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花月ゆき
Public
ゆる赤安ドロライ
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第34回お題「こたつ」
両片想いの赤安。
れいくんの自宅で過ごす二人のお話。
もうじき夜が明けるだろう暗闇の中を、愛車で駆け抜ける。
年が明け、仕事始めの日から一週間ほどが経った。
忙しない日々が続き、自宅に帰ってきてもシャワーを浴びて寝るだけという生活。食事も簡単なもので済ませることが多かったせいか、身体に力が入らない感覚がある。そろそろちゃんとした食事をとって、暖かい場所で休まりたい。そう思いながら、降谷は自宅へと帰った。
明日は日曜日。久しぶりに休みである。明日は休養と栄養を取る日にしよう。そう心に決めて、シャワーを浴び、そのまま寝室へと転がり込んだ。
目が覚めると、カーテンの隙間から強い日差しが降りていた。降谷はスマホを手に取り、時刻を見る。もう朝とはいえない時間になっていた。
空腹を覚えて、冷蔵庫へと向かう。何か食べられるものは入っていただろうか。冷蔵庫を覗いてみるが、食事になりそうなものは何も入っていない。冷凍庫を覗くと、真っ白な塊が半分以上を占めていた。
「
……
あ」
大晦日の日に、赤井が持ってきた餅である。FBIの仲間が買い過ぎて、赤井に渡した餅だ。餅は大量にあり、ひとりでは処理しきれないと思った赤井が、降谷の家へと持ってきたのだ。それらの餅を使って、大晦日と正月に、おしるこやお雑煮を赤井に振る舞った。しかし、冷凍庫には大量の餅が残っている。
赤井はホテル住まいで調理ができないので、餅をここへ置いていった。降谷はこれらの餅を調理するのを、赤井に任されたといってもいい状況である。
降谷は再びスマホを取り出した。日曜日なので、赤井も休みを取っている可能性は高い。
降谷は画面をタップし、文字を打ち込んだ。
『お疲れ様です。今日、お休みですか? もしよければ、僕の家に来ませんか?』
打ち終わったメッセージを読み返す。しばらく考えて、降谷は削除した。
これは、赤井のプライベートに踏み込み過ぎているかもしれない。
しかも、家に来てほしいという自分の願望が、あからさまに透けて見えそうな気がする。
降谷はもう一度、メッセージを考えた。あくまで事実ベースで書く方がいいかもしれない。日付も限定しない方がいいだろう。
『あなたの持ってきたお餅が、冷凍庫にまだたくさんあるので、時間のあるときに食べに来てください』
こう書いておけば、赤井が時間のあるときに食べに来てくれるだろう。幸い冷凍庫に入れてあるので、日持ちもしてくれるはずだ。
これでよし、と送信ボタンを押しかけたとき、メッセージの受信を知らせる通知が届いた。
メッセージの発信元は赤井である。
赤井にメッセージを送ろうとしたタイミングで、赤井からメッセージが届く。いったいなんというタイミングだろう。
降谷は驚きながらも、赤井からのメッセージを開いた。
『降谷君、今日は休みだったかな?』
降谷はすぐに返事を書いた。
『はい、お休みです。あなたもお休みですか?』
『ああ。もし迷惑でなければ、君の家に行っても良いだろうか』
お互い、まさかほぼ同じタイミングで同じことを考えていたとは思いもしなかった。
とはいえ、赤井を家に呼んでも、冷蔵庫に何もない状態では何ひとつもてなすことができない。降谷は時計を見ながら思案する。
これから買い物へ行き、部屋の掃除をしたら、ちょうど三時頃になりそうだ。
『いいですよ。少し所用があるので、三時以降に来てもらえると助かります』
『了解』
赤井の返事を受け取ってすぐ、降谷は身支度をし、行きつけのスーパーへと急いだ。
午後三時。インターホンが鳴った。ちょうど部屋の掃除が終わり、手を洗い終えたところだった。
「いらっしゃい。外、寒かったですよね」
ドアを開けて赤井を部屋の中へと迎え入れる。
赤井は大きな紙手提げを持っていた。有名菓子店のロゴが印字されている。
「これを、君に」
「えっ、いいんですか?」
「ああ。パウンドケーキなんだが、店員の勧めで、アールグレイの茶葉も一緒に入れてもらったよ」
赤井から紙手提げを受け取る。受け取る瞬間、やさしく甘い匂いがふわりと漂ってきた。
「ありがとうございます。早速、開けさせてもらいますね」
「ああ」
降谷は湯を沸かして、パウンドケーキを切り分けた。ケーキの上にはドライフルーツが乗っている。
ほんのり洋酒の香りもするので、大人向けのケーキなのだろう。
準備が整ったら、寝室に置いてある炬燵に移動して、赤井と向かい合って座る。紅茶はしばらく蒸らしてから、ティーカップに注いだ。ケーキと紅茶の香りがほどよく混ざり合う。
ゆったりとした午後の時間が流れていた。普段の生活を思えば、非日常的とも思える空間だ。
まったりと最近の出来事などを話しながら、ふと、降谷は大切なことを思い出した。
赤井がここへやって来た理由をまだきいていない。
「あの
……
今日は僕に、何か用があったんですよね?」
そう問いかけると、赤井は思案するような素振りをみせた。
「用は
……
あるといえばあるが、ないといえばない」
「え?」
いったいどういう意味なのだろう。何かの謎かけなのだろうか。
「それより、君は先程まで用事があったんだろう? 突然家に押しかけて悪いことをしたな」
「いえいえ。冷蔵庫に何も入っていなくて、買い出しに行っただけなんですよ。あ、もしよければ、夜ご飯食べて行きませんか? あなたに貰ったお餅が冷凍庫にたくさんあるので、餅料理を作ろうかと思っているんです」
自然に誘えていただろうか。赤井に聞こえていないか心配になるほど、胸がどきどきしている。
「もちろんだよ。この前、君があの三人に餅料理のレシピを話していただろう? ちょうど気になっていたところだ」
あの三人とは、赤井の同僚である、メイソン、エミリー、ナタリーのことだろう。
三人が餅を余らせているというので、いくつか簡単なレシピを教えたのだ。
会議が始まる前、会議室の中で話していたので、赤井にも聞こえてしまったのだろう。
ふと、炬燵の中で暖まりはじめた足に、何かが触れるのを感じた。炬燵の中に、何かを入れた記憶はない。
触れているそれが、かすかに動いた。炬燵の中で、赤井と足が触れ合っているのだろう。そう自覚した途端、降谷はぶわりと顔に熱が走るのを感じた。
これは離れるべきだろうか。視線が彷徨う。どうしようか迷っている途中で、赤井が微笑む気配を感じた。
「零君」
「えっ、と
……
はい」
突然、下の名前で呼ばれて胸がどきりと跳ね上がる。と同時に、降谷の脳裏に、赤井と交わした会話が思い出された。
元旦の日のことだ。
『赤井は今年、何かやりたいことはありますか?』という自分の問いかけに対して、赤井は、『
……
零君、と呼びたい』と答えたのだ。
そのとき、下の名前を呼ぶのは、“仕事をしているとき以外”にしてほしいと約束したことを覚えている。
赤井は約束を守っていた。今は明らかに“仕事をしているとき以外”の時間である。
「今日は、君に逢いたくてここに来たんだよ」
「
……
え」
まるで遠回りをするようにして、答えが返って来る。
炬燵の温もりと、下の名前で呼ばれたことも相まって、降谷はますます顔が熱くなるのを感じた。
赤井は優しく微笑んで、しみじみとした口調で言った。
「君に逢えて、こうして炬燵の中で暖まって、穏やかな時間を過ごす。これほど最高な休日の過ごし方はない
――
そう思うよ」
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