冬牙
2026-04-24 14:40:09
3913文字
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【espilver(エスシル)】異世界スローライフ:エピソード5

※異世界スローライフシリーズの続きになります。

前回のお話をまだお読みでない方は先にそちらを読んでいただきますよう、よろしくお願いします。

※誤字・脱字等ございましたら申し訳ございません。

【5:願い星】

 ……最近、シルバーの様子が少しおかしい気がする。
 エスピオはなんとなくそんな気がしていた。理由はわからないが、シルバーがなにか思い悩んでいるような様子が心なしか増えたように感じていた。
 「悩みがあるなら聞くぞ」と声をかけても、返ってくるのは「なんでもない」という言葉ばかりだ。しばらくこの島で共に過ごしてきて、シルバーには悩みを一人で抱えるクセがあると感じていた。
 そんなある日のこと、

「願い星の伝承?」

 秋が終わりに近づいた頃、島はとある話題で賑わっていた。

「ええ、この島の伝統行事みたいなものよ。この島には100年に一度、流星雨の夜が訪れると言われているの。その流星雨に願いを唱えると叶うってお話。代々この島の伝承として語り継がれてきたものなの」
「もうすぐその流星雨ってのが見れるってことか?」
「そうよ。記録によると流星雨は毎回冬に訪れるの。今年がちょうど流星雨が来る年なのよ。島の人たちは流星雨の夜が訪れるたびに、島の発展を願ってきたそうよ」

 シルバーと共にルーシーの話を聞いていたエスピオは1つの疑問を浮かべる。

「過去その流星雨に、元の世界に帰ることを願ったものはいただろうか?」

 エスピオの言葉にルーシーはしっかりと頷く。

「もちろん。だけど、うまくいかなかったみたい。流星雨が願いを叶えてくれるっていうのは、あくまで島の人たちの伝承に過ぎないの……。残念だけど、本当に流星雨にそんな力があるかはわからないのよ」
「ふむ……そうか」

 考え込むように黙るエスピオにルーシーは明るく返す。

「まあ、試してみる価値はあると思うわ!あなたたちがこの瞬間に立ち会えるのも、きっとなにかの運命よ。だから……落ち込まないでね。明確な日付がわかったら街の掲示板でお知らせするから、チェックしておいてね!」
「ああ、情報感謝する」

 そう言ってルーシーと別れ、2人は家に戻る。
 エスピオはルーシーの話を聞いてまだ引っかかっていることがあるようで、シルバーにその疑問をぶつけた。

「先ほどのルーシーの話だが……『願い星』というのはじぶんたちの世界でいう、『想いに反応するもの』なのだろうか?だとするならば……

 その言葉にシルバーはあることに気づいて反射的にエスピオの方を向いた。

「まさか……!オレたちの世界のエメラルドみたいなものなのか!?」
「あくまで推測にすぎぬ。……本当に力があるかはわからないが、1つの手がかりとして調べてみる価値はあるだろう」

 エスピオは願い星の伝承にかなり興味を示しているようだが、無理もなかった。これまで1年近くこの島に滞在してようやく見つけた唯一の手掛かりだったのだ。

 それからエスピオはもう一度ルーシーを訪ね、願い星について問い詰めた。するとルーシーはエスピオを家に招き、リビングに通すと「ちょっと待っててね」と言い家の奥に入っていった。
 少し待つと、小さなケースを持ったルーシーが戻ってくる。

「!……これは」

 ケースの中に保管されたものをみたエスピオは思わず身を乗り出す。

「ええ、これが流星雨『願い星の欠片』よ。島長が代々お守りとして大切に保管していたものなの」
「詳しく調べさせてもらっても?」
「もちろん。でも大事なものなんだから、慎重に扱ってね?」
「約束しよう」

 ルーシーはケースの中から欠片を取り出し、エスピオに手渡した。欠片を注意深く見てみると、半透明の欠片はたしかにエメラルドのような、宝石に近い質感をしている。だが、力を持ったエメラルドのように美しい輝きはない。力を使い果たしてしまったエメラルドの状態に近いように感じた。

「ふむ……やはり似ている……

 ぶつぶつと呟いていると不思議そうに首を小さく傾けるルーシーと目が合ったエスピオは、ただ一言「感謝する」とだけ言い、欠片をルーシーに返す。

……また後日、シルバーと共におぬしの元を訪ねても?」
「ええ、大丈夫よ。それまでに願い星についてもう少し私の方でも調べてみる。先代の日記だけじゃなくて、もっと前の島長が残した日記とか……もうボロボロで文字も掠れちゃってるものばかりだけど、なにか手がかりがあるかもしれないわ」

 ルーシーの言葉にエスピオは再び「感謝する」と満足げに頷いた。ようやく元の世界に帰る方法に一歩近づけた気がした。
 そうしてルーシーは家に帰るエスピオを玄関先で見送った。軽い挨拶を交わし、笑顔で手を振った。

……そうだよね、はやく帰りたいよね」

 振り返らずに去っていく背中を見つめながら小さく呟いたルーシーは行き場のない寂しさを覚えたが、「これは仕方のないことなんだ」と自分に言い聞かせて家の中に戻っていった。

 後日、約束通りエスピオはシルバーを連れて再びルーシーの元を訪れた。ルーシーは2人を笑顔で迎え入れると、もう一度この前見せたケースを取り出し、リビングのテーブルに置いた。

「これが『願い星の欠片』か……思ったより小さいな」

 シルバーはそういって欠片を手にすると注意深く眺めた。やはりエスピオと同じようにエメラルドに近いもののように感じる。

……ルーシー、あれから他に手がかりは?」

 エスピオがルーシーを見ると、ルーシーは古びた日記のぺージをパラパラと捲っていた。

「えっとね、この島の先代長たちが残した日記や記録を読み漁っていたんだけど、すごく昔の記録に気になるものがあったわ。ちょっと掠れて見にくいんだけど……これを見て」

 ルーシーは日記のとあるぺージをテーブルの上に広げた。そこには当時の記録と共に、挿絵のようなものが描かれている。

「これは……!エメラルド!?」

 それは『願い星』が完璧な状態で島に落ちた時の記録だった。光り輝く宝石のような見た目は、まさに2人の良く知るエメラルドに非常に良く似ている。

 ルーシーは掠れた日記のぺージに目を凝らした。

「えーっとね……記録によると、『流星雨の夜に落ちし輝きを放つこの石は、不思議な力を持ち、適応した者の願いを一度だけ具現化することができた。過去の記録によると、ある者は島の北に花畑を作り、大地を潤した。ある者は南に港を建て漁業の発展を願い島周辺の海を潤した。またある者は東に大きな森林を築き島の資源不足を救った。いずれも一度力を引き出すと石の持つ輝きは失われた』……このあたりの記述が今の願い星の伝承が島の発展を願う行事として語り継がれるようになった由来みたい」

 そしてルーシーは続けて日記の記述を指でなぞった。

「そして重要なのはここよ。『しかし、我々の時代に願い星を手にした者の中で、そのまま行方がわからなくなった者もいた』……これ、どういう意味だと思う?」

 ルーシーの言葉にエスピオとシルバーはハッと顔を合わせた。

「もしかして……願い星を使って元の世界に帰った……のか?」
「可能性はある」

 2人の言葉にルーシーも真剣な眼差しで頷いた。

「もしじぶんたちの世界と同じ性質を持つ物ならば……おぬしであればその力を引き出すことができるやもしれぬ」
「オレが……

 シルバーは願い星の欠片を見つめる。
 その瞳がわずかに揺れているのを、ルーシーは見ていた。

……ま、まあ、流星雨の日はまだまだ先なんだし……!焦らなくてもいいんじゃない?ねっ?」

 ルーシーの言葉にシルバーはハッとして笑った。

「そ、そうだよな……!やってみないとわからないし、それまでにこの島でたくさん思い出をつくっておかないとな!」
……うん……。そうだね……

 場の空気が重くなる。ルーシーは自分の返事に思ったより元気がなかったのを焦って取り消すように訂正した。

「あ……ち、違うの!やっと見つけた手がかりなのに、このくらいしか調べられなくてごめんね……!2人はこの島でやっておきたいこととかある?優先して叶えてあげるから!何でも言って!きっとみんな協力してくれるわ!」
「ルーシー……
「ほんとに大丈夫だから……!だから……!」

 目を泳がせながら必死にあれやこれやと言った後、一呼吸置いて言葉を整理した。

「だから……、いーっぱい思い出、作ろうね」

 笑顔で告げたルーシーに2人は大きく頷いてその日は別れた。
 後日、ルーシーによってその話はすぐに島中に広がり、島の人々は前よりも一層2人との関りを大切にするようになった。

 ついに流星雨の夜の日が判明する。シルバーはいつものように家で過ごすエスピオの背中を見つめていた。

(流星雨の日まであと一ヶ月……。願い星の力があれば、帰れるかもしれない。けど……

 シルバーの瞳がまた揺らぐ。

……それ以外の願いも叶うかもしれない)

……シルバー?」 

 声をかけられて無意識に俯いて顔をハッと上げる。シルバーとエスピオの目線が交わった。
 シルバーは心の中でエスピオに問いかける。

(なあエスピオ……。もしオレが帰りたくないって言ったら、アンタはどうする?)

 その問いは届かない。
 エスピオは不安げに揺れるシルバーの瞳を見つめて心の中で鼓舞した。

(不安になっているのか?大丈夫だ……おぬしならばきっとうまくやれる。じぶんはそれを支えるまでだ)

 流星雨の夜まで残り一ヶ月。
 紅葉の季節はとうに過ぎ、木々から枯れ葉が落ちる頃、島には冬が訪れようとしていた。

【エピソード6に続く】