雪成はす子
2026-04-25 01:04:09
2101文字
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あなたが一番欲しいものは?

🐧誕生日おめでとう!なSSです。
ペンギンに贈り物がしたいシャチと、物欲がないペンギンが欲しいと願ったものは何か、という話。
⚠1081話の内容をちょろっとだけ含みます。
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 その日が近付くと、シャチはいつもそわそわする。
「なあ、ペンギンはなんか欲しいモンねーの?」
「ねえな。あんまり私物増やしたくねえし」
「つまんねえな」
「つまんなくて結構。じゃ、次の島に着いたらその島の銘酒奢ってくれよ」
「それじゃ駄目に決まってンだろ! どうせその日のうちに飲み干しちまうじゃん!」
 ぶう、とシャチがほっぺたを膨らませて文句を言うのを、俺はハイハイと言って宥めて薬品棚の整理を続けた。
「形に残るモンなんか持ってたって無駄だろ。何処で無くしちまうかも分からねえ以上、必要最低限の物資以外は極力持たねえのが一番じゃねえの?」
「そうかもしれねえけどさあ、それでも形に残るモンってあった方がいいじゃん?」
「そうは思わねえな」
「ええー……ペンギンまじでつまんねー……
「やかましい。ホラ、それよりそっちの棚の整理がまだだろ?」
「そうやってすぐ話を切り替える……
 ぶつぶつと文句を言いながら、シャチは薬品棚へと向かう。
 そんなシャチの背中を見ながら、俺はそっと「ごめんな」と呟いた。


 ――物欲らしい物欲が無くなったのは、果たしていつからだっただろうか。
 生活必需品以外で、特に欲しいと思うものが何も思い浮かばないのだ。
 子供の時は、母さんにあれが欲しいこれが欲しいと強請っては母さんを困らせたりしていたというのに。

 両親たちを、あの高波に浚われてしまったあの日からだろうか。
 シャチの叔父だというあの男の元で、やりたくもない悪事に手を染めた時からだろうか。
 あの男から逃げたあの森の中で、シャチが猪に襲われたあの日からだろうか。

 大切なものは、いつかこの手から滑り落ちていくのだと。
 ――そんな諦めのようなものが俺の中に沁み込んだのは、果たしていつからだったのだろう。


 だが、それでもシャチは、俺に何かをプレゼントしたくて堪らないようだ。
 だからシャチは、その日が近付くといつもそわそわしている。
……俺は誕生日にみんなが祝ってくれるだけで充分嬉しいんだけどな」
 そう、みんながいてくれる。
 みんなが、自分の為に祝ってくれている。
 それだけで充分嬉しいってのに、シャチはこれ以上何を望んでいるのだろうか。

……シャチ」

「ん? 何?」
「欲しいもの、なんだけどさ。いっこだけ決めた」
……え、マジで⁉」
 俺の言葉に、シャチはぱああっと顔を輝かせる。
 さっきまでほっぺた膨らませてむくれてたクセ顔はどこへやら、シャチはニコニコとしながら俺の次の言葉を待った。

「俺が欲しいものは――

  ***

「はーい、それじゃあみんな中央に寄ってー!!」
 カメラマンの言葉に、俺たちはそわそわとしながらポーラータング号の前に並ぶ。
 一番大きいジャンバールを一番後ろの中央に、それから大きな者はなるべく後ろに、最前列は木箱に座って並んでいく。
 キャプテンを中心に、ベポと、俺と、シャチが木箱に座った。
「悪いな、みんなに付き合わせちまって」
「気にすんなよ。ペンギンが欲しいって言うんだからさ」
「そうそう、ペンギンって普段酒以外で欲しいものって滅多に言わないからさあ、なんかすげえレアだよな!」
「分かるー!」
 クリオネの言葉に、みんながどっと笑う。
「俺としては、もっと我儘言ってくれても良かったんだがな」
「これも充分我儘だと思うんだけどなあ」
「ペンギンの我儘って俺の我儘と全然違くね?」
「お前のはただの甘えただろうが」
「ヒッデェの」
 ケラケラとシャチは笑い、それからシャチは改めて俺と向き直ってにこりと笑った。

「誕生日おめでとう、ペンギン」
「ああ、ありがとう」

 ふたりでぐっと親指を立て、それからカメラに向き直る。
 みんなの満面の笑顔と、笑うジョリーロジャーが描かれた鮮やかな黄色い艦を収めた写真は、その後クルー全員に配られたのだった。

  ***

 あの日の写真は、今ははるか海の底に沈んでしまった。
 ポーラータング号と共に海底に沈み、どこかの海を彷徨っているのかもしれない。
 それでも――それでも、あの日撮った写真は、今も鮮明に憶えている。
 だから今は、失くしたものを嘆いている暇はない。

「みんな揃ったな。――点呼!」
「いち!」
「に!」
「さん!」
 全員揃っている事を確認し、俺はみんなを見回す。
「怪我で動けねえ奴はいねえな! 心折れてる奴もいねえな!!」
 俺の言葉に、みんなの瞳に火が灯る。
 心折れてる場合じゃない。
 ここで膝を折って悲嘆にくれる訳にはいかない。
 立ち上がって、戦って、真っすぐに――キャプテン達を追って進んで行かなきゃならない。

 もう俺は、かつての子供なんかじゃない。
 かつての――腕が千切れ、相棒が倒れて悲嘆に暮れて泣き叫ぶ無力な子供なんかじゃない。

 戦うんだ。
 進むんだ。
 今はただ、みんなと共に進んでいくんだ。

 ――またあの日のように、皆で笑って写真を撮れるように。

 今はただ、真っすぐに進んでいくんだ。