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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第35回お題「ペアアイテム」
両片想いの赤安。
あかいさんに告白の返事ができずにいたれいくんが、一歩踏み出すお話。
赤井に告白された“あの日”から、日常は、何事もなかったかのように続いている。
降谷はまだ、赤井に返事ができずにいた。
返事はもうすでに決まっている。心の中で、答え合わせはとうに済んでいた。だが、伝えるタイミングをまだ掴めずにいる。
赤井が降谷の自宅を訪れる機会は、日に日に増えつつあった。
赤井が来るまでに、スーパーに買い物へ行き、部屋の掃除をする。それがいつしかルーティンになり、暮らしを整えるきっかけにもなっていた。
スーパーで買ったものを冷蔵庫にしまい、朝食に使った食器を洗う。
最初に赤井に返事をしようと思ったのは、クリスマスイブの日だった。しかし緊急招集がかかり、そのまま現場に向かったため、返事をすることは叶わなかった。
それから年が明け、もう間もなく一ヶ月が経とうとしている。
プライベートで赤井とふたりきりになる機会はこれまで幾度かあったが、赤井が“あの日”のことに触れることはない。
それが赤井なりの優しさであることは、降谷にもよくわかっていた。
けっして自分を焦らせることなく、十分に考える時間を与えてくれている。赤井は待ってくれているのだ。
しかしこれ以上、このままずっと、赤井を待たせるわけにはいかない。
きちんと、赤井に返事をしなくてはいけない。とはいえ、タイミングは考えなくてはならない。
いつ? どこで? どんな言葉で?
赤井に返事をしている自分を想像しながら、降谷はぶわりと顔が熱くなるのを感じた。
「あ」
洗い終えたマグカップが手から滑り落ち、床へ落ちる。派手な音を立てて、マグカップの破片があたりに飛び散った。
まさかこの自分が、考え事をして食器を割ってしまうとは。赤井のことになると、こんな些細なことでさえうまくできなくなる。
降谷は蛇口を止め、腰を屈める。慎重に破片を拾い上げて、掃除機をかけた。
赤井には室内用の上履きを履いてもらうとして、万が一でも怪我をさせるようなことがあってはならない。降谷は急いで、部屋中の床を拭き上げた。
一通り拭き終えたところでインターホンが鳴り、降谷は赤井を部屋の中に招き入れる。
拭いたばかりの床はまだわずかに濡れていて、部屋の中の違和感に赤井はすぐに気がついたようだった。
「掃除をしていたのか?」
「ええ。さっき、そこでマグカップを割ってしまって
……
」
自分の失態を告げるのは少し憚られたが、こんなことで嘘を吐いても仕方がない。
降谷が正直に告げると、赤井がわずかに眉をひそめた。
「怪我は?」
あまりにも険しい表情でそうきかれて、降谷は思わず言い淀む。
「な、いですけど
……
」
「それなら、よかった」
赤井が表情をやわらげる。
普段から命の危険に晒される仕事をしている自分たちにとって、陶器の欠片で怪我をすることなど大したことではない。
それなのにもかかわらず、赤井はこんなにも真剣に、自分のことを心配してくれているのだ。
赤井が自分に恋愛感情を持っているという片鱗を見せられたようで、降谷は何も言えなくなってしまう。
「
…………
」
「零君?」
しかも下の名前で呼ばれてしまい、どう言葉を続ければ良いのか、降谷はさらにわからなくなってしまった。
「あ、いや、その
……
」
「ん?」
赤井に優しく促される。
「せ、せっかくだから、新しいマグカップを買おうかなって」
何かを考える余裕もなく、降谷は咄嗟にそう口にしてしまっていた。
「それはいいな。このあたりに食器が買える店はあるのかな」
赤井が微笑んで言う。歩いて十分ほどの距離に雑貨屋がオープンしたのを、降谷は思い出した。
「はい、ちょうど歩いて行ける距離に、雑貨屋がオープンしたんですよ」
「それなら、今から買いに行こうじゃないか」
「い、今から?!」
「たまには、外でのデートもいいだろう?」
赤井がさらりと言った“デート”という言葉に、降谷はどきりとする。
これまでの赤井の言動を考えれば、ただ出かけるという意味でこの言葉を使ったわけではないことは明白だ。
この言葉には、ちゃんとした“意味”がある。それを理解した途端、これから“ふたりきりで過ごす時間”を、降谷は急速に意識した。
赤井が目元を緩めて、玄関へと引き返す。降谷は引き留めることのできないまま、赤井のあとを追いかけた。
日曜日、かつ、オープンしたばかりということもあり、店内は賑わっていた。
店内の装飾はどちらかというとファンシーで、男ふたりで買い物をしている姿は、周囲の淡く可愛らしい雰囲気からだいぶ浮いてしまう。
あまり長居をせず、目当てのものが見つかったらすぐに帰ったほうが良さそうだ。そう思いながら、食器のコーナーへと向かう。
マグカップが陳列されている棚はすぐに見つかった。数は多いが、シンプルな作りのマグカップは一種類で、四色展開だった。
降谷は白色のマグカップを手に取った。持ち手もしっくりくるし、容量も400mlなのでスープにも使えそうだ。
ふと視線を感じて隣を見る。赤井とばっちり目が合った。
「
……
これにしようと思います」
そう言うと、赤井の手が、マグカップを持つ自分の手に伸びてきた。自然と指が触れ合う形になり、降谷は緊張する。
どうすればよいのか戸惑う指が、かすかに震える。降谷の手からそっとカップを奪い取って、赤井は言った。
「これは
……
俺から君に、プレゼントさせてくれないか」
「いやいや、僕の家に置くものなので、自分で買いますよ」
もう一度、マグカップに手を伸ばす。赤井は降谷の手から素早くカップを遠ざけながら言った。
「トレードだよ。その代わり、ひとつ頼みがある」
「頼み?」
「これも一緒に、君の家に置いてくれないか」
そう言って、赤井がもう片方の手で掴み取ったのは、赤色のマグカップだった。
降谷が手にした白色のマグカップの、色違いだ。
「あなたに似合いそうな色ですね」
「君が白だから、紅白だな。実にめでたい組み合わせじゃないか」
「確かに、おめでたい色ではありますけど
……
あなたの分も僕に買わせてくださいよ」
降谷は再び手を伸ばすが、赤井は譲ってくれない。
「君が自分で買ったマグカップを君の自宅に置くのと、俺の買ったマグカップを君の自宅に置くのとでは、全然意味が違う」
「えっ?」
赤井の言っている意味がわからず、降谷は素で声を上げてしまう。
「前者はただの買い物になってしまうだろう? 俺の買ったものが、君の生活の一部になるのを見たいんだよ」
一瞬、店の喧騒が遠のいた。
降谷は想像した。
自宅の台所に並ぶ、赤と白のマグカップ。
赤井とともに、温かい珈琲を飲みながら過ごす時間。
家に赤井がいなくても、ふたつ並んだマグカップを見て、穏やかに笑っている自分の姿。
「あの
……
」
気づけば、降谷は声を発していた。
「ん?」
赤井がマグカップからこちらに視線を向ける。
「
……
帰ったら、話があります」
視線を逸らさず、降谷はまっすぐ赤井を見つめた。
赤井が少し驚いたような表情で、こちらを見ている。
「ああ」
赤井は大きく頷いた。
「
…………
」
降谷は息を呑んだ。喉が、ひどくひりつく。これ以上、何も言葉が出てこない。
「では、行こうか」
紅白のマグカップを持ちレジへと向かう赤井の隣に、降谷はそっと寄り添った。
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