさないように注意を払って歩く。そうしていると突然、鋭い声が飛んできた。
「ちょ
……
ちょっと、あんた! あんた、ちょっと待ちな!」
「
……
俺か?」
必死の形相でオルベリクを呼び止めたのは、青果を並べた露店の女主人だった。少し褪せた金髪を束ねた恰幅の良い女性は、サイラスを見たかと思うと、きっと厳しい目でオルベリクを見据える。
「あんた、その子どうしたんだい? 服はぶかぶかだし、靴も履いていない
……
おまけに、全然似ていないし
……
」
「む
……
」
怪訝そうな目に映る自分の姿を想像する。額に傷のある大男が、小さいながらも整った容姿の子供を抱いて闊歩している。しかも、子供は明らかに自分のものではない服を着ていて、その上裸足
――
どこからどう見ても、不審極まりない状態だ。先程からやけに視線が刺さると思っていたが、ようやく理由が分かった。
なんと言い訳するかと逡巡していると、通行人たちまで遠巻きにオルベリクを見てひそひそと話し始めた。嘘をつくのは苦手だが、真実を語ろうにも摩訶不思議の舞を知らない者にとっては信じられる出来事ではない。途方に暮れた時、サイラスがぱちりと目を覚ました。
「んぅ
……
?」
「坊やっ、起きたかい? 大丈夫?!」
「ええ
……
?」
寝起きでぼんやりとしている彼に向けて、女性が腕を伸ばす。彼女の中ではオルベリクは人攫いということになったのだろうか。奪い取られないようにと強く抱くと、ますます厳しい視線が向けられた。
「待て、話を聞いてくれ
……
」
「いいや、やっぱり怪しすぎる! いいから、その子は一旦こっちで預かるわ!」
「
……
お父さん、どうかしたの?」
ひとつ大きく欠伸をしてから言われたことに、オルベリクは目が点になった。サイラスは人好きのする笑顔を浮かべて、オルベリクの首にしがみつく。
「町についたら起こしてって言ったのにー」
「あ、ああ、すまん
……
」
「坊や
……
この人、本当にお父さん?」
「そうだよ、大好きなお父さん!」
呆然としているのは青果店の女主人も同じようで、サイラスとオルベリクの顔を見比べてあんぐりと口を開けている。サイラスは丸くて柔らかい頬をぎゅっとオルベリクの首筋に押し付け、懐いていることを示してみせた。
「ああ、そう
……
。それにしたってあんた、靴や服はどうしちゃったの?」
「あのね、さっき転んだの。水たまりでね、泥で遊んでたら怒られたー」
「そ、そうなんだ。転倒した先がちょうど泥溜まりで、とりあえず服を脱がせてな
……
」
「あらまぁ
……
。怪我はなかった? 大変だったねぇ」
サイラスはにこにこしながら大きく頷いてみせる。寝起きのはずだが、正確に状況を把握して振る舞ってくれることが心底頼もしい。父親役をさせられることに微妙な気持ちがないではないが、そういう歳なのだから仕方がないと飲み込む。疑いが晴れそうだと胸を撫で下ろしていると、背後からぽんと軽く肩を叩かれた。
「オルベリク、何してるの? 買い物ならトレサに任せたはずだけど」
「プリムロゼ
……
いや、ちょっと色々あってな
……
」
「あらま! まぁまぁ
……
」
油を売っている姿を咎めにでも来たのだろうか。仲間の踊子にどう状況を説明したものかと思っていると、女主人は口元に手を当てて三人の姿を見つめた。
「ちょっとお父さん! 奥さんすごい別嬪さんじゃない! まぁ~坊やはお母さんに似たのねぇ
……
」
「あら
……
そういうこと?」
「
……
!」
意味深長な笑みを浮かべるプリムロゼに見上げられ、オルベリクは内心で冷や汗をかいた。まさか恋人を腕に抱いている状態で、友人に妻のふりをさせるわけにはいくまい。サイラスに対してはもちろん、年若いプリムロゼに対しても大変な迷惑だ。しかし下手な演技をすれば、せっかく晴れたはずの疑いが再燃してしまう可能性もある。オルベリクは狼狽しながらも、三対の瞳に急かされるように口を開いた。
「かっ、彼女は、妻の
……
妹なんだ。家族旅行をしていてな
……
」
「
……
ええ。義理兄さん、長時間抱いていて疲れたでしょう。代わりましょうか?」
「
……
イヤ」
「もう、お父さんが大好きな甘えん坊なのよねぇ
……
。お騒がせしてごめんなさいね、さぁ行きましょう」
プリムロゼが腕を差し出すが、サイラスはふいとそっぽを向いてオルベリクにしがみつく。彼女は気にした様子もなく笑みを浮かべ、周囲に愛嬌を振りまいてから歩き始めた。オルベリクも慌ててその後を追いかける。
「何か用があって探しに来たのか?」
「いいえ。よく考えたら結構不審な状況じゃないかと思って、様子を見に来たのよ」
「
……
それならもう少し早く来てほしかったがな
……
」
「わがまま言わないで。宿まで送っていくから、暫く二人で休んでいなさい」
結局プリムロゼに付き添ってもらって宿屋に行き、彼女とはロビーで別れた。部屋につくとまずはサイラスを寝台に下ろしてやる。自分は木製の簡素なスツールに座り、ため息をついた。なんだかどっと疲れたような気がする。
「はぁ
……
酷い目に遭ったな
……
」
「
……
」
サイラスは寝台に大の字になって横たわり、ぼんやりと天井を眺めている。彼はプリムロゼと合流してからは殆ど喋らず、何事かを考え込んでいるような様子だった。
「
……
子どもの振りをしているところを見られて、ばつが悪かったのか?」
「まぁ、それもあるが
……
」
彼は一度そこで言葉を切った。無理矢理に聞き出したいとは思わないが、少しでも言いたい気持ちがあるのなら邪魔はしたくない。黙って見つめていると、ややあってサイラスは再び口を開いた。
「
……
あなたの口から妻という言葉が出たことに、複雑な気持ちになってしまったんだ」
「
……
」
「多くの人に祝福される形で妻を迎えて、子をもうけるというような
……
そういう普通の幸せをあなたにあげられない自分が、不甲斐ないよ」
サイラスは泣くでも怒るでもなく、丸い眼でただぼんやりと天井を見上げていた。
――
あまりにもいじらしいその姿に胸が締め付けられる。その葛藤と似たようなことを、己自身も考えたことがあったから尚更だった。
「
……
そういうものに幸せを見出す者もいるだろうが、それが絶対ではない。普通の尺度が人によって異なると言ったのは、お前自身じゃないか」
彼が寝転ぶ寝台に座り、手袋を外して素手で柔らかな髪を撫でる。すると、青い瞳がゆっくりとオルベリクの方を向く。その瞳の輝きはきっと、生まれた時から変わっていないのだろう。
「俺は一度は全てを失った。死んでいるのと変わりない虚ろな日々を過ごしていたが
……
サイラスと出会えて、再び前を向いて生きようと思えた。お前と共に在ることこそが、俺の幸せなんだ」
「
……
うん、私もだよ。オルベリク
……
」
オルベリクの膝の上に乗るようにして、サイラスが抱き着いてくる。優しく抱き留めると、頬に口付けをされた。そのまま執拗に口付けを繰り返そうとする小さな唇を、手の平で制した。
「これ以上はだめだ。今のお前は子どもなのだぞ」
「そう堅いことを言わないで。良いじゃないか、私の初めてのキスをまたあげるよ」
「子どもに口説かれていると思うと複雑な気持ちになるんだ、堪えてくれ
……
」
そうして暫く戯れていると勝手に満足したのか、サイラスは寝台に寝転がってころころと笑った。
結局その日はサイラスの体に変化はなかったが、翌朝目覚めると普段通りの姿に戻っていたことを
――
オルベリクは、起床のキスとともに知らされたのであった。
「
……
おはよう、オルベリク」
聞き慣れた甘い声が優しく鼓膜を揺らす。華奢ながらも成人男性が腹の上に乗っているのでそれなりの重さがあるが、寧ろそれが愛おしくさえ思えた。早朝の薄暗がりの中でも分かるほどの輝かんばかりの美貌を持つ男は、長い指でオルベリクの額を撫でて笑みを浮かべていた。
「あなたの希望通り、きちんと大人に戻ってからしたよ
……
っえ、」
「そうか、それなら加減は要らないな」
細い体を一度胸に抱き寄せて、体勢を入れ替える。白いシーツに濡羽色の長い黒髪が広がり、素肌にブラウスと下着だけを身に着けた無防備な格好の恋人は眼を丸くしていた。
「オルベリク
……
」
「
……
俺はお前の父親なんかじゃないのだから、あまり隙を見せないほうが良いぞ」
「え、あっ、そ、そんなに気にしていたのかい
……
?」
「さぁな
……
」
柔らかな唇を自分のそれで塞ぎ、色白くしなやかな腿を絞るように撫でる。それからは舞の効果が消えて体が元に戻っていることを確かめるため
――
という建前を掲げて、サイラスの肌を撫で回した。頬を赤らめて震える可愛らしいさまを見ていると、子どもに対しては一切なかった欲が燃え上がってくるのを感じる。
やはり自分達はこうであるべきなのだと納得している内に、いつしか日は高く昇っていた。
***
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