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トビハネ
2026-04-24 00:38:18
4253文字
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二次創作
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たった一夜の罪と何百本もの生ものワンド
それはElinの愚PCサキュバスにおける、生まれてから現在に至るまでの不器用な物語だ。
それはサキュバスという種族についての知見が限られていた頃の時代に遡る。
流血、腹上死、去勢の描写、魔法や種族の独自解釈が含まれます。
R-18ですが本番シーンはありません。
それはとあるサキュバスの群れの中で生を受けるも、産まれて早々に森の奥に捨てられた。
森の奥は無数のウィスプが漂う生息地であり、エーテル病が急速に進行する環境で致命的な症状を発症させ『月に還す』為の場所であった。
しかしながらエーテル病によって兎のような耳が生え、偶然にも近くを通りがかったヴォーパルバニーが自身の仲間だと認識した事で乳を与えられ、森から引きずり出されて奇跡的に生き延びた。それからしばらくの間はヴォーパルバニーの群れの中で沢山の子兎たちに混じって育てられ、餌の捕り方や外敵との戦い方等を教わって生きていた。
ある時大型モンスターに襲撃され、強大な相手に身の危険を感じた兎たちが散り散りになって逃げ出し、彼女も共に駆け出したがその後群れからはぐれてしまう。
生きるための術は教わっていたものの長い前歯を駆使するヴォーパルバニーの戦い方をうまく真似られず、狩りには苦戦させられていた。あちこちを彷徨いながら辿り着いた街で孤児として保護され、食事と服を与えられ簡単な言葉を学ぶ機会に恵まれたが、サキュバスである事が発覚すると石を投げられ追い出された。
森や平原でどうにか飢えを凌ぎつつ新しい街に辿り着くと暫しの間食事にありつき数週間するとつまみ出されるという流れを繰り返し、放浪生活の中でエーテル病によって片翼が生え始めた頃、ある田舎街で物好きなイェルスに拾われる。ぎこちない会話は出来るものの未だ野生児も同然である彼女は綺麗な衣服と部屋を与えられ、『文化的な暮らし方』を学ぶための生活が始まった。
イェルスは生物学者であり、言葉や概念を教える時には生物の図鑑や絵の描かれた学術書等を見せながら授業を行った。彼女はこれに大いに興味を示し、生物の身体構造や基本的な病の知識等を学びながら、徐々に円滑な会話や人間らしい生活が出来るようになっていた。
周囲の大人と遜色ない言語能力を手に入れる頃には、学者の実験や解剖の助手を行える程に知見を深めていた。学者は彼女を本格的に弟子として育て始めると共に、彼女が人間では無い事に薄々気づき始めていた。
エーテル病の翼が両方生え揃う頃、彼女のベッドから出てきた芋虫を手渡された学者は独特な外見と固有の生態から即座に夢蟲と特定し、目の前の弟子がサキュバスである事を確信した。サキュバスだと指摘されて怯える彼女に対し、これはサキュバスについての研究が出来る願ってもない機会だと目を輝かせた。あまりの熱意に自分が実験動物にされるのではと怖がった彼女に君を解剖するような事はしないと伝えつつ、これからも変わらずに暮らして貰って構わないと肩を抱いた。
ようやく追い出されずに済む場所を見つけた彼女は安堵し、自身も知らない自分の種族の事について学びたいと考えるようになった。
学者によるサキュバスの研究が始まったものの、生まれを知らない特異な出自やエーテル病による変容も相まって生態の調査は難航していた。多くの街でサキュバスは疎外の対象である事から他個体との比較が困難であり、気持ちいいことによって成長する生態についても本人が性的な事に興味を示さないため無理強いは出来なかった。
しかしながら本来気持ちいいことで成長するサキュバスがそれを行わない事によって何かしらの不便や生命の危機が発生するのではと危惧した学者は、苦渋の決断で人間の性知識の勉強という形で彼女を呼び出した。既に生物の繁殖に関する知識を十分に学んでいた彼女は学者自身の指差すものや想定される行為についておよそ理解しており、うまく出来るかどうかは分からないがそれが研究のためになるならとバードウォッチングに応じた。
しかし、彼女が生物学者の生ものワンドに触れた瞬間、声にならない呻き声を上げて強く痙攣し、床に倒れた。
彼女は始め、慣れない研究に没頭して疲れ果てたのだと思っていた。しかし身体を揺すっても反応が無く、ベッドに座らせる事も出来ず、息をしていない事に気がつくと焦りを感じた。
呼吸の出来ない生物に対する救命法として教わっていた胸部の圧迫をすぐさま試みたが、学者の生命の灯がいつもより遥かに小さく消えかかっているのを胸を押さえる両手から感じ取った。
体内の魔力の流れが弱まっていく中、それでも目覚める事を信じて泣き叫びながら胸部の圧迫を続けた。
だが彼女の願いとは裏腹に押せば押す程生命の光が失われていくように感じられた。
「生物の雄はここを触ると、気持ちよくなるんだ」
以前に解剖図を示しながら呑気な顔で話してくれた時の光景が彼女の脳裏に浮かんだが、教えられた内容と相反する目の前の光景を受け入れきれず、やがて冷たくなり始めた胸の上に突っ伏して悲痛な叫び声を上げた。
「気持ちよくなるんじゃ、なかったんですか」
――
生き物が死んだ時は、何故そうなったのか原因を調べて究明する事。そうすれば繰り返さないで済むかもしれないし、今後の治療の助けになるかもしれない
――
学者の教えに従って本棚の中から引っ張りだした学術書を必死で読み漁って悲惨な現実から逃れようとしていた。
僅かでも該当しそうな部分に目を遠し、組み合わせて推論を導き出す。
自身が触れたワンドが急速に膨張する事で全身の血圧が急激に下がり、鳥を眺めた事も無い相手との行為である事も相まって心拍も早まり、心臓に必要な血流を流しきれなかった事でその鼓動が止まってしまったのだ。
しかしながらこの仮説には疑問があった。単に心臓が止まったのなら、直ぐに胸部圧迫をして鼓動を呼び戻せば、息を吹き返す可能性は十分に高いはずである。訓練用のマネキンで学者の指導の元に練習を重ねていた彼女は、完璧とされるペースで胸部圧迫を施したにも関わらず、押せば押す程に胸の奥から命が失われていく感覚があったのが不可解だった。
机の上にいくつもの本の山が出来る頃、本棚の奥に一度も見たことの無い本を見つける。『実践手魔法論』と題された分厚い本を手に取って目次を眺めると、ある一文が彼女の目に留まった。
「死の
…
手
……
?」
嫌な勘を感じた彼女はすぐに該当の頁を開き、記されている解説を読むと蒼白した。
生命を吸い取る構造の魔法である死の手は亡霊やリッチ等が好んで用いる事が多いが、精を吸い取る種族であるサキュバスにも僅かながら行使の目撃例が存在すると。
そして、手魔法は最も簡単に使うことの出来る魔法であるが故に、ごく稀に誰からも教わる事なく生まれつき無意識で行使してしまう個体が存在すると。
朧気ながらウィスプの輝く森の奥に捨てられた時の記憶を思い出し、最悪な形で全てを理解してしまった彼女は震える手で本を閉じ、元の場所に戻した。
学者の部屋に戻ると、綺麗に片付けられた祭壇と壁に飾ってある大鎌が目に入る。
それらは収穫の神のためのものだと教わっていた。
「私には多くの生物や種族の生態を知る事で、多くの命を救いたいという夢がある」
「そして十分な研究を行ったら田舎で病院を開いて、その傍らで農業でもして穏やかに過ごしたいものだ」
「私たちの努力や研究はいつでも、クミロミ様が見守っていて下さる」
そう言っていた生物学者は、たった一瞬の内に夢も命も奪われてしまった。
彼女は大鎌を手に取ると天を仰ぐように横たわる学者の元に歩み寄り、悲劇のきっかけとなったそびえ立つ生ものを行き場の無い感情に任せるままに勢い良く刈り取った。
サラサラと流れる鮮血と壁に叩きつけられて弱々しく伸びた身体のパーツを見て己の所業を理解し呼吸を荒くするも、苦痛に呻く声すら上がらない事に深い悲しみを覚えて沈黙する。
まだ血のしたたる生もののワンドを彼の最後の供物として部屋の片隅の祭壇に置くと、鎌を背負って学者の家を出て、それきり戻らなかった。
月の浮かぶ頃、街から遠く離れた場所に寂れた教会を見つけ、中に入って身体を休める。
学者と過ごした思い出が蘇り、その時間や彼の夢を自らが奪ってしまったという罪悪感に耐えきれず、祭壇の前で突っ伏して泣いていると、肩に何かが触れるような感触があり、神秘的な囁きが聞こえる。
――
Carpe diem
今日という日の花を摘め
――
優しく語りかける声に驚いて振り替えると、そこには誰もおらず、静寂だけが広がっていた。
しかし何かが確かにそこにいて、そして自身の在り方を教えてくれたのだと、彼女は確信した。
外に出て夜風に吹かれながら一歩踏み出してみると、いつの間にかその足が兎のような足に変わっている事に気づく。学者から貰った靴が履けなくなった事に寂しさを覚えつつ、脱げた靴を揃えて入り口の横に置く。
教会に背を向けて深く地面を踏みしめると高く飛び上がり、エーテルの翼を広げて少しだけ滑空する事が出来た。揺れる草木と踊るように跳ね回っては星の瞬く空を飛び回り、月夜に掲げた鎌の刃を煌めかせた。
それからどれだけの時間が流れたのかは定かではないが、とある街でこんな噂が流れ始めていた。
『ウサギみたいに跳ね回って、生ものワンドを刈り取っていくサキュバスがいるらしい』
ある者は笑い、ある者はクリム粉の飲み過ぎだと揶揄し、誰一人としてまともに取り合う者はいなかった。
しかしながら誰かが鳥を眺めようとした瞬間、その場に絶叫が響き渡る。出血状態の下半身を押さえる被害者の近くに兎の耳を生やした不審な人物が飛び去るのを見たという目撃情報が寄せられたが、彼女は意に介さなかった。
跳ねるように街中を飛び回って逃げる事から、彼女はいつの間にか「トビハネ」と呼ばれるようになり、自身も気に入ったのか人前で積極的に名乗るようになっていた。
「私トビハネ!よろしくね!」
挨拶と共に生ものワンドを刈り取り、悲痛な叫び声を上げてのたうち回る生命の活力に満ちた男性を見下ろす彼女は安堵したように笑うと、野次馬の集団から逃げるように飛び去った。
…
これらの一連の行いは、もう二度と殺めたくない、誰の夢も命も奪いたくないと願った不器用なサキュバスが、彼女なりに出した結論だった。
その光景を影から見ていた誰かが苦笑いしていたような気がしたが、これが自分の在り方だと言わんばかりに誰も居ない路地裏にウインクすると街を後にした。
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