流れザメ
2026-04-24 07:00:24
1881文字
Public ビマヨダ
 

サヨナラホームラン

ワードパレット『Only you』より、
No.13「エンドロール、目を伏せた、今すぐに」をお題に書いた同棲パロのビマヨダです。甘めのお話。

土曜日の朝。久しぶりに休みが重なったビーマとドゥリーヨダナは、家でとある映画を見ていた。
 半年ほど前に話題になった映画で、最近動画配信サービスに追加されたものだ。
 公開当初から気になっていた作品という訳ではなく、ただ二人で観るものを選んでいた時に偶然目に留まり、そういえばこんなものもあったなと興味半分で再生しただけ。
 なんとなくで見始めた映画だったので、内容も特に期待はしていなかった。
 映画鑑賞のために用意していたスナック菓子や飲み物のお供になってくれさえすればそれでいい。そんな軽い気持ちで見始めたのだが――

「くだらん」

 エンドロールが流れるなり、隣に座っていたドゥリーヨダナがソファから立ち上がり、リビングを出ていく。
 少し大きな音を立てて閉じられたドアを見やり、ビーマはため息と共に目を伏せた。
 映画はエンドロールの終わりまできっちりと見届ける派のドゥリーヨダナにしては珍しい態度だが、それもやむを追えない事だ。
 映画自体は人伝に聞いていた評判通りとても良かった。
 よくあるアクション映画で、笑いあり涙あり、時折ヒロインとの恋愛要素も挟みつつ、テンポ良く話が進んでいき、最後はみんな笑顔の大団円。
 非の打ち所が無いほど完璧なハッピーエンドだった。
 端役として出てきた二人の同性愛者が、その『みんな』に含まれていなかったこと以外は。
 仕方の無いことだとビーマは思う。
 その二人はヒロインとくだらない事で喧嘩をした主人公に『大切な人と共に居られることがどれだけ幸福なことか』を伝えるための存在で、画面に映った時間は合計十分にも満たない。
 ただでさえ、この映画が作られた国では同性愛はタブー視されているのだ。
 登場人物が多いこの映画で彼らにわざわざスポットライトを当てる余裕は無かったのだろうし、そんなことをする理由も、必要性も無い。
 主人公とヒロインが結ばれるきっかけを作った存在であろうと、たった十分そこいらしか登場しなかった人間が大団円の場に居なくても、観客は誰も気にしない。
 ビーマもドゥリーヨダナも、自分達が彼らと同じ性的指向でなければ、特に気に留めることもなく主人公たちを祝福して終わっていただろう。
 その程度の事なのだ。心の在りよう一つでどうにでも変わる、些細な事。
 誰が悪い訳でもない。
 ただ自分達には合わなかった、それだけの話だ。
 ビーマはソファの背もたれに頭を預け、ゆっくりと息を吐き出す。そして閉じていた目を空けると、リモコンを手に取ってエンドロール途中の映画を消した。
 テレビの電源を切り、テーブルの上のゴミを片付ける。
 軽く掃除を終えると、ビーマは自分とドゥリーヨダナのスマホと財布を手に持ちリビングを出た。
 ちょうど良いタイミングでドゥリーヨダナがトイレから出てくる。

「今から出掛けねぇか?」

 持ってきたスマホと財布を差し出せば、ドゥリーヨダナはムスッとした表情のまま小さく頷く。

「どこに行く?」
「今すぐ思いっ切り身体を動かせる場所ならどこでも良い」

 玄関で靴を履きながらドゥリーヨダナがぶっきらぼうに返す。
 その言葉にビーマは思わず笑みを溢した。
 面倒くさがりで汗をかくことが嫌いなドゥリーヨダナが自分から身体を動かしたいだなんて、余程あの映画の終わり方が気に食わなかったらしい。
 胸の奥がじんわりと温かくなる。
 ビーマはドゥリーヨダナが靴を履き終えるのを見計らい、手を差し出した。
 紅紫の瞳がきょとんと手の平を見つめる。
 三度ほど瞬きを繰り返した後、ドゥリーヨダナはゆっくりと自分の手を重ねてきた。
 温かなその手を握り締め、ビーマは玄関のドアを開ける。
 いつもは人が横切る度にどちらからともなく離れていた手が、今日はいつまでも繋がったままだった。
 

「兄ちゃん、土曜日にバッティングセンターに行きましたか?」
「おう。ドゥリーヨダナと一緒にな。アルジュナも来てたのか?」
「いいえ。SNSで『ホームランを打ったら景品が貰えるイベントで、全球ホームランを打って大会を荒らした二人組が居る』って話題になってたので。この写真に写ってるの、ビーマ兄ちゃんとあの人ドゥリーヨダナですよね」
「あぁ!実はその時にもらった景品を持ってきたんだよ。スポンサー会社のお菓子の詰め合わせらしくてな。家にはドゥリーヨダナが貰ったやつがあるから、俺の分はお前にやろうと思って。アルジュナ、昔からこの会社のお菓子好きだっただろ。いるか?」
「貰います」