宴だ花火だと騒がしい会場。目紛しく張り替えられるポスター、入れ替わる音楽、立ち替わる演者。色とりどりの祝いのスイーツが並び、たまに飛び交う。それをひらりとよけ、好き勝手踊る晴れ着もはらりと躱し、ナワーブ・サベダーは隅の席にどかりと座った。手にはできるだけ大きな皿を選んで、できるだけ多くの料理をよそってきた。この大皿というのが、そもそも取り分け前の料理が山盛られていたものであり、つまり取り分け皿ではないのだが、ナワーブの前ではただの皿でしかない。
なるべく人目に付かない席を選び、広くて煌びやかな場所からは、柱もあって見えないよう忍んだ。途中犬を追いかけてきた参加者が、一時駆け寄ってはきたが、ナワーブがもぐもぐと閉じた口の前で人差し指を立てると、同じ動作をして秘密を守ってくれるようだった。犬と共に去っていく彼を見送ると、また食事に戻る。自分は一人陰った場所から、明るい所を眺めながら食べている。しかし、それで良かった。持ってきた料理の山は、まだまだある、それは幸いだった。
この、どうしようもない時間を、食事を理由に居座って過ごすことができる。この、騒がしい場所で耳を塞がなくても、食事に手を使うことでそうせずに、場の雰囲気の邪魔をせずに済む。この、眩しすぎる足場でも迷いなく足を鳴らす主役達に、気を遣わせることも手を取らねばならない義理もない。この、明るい照明の下でなすすべのない自分でも、食事だけは好んでここにいることができる。
「つまりおまえは、向こうのことはただ見てるだけ?」
気付けば向かいの椅子に誰か腰掛けている。優雅なことだ。そのせいで思わず食事の手が止まった。ナワーブにとっての様々な理由となっていたものが。それでも理由は変わらない。
「……食ってるだろ。」
「別に食べ続けなければならない理由もないでしょう。」
だがナワーブ・サベダーの理由はジャックの理由にはならない。ジャックには譲ってやる義理もない。なぜ、どうしてと詰め寄る。
「向こうは、楽しそうだとは思う。」
「そうですよねえ。」
じゃないと向こうを見てなどいない。見向きもしないで食事に集中しているだろう。
「けど、自分が混ざっても、楽しめない。自分が混ざってる所を俯瞰して見ても、楽しめない。」
「それはそれは、自分が混ざっているという実感にすら楽しみを感じられないなんて。」
ジャックは哀れんで笑った。哀れんだ相手を笑う、そういう男だった。
「けれど楽しそうだとは思う、だから眺めている。そうですか?」
「……そう。」
あははははは、ジャックは長い両足を存分にばたつかせながら笑った。あんまり騒がないでほしい、自意識過剰でも、ここに居ることを皆に知られたくない。
「難儀なことだ。」
一頻り笑ったジャックは、満足そうに微笑んでナワーブを見詰める。この男の口角はいつも上がっている気はするが、ナワーブの視線を、楽しそうな会場から一時的にでも剥がすには、充分だった。
「おまえこそどうして?」
「わたし?わたしはおまえと違って、向こうにきっちり参加しましたから。」
ジャックはまるで心外だと言わんばかりだ。一緒にしないでほしいと言うことなら、ナワーブこそ心外に思っても良いのではないだろうか。
「皆さんに赤い衣装をお勧めしたのですが、誰もわたしに手を伸ばしてくださらなくて。」
「そういうおまえこそ、自分は赤い服でもなんでもないだろうに。」
ジャックは人を気遣ったりしない。また誰かが彼を気遣っても、気遣いを感じて何か義理を返すこともない。彼の義理立ては、彼に対してしか立たない。だから自分が楽しめることだけを上手く選び取って、自分が楽しめることだけを楽しめる。自分の選んだ時間と自分の選んだ場所と自分の選んだ楽しみ方で。当然それがジャック一人の力で成り立つわけではないが、ジャックは気遣われても自分は人を気遣わない。一方的でもどうにかなってしまうのは、彼の霧のように不思議なところでもある。
「言ったでしょう。食べ続ける理由もなければ、踊り続ける義理もないのです。」
気紛れに揺らめく霧のようなジャックは、まだ山盛りある食事に向けて言葉を踊らせるように言った。微笑みは、少し得意気だ。
だからナワーブも少し笑った。食事を楽しく再開する。
だがそう思うのも可笑しな話だ。だって食事はいつも楽しいものだ。
この場に眩い程の明るさは必要ない。数多くの花火が真上でひっきりなしに絶えず降り注がずとも、ただ一輪の小さな花が寄り添ってくれれば良い。それだけで、中途半端な楽しみ方が、ずっと良いものに変わる。
別にお互いの栄誉を読み上げて貰う必要はないし、逆にやれと言われてできるわけでもないのが、不器用なナワーブ・サベダーである。それにジャックはもっとそんなことはしない。
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