ZN
2026-04-22 21:37:15
949文字
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PHM|グレイスとロッキー

原作未読
(原作では人類の寿命について言明しなかったライランド氏がいるとのことで、やべってなってます。すみません)


「君のいい呼び名、考えた。こう」

 ロッキーはオーケストラ指揮者のように、たくましく硬い腕を広げながら高い音を鳴らした。鳴らしている。まだ鳴っている。息継ぎとかないのか。ないよな。停止スイッチとかある?などとライランドが失礼なことを考え始めたところで鳴り止んだ。ロッキーは余韻を込めて、やっとゆっくりと重い腕を下ろす。
「それフルネーム?メガネとかモジャモジャとか形容詞が入ってる?」
 言ってから、ライランドは視線をロッキーから外すと焦点をぼかして考え始めた。

「何を考えてる、質問?」
「いや、長短の感覚の違いは種族生命の差異から来てるのかと思ったけど、そもそも僕ら人間は寿命が100年あっても短いと思ってるんだなって。ええと、そう、なんでも省略したり、作業効率を考えたりね」

「生き急いでるな」と苦笑いして視線をロッキーに戻しながらライランドは録音した自分の名前を再生した。
「いい音だ」
 反応の早いロッキーが何も返さずにいることに不思議になった。身じろぎもしないなんてどうしたことだろう。

「グレイス」

 変換した音声が翻訳した名前を呼ぶ。
……グレイス、……グレイス、……グレイス」
 説明も放棄したのか彼は名前を呼び続ける。
「本当にどうしたんだ?」
 身体を揺らし、手を振りながら呼ぶ彼が歌っているように見える。つい合わせて身体を揺らすと、普段とは逆だなと笑いがこぼれた。
「ロッキーの言葉、聞こえる。音楽。質問?」
「そうだね。君の声は木管楽器の音に似てる時があるから」
「音楽=効率、ならない。効率=再現性の省略」
「つまり?」
「ロッキーの言葉、いつも重要」
 思わずボールをど突いた。
「今、何が大事。短い、長い。変化なし。何が大事。今。……グレイス」

 続けて言われた言葉にライランドは「詩人だな」と返すだけに止める。別れの話題はまだ早いと思った。切り替えを見計ったようにメアリーが加温機の動作が完了したことを告げる。人生にはそういうタイミングがある。
「さあ、食事にしよう」
「待って。木管楽器、質問?ロッキーを叩いた、何故、質問?」
 食べながら話そう。まだ時間はあるから。
 加温機に向かうライランドをクリアボールに入った岩の蜘蛛が追いかける。