白殊皎(しらよし こう)
2026-04-24 21:00:00
2199文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

薄き衣に真神の加護を

一日違いでミス・クレーンの元を訪れた土方と近藤。
その依頼とは?

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
カルデア時空、2臨近藤さんで「衣替え」

和物のお手入れならミス・クレーン!
ということでご参加いただきました。
きっと張り切って仕上げてくれることでしょう。
2臨の近藤さんはオトナの余裕で土方さんに色っぽいお誘いをしてほしい……そんな願望が溢れました。


 からから、すぃーと糸紡ぎ。
 とんとん、しゃーと機を織る。

 こつこつこつ、と微かな音で扉がノックされた。
「はい、どうぞ。お通りください」
 部屋の主ミス・クレーンは軽やかな声でそれに応える。
「忙しいところ悪いな。少し頼み事があるんだが」
 来訪者は土方歳三だった。
 脇に中くらいの竹の行李こうりを抱えている。
「これは土方様。ちょうど手は空いております、なんなりと仰ってくださいな」
「あんたは日本由来のサーヴァントだと聞いた。なら着物の手入れもできるのか?」
「お任せください、大の得意でございます」
 ミス・クレーンの返答を聞いて、土方は行李の蓋を開けた。
 中には白い線が意匠で入った黒い新選組の羽織と絽か紗と思われる黒色の着流し、そしてすこし色褪せた浅葱の羽織が入っていた。
「これは、近藤様のこれからのお召し物と、貴方様の羽織ですか?」
「あぁ。近藤さんの方は再臨で変えちまえば簡単だが、それだと季節なんぞ関係ないからな。季節に合わせたのは俺が管理させてもらってる」
 浅葱の羽織はオマケだ、と土方は笑った。
「邂逅を信じ、大切にされてこられたのですね。おまけなどと仰らないでください」
 ミス・クレーンは愛おしいものを見るように羽織を手に取り微笑んだ。
「近藤さんはそれでいくさにも出るからな、多少のことではびくともしないように強化魔術も施してもらえるとありがたい」
「承りました。貴方様の想いも込めて……手を入れさせていただきます。二日ほど、お時間をくださいませ」
「よろしく頼む」
 作業中の彼女を見ない──それはカルデアの暗黙の了解なので、土方もさっと背を向け部屋から出て行った。



 翌日。
『ミス・クレーンはこちらにいらっしゃいますか?』
 インターホンが鳴り、落ち着いた声音が彼女を呼んだ。
「どうぞ、お通りください」
 返答に姿を現したのは正絹の黒の着流しに黒の新選組の羽織を纏った近藤勇だった。
 その姿の時によく携えている煙管は腰の煙草入れの中だろうが、今日は風呂敷に包んだ何かを携えている。
「少し、お願いしたい事がありまして」
「装束に関するものならなんなりと」
 ミス・クレーンの返答に、近藤は微かに笑んで風呂敷包みを解いた。
 そこには練絹と思われる柔らかな乳白色をした単衣ひとえ浴衣よくいが数枚ずつ綺麗に畳まれた状態で重ねられていた。
「まぁ、なんと上質な……
 感嘆の声を漏らしたミス・クレーンに、近藤はやはりと頷いた。
「歳……いえ、土方がいつも用意をしてくれるのですが、私では手入れもままならず……。どうしたものかと思っていたところ、衣装の管理・手入れなら貴女のところに持ち込めば間違いない、と主に教えてもらいまして」
「大切なお召し物のお手入れを私にとは、光栄でございます」
『あぁっ! かたや想い人の装束を、かたや想い人に贈られたお着物を、意図せずそれぞれが持ち込んでくださるなんて!! 推せる……!! はぁはぁ……もう、堪りませんわ!!』
 ミス・クレーンは内心の吹き荒れる嵐を巧みに隠して近藤からそれを受け取った。
「明日には……と申し上げたいところですが、生憎他の予定がありますので、二日後でよろしいでしょうか」
「はい。よろしくお願いいたします」
 はち合わせも美味しいかも、いやいやそれはもったいない(?)だろうとくるくる踊ってしまいそうなミス・クレーンだったが、近藤がドアの向こうに消えるまでそれが耐えられたのは奇跡だったかもしれない。


 数日経って、土方と近藤に出陣要請が下った。
「近藤さん、もうこっちでいいだろう」
 土方は先日ミス・クレーンに手を入れてもらった夏用の羽織と着物を差し出した。
「ありがとう、歳。もうそんな季節か」
「あぁ、この中じゃ全然感じないかもしれないが」
 受け取ってそれに袖を通したとき、微かな守護の力を近藤は感じた。
「歳。これに何か魔力を込めてくれたのかい?」
「ん? あぁ……俺の力じゃないが。あんたが傷付かないように、その着物が護ってくれるように、な」
 着流しを纏った近藤の肩に土方はそっと黒の羽織を掛ける。
「そうか……
 肩に添えられたその手を取って近藤は頷く。
「嬉しいよ、歳」
「よせやぃ」
 土方は照れ臭そうにしながらも、その手を軽く握り返す。
「そっちの正絹のはまた手入れしておくから、こっちにくれ」
「頼んだよ」
 きっとまた、土方はこの冬用の羽織と着物にも祈りを込めて手を入れてくれるのだろう。
「なぁ、歳。今回の出陣から戻ってきたら……
 近藤は自分は再臨を変えることで着替えを済ませてしまっている土方に背後からゆっくりと抱きついた。
「──近藤さん」
 囁きを受けて、土方の頬にさっと赤みが差す。
「ふふ、楽しみにしていておくれ」
 その土方を認めて近藤はそれはそれは綺麗に微笑み、振り返った彼の唇に触れるだけの口吸いをした。
「──ッ」
「あぁ、いけない。集合時間に遅れてしまうね、行こう」
 土方が更に耳まで赤くして、固まったところにさらりと袖を翻して部屋の出入り口に向かった。
「ずりぃよ……近藤さん」
 土方は片手を顔に当ててその後ろ姿を見送る。

──戻った近藤が何を身につけて土方を迎えたのかは……説明するまでもないだろう。